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第8章:成層圏突然昇温など
--惑星波動による平均東西風変化の例-8−1: EP-フラックスによる解析
Andrews and McIntyre(1976)によって導入された、変換された(transformed)オイラ—平均の式で惑星波動の振
る舞いをみることがよくなされる。
準地衡風系では(cf. Edmon et al., 1980, JAS)
u
t
 fv * 
1
r
 F  X


fu  
y
v *
1 

w *  0
y
 z
T
H

N 2 w*  J / c p
t
R
熱力学の式で、擾乱の効果が表向き見えないこと(非断熱加熱が鉛直循環を直接駆動する形)、運動の方程式に

おいて東西平均風加速の項が、EP
flux (Eliassen-Palm flux)の発散によって表現される(凖地衡風では u' w'
等の項が落ちる)。ここで、
Fy    u' v'
Fz  f
R
v' T' / N 2
H

この量は惑星波に伴う東風運動量を南北、鉛直に運ぶ指標で、pseudo-運動量フラックスとも呼ばれる。

運動量フラックスの発散によって、風(運動量)が直接変化することを示していて、物理的に理解しやすい表現
( v*, w * ) は、近似的に重心の平均的な南北、鉛直の運動を記述している
になっている。また残差子午面循環
と考えられている。
1 R 
(  v' T' / N 2 )
 H z
R 
*
2
w  w
(v' T' / N )
H y
v*  v 

Lagrange平均的な見方:
Andrews and McIntyre(1978, JFM)によると、流体粒子の変位を考慮したLagrange的平均の移流が重心の動きと
して都合がいいとある。
r
r
波に伴う流体粒子の変位を ( x
,t) とすると、
Lagrange 的平均は
r r
r L
r
 ( x, t)   ( x  ( x, t), t)

平均を東西方向にえらべば、Lagrange的平均は
 (y,z)    (x  , y  ,z   )dx /  dx
L

子午面循環はTaylor展開することで、
v
L
w
L
 w
r
  v
r
   w
 v 
右辺1項はEuler平均、右辺2項はStokes Driftとよばれる。

波に伴う変位は
u v
1 


w  0
x y
 z

  1 


  0
x y
 z
steadyな波の場合、
さらに

vL  v 
v v v
 
x y z
v 




1 
1 
(v)  v   (v)  v  
( v)  v
( )
x
x y
y
 z
 z
v 

1 
(v) 
(v)
y
 z
のような連続の式を満たすので、

 R


 u ) T'N 2 w' 0 (  u )  w'
t
x H
t
x

 R


(  u ) T'N 2 (  u )  0
t
x H
t
x
(
 



を用いると、
(  u )  v ik(u  c)   v
t
x
x
v 

 1 2 1
(ik(u  c)
 )
(v)
y
x 2
 z
v 
1 
( v)
 z

R 1
T'
H N2
vL  v 
v 
1 
( v)
 z
1 R 
1
 2 T'v  v *
 H z N
のように、残差循環とLagrange的南北循環は等しいの
で、解析可能な残差循環が用いられる。

