メディア社会学 2011/11/08 (火) 1.6 自明性への疑いの眼差し 1.6 自明性への疑いの眼差し • 現代社会の様々な自明とされる事柄(制度や 仕組み)を改めて疑う • 子供の目で社会ととらえ直す。 • 外国人の眼、あるいは過去の人の眼で、今 の時代をみると、別の様相、異様なものに映 る。 →比較による、自己相対化 • 自明とされた制度や規範、習慣等を相対化。 あるいは制度、規範等の意味、理由を探る。 • 例)現象学的社会学、イリッチなどの病院や 学校を相対化する歴史研究 イリッチの経歴①(ウィキペディアより) • 「イヴァン・イリイチ」イヴァン・イリイチ(Ivan Illich, 1926年9月4日 - 2002年12月2日)は、オーストリ アのウィーン生まれのユダヤ系知識人。社会評 論家。文明批評家。イバン・イリッチとも表記され る。 • 南米での解放の神学などの運動に共感を抱き、 のちカトリックから離れる。 プエルトリコのカトリッ ク大学の副学長を経て、メキシコのクエルナバカ で、世界文化情報センター(CIDOC、ケドック)を 主催。このセンターは、1976年に閉鎖。 イリッチの経歴② • 学校、交通、医療といった社会的サービスの 根幹に、道具的な権力、専門家の権力を見て、 それから離れて地に足を下ろした生き方を模 索。過剰な効率性を追い求めるがあまり、人 間の自立、自律を喪失させる現代文明を批 判し、学校教育においては、真に学びを取り 戻すために、学校という制度の撤廃を提言。 「脱学校論」として知られる。これは、当時の フリースクール運動の中で、指導的な理論の ひとつになった。 イリッチの経歴③ • また、彼は家庭の主婦の家事労働など、報酬を 受けない再生産労働を「シャドウワーク」(影法師 の仕事?鶴見和子の訳)と命名、女性の家庭内 労働の捉え方で新しい視点を提示したことでも 知られている。 著書 • 『脱学校の社会』 • 『シャドウワーク』 • 『脱病院化社会』 イリッチの写真 http://d.hatena.ne.jp/asin/4938710560http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya0436.html 『脱学校の社会』① • 通念「学校・・・賢くする施設」 • イリッチの逆説「学校・・・バカ製造器」 • なぜこういうことがいえるのか? • 好きなアーティストは? • 『源氏物語』、ビートルズの学校化 『脱学校の社会』② • 制度のもつ落とし穴 • 自ら学ぶ力vs制度 『脱病院社会』 • 常識「病院は健康を維持するための施設」 • イリッチ「病院は病気を作る施設」 • これも制度の落とし穴 • 病院・・・医療関係者の生活のための施設 • 自己治癒力、自然治癒力vs薬漬け、検査漬 け • 医原病 『シャドウ・ワーク』① • (旧来の)常識「(専業主婦のいる家庭の場 合)男が女性を食べさせている」 • (20年前の「わたおに」での台詞) • イリッチ「(専業主婦であっても)家計に貢献し ている」 『シャドウ・ワーク』② • フェミニストからの肯定と否定 • 沖縄経済との関係(玉野井芳郎) 韓国(韓流)ドラマの様式とリアリティ • 財閥、不治の病、プラトニックな愛といったお 約束の道具立て • 自明になったものを異邦人の眼によって捉え 直す →日本にいる韓国人留学生に韓国ドラマにつ いて聞く。 →向こう(韓国)に居る時:自然なもの 日本:リアリティが欠如したもの と考えるようになったという。 現象学的社会学での日常生活の 自明性への疑い・・・ •多元的現実論 我々が〈現実〉と呼んでいるもの=多元的な領域か ら成る意味の秩序として主観的に構成されたもの にすぎない。 それでも〈現実〉が客観的拘束力を持つのは、〈現 実〉が主体的に構造的に〈内在化〉されるため。 このような〈現実〉構築のプロセスは本質的に社会 相互作用の場と切り離すことができない 作田圭一・井上俊編『命題コレクション社会学』1986,p.51より(一部改変) コスモス/ノモス/カオス① • バーガー(Peter Ludwig Berger)の用語 • ノモス – 自らの経験に秩序を与える意味世界〔規範〕。 – 社会に参加し、共通の意味世界を分かち合うこと によって成立する。 • コスモス – ノモスの上位に秩序付けられた世界観 – 例:宗教など。 コスモス/ノモス/カオス② • カオス – ノモスを揺らがせる、日常を攪乱する出来事 – 身近な者の病気や死や災害など。旧来の意味 世界では解釈できない出来事 • ノモスはコスモスによってたえず再構築され なければならない 『社会学のエッセンス』有斐閣,1995,p.274 より(一部補足あり) エポケー(哲学的判断停止)① • 現象学的エポケー – 現象学は、デカルト的懐疑という方法を徹底化す ることによって、世界の現実性に対する我々の暗 黙の信念を停止することを教えてきた。 • シュッツによると、これは現象学的エポケーと よばれる信念である。 エポケー(哲学的判断停止)② • 自然的態度のエポケー – 日常世界の中で生活している人びとの自然的態度は 世界は見かけどおりではないのではないか、という疑 いを括弧に入れることで成立している。 – そこでは、世界が経験されるとおりの形でそこにある ことが素朴に信じられ、その存在根拠は問われること なく自明的に理解されている。 • シュッツはこれを自然的態度のエポケーとよぶ。 エポケー(哲学的判断停止)③ • 現象学的還元 – 現象学は、自然的態度におけるあらゆる自明的 理解をいったん括弧に入れ、意識に直接現れる がままの「事象そのもの」へ向かおうとする。 • 現象学還元とよばれる操作によって、世界は 素朴な実在であることを止め、純粋な意識的 生の流れに現れるがままの「現象」となる。 『命題コレクション社会学』1986,pp.52-53より 自明とされる世界を括弧に入れると • 我々は、それぞれ多様な世界、多様な物の見方 (世界観)があり得ることに気付かされる。 • しかし、多様な現実、多様な世界観のなかでも自 分たちが自明とする現実を「志向の現実」と捉え ていることに気づく。 • そのような「志向の現実」は、自分たちの社会的 相互作用(教育による文化伝承や習慣、規範に 基づく色々な相互行為、コミュニケーション等)に よって構築されたものであることに思い至る。 • 命に関わる病気、大災害などを想定したり、 身近な者の死に直面すると・・ → 今まで自明のものとしてきた世界が異なっ て眺められるようになる。 → 異界からの眼、異邦人の視線で眺め直すこ とが可能になる。 • つまり、エポケーのようなものを強制的に迫ら れると言える。 神義論① • バーガーによると・・・ – こういったコスモスの変化は「神義論」に関係する。 • 神義論 – ライプニッツに由来する用語。 – 端的に言えば、神がこの世界を創造したにもかかわ らず、なぜ悪や苦難が存在するのか、なぜこの世で は義人が苦しみ悪人が栄えるのか、という疑念に対 して、そのような事態は決して神の存在を脅かすも のではなく、むしろ神の存在の否定が誤りであること を論じて、神を弁護する試みのことを指す。 「ヨブ記」における神義論批判 (http://rc.moralogy.jp/ronbun/360.html)より。 神義論② • 人が不幸な事態(大災害や伝染病、幼少の 子どもの死など)に見舞われると・・・ – 自暴自棄あるいはニヒリズムに陥るケース – 逆に、「だけど神はいる」と信仰世界に入ったり、 神の存在を確信したりするケースも少なくないと いう。 → 意味ある世界秩序、コスモスに憧れ、現世 の不完全性、無意味さを自覚するという道筋 があり得る。 http://www.iwakimu.ac.jp/~moriyuki/sr/07/sr07.htm より。 神義論③ • 例えば身近な人が亡くなった際 – 普段は信仰心の弱い人でも、その人が別の世で 生きていて、亡くなった人のいる「天国」、「来世」 があると考えるケースは多い。 → 亡くなった者があの世へと旅立ち、見守ってくれ ているなどと考えることで死というものを合理化し ようと考える。 • 失われたものが取り返しがつかないものであればあ るほど、我々は失った物の価値を自分の意味づけ の体系の中で下げることで、失った事実を軽く見積 もる合理化を図る。 