第14章 金融 武蔵大学開発経済学 平成16年10月18日 第16回 本章の概要 abstract 金融制度の仕組みを捉えた上で、それが時代 とともに途上国の発展にどのように帰依してき たかを探り、グローバル時代に突入した現在 の問題点や、今後の展望を考察する。 1.金融システムの3つの役割 1.金融仲介機能 間接金融と呼ばれ、資本余剰 部門から資本不足部門へと資 金を供給する。評価基準①ス クリーニング②モニタリング③ 波状処理④金融商品の開発と 提供 2.決済機能 財・サービス市場での取引で、手 形や小切手の使用によって、互い の預金口座から資金移動を行い、 利便性や安全性から生産の分業 を支える。 3.金融・為替政策の担い手 政策介入によって、金利や為 替レートの操作を行う。 2.経済発展と金融システム 計画経済への思考とケインジアン的政策 1950年代から1970年代まで、途上国の開発は政 府主導であった。金融市場や金融機関に対する政府 介入が正当化された。 1.人為的低金利政策→返済による増刷からインフレに なり、実質金利はマイナス 2.人為的信用割当→産業政策 3.高水準の法廷預金準備金、国際保有の義務→財政 収入 →金融抑圧(金融システムを政策実行の場とし、金融業 務を圧迫させること)へ マッキノン=ショウ仮説と金融自由化政策 Washington consensus 1970年代中頃~1980年代、市場ベースの開発政策を奨励。そ れに伴い金融圧迫政策への批判: 1.資金供給の減少から、金融仲介機能の量と質を低下させる。 2.人為的な低金利は非効率的投資計画を生みやすい。 3.政治的圧力から、非効率な資金配分がなされる。 →経済発展のためには、金融仲介機能の発達が必要である。 (Mackinnon[1973],Shaw[1973]) →金融深化論 途上国に伝統的にある未組織金融の組織金融への組み換え。(但し、情報の 経済学では、未組織金融のほうが、借り手への契約遵守や情報は、組織金融より も優れているという議論も有力になっている。) →世界銀行やIMFなどによる、金融自由化政策へ 金融危機の発生 理論 金融自由化により、規制を取り払えば市場が 自動的に最適な状態を達成する。 実際 規制緩和の中、政府から保障を受けている銀 行はモラルハザード(moral hazard)を引き おこしやすく、システミック・リスク(systemic risk)が高まった。 →メキシコ・アジア危機へ アジア危機 1990年代初め、アメリカドルとタイのバーツは事実 上ヘッジされ、バーツの金利が高かったので、バーツ 立て債権が海外の機関投資家(ヘッジファンドなど) をはじめ金融機関関係者に好評だった。しかし円高 により、タイの輸出量が減少するなど経済が不振に なると、バーツ切り下げを恐れた投資家たちは債権を 売却するようになり、外貨預金に底がつくことがわか るころには、東アジアの国々で、同じように資金が離 れていった。 現在では、それぞれの国で政策を行うことによって、 アジア危機以前の経済状態までに回復している。 (フィリピンを除く) 金融危機の発生の原因 ①先進国の機関投資家によるポートフォリオ投資 ②もっとも大きな原因は、①に付随した民間銀行による 貸出(ずさんな査定による金融仲介機能の低下→モ ラルハザード) ↓ 予防策 プルーデンス規制 市場の失敗を防止する市場補正的規制の導入・強化。 (国際決済銀行BISによる自己資本比率規制、特定 産業への集中的な投資規制など) 3.経済発展と国際金融 実際の国際金融の流れ 第Ⅰ期(公的資金フロー中心) 1945年ごろ(第2次世界大戦後) 先進国政府から途上国政府への贈与や借款という公的資金フローが主流。 1973年ごろまで(石油危機) ローマクラブの「成長の限界」の指摘や中東戦争などによって石油価格が高騰し、産出国は巨 額のオイルマネーと呼ばれる外貨を会得する。この時機から、途上国への援助が公的機関と 並んで民間商業借入が行われたが、大部分がドル建て変動金利であったため、ドル高ドル金 利上昇による82年から始まる途上国の累積債務問題を生んだ。この結果、途上国への民間 資金流入は激減した。 第Ⅱ期(民間金融機関の台頭) 1985年ごろまで(プラザ合意) 日本の民間製造企業が為替をヘッジするために東南アジア地域へ進出し、生産や技術の転移 を伴う直接投資を行った。 第Ⅲ期(民間金融機関中心) 1990年以降 先進国の機関投資家による、経営権の取得を目的にしないポートフォリオ投資が急増。 今後の展望 1.途上国の債権の「証券化」 ①流通市場が発達すれば、リスクを考慮する必要が生まれるが、代わ りに満期を待たずに今までよりも短期間で他者への転売が可能に なる。 ②銀行の介入が無いため、直接決済機能へのダメージが無い。 2.危機に対する耐性の強度な経済構造を構築 国際金融の主流はいまや民間が担っている。政府ができることはマク ロ経済政策を通じて間接的に影響を及ぼすしかないが、それも難しい ので金融構造そのものを強くする必要がある。 4.教訓 理論の発展によって得られた知見は十分利用さ れるべきではあるが、同時に政策議論において は全体的な観点がきわめて重要である。 5.政府の役割 「東アジアの奇跡」の要約 ①政府の市場介入によるゆがみは小さかった。(金融圧迫の度合いが低かっ た。) ②介入はおもに市場の失敗に関するものであり、おおむね有効に機能した。 (情報の問題(シグナリング効果)、規模の経済(コーディネーション効果)、 外部性などによる市場の失敗を補正する効果があった。) ③しかし、東アジアにおける政策は途上国一般にたいして適用可能な政策で はない。(非経済的な要因による影響から比較的独立であり、市場補正 的な政策を補正することができた。) ↓ 政府は、金融市場の失敗には是正措置をとる必要があるが、そのた めには失敗の定義を明確化し、市場参加者の行動をできるだけ歪め ないことがたいせつである。 またその役割とは、以下の二つに集約することができる。 ①より洗練されたマクロ経済政策の施行 ②危機に強い経済構造の構築 まとめ 途上国の経済発展を金融の側面から考察するこ とは重要であると同時に、難解である。理論的な 分析では、金融をひとつの機能に集中する必要 が多いが、政策提言を行う際には、金融の経済 的側面だけではなく、法制度や、政治制度の面 からの視点も必要になる。 参考文献 Reference アジア経済研究所「テキストブック開発経済学」2 004有斐閣ブックス 東郷賢 「第4章 危機後の開発発展の変容」
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