sociology20160621 - 筑波大学図書館情報メディア系|図書館情報

メディア社会学
2016年6月21日
(この1-2回分以上あるので、
適当に後ろは省いて印字してください)。
担当・後藤嘉宏(筑波大学知識情報・図書館学類)
1
1.7 社会学固有の概念を用いる
• 社会学の特徴→社会学固有の概念を駆使し
て分析する点にある。
• 社会学固有の概念とは?
– 例)倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ
書房1992,p.15に示された、
ラボビッツの5つの基本概念
「規範」「価値」「役割」「地位」「権力」
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1.7.1 「価値」という概念について①
• 最も大切と思うこと。
– ただし、人(物その他)の価値付けである「評価」
とか、商品の価値付けである「価格」なども含ま
れてくる。
– いつぞやのカード会社のコマーシャル・・・最も大
切なものはプライスレスとはいうものの・・・
3
1.7.1 「価値」という概念について②
• 「価値(value)」とは・・・
– 主体の欲求や態度に応じて評価される客体の性質。
– 主体とは個人であることもあれば集団であることもある。
– 「客体」とは事物や人間ばかりでなく、集団、観念、行為
などあらゆるものを指すことができる。
• 価値とは、「人間AにとってBという対象はかくかくしかじ
かの価値がある」とされるように、主体-客体の相関関
係のなかに生ずる現象であり、人間がその生活のなか
で(自己自身を含めて)あらゆる対象とかかわりあうと
き、つねに生起する現象であるといえる。
山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会学』
有斐閣ブックス、1978年,p.38 より。
4
価値の主観的側面
• 主体の側の欲求や態度とかかわりなく、
客観的に存在するものではない。
• 主体の側によって大いに変わるもの。
ex: 悲劇が好きな人/喜劇が好きな人
(蓼食う虫も好き好き)だから就職試験落ちても普通
はどこかに引っかかるし・・・
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価値の客観的側面
• 主体の側にあまり関係なく誰にでもほぼ見ら
れるプラスマイナスの判断
ex: 死は望ましくない
→ 「人を殺すなかれ」といったルール(規範)を
導く。
ex: お金は望ましい
→ 「汝、盗むことなかれ」といったルール(規範)
を導く。
6
要するに、「価値」とは・・
• それぞれの人々の意味世界から来る、人や
物や出来事への序列づけに相当する。
→ 「価値」は経済学上の「価値」にも通じる。
• 「価値」の一種である「評価」は同一対象に対
しても、人によっても千差万別。
• 他方、「価値」の一種である経済学上の「価
値」はより客観的(→典型は労働価値説)であ
るともいえる。
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1.7.2 「規範」という概念について①
• 簡単にいえば「ルール」のこと。ただし正負の
サンクションを伴うルールである。
• 「規範」
–社会や集団において、成員の社会的行為に一定
の拘束を加えて調整する規則一般を意味する。
–成員が多少とも共有している価値との関係でいう
と、その価値に誘導されて行為を調整するのが
規範であるから、規範は価値よりも、行為を具体
的に特定化する度が大きい
濱島朗・竹内郁郎・石川晃弘編『社会学小辞典〔新版〕』
有斐閣、1997,p.108 より。
8
1.7.2 「規範」という概念について②
– 伝統的には、本来他でもありえたはずの行為が
一定の型へと制約されているとき、そこで制約機
能を発揮する価値・慣習・制度・法などが規範と
呼ばれる。
見田宗介ほか編『社会学事典』弘文堂1988,192 より。
– 文化の中核的な要素としての価値が、多少とも
具体的な行動の準則としてながめられるとき、そ
れは「規範」とよばれることができる。
山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会
学』有斐閣ブックス、1978年,p.40 より。
9
1.7.2 「規範」という概念について③
– 「規範(norm)」とは、のぞましい目的の標準とその
達成のための正当な行動様式をさだめた準則であ
り、ふつう、これを奨励したり、違反を禁ずるための
明示的な、または暗黙の制裁(sanction)をともなっ
ている。
– 集合体への献身や適応を強調する日本の伝統的価
値体系から派生する具体的な規範としては、家風や
イエのしきたりへの従属とか、他人の「恩」に報いる
こことか、分をわきまえて行動するといった準則が存
在した。
山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会学』
有斐閣ブックス、1978年,p.40 より。
10
1.8.2 「規範」という概念について④
• 規範
– 奨励のルールおよび禁止のルールからなるルー
ルの複合体
– 要するにルールのことであって、正負のサンク
ションをそれに加えて考えればよい。
『社会学のエッセンス』有斐閣,1996,p.123 より。
→これが一番わかりやすい定義だと思う
11
規範に違反した場合①
• 規範に違反した場合の制裁
– 法規範(刑事的な法規範)の場合→刑罰
– 慣習や道徳の場合→周囲の非難、嘲笑、叱責、
村八分
• 社会学用語の「制裁」には賞罰・正負双方が
ある点がポイント。
– 身近な例としては、自己の行為に対する他者の
評価(表情の肯定・否定)等。・・・授業評価より寝て
いる人の多い少ないが我々にとっての制裁
12
規範に違反した場合②
• このような規範のうち、制裁の強いのが法(法
規範)
• 規範破りに、制裁を加えるのが、権力ないし
は権力を持つ人(権力者)であるといえる。
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規範・価値と意味世界1
• 社会全体の「意味世界」やそれに基づく世界
の色々な事柄の「価値づけ」に基づき「規範」
が構成されるといえる。(もちろん社会全体の意味世
界の構成自体がデュルケムとウェーバーで変わってこよう
が)
• 社会全体の意味世界→価値(序列づけ・価値
づけ)→(社会)規範
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規範・価値と意味世界2
• 個人の意味世界は現代では社会のそれとズレが生
じうる。
– 価値づけも社会のそれと違う人々が増え、規範も
社会のそれと異なりうる。あるいはどこをその人
にとっての大事な社会(準拠集団)とするかで、変
わってくる 。
• どの集団の規範かで変わってくるが、いずれにせよ
規範や価値が、われわれの意味を支える。
• サブカルチュア、若者文化の問題。ジャイアンの制
裁とのび太くんのママの癇癪
15
1.7.3 「権力」という概念について①
• 簡単にいえば「力」。他人を支配する力。
• 特に「暴力」「体力」といった物理的な「力」と
区別された意味での「力」を意味することが多
い。ex:政治力 など。
• お金の力ともある程度区別することも多い。
• しかし物理的な「力」や金の「力」が微妙に背
景にあって、「権力」に絡んでくるから、事は
単純ではない。
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1.7.3 「権力」という概念について②
• 権力
– 広義には、社会関係において人間の行動様式を
統制する能力。
– 最終的には権力手段によって威嚇または価値剥
奪を通じて、強制的に服従を調達する
– 地位・名誉などの利益誘導または価値付与を通
じて、服従の自発性を作り出すことも多い。
– 強制と合意は互いに関連しつつ、権力の二側面
を形づくる。
17
1.7.3 「権力」という概念について③
– 私刑・武力などの物理的制裁、破門などの精神
的制裁、経済封鎖などの経済的制裁などのさま
ざまな手段を通じて、相手方の抵抗を廃して自己
の意思を貫くとき、この能力は発揮される。
– こうして権力関係は、積極的な服従(正当性)が
与えられたときに安定化するが、社会関係におけ
る行動様式が変化するに応じて不安定となり変
動する。
濱島朗・竹内郁郎・石川晃弘編『社会学小辞典〔新版〕』
有斐閣、1997,p.163 より。
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1.7.3 「権力」という概念について④
• 一般に、他者をその意図に反して、自己の目的
に従わせることができることを、権力を持つとい
う。
• 権力は、通常、意図に従わないものを制裁する
ことで証明される。
• 制裁を伴うことなしに、論理や金力によって従わ
せることを、影響力あるいは勢力とよんで、権力
と区別することがある。
見田宗介ほか編『社会学事典』弘文堂1988,p.271 より。
19
1.7.3 「権力」という概念について⑤
• 要するに背景に暴力装置をもち、暴力をちら
つかせつつ、自発的に相手を自分に従わせ
る力が権力であるといえる。
• (5年ほど前、官房長官が『暴力装置』という
言葉を使って問題になったが、社会科学用語
としてある。否定的ニュアンスはなく中立的
に)
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権力は誰がもつか? ①
• 昔:国王・貴族、
いま:政治家、行政官(官僚)
ただし彼らは地位の上下によって権力の多少がある。
• 彼らの背景にあるもの
– 権威(家柄)情報処理能力(知識と頭の良さ)
– 物理的暴力(警察・検察・監獄・軍隊)
• 資本家は生産手段をもたない労働者を意のままに働
かせるという意味で権力をもつ。彼らの背景にあるもの
はお金・資本である。暴力の代わりに首切り・左遷・降
格宣告が背景にある。
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権力は誰がもつか?②
• 地位、役割に応じて与えられたそれぞれの人の行動の
規範に基づき、それぞれの人が、権力を行使する人と
権力を行使される人とに分かれると考えられる。
• 現実にはピラミッド型組織(hierarchy)によって、トップ以
外権力は分有され、支配されると同時に支配するとい
う構図が成り立つ。(権力を持つ側の官僚でも警察で
も・否、彼らこそ・・・→官僚制)
• 「地位」及び「地位」に基づき与えられた「役割」によって
人は、それぞれに応じて権力を分かちもち、人から合
法的に一定の枠内で支配を受けるといえる。(ウェー
バーのいう合法的支配)
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日本型の権力の曖昧さ
• 天皇と将軍と執権と管領
• 天皇と上皇と法皇
• 社長と会長と名誉会長と相談役
・・・誰がトップなの?