1.7 社会学固有の概念を用いる • 社会学の特徴→社会学固有の概念を駆使し て分析する点にある。 • 社会学固有の概念とは? – 例)倉沢進・川本勝『社会学への招待』ミネルヴァ 書房1992,p.15に示された、 ラボビッツの5つの基本概念 「規範」「価値」「役割」「地位」「権力」 1.7.1 「価値」という概念について① • 最も大切と思うこと。 – ただし、人(物その他)の価値付けである「評価」 とか、商品の価値付けである「価格」なども含ま れてくる。 1.7.1 「価値」という概念について② • 「価値(value)」とは・・・ – 主体の欲求や態度に応じて評価される客体の性質。 – 主体とは個人であることもあれば集団であることもある。 – 「客体」とは事物や人間ばかりでなく、集団、観念、行為 などあらゆるものを指すことができる。 • 価値とは、「人間AにとってBという対象はかくかくしかじ かの価値がある」とされるように、主体-客体の相関関 係のなかに生ずる現象であり、人間がその生活のなか で(自己自身を含めて)あらゆる対象とかかわりあうと き、つねに生起する現象であるといえる。 山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会学』 有斐閣ブックス、1978年,p.38 より。 価値の主観的側面 • 主体の側の欲求や態度とかかわりなく、 客観的に存在するものではない。 • 主体の側によって大いに変わるもの。 ex: 悲劇が好きな人/喜劇が好きな人 価値の客観的側面 • 主体の側にあまり関係なく誰にでもほぼ見ら れるプラスマイナスの判断 ex: 死は望ましくない → 「人を殺すなかれ」といったルール(規範)を 導く。 ex: お金は望ましい → 「汝、盗むことなかれ」といったルール(規範) を導く。 要するに、「価値」とは・・ • それぞれの人々の意味世界から来る、人や 物や出来事への序列づけに相当する。 → 「価値」は経済学上の「価値」にも通じる。 • 「価値」の一種である「評価」は同一対象に対 しても、人によっても千差万別。 • 他方、「価値」の一種である「価値」はより客 観的であるともいえる。 1.7.2 「規範」という概念について① • 簡単にいえば「ルール」のこと。ただし正負の サンクションを伴うルールである。 • 「規範」 –社会や集団において、成員の社会的行為に一定 の拘束を加えて調整する規則一般を意味する。 –成員が多少とも共有している価値との関係でいう と、その価値に誘導されて行為を調整するのが 規範であるから、規範は価値よりも、行為を具体 的に特定化する度が大きい 濱島朗・竹内郁郎・石川晃弘編『社会学小辞典〔新版〕』 有斐閣、1997,p.108 より。 1.7.2 「規範」という概念について② – 伝統的には、本来他でもありえたはずの行為が 一定の型へと制約されているとき、そこで制約機 能を発揮する価値・慣習・制度・法などが規範と 呼ばれる。 見田宗介ほか編『社会学事典』弘文堂1988,192 より。 – 文化の中核的な要素としての価値が、多少とも 具体的な行動の準則としてながめられるとき、そ れは「規範」とよばれることができる。 山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会 学』有斐閣ブックス、1978年,p.40 より。 1.7.2 「規範」という概念について③ – 「規範(norm)」とは、のぞましい目的の標準とその 達成のための正当な行動様式をさだめた準則であ り、ふつう、これを奨励したり、違反を禁ずるための 明示的な、または暗黙の制裁(sanction)をともなっ ている。 – 集合体への献身や適応を強調する日本の伝統的価 値体系から派生する具体的な規範としては、家風や イエのしきたりへの従属とか、他人の「恩」に報いる こことか、分をわきまえて行動するといった準則が存 在した。 山根常男・森岡清美・本間康平ほか『テキストブック社会学(1)入門社会学』 有斐閣ブックス、1978年,p.40 より。 1.7.2 「規範」という概念について④ • 規範 – 奨励のルールおよび禁止のルールからなるルー ルの複合体 – 要するにルールのことであって、正負のサンクシ ョンをそれに加えて考えればよい。 