メディア社会文化論 2013年11月14日 配付資料 担当教員・後藤嘉宏(筑波大・春日エリア) 3.1.2上田修一の定義 1)メディア=媒体 2)メディア=従来からのマス・メディア • 1)2)共に「情報を運ぶ乗り物」 3.2メディア概念の諸相1 • メディア・・・表層、表象・・・例、「流行は時代を 表すメディア(鏡)だ」 • 表現・・・「芸術作品は作者の心を表すメディ ア」「時代の空気を表すメディア」・・・マクルー ハンはじめ、芸術畑の人がメディア論に • Mediate「媒介する、取り持つ」・・・ならば酒、 カラオケ、ゲーム、美味しい食事、夜景、格好 良い車も「メディア」?!!飲みュニケーション メディア概念の諸相2 • たいこ持ちや仲人・・・メディアの典型とも • コミュニケーションの究極は性愛?(齋藤孝 『コミュニケーション力』) • 人を表すメディアは?・・・服装、表情、顔、ス タイル、容姿 • そもそも人(というか動植物)・・・遺伝情報を 選ぶ(運ぶ)ためのメディア • 人の中枢は脳、その脳を模したコンピュータ・ 図書館もメディア • そもそも先述の、服装、表情、顔、スタイル、 容姿を「メディア」という語で表すのが適切→ 表現?サイン? 3.3メディアの対概念の多義性1 • メディアの対概念は?・・・典型は「情報」 • マクルーハンなら「メッセージ」 • では「メッセージ」とは何?・・・思考、情報の 意味・・・解釈を伴う(情報は解釈を必ずしも 伴わない・・・データ概念にも近づく)・・・コード (文法)理解必須、コンテクストも。 • 解釈なき情報はありうるか否か?そもそもそ う考えると情報は「もの」なのか・・・やや疑問 3.3メディアの対概念の多義性 • ・・・ただし読まれない情報はあるし、先述の 物財の情報性も • →読み取り機械の保管の問題とも関連する。 読み取りするリーダとデータ双方を保管する 必要性(実際、図書館・資料館の大きな課題) • ・・・読み取る側も読み取られる側も双方メ ディア(→マクルーハンのメディア概念の重層 性に) 4.メディアからマス・メディアへ 4.1中井正一のメディア論、マクルーハンのメ ディア論の纏めと、マス・メディア論への視座 (示唆) 4.1.1マス・コミュニケーション論とマス・メディ ア論(そもそもはあまり分けて専門家も使って いないと思われる) 4.1.1マス・コミュニケーション論と マス・メディア論 • マス・コミュニケーション論の大きな問題関 心・・・受け手の主体性をどう捉えていくか? • べき論(Sollen)・・・メディア・アクセス権の主 張、公共圏、コミュニティ・メディア論 (CATV、死語となった「ニューメディア」論)・・・ 受け手の主体性をいかに確保していくか • 実態論(Sein)・・・効果論研究や「利用と満 足」研究・・・受け手が本当に送り手のいいな りになっているのか? マス・メディア実証研究の主流 -効果論研究 1)弾丸理論・皮下注射モデル・・・ナチズムや オーソン・ウェルズ「火星人襲来」が背景に 2)限定効果説 カッツ&ラザースフェルト マス・コミュニケー ションの二段の流れ仮説 「オピニオン・リーダ」「小集団(準拠集団)」 3)強力効果説(2.に較べて相対的に「強力」と いう意味)新しい効果論 強力効果説についての主な2つ 3)強力効果説 3.1)アジェンダ・セッティング(議題設定機能) 仮説 3.2)沈黙の螺旋状階段 の2つが有力 3.1)アジェンダ・セッティング(議題 設定機能)仮説 • アジェンダ・セッティング・・・議題設定機能 • マス・メディアは議題(イッシュー)の提示に大 きな機能/イッシューの賛否には影響与えな い(「強力」効果論といっても・・・) しかし • 賛否に関係ないとはいえ、実質ある事柄の賛 成派・反対派のいずれかに利することに アジェンダ・セッティングでの「強力」に なる実例 1)女系天皇・女性天皇をもう政治課題にしない との安倍元首相(当時)の意向→メディアが受 け取る→報道を減らす→結果的に、女性天皇 に反対する自民党の一部勢力の意見に有利 な状況を作り出す • (あるいはもう少し最近でいえば)小沢元民主 党幹事長の在日外国人参政権を与える意向 も 2)憲法改正論議・・・従来、国会において議論 すらタブーであった→今はそれを議論するこ と自体は与野党共に合意→議論する中で、 (社民党、共産党を除いて)与野党共に改憲 そのものも(9条に触れるか否かは別にして) 否定はしない(テレ朝の姿勢) 3)日本の核兵器保有・・・憲法同様、論じること 自体がタブー→北朝鮮の核保有という事態→ 核保有の是非を論じることそのものは国会に おいてもマス・メディアにおいてもタブーでは なくなってきている。 • 政府や与党が、アジェンダを決めていき、そ れに大手マス・メディアが追随している現状が あるように思われる。 • 万年野党と思われた民主党政権が出来 た・・・「政権選択」が、アジェンダに。 • それを防ごうと麻生太郎は「政権選択よりも 政策を」と叫んだが。 • どちらに入れるべきかはマス・メディアは語ら ない/だけど「政権選択」がイッシューにはじ めてなったので、民主党政権の芽が出た。 3.2)沈黙の螺旋状階段仮説 • • • • サイレント・マジョリティ 黙っている多数派と、饒舌な少数派 見かけ上の多数派はどちら? 人は孤立をおそれる動物(ノエル・ノイマン) 効果論→マス・メディア論、メディアの 棲み分けの議論 [べき論]・・・大資本によるマス・メディアVS 小資 本による地域メディアという対立図式 • あるいは不特定多数への新聞VS 多様の少 数者への出版といった図式 • 公平原則のある放送(義務としての公平中 立)VS 自由だが公平中立を主体的に標榜す る新聞VS 自由かつ中立性も気にしなくて良い 出版 • このような中において、携帯やネットといった 新しいメディアはどのように位置づけられるの か?・・・そもそもワンセグに代表されるように、 こういったメディアの分類そのものを無効にす るのが、携帯やネットであるともいえる(マル チメディアの一つの意味) • →限定効果論は「パーソナル・メディア(会話) vsマスメディア」という図式を前提に • ネット社会のネットはパーソナル?マス?(有 馬哲夫・早大教授)(放送法か通信制度かい いずれの統制の下に置かれるべき存在かと いう問題にも照応) [実態論] • 効果論・・・それぞれの時期における主流のメ ディアが会話との比較対象とされ、調査対象 に • 理論枠組上はメディアの区分(どれが良いか といったべき論のような)はない・・・(マクルー ハンとは違って、というか) • しかし限定効果論-「べき論」としてあった受 け手の主体性-を実証レベルで再認 • 他方、児島和人「パーソナル・インフルエンス 再考」 • 「べき論」の方の機能の棲み分けに当然、 人々への効果・影響の内実も関わってくると 考えられる可能性がある 4.2.2 マクルーハン、中井の示唆と 受け手の双方向性 • 双方向性・・・マクルーハン、中井ともに重視。 しかしマクルーハンは解釈の自由から来るも の(文学研究がもと)。中井も印刷本の解釈 の多様性。 • 対等性と双方向性 • ミッテル・・・対等性・水平性 • メディウム・・・垂直性 • 垂直性に対する水平性 http://www.geocities.jp/m_ikinobu/kyoudokenkyu/kaihou22.htmlと http://www.google.co.jp/imgres?hl=ja&sa=X&tbo=d&biw=1280&bih=709&tbm=isch&tbnid=taOm6r5VMCecOM:&imgrefurl=http: //www.isis.ne.jp/mnn/senya/senya1068.html&docid=BJJ1ouK9FqyEIM&imgurl=http://www.isis.ne.jp/mnn/senya/image2/senya1 068/106806.jpg&w=118&h=140&ei=A5DZUKSvK8zRkgXrmYD4AQ&zoom=1&iact=hc&vpx=12&vpy=167&dur=20&hovh=112&hov w=94&tx=46&ty=56&sig=100990456428961348754&page=1&tbnh=112&tbnw=88&start=0&ndsp=19&ved=1t:429,r:0,s:0,i:85 〔メディウムの媒介〕 • 垂直性(神と人)(死者と生者)(後世の人へ のコミュニケーション)(貴族と平民)(知識人 と大衆)etc次元の異なる者相互が交わらず に場所・領域としてのみ存在している状態 (それら相互に動き・交流があればミッテル) • 透明でない媒介 〔ミッテルの媒介〕 対等性と双方向性 interactivity 透明な媒介 1)基本的に次元の同じ者のやりとり 2)次元の異なる者を同じと見なして行うやりと り(『土曜日』) • しかし次元の本来違うものが対等性を発揮し ようとするから、その壁こえのエネルギーが 意味を持った。今は逆。単なる水平性の増加 としての対等性。 • 現代では、情報媒体の相対的な稀少性の減 少も背景に(「委員会の論理」の「印刷される 論理」) • →複製の場(機会)、発言の場が電子情報の ように媒体の稀少性の低い局面では、増えて くる。 5.時間の流れのなかにある言葉を 記録する媒体としての紙 〔紙切れから本へ〕 • 稀少材としての木簡、石・・・永遠に残るような 言葉、墓碑銘のようなもの。 • 恐らくは、時間の流れの中にある存在を悠久 の時間の中に位置づけようとする試み。 • 紙の発生・・・でも当初は重要な手紙と記録に。 • 一枚物の紙・・・散逸する可能性のあるメモや 通知文 非常に大ざっぱに分けると • 本(写本)・・・時間性の(時間的延長を意識し たという意味であり、タイムリーであるという 意味ではない、というかその反対の)メディア • 来世(あの世)や後世(未来のこの世)を意識 • そもそも人類の歴史の大部分・・・平均寿命、 今より遙かに短い・・・来世を意識 • 近代・・・科学合理性の支配・・・大半の人々、 来世を信じえず。代わりに後世を意識 • 現代のみ(科学の恩恵を受け、平均寿命も長い 先進国の現代人のみ)・・・来世も後世も信じず、 現世のみを重視する・・・地球を消費の対象とし か考えない(cfハンナ・アレントの発想) • 近代の本(=印刷本)・・・時間性とともに空間性 の(空間的広がりも意識した)メディア • 現代の本(印刷本)・・・空間性のみのメディアと なりつつある(消費物になりつつある) • 函入りハードカバー→函なしハードカバー→ソ フトカバー(単行本)→文庫本・新書本 • というように本の形態が時間と共に軽装化・・ ・長い時間の保存に耐えうることを意識しない 形態に。 マクルーハンと中井正一の印刷本(印 刷メディア)への評価 • マクルーハンの評価・・・このような印刷本の 空間性を表音文字の普遍性に還元して批判 • 文字文化の問題を、写本より活字本は強化 • 中井正一の評価・・・印刷本・・・複製可能、商 品・・・写本より一方向的。しかし多様な解釈 の可能性。目の見える関係での合評会・相互 討論(書き込みすれば大量の「異本」の流通 とも捉えうる)→逆に双方向性への兆しにも 「委員会の論理」(1936) 中井正一の戦前の代表作 • 「いわれる論理」・・・ギリシアの問答法(弁証 法)。(vs文字・・・奴隷のフェニキア人の専有 物)・・・双方向 • 「書かれる論理」・・・中世の写本・・・教会が文 書を独占。聖書の解釈権を独占・・・一方向 • 「印刷される論理」・・・近代の印刷本・・・大量 の複製・・・それ自体は一方向・・・しかし多様 な読み方・読書会等を通じて多様な解釈・・・ 双方向性の復活 『美学入門』(1951) • 映画・・・カットとカットをつなぐ言葉(「・・・であ る」「・・・でない」「・・・かも知れない」「・・・に違 いない」等々)がない。 →受け手が想像力で補ってつないで読みとる →受け手の主体性を喚起 • ・・・マクルーハンの低精細度の議論(低精細 度→受け手が補う)に似つつも、より精緻かと。 • 少し文脈を切り離した(つなぐ言葉「繋辞(繋 詞)」は「文脈」を指示)理解を可能に。(花壇 を椅子とみなすような機能概念的把握) • すべてを「即」でつなぐ日本的な思想(西田哲 学)等を意識している(鶴見俊輔) 各メディアの関連付置-時間性、空間性を軸に より時間性(垂直性)← →より空間性(水平性) 写本 印刷本(当然写本の方が活字本より左側) 雑誌 新聞 ラジオ テレビ 電子メディア(双方向性の典型) 比較的左側の媒体もそもそもは、より左に対し て速報的(空間的)媒体だった・・・ • 雑誌は本よりは速報的であるし、個人的であ るし(journal はフランス語の日記の意味、ま た日誌の意味も)、新聞は(「新」しく「聞」く newspaper ということからも、新しい事柄・ 「ニュース」を伝える「紙」媒体)である。 • その「新聞」という速報的メディアに本来あっ た速報性のお株を奪うのが、ラジオやテレビ であるといえる(もちろんさらにネット)。 6.本(書籍) 6.1本の存在論-本の垂直性 • 本の垂直性(後世を意識した媒体性)・・・そ の垂直性を強く示すのもの • 過去には写本(cf中井正一「委員会の論理」 1936)がその典型かと(稀少資源の紙に書か れた媒体)。 • 現在は、本の市場の外にある図書館もその 垂直性がありうる。 (公共図書館の無料原則の潜在的な理由で あるかも・・・門外漢の呟きだが) 垂直性と物神性 • 本の物神性・・・このような本の垂直性と随伴 して(平行して)本の物神性というものが生じ てくる。 • 「本は踏むべからず」 反対に • プリントアウトした資料・・・使わなくなったら裏 紙はメモに • 古新聞・・・ちり紙交換、ゴザ、レジャーシート 物神化(フェティシズム) • 下着フェチ、脚フェチ・・・下着、脚によって本 来性欲が充たされるわけではない。 • 貨幣へのフェティシズム・・・貨幣を万能の価 値のように崇めること。本来、労働時間の記 録・証明にすぎない。労働時間の交換の媒体。 • 物神化(フェティシズム)=本来崇拝すべきも のでないものを、神のように崇めること 本のフェティシズム① • 本のコレクション、つんどく・・・読まれてなん ぼのものなのに • 蔵書・文庫・傷めずに読む(書き込み厳禁)→ 一つの図書館の源流か • 単にテープやマイクロフォンがなかった時代、 著者の声や考えを記録したものにすぎない面 も(子曰く・・・筆記者としてのプラトン) 本のフェティシズム② 1.本を踏むべからず • →知-集合性の証としての本への尊敬の念 を、子どもに植え付ける。集合性への畏れ、 おののき 2.行間を読め • 読書百遍、意自ずから通ず。 →ある種の「全 体性」が本にはあるとみなされる。 作者の単なる「部分」ではなく、「部分」であり つつ「全体」を象徴するものとして捉えられる。 本当は作者の考えの一プロセスを示すもの に過ぎないのに。 3.「人間書物」という言い方。ミハイル・イリーン (1895-1953)『書物の歴史』 • これは逆にいえば、知恵者の人間よりも、書 物の方が 本来上という意識があることがうか がわれる。 本のフェティシズムの理由 1.宗教上の教典や歴史、特に正史が紙(ある いは紙の前史となる文字の記録媒体)の利 用をかなり独占 ▽昔のヨーロッパの大学、神学部中心。 日本でも鎌倉五山、京都五山は学問の中心、 bible は語源的に本の意味もある。the Book は「聖書」の意味にも。 神学や仏教哲学が学問・哲学の中心であった。 修道院の図書館の姿にみられるもの 2.従来の本・・・聖書、歴史書・・・集合性の証し (デュルケム) ▽現在の本 でも 内なる他者性を含める・媒介 性(矛盾するものを媒介し=結びつけつつ、 体系づける) 少なくとも、本の素材となった雑誌や新聞 の記事や著者のメモ(書き下ろしの場合)の 作成にかかった時間よりも遙かに多くの時間 が1ページに投入される。 • ▽労働価値説的にも、雑誌や新聞よりも価値 がある。 3.本の物神性の背景としての、言葉の物神性 ▽「神は細部に宿る」 ▽「人生は一行のボオドレエルに若かない」 4.蓄積的で精査されて作られる情報源であり、 更新がしづらいだけに、普遍的真理が盛り込 まれていると考えられる可能性が高い。 ▽ネット情報の反対の正確 6.2出版社の二つの仕事 • 「本屋」という言葉の二義性、多義性 • 出版屋さん?書店さん?場合によって印刷 屋とも • 現在の出版社の主な仕事 ・・・雑誌作りと本作り(ただし双方はだいぶ違 う) 「書き下ろし」 • 従来「書き下ろし」は、本の帯の謳い文句・売 り文句 • 普通、本は書き下ろしではなく、雑誌の連載 で書かれる。 雑誌の編集部員の二つの機能 • 雑誌作り・・・新聞作りと本作りの中間的性格 • 編集部員が新聞同様自分で記事を書く場合 (記者的機能) • 編集部員が外部の寄稿者の原稿を割り付け ていく場合 (編集者的機能) 大手出版の商社的機能 大手出版社 • 編集や雑誌制作の何割かは子会社や別会 社に(外注・アウトソーシング) • 自分たちは実質、名前を貸したり、販売網を 提供したりするだけという場合もある。 • 雑誌でも記者的機能はしなくなる(外注ゆえ) • 商社的機能 本のみの出版社 • 本のみの出版をする会社 • ほとんど人員を要さずに、大きな仕事 • 全国的に良く知られているところでも、社員数 名も・・・採用は一社当たり10数年に一度 • 本作りは、電話一本と人脈があれば出来る • 窮極の外注産業・・・文章は作家先生や有名 教授。版下作りは版下屋さん。印刷は印刷屋 さん、製本は製本屋さん、表紙デザインはデ ザイナー。 • 昔は、印刷屋と出版屋と本屋(場合によって は版画屋、画家、作家)がある程度、同じ人 物や企業によって担われていた ↓ • 分業化 (出版社をはじめ)全てのマス・メディア産業 • 商社的機能(編集者的機能の窮極) • 記者的機能(自前でものを作る) 企業の大規模化 現代に近づくにつれて • 記者的機能→商社的機能
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