→責任主体の曖昧さ
無限責任と無責任の併存(丸山真男『日本の思
想』)
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1.8 結局、社会学とは?
24
2.行為の意味
2.1ウェーバーの行為の4類型
• 目的合理的行為
• 価値合理的行為
• 伝統的行為
• 感情的行為
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目的合理的行為
• 目的合理的行為・・・ある目的を達成するため
に最も合理的な(つまり自己利害にかなった)
手段を選択するような行為→「行為の意味理
解」の3水準の「動機」にかかわる。
• 名誉、地位、権力、お金等を求める行為など
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価値合理的行為
• 価値合理的行為・・・行為が、その結果を顧慮
することなく、ある特定の価値--美的・宗教
的・倫理的など--に無条件に方向付けられ
ていることをいう。 →これも「行為の意味理
解」の3水準の「動機」にかかわる。
• お金や権力よりは理想をという生き方など。も
ちろん理想、価値の実現のためにお金、地位、
権力が必要な場合も
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伝統的行為
• 伝統的行為・・・伝統的行為とは、ある刺激に
対して昔から続いてきた方法で習慣的に反応
する行為のことをいう。日常的行為のほとん
どはこれである→没意味性と有意味性の限
界線上にある行為類型
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感情的行為
• 感情的行為・・・感情的行為とはある行為が
そのときどきの感情によって動かされている
ものをいうが、常に意味的に方向づけられて
いるわけではない。方向付けられていれば、
目的合理的行為や価値合理的行為に容易に
転化していく→意味ある行為とそうでなく意味
のない行為との境界事例
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行為の意味理解との関係
• 最初の二類型は行為の意味理解に密接。な
おかつ目的合理的行為と価値合理的行為は
対立しうる。
• 他方、後の二つ、伝統的行為と感情的行為
は、有意味性と没意味性との境界に位置す
る。(「行動」に近い)
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2.2見田宗介の行為類型
• 見田宗介(1937-)東大名誉教授。真木悠介
の別名での著書も多い。
• 見田・・・甘粕正彦(関東大震災に乗じて無政府主義
者・大杉栄を殺戮した将校)の従兄弟で著名なマル
クス主義者甘粕石介の子供
• 『時間の比較社会学』
• コンサーマトリとインストルメンタル
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『時間の比較社会学』
• 時間観念と行為類型を結びつけた
• インストルメンタル・・・道具的。将来を顧慮し、
現在という時間を、未来の犠牲にする生き方。
アリとキリギリスのアリに近い。
• コンサーマトリー・・・自己目的、自己完結。そ
れ自体を目的とすること。キリギリスに近い。
現在の時間をそれ自体で楽しむ生き方。
32
• インストルメンタル・・・『プロ倫』の行為類型、
時間観念に近い。近代資本主義社会
• また、ウェーバーの目的合理的行為に近い。
• コンサーマトリー・・・南米の行為類型、時間
観念など
• ウェーバーの感情的行為に近い。
• 現代の産業社会の問題を越える行為類型と
も
33
2.3大塚久雄の理念と利害状況
理念と利害状況の組み合わせ
• 理念・・・価値合理的行為の目標、思想・宗教
• 利害状況・・・目的合理的行為の目標、経済
的状況
• シュパンヌング(相対立する双方が緊張感を保ちつつ、
影響を与え合う)=反映論(下部構造(いわば上の「利害
状況」)が上部構造(上の「理念」)を規定)を否定。
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大塚の示唆の発展型
• 短期的利害と長期的利害、個人的利害と集
団的(人類的)利害を組み合わせたマトリック
スの形成
• 当然、短期と個人が結びつきやすく、長期と
集団が結びつきやすいが、短期で集団的利
害とか、長期で個人的利害というのもありうる。
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行為と意味についての実例
• スポーツとメダル、メダルと柔道、課長の地位
(「やっと俺も課長だ」という10数年前のCMコ
ピー)、石を投げれば部長、課長に当たるとい
われた某大手広告代理店、紙幣と貨幣、同
棲とDINKSの夫婦、単位取得の集積と卒業、
議員の大臣病と上がりとポスト増、学歴・資格
インフレ、コンテストやコンクールだって大賞
や順位のある賞以外に、○○特別賞がたくさ
ん。
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• →希少資源としての地位・名誉等と地位・名
誉インフレ
• 制度の根拠の本質的恣意性
・・・恣意性の中での(恣意性に薄々気づきつ
つの)意味づけ
デュルケム学派は制度に聖性を認めるが、そういう聖
性もインフレで薄々人々もその俗性に気づいてる
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3.属性的な類型
3.1属性的な類型立ての方法と有効性
• 「AよりもBの方がCである」についての復習
• 変数X(値AB)人口学的変数・属性・アンケート
調査のフェースシート。ほかに記憶や過去の
経験、性格もあり得るが
• 変数Y(値CD)意識・行動。意識・・・世界観、
行動の意味づけ、行動のもととなる規範・習
慣など。特に世界観はXとYの中間に入るもの
であるともいえる。
38
人口学的変数(属性)
• 上記の狭い意味でのXに相当する人口学的
変数(属性)ごとに、社会学上の問題を概説し
ていく。・・・重要な説明変数故
• 性別、年齢、学歴、職業、年収、居住地、家
族構成(本当は宗教、出生地、母語、国籍、
支持政党、家柄(親の属性)、財産等も)
• アンケートのフェースシート項目(上の括弧部
分以外は)
39
• 旧来、地位→地位に応じた役割取得→役割
演技→意識や行為パターン
• よって属性によって世界観や行動が明確に。
40
3.2属性の説明力の低下の理由
• 社会のボーダーレス化
• 属性が実体概念から機能(役割)・関係概念
に
41
社会のボーダーレス化①
• 経済のグローバル化→国境を越えた労働力
と資本と技術が往来→国籍のボーダーレス
化
• 国籍のグローバル化・ボーダレス化→宗教の
グローバル化・言語のグローバル化→文化
(生活様式・行動様式、およびそれの背景に
ある価値観)の多様性・雑居性→文化に伴う
価値や規範の変化→投票行動の変化
42
社会のボーダーレス化②
• 年齢のボーダレス化→終身雇用の崩れ・中
途採用の増加、学びの機会の多様化、初婚・
出産の時期の多様化、「年貢の収めどき」の
死語化
(矢印は実は双方向)
• 性別のボーダレス化→ユニセックスのファッ
ションの増加、女性の権利の自覚、同性愛の
社会的容認度の増加
43
3.2.2属性が実体概念から機能(役
割)・関係概念に
• 実体概念と機能概念
• エルンスト・カッシーラ
• 中井正一
44
3.2.2.1性
• 生物学的な性別→役割としての性・・・gender
概念
• 同性愛の容認
• 人類の歴史はすべてにおいて自由の獲得の
歴史(そこに問題を感じるデュルケムがいるにせよ)
• 性愛についても、性役割分業についても、双
方について共に、自由の領域が拡大
45
3.2.2.2年齢
• アメリカでは定年制を年齢差別と。アメリカの
大学のテニュア(日本のそれと違って本当の
終身)。
• 現代社会、実年齢とその人なりの年齢とを切
り離す傾向の一つとも捉えられる。
• また肉体的にも肌年齢、精神年齢、腸年齢、
脳年齢、その他等々、諸々の事柄にそれぞ
れ「年齢」という被修飾語を充てる
46
• これらは実年齢の束縛からの自由と捉えるこ
とも可能(とはいえ○○年齢は我々を脅迫す
るが)
47
3.2.2.3学歴
良い学歴(学校歴)とは?