惑星波の
Eliassen-Palm
フラックスを
のせておこう。
有効な手法で、
解析によく使
われている.
ー>波の振幅
と位相の表現
から、波の運
動量の流れと
いう考え方か
図:planetary
wave の
Eliassen-Palm
flux。196
3年から19
69年までの
1月、波数は
1である。
Sato(1980, J.
M. S. J. )よ
り、年により
かなり振る舞
いが異なる
8−2:成層圏突然昇温について
西風
東風
冬の成層圏の基本的な平均東西風は西風である
ー>東風に変わるときがある
西風中 U(y,z) のstationary惑星波動の伝播の様
子、モデル中での波動エネルギの流れ、
(  'v'  U u'v' ,  ' w'  U
f2
v'  z ')
N2
突然昇温の現象の例:図は北緯80度、10hPaの1978年10月から1979年5月までの東西に
平均した温度の時間変化を示したもの。冬から春への温度変化のなかで(低温から徐々に温度が上がり
つつあるとき)、時々急に温度が上がっている。この様な突然の温度増加現象を成層圏突然昇温とよん
でいる。英語ではstratospheric sudden warming 。また極の高温は温度風の関係から東風になる可能
性があるので(夏の状況)、10mb以下で60度から極向きに温度が増加して東風が出来るとそれを
major stratospheric warming と呼んでいる。かなり不規則で(北半球で2年に一回程度)、どの年に
major warmingが起こるか分かっていない。対流圏の年々の状況にもよるであろうし(惑星波の生成問
題)、また赤道下部成層圏の準2年振動と関係があるともいわれている(これは波の伝播問題との関わ
りか?)
1978
1979
表:majorな突然昇温の起こった年、Martius et al.,
2009, GRLより
1979年突然昇温の平均東西風時間変化、Andrews et
al.(1987)の教科書
12月8日/78年
1月25日
2月26日
2月6日
前ページ温度変化に対応した平均東
西風変化の様子、それぞれ12月8
日、1月25日、2月6日、2月2
6日、3月3日である。12月8日
は冬の始めで西風が強い。1月25
日および2月6日は温度が上がって
おり、それにともない極域に東風が
吹いているが10hPaでは東風に
なっていないので minorとしている。
また2月26日には10hPaで東風
になっているのでこれはmajor
warmingとなっている。
3月3日
s=1の振幅
s=2
平均東西風
時間ー緯度断面図:
2/6
2/26
12月
1/25
1/25
2月
2/26
major
warming
20N
warm
cold
40N
180
major warmingに対応した、10hPaでの
Planetary wave の振舞いを天気図に示す。
日にちはそれぞれ2月17日、2月19日、
2月21日、2月26日、3月1日、3月5
日の温度(5度おき、dashed curve)とハイ
ト(0.2kmおき)を示す。はじめ気圧場の
水平構造は極渦が引き延ばされて、楕円のよ
うな構造になっていて、渦の中心が少しpole
から離れている。それにアリューシャン高気
圧が付随している。(b)では(a)のよう
な惑星波の構造が少し変形しつつある。ー>
次へ
図:1979年の突然昇温のときの10hPa
の温度と高度の分布。Andrews et
al.(1987)の教科書より。
0
a : 2月17日
b : 2月19日
c : 2月21日
/1979年
warm
(c)で大き
な変化が起
こっている。
低気圧の渦が
2つに分離さ
れたような形
になり、極が
高温になりつ
つある。
(d)では極
が高温になり、
また極が高気
圧になってい
る。極の高気
圧にともない
東風が吹く。
そしてしばら
く時間(数日、
放射の緩和時
間)がたった
後また春の状
況になってい
る。
180
0
240
cold
e : 3月1日
warm
high
f : 3月5日
d : 2月26日
このような現象を、Matsuno (1971)によるPlanetary wave の鉛直伝播と、その波と平均東西流(および平均温
度場)との相互作用の観点から見てみよう。概略を述べると以下のようになるであろうか。あるとき対流圏にお
いてPlanetary wave が増幅される。この増幅の機構は対流圏の現象(特にblocking)と関係があるらしいー>
研究の1例を後で示す。ともかく惑星波が強まってその波が鉛直へ伝播していく。このときtransientな波の効
果により平均流を変化させる。波が定常であれば非加速の定理により何の変化ももたらさない。しかしいまは波
が急に増幅したので、定理は破綻して東西平均流は変化していく。
数値実験による説明:波動に関する時間発展の式(形は線形)

  1  cos '
1
2 '
p ' 
2 2 
(   )
(
)
 4 a
(
)
t
 cos   sin 2  
cos2  sin 2  2
pz N 2 z 


q 1 '
0
 cos  
 
u
a cos 
Zonal mean equation:(東西平均場が時間的に変化する式)