『社会学のエッセンス』有斐閣,1996,p.123 より。 規範に違反した場合① • 規範に違反した場合の制裁 – 法規範(刑事的な法規範)の場合→刑罰 – 慣習や道徳の場合→周囲の非難、嘲笑、叱責、 村八分 • 社会学用語の「制裁」には賞罰・正負双方が ある。 – 身近な例としては、自我の行為に対する他者の 評価(表情の肯定・否定)等。 規範に違反した場合② • このような規範のうち、制裁の強いのが法(法 規範) • 規範破りに、制裁を加えるのが、権力ないし は権力を持つ人(権力者)であるといえる。 • 社会全体の「意味世界」やそれに基づく世界の色々 な事柄の「価値づけ」に基づき「規範」が構成される といえる。 • 社会全体の意味世界→価値(序列づけ・価値づけ) →(社会)規範 • 個人の意味世界は現代では社会のそれとズレが生 じうる。 – 価値づけも社会のそれと違う人々が増え、規範も 社会のそれと異なりうる。あるいはどこをその人 にとっての大事な社会(準拠集団)とするかで、変 わってくる 。 • どの集団の規範かで変わってくるが、いずれにせよ 規範や価値が、われわれの意味を支える。 1.7.3 「権力」という概念について① • 簡単にいえば「力」。他人を支配する力。 • 特に「暴力」「体力」といった物理的な「力」と 区別された意味での「力」を意味することが多 い。ex:政治力 など。 • お金の力ともある程度区別することも多い。 • しかし物理的な「力」や金の「力」が微妙に背 景にあって、「権力」に絡んでくるから、事は 単純ではない。 1.7.3 「権力」という概念について② • 権力 – 広義には、社会関係において人間の行動様式を 統制する能力。 – 最終的には権力手段によって威嚇または価値剥 奪を通じて、強制的に服従を調達する – 地位・名誉などの利益誘導または価値付与を通 じて、服従の自発性を作り出すことも多い。 – 強制と合意は互いに関連しつつ、権力の二側面 を形づくる。 1.7.3 「権力」という概念について③ – 私刑・武力などの物理的制裁、波紋などの精神 的制裁、経済封鎖などの経済的制裁などのさま ざまな手段を通じて、相手方の抵抗を廃して自己 の意思を貫くとき、この能力は発揮される。 – こうして権力関係は、積極的な服従(正当性)が 与えられたときに安定化するが、社会関係におけ る行動様式が変化するに応じて不安定となり変 動する。 濱島朗・竹内郁郎・石川晃弘編『社会学小辞典〔新版〕』 有斐閣、1997,p.163 より。 1.7.3 「権力」という概念について④ • 一般に、他者をその意図に反して、自己の目的 に従わせることができることを、権力を持つとい う。 • 権力は、通常、意図に従わないものを制裁する ことで証明される。 • 制裁を伴うことなしに、論理や金力によって従わ せることを、影響力あるいは勢力とよんで、権力 と区別することがある。 見田宗介ほか編『社会学事典』弘文堂1988,p.271 より。 1.7.3 「権力」という概念について⑤ • 要するに背景に暴力装置をもち、暴力をちら つかせつつ、自発的に相手を自分に従わせ る力が権力であるといえる。 権力は誰がもつか? ① • 昔:国王・貴族、 いま:政治家、行政官(官僚) ただし彼らは地位の上下によって権力の多少がある。 • 彼らの背景にあるもの – 権威 – 物理的暴力 • 資本家は生産手段をもたない労働者を意のままに働 かせるという意味で権力をもつ。彼らの背景にあるもの はお金・資本である。 権力は誰がもつか?② • 地位、役割に応じて与えられたそれぞれの人の行動の 規範に基づき、それぞれの人が、権力を行使する人と 権力を行使される人とに分かれると考えられる。 • 現実にはピラミッド型組織(hierarchy)によって、トップ以 外権力は分有され、支配されると同時に支配するとい う構図が成り立つ。 • 「地位」及び「地位」に基づき与えられた「役割」によって 人は、それぞれに応じて権力を分かちもち、人から合 法的に一定の枠内で支配を受けるといえる。 1.8 結局、社会学とは?
© Copyright 2024 ExpyDoc