• (従来の意識)頭の良さ(あるいは悪さ)の指標→
(現在)その人が得た能力的な資格
• 専門大学院、社会人入学、編入→学歴が固定的な
ものではなくなる
• 宿命的な枷としての学歴→我々の学びのグレード
の証としての学歴(「自動車学校」の卒業のようなも
の)
→要は学んだ年数が肝腎という流れ
48
• 学校歴社会から狭い意味での学歴社会に
• アメリカは日本と違って学歴社会
49
3.2.2.4職業
• 終身雇用制の綻び、フリーターの増加
• 職業人に求められる技術が陳腐化、通用しな
くなる年数の早まり(←変化の早い世の中←情報の速
い伝達)→リカレント教育の必要性の増大
• 年功序列→能力給、業績給に(正社員や公務
員も一部歩合制を加える)
• 終身雇用制→片道切符の出向、リストラ
50
3.2.2.5年収
• 機能概念化を実現するもの
• 他の属性における機能を手に入れる根拠。
• その意味ではこれだけは実体である側面は
強い。
• でも、一時的に大金もち気分を味わうには、ク
レジットカードや、消費者金融がある。
51
3.2.2.6未既婚
• 昔は既婚の方は比較的固定的
• 今、未婚→既婚の5割の頻度で既婚→未婚
• 自由の増大=安定性、安心の欠落(デュルケ
ムが懸念した事態に)
• 同棲カップルと子供のいない夫婦との違いは
紙切れ一つ
52
3.2.2.7家族構成
• 家族の果たした機能のアウトソーシング化
• 衣食住、教育、性(生殖あるいは快楽としての)、
会話の機能
• 衣(裁縫・編み物)、食(外食・中食)、住(子供
のプチ家出、単身赴任)、教育(勉強以外の
社会生活上の教育も学校に頼る・塾通い)、
性(婚外セックス・不倫・代理母)、会話(「お
話し聞きます」ビジネス、テレビ、チャット)
53
3.2.2.8居住地
• 単身赴任、子供の進学等・・・住民票上の住
所と現実の住所とが一致しないケースの増大
• 職住接近→職住分離・・・昼間人口≠夜間人口
• 準拠集団が地域社会以外の集団に(特に欧
米諸国の教会のようなコミュニティが日本で
はないので)。
54
3.2.3貨幣(お金)の影響
• ジンメル『貨幣の哲学』、今村仁司『貨幣とは
何か』1995年、筑摩新書
• 従来、上下関係をコントロールするもの・・・広
い意味の権力
• 現代、貨幣が上下関係、支配・被支配の関係
をコントロールする
• 上下関係の性質の変化
• 固定的なもの→契約的なもの
55
ジンメルの貨幣論
• 主従関係・封建的隷従関係
• 貨幣を通じての関係でないので、四六時中、
上下関係が続く(「花輪君とヒデ爺」)
↓
• 貨幣を通じての、上司と部下
• 期間・時間限定の上下関係になる→役割・規
範も時間限定に→行動、意識も時間限定に
56
貨幣と機能としての属性
貨幣の力
• 従来「属性」・・・実体的
• 貨幣が人々を支配する時代の「属性」・・・時
間限定のもの(全人格的なものではなくなり)、
機能・役割としてのみ意味を持つ。
57
今村仁司の貨幣論
(ちくま新書『貨幣とは何か』--彼の代表作ではないが名著)
• 貨幣をコミュニケーション・メディアとして捉える
• 貨幣なき権力関係・・・剥き出しの暴力
• 例・・・ポルポト派(ポルポトはカンボジア共産党
書記長)、中国の文化大革命「貨幣なき理想社
会」→権力闘争、究極的に相手の死を望む。異
論の粛正
• 貨幣の媒介・・・貨幣の契約的性格(「金の切れ
目が縁の切れ目」)・・・権力に一定の枠を嵌め
る・・・権力の暴力性を和らげる
58
メディアとしての「貨幣」のデメリット
• 自我を統一するような規範が曖昧に
• ←役割が9時-5時で終わる。その「役割」を
演じるルールが「規範」
• 準拠集団が曖昧に
• すべての役割・機能が貨幣でのやりとりに
よってなされる
59
属性の機能の貨幣でのやりとり
• 性(セックスの商品化、遺伝子の商品化、性
的魅力の商品化(化粧・整形))
• 年齢(上記、整形・化粧)
• 学歴(塾・家庭教師、一部私立大附属小中
高)・・・「裏口」でない学歴も金次第(平沢勝
栄・安倍は珍しい失敗例?だから外付けハー
ドディスク北岡伸一の活躍)
60
4.性別
4.1性の3つの位相
• Sex・・・生まれ落ちての性、「性別」
• Gender・・・社会的な性、後天的に獲得された
「性役割」
• Sexuality・・・性愛としての性、日本語の「セッ
クス」の語感に近い
61
3つの位相の関係
• Sex
• Gender・・・sexとしての性別の差(わずか)を、
より強化する
• Gender論の立場・・・genderとして性差を「社
会的に作られたものとして」減らそうとする
• Sexualityとしての女性「性」・・・アンチgender
論的な立場への作用
62
Genderとしての女性
• 生まれながらのものではない
• 役割期待で作られる
• tomboy、赤と黒のランドセル、女の子は赤系
統の服、男の子は青系統の服。女の子は長
い髪、男の子は短い髪、「女の子は脚を広げ
て座るな」、男の子はファミコンせずに外で遊
べ、女の子は人形やオママゴトや読書で家で
遊べ・・・家庭教育の場で、役割期待を刷り込
む
63
「サーチライト」としての新しい概念
• 苅谷剛彦『知的複眼思考法』講談社+α文
庫,2002年(苅谷は前東大教育学部教授)
• ある概念の発見→今まで見えないものが見える
サーチライトに
• 「ジェンダー」概念の発見
• 「女性が子供を出産」・・・生物学的な身体の違い
(セックス)
• 「女性が子育てする」・・・・「女性は子育てをする
ものだ」という社会の約束事あって成り立つ・・・
ここがジェンダー
64
4.2役割期待
• 役割・・・社会の中での地位に基づき、他者か
ら期待される行動様式や態度
• 役割規範・・・期待に背いた際には制裁が加
えられるようになると、そういった役割(期待)
を役割規範という
• 地位や職業が「~らしさ」を人に与える
65
ミードによる説明①
• アメリカ社会学の古典とされるジョージ・ハー
バード・ミード『精神・自我・社会』
• ミード(1863-1931)のI(アイ)とme(ミー)
66
ミードによる説明②
• I・・・「主我」
• me・・・「客我」・・・子供は「重要な他者」(通常は
両親・特に母親)から、彼らの振る舞いを通じて、
また彼らから自分がどのように振る舞うかを
期待されているかを知ることによって(「役割
期待」)、「客我」を身につける。これは具体的
には良心とか規範とかいった、社会的な自我
である。
• 大人における重要な他者・・・準拠集団
67
役割と属性
• 役割(役割期待)→「らしく」振る舞う
• その年齢の人は、自分の年齢にふさわしく振
る舞うし、それぞれの職業、地位の人はそれ
ぞれの職業、地位にふさわしく振る舞うように
なる
68
役割と振る舞いの身近な実例
• 首相や知事になると首相らしい顔つきに
レーガン大統領、シュワちゃん(カリフォルニア元州
知事)
• 女性は子供が生まれると母親の顔に一夜にして
変わると従来いわれた(フェミニストに怒られる
が・・・)。「ヤンママ」は?