u
1

 2sin  v  
(u' v' cos 2  )
2
t
a cos  
 
1
 '
2
(
)N w  
(
v' cos  )
t z
a cos   z


( pv cos  ) 
( pw cos  )  0
a
z
のような式をcoupleして解いてある。擾乱が東西平均場を変え(下の方の式)、変わった平均場を擾乱が感じて
(上の方の式)… のように発展していく。
数値実験:
モデル振幅
点線は観測
高
度
西風
下部境界での惑星波動の振幅変動、t=0から
波を強制する
波数1の振る舞い
ゼロwind-lineが
下方に伝播
東風
緯度
初期 t=0(初期条件)における平均東西風
計算された波動振幅の時間変化、β平面モデルで
初期条件は一定の風(33m/s)、shadeの部分が東
風、30度と90度に壁、60度での様子
時間変動の様子:
高
度
時間
60Nの平均東西風の時間変化、西風であったとこ
ろから東風が生成されている。波数1の強制
波数2の場合の波の振幅の時間変化 -> 下
図と対応
温度下降
高
度
上昇
初期条件からの極の温度の時間変化、成
層圏は温度が上昇、中間圏は温度下降し
ている、波数1の場合。
平均東西風の時間変化、波数2の場合は
低い高度で東風が強い
水平の構造:
t=0で波を
forcing
10日後
緯
度
太線:圧力
細線:温度
平均東西風の時間変化、波数2の場合
緯
度
西風
東風
水平パターンの時間的変化の様子(30km)、波数
2の場合、極の低気圧が高気圧に変わっている。
波の振幅の時間変化、凖線形の為か
critical level が動き過ぎのよう
上方伝播に限ったオイラー平均説明:惑星波に伴って、熱輸送がある。北側で上昇流が作
られ、非加速定理の破れ(下図の場合は臨界層Zcがある)により、連続の式から南北風は
北風、それにコリオリが働いて、東風をつくる。
u
 fv  0
t

中間圏の方では上昇
流で温度下降
波
の
鉛
直
伝
播
熱輸送の効果の方が、断熱
冷却より大きく温度上昇
北側の温度変化
対応した東西風変化
成層圏warmingのLagrange平均的な見方:
突然昇温を惑星波動が鉛直に伝播して平均東西風と相互作用をしている状況を、波にともなう流体粒子の変位に
伴った平均をするLagrangian 平均の立場で説明する(Matsuno and Nakamura, 1979, JAS);
子午面循環は
v
L
w
L
 w
r
  v
r
   w
 v 
惑星波が臨界層(今の場合はU=0に対応)に伝播しつつあるとき(線形の定常波のとき波は吸収される)、

Lagrange的な子午面循環は以下の図のようになる。Critical
Levelでは北向きとなっている。
オイラー平均における子午面循環(流線関数と鉛直流)
東
風
U=0
西
風
臨界層(U=0)
対応した平均東西風と温度の時間的変化
T
H 2


N w 
v'T'
t
R
y
T
H 2

N w*  0
t
R
北側

昇温
EP フラックスのLagrange的解釈:鉛直伝播するstationaryな惑星波動(Matsuno and Nakamura, 1979)
fv'  
p'
x
u (z)

H
T'  N 2
w'
x
R
u
1 
f
 fv * 
( 2
t
 z
N
1 
1
1

(
p' w') 
 z u (z)

1 


p'
 z x
西向き
R
v' T')
H
波はここ
まできて
いない
 0

1

(
p' u (z)
)
z u (z)
x
東向き+
西風
のような形になる。
最後の項は、惑星波の鉛直変位
応力の鉛直発散をしめす。

東風加速
 にともなう

平均東西風として、西風が吹いている。図のA点で、
矢羽はEの方(西風)をむいている。下のほうから
惑星波が伝播している。波にともなって流体粒子
面は凸凹している(図のB点に対応しており、惑星
波動にともなう鉛直変位のx微分が+のとき圧力
偏差は+になっているので、その積は+となる)。
その鉛直微分はAでは波がなく、Bで波が伝播して
いるとすれば鉛直微分は - (負)となり、力とし
て -加速(東風加速、西風を減速)のようになっ
ている。
南風