• ダライ・ラマ・・・もっとも『先代の生まれ変わり』
• 小中高校大学それぞれの顔に、それぞれの新
入生は一年生の2学期頃に変貌する。
• 恋人同士の役を演じる女優と男優が本当に恋人
同士に
69
4.3役割期待の変化とジェンダー
• 母親における理想の女性像の変化
(←結婚によって叶えられなかった「夢(キャリアウーマ
ンとしての)」)
→娘への教育方針も従来と変化
• 「男性より高学歴だと結婚難に」という考えが
減る
女子の進路の変化
• 文学部・家政学部→医学・法学(男性と対等に伍
せる高度な資格系学部)
70
「女性は家庭に」という従来の考え方
の理由
• 避妊技術の不足→子沢山→子育て多忙
• 家電製品なし→家事労働重労働
• 旧来の労働は一般に肉体を弄した・・・外での
労働は男性の専有物
• 貴族・武士を初め親の跡を継ぐ時代・・・「家」
の血統の証明大事・・・女性にのみ貞操を求
め、家庭に閉じこめる(cfフランス貴族)(長子
相続)
71
「女性は家庭に」という考え方からの
変化の理由
• 避妊技術の発展、少子化→夫婦とも子育て
に追われる部分が減る
• 家電の発達→専業主婦は「三食昼寝付き」と
いわれ、時間を持て余す→外で働こうか
• 労働の質の変化(←産業構造の転換、情報処理
的な仕事の増大(身体よりも頭を))→女性が能力
を発揮できる職種の増大
• 継ぐものとしての「家」の崩壊→貞操は男女に
等しく求められる(求められない)ものに
72
残業-男女共同参画社会の妨げ
職場での男女平等・・・でも家庭では不平等が
残存
• 男性・・・専業職業人
• 女性・・・専業職業人 兼 母・妻
残業・・・男性社員にのみ夜遅くまで頼むように
(3階の事務室に20時頃行ってみなさい)
• 残業を多くする人が出世→結果、男性のみ出
世
73
4.4役割の変化とセクシャリティ
4.4.1ジェンダーがらみの変化
• 従来、家父長制・・・家父・家長の支配権を絶
対とする家族形態
• 家長権・・・家族制度において、家長が家族に
対して持つ支配権。古代・中世においては、
家族の生命、財産はその下に支配された(広
辞苑)
• 妻や娘は家長である父親が支配する。
• パターナリズム(今年度は早期に板書で詳
述)
74
パターナリズム①
• (国民や従業員に対する)父親的温情主義;[
けなして]家父長的態度;干渉政治」(『ジーニ
アス英和辞典』)
• 「温情的干渉主義と訳される。政治・経済・雇
用関係などにおいて、中央当局などが、父が
子に対するように各人の行うべき判断を代行
し、その判断を各人におしつけること」(金森
久雄ほか『経済辞典(新版)』(有斐閣、1986
年)
75
パターナリズム②
• 人間は基本、他人に迷惑をかけなければ自
由。何をしても良い。当人にとって不利益なこ
とでも。
• しかし未成年者へは親や社会が(他人に迷
惑をかけず、当人に不利益なことを)干渉す
るのはある程度、当然。
• 例・・・たばこ、お酒・・・嗜んでも当人が将来、
アル中や肺ガンになるだけ・・・しかし未成年
なので干渉する。「父親」の立場で。
76
パターナリズム③
• それでは未成年ではなく成人の場合は?
• パターナリズムが成人に対して認められるか
どうかという議論
• 麻薬や覚醒剤。お酒と違って当人を害する度
合いが著しい。他人を害さずとも、取り締まり
は是。
• シートベルトの着用義務
77
パターナリズムと性
• パターナリズム的な家父長支配の下、女性は
保護=干渉の対象
• 未成年、成人問わず娘のセクシャリティに、
父親は発言権があった。
• 「良妻賢母」の理想に娘を近づけるため。
• 良い結婚は娘のためだけでなく残された家族
の利益にもなった。政略結婚の類
• 父権の弱体化に伴って、娘への干渉は減る。
78
4.4.2 それ以外の変化の要因
• マス・メディアからの要因
• 医療技術上の要因
• 宗教の威信の相対的低下
• 一貫性、不変のものよりも変化しうるものをとい
う思考の志向性(授業の最初の方で述べた市場
の飽和状態とメディア社会との関係も)
79
マス・メディアからの要因
• エドガール・モラン『スター』・・・神話的世界の
人(ギリシア神話の神様たち・・・近親相姦や乱れた
性・・・スターは神様ゆえ、許される)
• これとメディア効果論の「沈黙の螺旋階段」理
論(ノエル・ノイマン)(この理論はメディア社会文
化論で詳述)
• モランのいう「神話」が一般的な多数派として、
庶民にまで下降・普及(モランはフランスの代表
的社会学者)
80
医療技術上の要因
• 避妊技術の向上・・・性と生殖の切り離し
• クローン人間、遺伝子工学、代理出産技術の
発展・・・性と生殖を論理的にも切り離しうる技
術の展開
81
宗教の威信の相対的低下
ほぼ全ての宗教・・・性的禁欲・節制が戒律(宗
教上の法)に
• 神の下での結婚の誓い
• ところが宗教の威信低下
←「あの世」の生より「この世」の生
• 寿命の延びとまずまず豊かな暮らし
• 神秘現象の合理的説明可能性の向上
82
一貫性、不変のものよりも変化しうる
ものを、という思考の志向性
• 宗教(一夫一婦制と天職を支持)の威信の低
下
• 商品を売るための流行(商品の「飽和状態」
避ける)
• ネット社会の情報摂取方法の非線形性
• 「大きな物語」の崩壊(ジャン・フランソワ・リオ
タール1924-98)
83
4.4.3 性的自由のメリット、デメリット
4.4.3.1 性的自由のメリット
• 結婚前に相手に対してより多く知る→ミスマッ
チ減る(就職についてのインターンシップのよ
うなもの)
• 女性が自立した存在に・・・男性と対等に振る
舞える
• 性的快楽をタブー視しなくなる
• 商品の購買意欲(相手を惹くための化粧・ファッ
ション・車・リゾート地)を喚起し、内需を拡大
84
性的自由のメリット(続き)
• 性や家庭、戸籍の国家管理が弱くなる→国家
から自立した意識の人間の増大
• 離婚、再婚を増やす→人類の種としての多様
性の実現
• 別れる可能性があるとの自覚→良い意味の
緊張感
85
4.4.3.2 性的自由のデメリット①
• 離婚率の上昇(←恋愛、同棲、結婚の境界不
明瞭性)→行為の意味の不在
• 若さ(美しさ)を一元的に称揚する価値観の支
配、正常性・規範性の美や肉体における支配
• 身体を自己の交換可能な部品のように考え
る
• 性の商品化を促進する
86
4.4.3.2 性的自由のデメリット②
• 家族の解体の一つの動因に(離婚というだけ
でなく、なかなか家庭をもとうとしない、家族と
の共有する時間がなくバラバラ等も含めて)
• 性的自由→離婚率の上昇→子供の教育が、
一貫性をもって行われなくなる
• 自由を享受できる人と不器用な人との格差が
顕在化する
87
セクシャリティとジェンダーの境界の
話題というか命題
• なぜデートの時に、男性が女性をおごるの
か?
• なぜ、両方とも免許や車を持っているとき、男
性の車で男性の運転でデートをするのか?
• なぜ、男性の方から告白することの方が比率
的に多いのか?
• なぜ自分より背の高い男性を女性はパート
ナーに選ぶべきという規範があるのか?
88
4.5 ジェンダーとセクシャリティの在
り方の変化の行き着く方向について
• Gender論(genderの動き)もsexualityの現状も、
最後は男女の生得的違いsexの領域を極小
化
• 近未来の我々・・・uni sex, homo sexuality を
目指す方向へ(動物学的に男性がいなくても女性
同士でヒトも近々生殖可能になるという)
• 機能としての性(パートナー)、機能としての
家族・・・異性の必要性ないし人の必要性な
い・・・ヴァーチャルな性
89
4.5②
• 性的魅力は、機能として必要なくなったもの
• 要するに職業上は男らしさ、女らしさは不要
に。
• しかしセクシャリティの領域では(セックスア
ピールとしては)男らしさ(強さ)・女らしさ(優
しさ)として残る
• ジェンダーの展開と異性愛的なセクシャリティ
の矛盾
90
4.5③
• 「女性の社会進出」と「女性の性的自由」の親
和性(因果関係ではない)
• 男性が性愛をプロの女性に委ねない→双方
の不倫の可能性→夫婦の恒久性が危うく
• 夫のリストラの可能性、年金受給年齢と退職
年齢とのつなぎの必要。熟年離婚の増大→
結婚=女性にとっての「永久就職」ではなくな
る→女性の経済的自立および女性としての
魅力の維持不可欠に
91
4.5④
• 子育て支援体制(夫の家事分担、社会の育
児休暇への温かい目、有償・無償のサービ
ス)の不足→働く女性が欧米先進国よりも子
供を作りにくい状況→少子化さらに進展
• {パートナーと別れる確率が高いことを前提と
した制度設計→社会全体で子育てをする仕
組み}→これがないので日本の少子化対策は
根本対策たり得ない
92
性と国家統合①
• 合衆国のような宗教国家・・・性的自由の問
題(中絶の是非、同性愛婚の合法化の是非)
が大統領選の争点に
• 性の問題は世界観に関わる(宗教上の教義
とも不可分)
93
性と国家統合②
• 戸籍を管理することが、国家の国民への支配
の正当性の根拠←昔は、宗教の正当性の根
拠が神の下で結婚の誓いを立てさせることに
あった
• 結婚と同棲と恋愛の違いが紙切れ一切れ
に・・・戸籍管理の正当性が危うくなる
• 国際結婚・移民の一般化・・・国民であること
の条件に「文化の共有」という部分が欠落す
る
94
まとめ
• ジェンダーからの自由とセクシャリティとして
の性の自由は対立する要素を孕みつつ、同
性愛まで射程に入れると、広い意味で相関し
うる。
• 両方の性の自由の増大は、必然的な流れで
あるし、メリットも大きいが、意味の喪失、国
家の統合の危機を招く可能性はある。
95
5.年齢
5.1世代(generation)と年代(age)
• 5.1.1世代
この項目の概要は今年は6月14日に行った
• 5.2.2年代
この項目の概要は今年は6月14日に行った
96
5.1.1世代
• 「世代」「生年・成長時期がほぼ同じで、考え
方や生活様式の共通した人々。またその年
代の区切り。ジェネレーション。「--の差」
「戦後--」」(『広辞苑』)
• 例)「安保世代」「団塊の世代」
• いつ頃生まれたかで人々を区分して、考え方
や行動の仕方の相違をみていく際に使われ
る言葉。
• ある世代の人・・・ある時は子供の年代であり、
ある時は青年の年代であり、ある時は中年に
97
「団塊の世代」
「団塊の世代」(「1947-49年のベビーブーム時
代に生まれた世代」『広辞苑』)
• 1960年には彼らは年代としては少年の年代
• 1970-80年頃までは青年の時代、
• 今は高齢年代になっている。
98
世代論と技術決定論
• 「太陽族」「新人類」(1960年生まれ以降)など。
• 「携帯電話世代」とか「オタク世代」
• マス・メディア、電気通信等のメディア環境の
変化→世代特有の行動様式(文化)を形作る
• しかしあまりにそこの部分を強調すると、技術
決定論(次のスライドで補足)やマス・メディア
効果論の皮下注射モデルに陥ってしまう。
99
技術決定論の問題
(詳細は「メディア社会文化論」ハンドアウト参照)
技術決定論批判の骨子
• 技術が社会や文化を規定するのではない
• 社会的文脈に適った技術が受け入れられる
• 後追い的に歴史を振り返ると、技術が社会を
牽引しているように見える(勝者の歴史)
• しかし新しい技術で社会に定着したものはご
く僅か
100
世代論の陥穽
• ①戦争や災害や技術などインパクトの大きい
事柄の説明力を必要以上に過大評価
• ②時代の最先端の人(若者)の行動のみに着
目しがちである
• ③いずれにせよ多数派は世代の特色を(少
なくとも当初は)備えていない
• ④報じられることで最先端が普通になること
はある(「沈黙の螺旋状階段」仮説・・・メディ
ア社会文化論のハンドアウト参照)
101
5.1.2年代
• 「年代」「一生の一時期」(ジーニアス英和の
ageの説明の一つ)
• teenage 10代の(13-19歳)
• いつ生まれたかによる意識や行動様式の差
は「世代」のこととなるし、いつ生まれたかに
かかわりなく、若者には若者固有の意識や行
動があり、そちらに着目すると「年代」のことと
なる。
102
アンケート調査と世代、年代
• 実際には両者の影響は不可分的に混ざり
合っている。一度の時点でアンケートをしても、
両者は分離できない。
• 両者を区別する調査手法・・・コーホート分析
103
‘若者の保守化 改憲論議’
世代と年代のズレの例
• 従来 高齢者 保守的 /若者 革新的・・・
時代を問わず、ほぼ普遍的にいえた
↓
• 冷戦の崩壊(1990年前後)→保守、革新の枠
組みの崩れ。55年体制の崩壊→戦争を知ら
ない世代が政治の表舞台に
↓
• 従来の振り分けとある意味逆転している状況
104
5.2 年齢による意識の差の理
由・・・準拠枠組みの違い
• 「準拠枠組(frame of reference)」・・・「「認識
枠組」「関係枠組」ともいう。人間は外部から
の刺激を「知覚」するが、それをどのように
「認識」するかは、その人の持っている認識の
枠組によって異なり、同一の刺激が同一の認
識をもたらすわけではない。このように、外部
からの刺激に統一的な「認識」を与える枠組
みを準拠枠組という」
(倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992,p.51)。
105
準拠枠組みの違いの生じる例①
親が子供に対して多く注意している事柄(倉沢進・川本勝
『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992,p.50。オリジナルは、東京都『東京の子供と家庭』1985)。
• 1位 人に迷惑をかけないこと 46%
• 2位 言葉づかいや挨拶をきちんとすること
32%
• 3位 交通事故やけがに気をつけること
32%
• 4位 勉強すること 21%
106
②
子供が親から多く注意を受けている事柄
• 1位 勉強すること 43%
• 2位 言葉づかいや挨拶をきちんとすること
30%
• 3位 整理・整頓をすること
27%
• 4位 交通事故やけがに気をつけること
22%
107
③
• 親は社会的規則や通念をいっているつもり。
• 子供の方は具体的な生活上の事柄の注意が、
頭に残る。よって、のび太のママやしんちゃん
のミサエ(「おかたししなさい」)のような発言
が印象残る。
• →同一の事柄に対する意味付与・・・大人と子
供で異なってくる。つまり、「個々の行為とそ
の行為に意味を与えている価値や規範は違
うものであ」る(倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ書房1992,p.52)。
108
④
• ・・・子供の方が生活世界が狭く、特に友だち
集団でのつきあいが、自分の最も大切な集
団となる。したがって友だちづきあいを邪魔さ
れる「宿題済ませたの?」は、子供にとって最
も不快で煩わしく、他の言葉よりも印象に残る
ことになる。他方、親の方は生活世界が広い
ので、地域社会あるいは将来の日本社会で
の子供の正しい成長を願っての発言が多く
なっていると感じている。
109
5.3 年齢と地位、役割
• 「年齢に比例して地位が上がる」・・・普通の
社会、あるいは従来の日本社会。いまは若干
変化している面もある。当然地位に応じて、
一般的には権力もふえるし、収入もふえる。
• 年功序列制であると、年齢とともに、会社の
中での地位が上昇することになる。経験が大
切な仕事であれば、年齢ととも実際に実力が
つく。そして年齢、実力に伴い、役割や地位も
大きくなる。
110
• 日本での社員の評価
・・・専門的な能力や独自の才能<<<会社内
での顔の広さ、人脈等(専門職に相性悪い)
→年齢に応じて地位が向上することになる。し
かしそれも定年までの間のこと
• ▽不祥事で倒産・廃業した超大企業の山一
証券のクビになった多くの幹部社員「俺は部
長なら得意だ」--世間では通用しない能力
--路頭に迷う▽
111
地位の非一貫性・・・日本の特色
• 中小企業の部長と大企業の係長のどちらが
地位が上か?