0
x

0
x

変位は解析できないので、EP-flux Divergenceと
残差循環で評価される。

北
破線は波数1が主
EP-フラックスによる解析:図
は前述の1979年major
warmingのときのもので矢印は
Eliassen-Palmのフラックス。
加速は
 u  fv*  X  (  a cos  )  1  F  D
0
F
t
簡単には右辺のEliassenPalm flux の発散が平均東西
風を加速させる。図には収束
による加速 ものっている。
時間的に非常に複雑な変化を
示している。21日あたりは
波が収束的で東風加速になっ
ている。一方、28日では
EP-fluxは発散になっており、
西風加速になっている。
実線の矢は波数2の寄与
8−3:南半球の突然昇温
2002年の南半球は特別の年:南半球で観測史上
初めてのMajor Warmingがおこった
01年(は平年的)と比較する
2002年
1/0ct15/Oct
太い実線は1979-2002平均の東西風の季節変化(影は標
準偏差)、Hio and Yoden, 2005, JASから
東西風
2002年
16/Aug-30/Sep
鉛直EP-fluxと平均東西風の関係の各
年のscatter plot、2002年は鉛直EPfluxが強く、平均東西風が弱い
細線が2002年、鉛直EP-fluxが10月に大きな値を
もっている
2002年オゾンホールの急激な変動(9月19-29日)
オゾン全量
9月19日
9月23日
9月25日
左図に対応した、南半球の10hPa等圧面高度図
(約30kmの高さ) 。単位はm、等値線間隔は200m
図は廣岡、森、他 (2004) から
9月29日
波数1から、2が卓越している
2002年(左図)9月の終わり頃(波の形態がものすごく変形した時)、極でオゾンが増大している時期ー>極の
方が温度が高温になり、西風が東風に変わっている(Majorの突然昇温)様子で、10hPa(約30kmの高さ)におけ
る東西に平均した温度、東西風の時間変化(5月 -10月)と、惑星波動の振幅変動を示す。
一方、右図は、2001年での同じ図であるが、比較的ゆっくりした季節変動
温度変
化
緯
度
東西風
が東風
になら
ずに、
長い期
間西風
波動の強
さは2002
年ほどに
は強くな
い
波数k=1振幅
波数2の
振幅は小
さい
波数k=2
MAY
JUN
2002
JUL
AUG
SEP
OCT
2001
対流圏の様子:予測実験との違いから
実況
9月19日−21日の対
流圏の様子
k=2のEP-flux
と(屈折率)2
傾圧波動( k=4-6 )によるEPflux、大きな活動度および減
速がある
予測を外している例
東西風が異なる
9月13日を初期値にし
たときのモデル予測値
の対流圏パターン
9月13日を初期値にしたと
きのモデル予測値のEP-flux
8−4:北半球Majorな突然昇温のタイプ分け
突然昇温を2つに分類:displacement型とsplit型、
大雑把には、波数1と波数2の違いと思っていい
であろう、半々程度の頻度のよう
10hPaの高度場、影の部分はPV>
45-75N, 100hPaにおける熱輸送の時間変化、黒はtotalの熱
輸送偏差、赤は波数1の熱輸送偏差、青は波数2の寄与、実
線は有意性の高い時期
ー>先駆現象であるらしいBlockingとの関係について:
Martius et al., 2009, GRLでは、ほぼ、前者はAtlanticの
blocking, 後者はPacific, または両方のblockingが
precedeとある
Charlton and Polvani, JC, 2007
60-90N東西風アノマリーの時間変化、変化の仕方
がsplit型が急のようである
Charlton and Polvani, JC, 2007
2つのタイプの構造の違い
突然昇温の前段階での東
西風偏差の南北構造
突然昇温後の南北構造
8−5:成層圏のArctic
Oscillationについて
時間的変動、下方伝播のように見える、赤がweak,
warm vortexである、赤□はmajorまたはearly
final昇温、90day low-pass filterがかかっている
AOの高度別パターン
1958
1963
1968
東西風のAOとの相間緯度図
1978
1988
下方伝播の様子
極で低圧偏差のとき、中
緯度では高圧のパターン
赤のweak vortexは突然昇温の弱い風に対応してい
ると思っていいであろう、
Baldwin and Dunkerton,
1999から
10-dayのlow-pass filterの場合
Itoh and Harada, 2004, JCでは、主 mode
は同時的
一方、第2モード(成層圏ではs=1の惑
星波動)は対流圏から成層圏への上方伝
播的に見える
対流圏での先行が目立つように感じる