• 社内では地位の上下は明確であり、そこで閉
ざされた地位のピラミッド型システムがあるが、
社会全体では?→結局、不明
• 職業上の地位だけでなく、財産や収入や学歴
その他諸々の要素が地位を構成している
• 学歴は地位構成の原因であると同時にそれ
自体も地位・・・昔の本、「『文学士』誰それ著」
112
年齢と地位
• 儒教社会・・・年齢と地位とがすぐに結びつく
• しかし現代社会、定年制・・・60歳までの間で
の期限付き、「年齢に応じた地位」
• 江戸時代も「ご隠居」は自主的定年(しかも4
0歳くらいなんだよね)・・・でも隠居後も「水戸
のご老公」
• 会社社会でも役員(重役)は定年がない。よっ
て社長、副会長、会長と屋上屋が重ねられる。
113
5.4年齢につれての地位向上の機
会の減少という近年の状況
想定される諸要因
• マスメディアの影響・・・美男美女系(テレビ映
りの良い人)であれば若い人ほどメディア露
出しやすい
• 能力主義の傾向
• 稼ぎで全てを評価する傾向
• 価値と希少性の問題
114
マスメディアの影響
• 社会がテレビなどの影響を受けやすくなる→
若さが大切な仕事がスポットライトを浴びる→
年齢を経ただけの者が高い地位を占めること
への反感も強まる
• スターの若さ称揚→それが一般化→沈黙の
螺旋状階段(ノエル・ノイマン)
115
能力主義の影響
• 年功序列型と地位と賃金の配分→能力に応
じた地位と給料へ
• 創意工夫を重視する社会へ→長年の経験の
蓄積よりも新しいことを生み出す力を重視→
年を重ねることが優位性の根拠にならぬ
• スポーツの監督(原辰徳1.6億円)よりスター
選手(阿部慎之助6億;村田修一3億)の方が
多い年俸・・・そうすると場合によって大きな発
言力を
116
価値の希少性の減少の影響
• 少子高齢化→若者の数減少→相対的に若者
の稀少性が増大→従来以上に大切にされる
• 高齢者の増加→
文化・知識の変化(古い世代の経験が知とし
て通用しなくなる)→
→高齢者の有り難み減少
• 従来の年齢と地位との関係を問い直させる。
117
5.5 世代とカウンターカルチャー、
サブカルチャー
• 世代間の情報行動、消費行動の相違→世代
間の文化的な摩擦の原因に
• ギリシア時代から「今の若者はなっていない」
という言葉。
• 大人の価値・規範及びそれらが具体化した形
での行動様式(文化)≠若者のそれら
• 大人・・・自分たちの価値・規範に「生きてきた
ことの意味づけ」を与える→若者文化に不満
118
サブカルチャー①
• 若者・・・大人の価値・規範を継承するだけで
は、年の功のある彼らを抜けない→自分らの
レゾンデートル(存在意義)を示す必要→別の
文化(サブカルチャー、カウンターカルチャー)
を模索する
• 若者のサブカルチャー志向は「年齢高くなる
=地位」という見方を押しつける伝統的社会
への反撥の意味合いもあった
119
サブカルチャー②
• 学校教育で体現される価値や規範(既存文
化の側)とは別の規範→学校文化への反逆
(ex尾崎豊の「卒業」・・・教室のガラスを割る)
• ジーンズやロック・・・反戦のシンボルから商
品へ(体制の側に吸収される)
• 既存の価値や文化に対する若者の反逆を、
大人の側が商品とする
120
サブカルチャー③
• 市場の飽和状態を避ける→商品の差別化の
要請→この資本の側の要請に、若者文化、
サブカルチャーは応えてしまう。
• しかも世代、年代の問題が生じる。サブカル
世代が年齢を重ね、社会の主要ポストを占め
ていく。→二重の意味で体制に取り込まれる。
121
サブカルチャー④
• サブカルチュア・・・社会的逸脱の一つ
• 大人たちは、担い手に不良のレッテル貼り(ラ
ベリング)を
• しかし、その「不良」たちが社会の主流・中堅
どころといずれはなる(例、麻生太郎元首相
等)
• 彼らの「逸脱した」行動様式の一部あるいは
ほとんどが、社会の主流の行動様式となる→
社会の文化そのものを組み替えていく。
122
サブカルチャー⑤
• 小説・・・詩と違って二流の文学と見なされて
いた→一流に。入試問題にも出る。
• その後、映画は小説や詩や演劇と違って、二
流の芸術とされた
• 漫画やアニメは二流の文化とされていて、今
でも図書館界の反発はあるが、次第次第に
漫画学会や大学(京都精華大学)の漫画学
科ができて、主流の文化で公認されるように
なり、漫画しか読まない人が首相・副首相に。
123
サブカルチャー⑥
• 不良の音楽とされていたビートルズやローリング
ストーンズであるが、ビートルズは、イギリス女
王によって1965年勲章をもらいマッカートニー
は1997年貴族に列せられ、先頃ミック・ジャ
ガーも貴族になった。
• ジャズはむかしはクラシックに較べ低級文化とさ
れたが(アドルノという世界的な社会学者のジャ
ズ批判など)、今は、クラシックファンとジャズファ
ンは結構被るとされ、高級文化の典型とされて
いる。
124
サブカルチャー⑦
• 教育界・・・(日本に限らず、文部科学省は頭の
おかたい人の集まり故)正統文化が支配
• 現在の教育システムで、優れた能力をもつとさ
れる人・・・新しい文化の基準においてはそうで
はない可能性も
• 未来の基準による「優等生」は、今ストリートでダ
ンスに興じているということも充分にあり得る(と
今まで配付資料に書いてきたが、ついに2012年、
文部科学省の魔の手がダンス界に及ぶ。ダンス
必修化。なんでEXILE 様はイリッチ先生のように
反対しないんだ???)
125
5.6 年齢の説明力の変化
• 従来は、年齢の差は、性とともに大きい説明
力
• なぜなら職業上の地位の差、家庭での立場
の差←年齢の差
• ←終身雇用制(年功序列と定年制。ただし勤
め人。しかも大企業・公務員のみ)
• ←結婚(初婚)年齢がほぼ一定
• ←離婚率の低さ
126
年齢の説明力の低下
• 日本がアメリカ型の社会になる→年齢と地位
とが照応しにくくなってきている
• 社会のボーダレス化→年齢不明人増える
• 儒教道徳の衰え→年長者への尊敬の念をも
つ人の減退
• 終身雇用制(7.3.1参照)の崩れ。中途採
用の増加
• 定年制が年齢による差別とされる
127
年齢の説明力の低下②
• 未婚単身者(パラサイトシングル?)の増加と
初婚年齢の多様化、離婚率の上昇
• 結果(メリット、デメリット)
①人間の自由の増大
を見よ
属性よりもその人個人
②強い人間以外は孤独感が強まったり、意味
喪失に陥る
128
6.1 学歴についての予備的議論
6.1.1 学歴社会と学校歴社会
• 日本は、「学歴社会」というよりも「学校歴社会」
– 「どんな教育を受けてきたか」よりも「どの学校を出た
か」
– 「学歴ロンダリング」、「学歴フィルター」なる用語
• 高学歴なはずの「博士」は就職難(アメリカでは
こんなんではないよ)
– 理系修士は、就職がいい
– 文系修士は、就職難(図情を除く)
– 文理共に博士は路頭に迷う(図情を除く)
129
6.1.2 達成価値と属性価値
• 学歴は、本来、達成価値であるが、属性価値
的な要素も強い(福沢先生や丸山真男にはし
かられるだろうが)。
– 18,9歳のときまでの頑張り次第で決まってしまう
ものだったので
130
アスクリプション(属性原理、属性主義)とア
チーブメント(業績、達成)の対比
• 業績主義
– 「地縁・血縁・家柄・性別・人種」といった個人に
とって変更不可能な属性によってではなく、その
人の能力・努力・実力に応じて、資源を配分した
り、地位を決定すること
• 属性主義
– 血縁・家柄などの属性によって地位を決定するこ
と
131
6.1.3 学歴インフレ①
• 学歴は、いろいろな属性に関係する
– 学歴→職業→収入→居住地、未既婚、家族構成な
ど、その他の属性に多く相関する
– 意識や行動様式を多く規定する
• そのため、親は子どもに自分より良い学歴・学
校歴(せめて同等の学歴・学校歴)を望む
→ 世代交代を経るごとに学歴は良くなる傾向にある
→ 学歴インフレ
132
6.1.3 学歴インフレ②
• 文化的蓄積、知識の蓄積・増大に伴い、一人前の技
術者や研究者になるために必要な年数が増えている。
– 理系は、今では修士に進む学生が大半
– 従来から6年生の医学部・歯学部に加えて、獣医学部
(1984年)、薬学部(2006年)、でも、6年制課程の設置が
スタート
– 教員養成もいずれ??
• その意味で、高卒よりも大卒、大卒よりも院卒が専門
職には望まれる世界的な傾向がある(終身雇用制度
の残る日本を例外として)
133
6.1.3 学歴インフレ③
• 学歴をアンケート調査で調べる際・・・
– 「学歴インフレ」の状況に考慮する必要がある
– つまり、学歴の要因を年齢で、コントロールする
• お金も資格も学歴も希少性があって初めて価
値を持つ
– 大卒の価値の低下
– 「末は博士か大臣か」(どっちも価値暴落)
134
(余談)資格インフレ
• 学歴インフレ→資格インフレ
• この状況の対処法は唯一、上位資格を作り、
その上位資格の取得条件を下位資格とする
こと
• 管理栄養士・・・栄養士であることが条件
• 助産婦・保健師・・・看護師であることが条件
• (勝手な妄想)司書資格も、上位資格を作り、
知識の学生はその資格の多くの条件をクリア
とすれば生き残れるのに。
135
6.2 学歴と階層再生産
• ピエール・ブルデュー
(1930-2002)
• フランスの社会学者
• 階層再生産の議論
出典:http://fujiwarashoten.co.jp/main/authors/archives/2
011/10/post_1.php 藤原書店
136
よい学歴(学校歴)のある人の
DISTINCTION(卓越化)の構成要素
1. 能力そのものの差(頭の良さ、努力の結果の差)
– 立ち居振る舞い(ハビトス)の差(文化資本)
– ハビトスとウェーバーのエートス概念との類似性にブ
ルデュー自身が言及
2. 周囲の評価の差
3. ネットワーク、人脈の差(社会資本)
– 慶應義塾大学の人脈力
137
階層再生産①
• 高学歴(支配階級)の親の戦略
→ 子どもに対する階層再生産戦略を施す
→ 良い学校に入れ、よい就職をさせる
→ つまり、教育投資
• 学校教育が、子どもに求める能力
→ 支配階級の好む文化、知識、教養
• そのため、支配階級の文化に接して育った子ども(=
支配階級の子ども)は、学校教育についていきやすい
138
階層再生産②
支配階級の文化とは、具体的に何に現れる?
• 小説より詩
• 同じ小説ならラノベよりは純文学・古典文学
• ポップスよりもクラシック
• テレビ(今ならネット)よりも読書
• 同じテレビなら民放よりもNHK
• 家庭料理よりもフルコース及びそれへのマナ
ー
139
階層再生産③
これらが現れるというか身につく契機は?
• 親の学歴・居住地(エリートの多く住む土地出
身か)
• 親の生活習慣
• 家の蔵書・CD・美術全集のコレクション
• 家族の生活上のマナー(食事のマナー等)
• 初等中等教育を含めた学歴
• 学校での友だち
140
階層再生産④
• その結果・・・
1. 学歴が階層流動化の要因ではなく、階層再生
産の道具としてのみ機能するようになってしまう
2. 同じ一流とされる学校の卒業生において、親が
一流の職業に就いている人の方が、早く高い地
位に就ける
→ 学歴が専門的能力の証明であるよりも、教養
の高さ、文化資本の伝達・授受の証拠に使われ
る
141
日本でも言えること、言えないこと
1. 東大・早慶の学生の親の年収は、他大学よ
り高い
– 東大と早慶の隔世遺伝
2. 日本では、階層の格差がフランスなどに比
べ少ないという説と、日本でも階層の格差が
あるという説がある。
3. 芸術等の趣味という意味での文化資本のあ
るなしは、社会的地位に関係しない
– 階層による違いというよりも、世代による違い
142
文化資本①
• 文化の持つ社会的な価値の側面、親から子
へと相続される側面を強調した用語。
– 流暢な標準語、クラシック音楽への素養
• 家庭生活を通じて、親から子へと受け継がれ
る場合が多く、文化資本をより多く持った家の
子どもはやはり優位な位置に立つ
– ブルデューの「階層再生産」
143
文化資本②
• 文化資本は必ずしも金銭的な資産に比例す
るものではない
– 経済資本○ 文化資本×・・・経済エリート
– 経済資本× 文化資本○・・・文化エリート(知識
人・大学教員)
• ブルデューは、文化資本の中身を「身体化さ
れた様態」、「客体化された様態」、「制度化さ
れた様態」の3つに分類した。
144
文化資本③
1. 身体化された様態
– 話し方や立ち居振る舞いなど
2. 客体化された様態
– 物としてのピアノ、百科事典など
3. 制度化された様態
– 学歴や資格など
145
ブルデューの議論
• フランス、ヨーロッパ型の階級社会を前提
→日本にそのままの形ではあてはまらないが、
それに類するものは日本でも存在している
146
6.3 学歴の高低と権威主義①
• 低学歴のものほど、権威主義的な性格
• 進学校の生徒ほど、上下重視態度が弱く、権
威主義的でない
⇔もっとも、親が高学歴の子どもほど、上下重
視態度が強いとも
147
6.3 学歴の高低と権威主義②
• 学歴の低い人ほど、日常生活上の不満を自
国への誇りで解消させようとする傾向
→ 高学歴者よりも権威主義になりやすいという指
摘
しかし、高学歴ニートの増大、彼らのネット右翼化
で上記の話が成り立ちにくくなっている。
148
6.3 学歴の高低と権威主義③
• 従来、高学歴な者ほど、政治的にリベラルある
いは、左寄り
– 岩波書店、朝日新聞
• 低学歴な者ほど、保守的(なおかつ、保守的)
• しかし、今日では、このような分け方が成り立た
なくなっている
– 朝日新聞、日経新聞の両紙を購読
– 若い高学歴層は、反朝日、反テレ朝、反中国、反韓
国
149
7.職業
7.1職業の多様な次元の種別
• 業種(大きく分ければ第一次産業か第二次産業
か第三次産業か。勤め先の業種)「業種」「事業
や営業の種類」(『広辞苑』)
• 仕事の内容(勤め先の業種が製造業であっても、
事務的な仕事もあるし、営業的な仕事もある。他
方、製造業の根幹に関わる開発・技術部門や行
員として実際の製造に携わる人も多い)
• 従業上の地位(平から主任・係長・課長・次長・
部長・執行役員・役員・社長・会長等)
150
7.2日米の雇用形態・職業意識の違
い
• 就職と就社
• ジェネラリストと専門職
• 企業内組合と同業者組合
151
7.3日本的経営
• 終身雇用制
• 年功序列制
• 配置転換による雇用調整とジェネラリストの
養成
• 御神輿型の意志決定と人の和の強調
• 丸抱え的システム
152
7.3.1終身雇用制
• ・・・(中途採用の少なさ、学歴よりも学校歴重
視の理由、就職よりも就社となることの理由)
• メリット・・・首切りの少なさであり、社員の愛
社精神を強くし、仕事へのモチベーションを高
める。
• デメリット
①不採算部門に人をいつまでも残しておいたり
不景気になっても人減らしができない→日本
の企業の国際競争力を弱くする(構造改革論
者)
153
7.3.1終身雇用制②
②成果→好条件での転職というモチベーション
が働かない→独創性を阻む企業風土
• この終身雇用制の反対がいわば「リストラ社
会」とでもいえる。
③「会社人間」を作り出す・・・家庭を顧みない人
生・・・定年後の生き甲斐のない状態
154
7.3.2年功序列制①
• (就社ゆえ、社内の人脈が大切になる)
• 賃金や地位が勤続年数(=年齢・・・中途採
用が少ないので)に応じて決まる・・・横並び
の昇進・昇級→社員の間での対立や嫉妬心
が生まれにくい。社員の創意工夫を殺ぐとい
う批判もある。
• 独創性よりも調整力を重んじる(山一証券倒
産時のエピソード)。7.3.3のジェネラリスト
ゆえこのような社内の人脈を重視する人間が、
エリートとしてのさばる。
155
7.3.2年功序列制②
• 中途採用や、新卒でない者の採用が不利に
なる。
• 日本が学校歴社会に留まり、狭い意味での
学歴社会にならない理由でもある。
• 現実にはポストは上に行けば行くほど限られ
る。・・・出向、課長「級」のようなポストの用意
• 右肩上がりの時代は、上記の問題はあまり
目立たず巧くいった。
156
7.3.2年功序列制③
• 住宅ローンや退職金、年金等、ライフプランそ
のものが日本では、年功序列制を前提として
いた。
• それに併せて結婚年齢、子供の生まれる年
齢その他も、人による違いが従来は少なかっ
た。
• ライフスタイルの多様化(≒属性の説明力の
減少)により、年功序列制の意義も薄らぐ
157
7.3.3配置転換による雇用調整と
ジェネラリストの養成①
• (就社であるがゆえに、不採算部門をレイオ
フしなくて済む)
メリット
①首切りの少なさ・景気の変動・人気商品の変
化に対応できる
②社内の事情に通じた人物が幹部として育つ
(「幅広い」視野)
158
7.3.3配置転換による雇用調整と
ジェネラリストの養成②
デメリット
①専門職が育たない、専門的能力を評価でき
ない・・・実際司書職枠での採用がない大半の
市町村でうちの卒業生が公務員になっても、図
書館配属して貰っても数年で別の部局に「転
勤」になる。
②会社の外に人間関係の広がりを育もうとしな
い人が増える
159
7.3.4御神輿型の意志決定と人の
和の強調
• ボトムアップ的な意志決定
メリット・・・末端の社員も会社の方向を左右す
る重要なアイデアを出す機会があり、モラール
(士気)が高まる。
デメリット
1.責任が曖昧になる(日本の社会は無責任の
体系が支配するということは丸山真男その他が
指摘するとおり)。
2.意志決定に時間がかかる。
160
7.3.5丸抱え的システム
• コンピュータ研修、英会話等、自分をスキル
アップするための研修費用も会社持ち
• 社員食堂、社宅その他、福利厚生を会社が
面倒見る
• お茶くみ専門の一般職の女子社員を大量に
採用し、幹部候補生の男子社員の結婚相手
の候補として、それでも売れ残った人にはお
見合いの話を紹介する。
• 社員旅行、接待ゴルフ、社内の飲み会等、社
員運動会等、社員および家族の娯楽
161
丸抱えシステムのメリット
1.会社に対する愛情や忠誠心がわき、仕事が生き
甲斐になる。その結果、モラール(士気)が高まり、
仕事上の効率は増える。
2.9時-5時で職業人としての意識が途絶えないだ
けに、職業上の地位が、その人の役割や規範をそ
のまま規定することになり、人格上の統合の矛盾が
生じにくい。
3.名目上の給料よりも実質上の給料は高くなるが、
それによって社員が支払うべき税金(所得税)は、相
対的に低くて済む。(民間企業よりも公務員に関して
宿舎等々についてこの利得はある)。
162
丸抱えシステムのデメリット①
1.娯楽、余暇活動が仕事の延長になる。カラオケ
に行っても、飲み屋に行っても上司の顔を見る
んでは、部下はストレス発散できません。結局ジ
ンメルのいうような貨幣的人間関係が構築され
ず、相対的に下の立場の人間の自由が得られ
ない状況であるといえる。
2.事実上の就業時間の延長。会社に余暇や娯楽
の面倒をみて貰うということは、逆にサービス残
業をすすんで受け入れる下地にもなる。
163
丸抱えシステムのデメリット②
3.地域社会への繋がりができない理由にも。
ただし会社と家族しか濃密な人間関係を築く
ネットワークができないため、会社での立場
が悪くなり、家族ともしっくりいっていないばあ
いには、逃げ場や相談相手がなくなる恐れも
ある。
※会社がゲゼルシャフトではなく、擬似的なゲ
マインシャフトとして機能するといわれる。
164
ライフサイクルと職業①
• 人生の一部の時間のみ「職業人」
• 80年のうちの22-60歳の38年。要は半分
のみ
• しかも余暇が増えて、この38年のうちの何割
かのみが職業に充てる時間
• ただし22歳までは「職業」という「夢」の実現
のための投資期間ともいえる
• また生き甲斐も職業と併せて考えられている。
165
ライフサイクルと職業②
• とはいえ職業が余暇時間の充実を支える
• お金と肩書きも職業が規定する。
• 自分の子どもへの教育投資も、職業を念頭に
置いている・・・その意味では社会学上の多く
の「属性」が職業を巡って、廻っている
• 「職業」「再生産」(ブルデュー的な)をキー
ワードすると、人間の諸活動のほとんどがそ
の中あるいは周辺に関連づけられる。
166
ライフサイクルと職業③
• ただし普通の意味の学歴が関係する職業は、
全職業の一部だし、花形職業は学歴不問で
あったり(スポーツ・芸能・ファッション)、学歴
は要するがさらに驚異的な競争率であったり
する(マスコミ産業等)
• 「職業-学歴-再生産」の軸が社会を大きく
規定するが、それを外すと何が残るか、そこ
に自明性を越えた眼を向けたい。
167
• アメリカだとベンチャーで成功した人は若くし
て引退して悠々自適の生活を送ることも少な
くないと聞く。
• 他方、親の財産、祖父の遺産のたくさんある
人でも、就職し、仕事することで、はじめてま
っとうな社会生活を送れるという考え方も、少
なくとも日本では(多分欧米でも)強い。
• マルクスが未来社会として少しだけ素描した
、共産主義社会(社会主義はそこに至る過渡
期)
168
• マルクスのスケッチとしての共産主義・・・誰で
も好きな仕事を好きなだけ働き、好きな余暇
活動を好きなだけ過ごせる社会
• ロボットによる労働で、そのような社会が実現
しても、人々の生き甲斐、生きている意味と
の関わりもあって、やはり、職業-学歴-再
生産のループは世代を超えて続いていくと思
われる。
169