人口経済論 第6回 2005年5月23日(月) [email protected] 1 人口増加と持続可能な発展 地球温暖化に見る人口増加と持続可能な発展のシナリオ:地 球の人口扶養力 1. 2. 地球の人口扶養力 『成長の限界』 2 地球温暖化に見る人口増加と持続可能な発展のシナリオ:地 球の人口扶養力 1.地球の人口扶養力(テキストp.22-) 人口扶養力(carrying capacity):地球は何人の人間 を養えるのか? •様々な推計(17世紀以降の) 一番小さい数字は10億人 多い数字は1兆人 •最も多い推計方法は、世界全体でどのくらい食料 が生産できるかの極大値を計算し、それを人間1人 あたりに必要な食料所要量で割る。 •目安は120億人といわれる。 3 地球温暖化に見る人口増加と持続可能な発展のシナリオ:地 球の人口扶養力 2.『成長の限界』 ローマクラブ(著名な実業家や政治家、科学者から なる)の依頼によりメドウスらMITメンバーの行った、 システムダイナミック理論とコンピューターモデリング を用いた、世界の人工と物質経済の成長の長期的 な原因と結果をまとめた著書 『成長の限界』1972年 『限界を超えて』1992年 『成長の限界:人類の選択』2004年 4 成長の限界 現実の事象には、相反する2つの傾向がある。 例えば、資本が人口を上回る速度で成長している地 域もあれば、逆に、人口が資本を上回る速度で成長 している地域もある。 出生率が下がりつつある国にもあれば、上昇傾向に ある国もある。 汚染の流出量を増やす技術もあるし、減らす技術も ある。 資源に関しても、ストックが枯渇しつつあるものと、 持続的・効果的に利用されているものがある 5 成長の限界 このような、相反する2つの傾向が、真っ向からぶ つかり合っている。両者を統合し、その意味を探るた めに、われわれが頭の中に思い描いているより複雑 なモデルが必要となる。 この「真っ向からぶつかり合っている相反する2つ の傾向を統合し、その意味を探るために、われわれ が頭の中に思い描いているより複雑なモデル」とし て作られた、シミュレーションモデル、ワールド3とそ の構造、基礎的な結果と、そこからもたらされる政策 的インプリケーションについて書かれている。 6 ワールド3とは このような、相反する2つの傾向が、真っ向からぶ つかり合っている。両者を統合し、その意味を探るた めに、われわれが頭の中に思い描いているより複雑 なモデルが必要となる。 この「真っ向からぶつかり合っている相反する2つ の傾向を統合し、その意味を探るために、われわれ が頭の中に思い描いているより複雑なモデル」とし て作られた、シミュレーションモデル、ワールド3とそ の構造、基礎的な結果と、そこからもたらされる政策 的インプリケーションについて書かれている。 7 ワールド3とは ワールド3の目的 ワールド3の目的はただ1つ、『人類経済が地球の収容力に 接近する際に、どのような経路をとるか』である。 今後どのように増大する人口と物質経済は、地球の限られた 扶養力とどのように相互に影響しあい、どう適応していくの か? ワールド3は次の2つの疑問に答えるべく設計してある。 1.人口と人類経済はどのような道筋をたどる可能性が高い か。 2.どのような条件や政策が加われば、地球の限界にスムー ズに接近できる可能性が高まるのか。 8 ワールド3 •このような、相反する2つの傾向が、 真っ向からぶつかり合っている。両 者を統合し、その意味を探るために、 われわれが頭の中に思い描いてい るより複雑なモデルが必要となる。 •この「真っ向からぶつかり合ってい る相反する2つの傾向を統合し、そ の意味を探るために、われわれが 頭の中に思い描いているより複雑な モデル」として作られた、シミュレー ションモデル、ワールド3とその構造、 基礎的な結果と、そこからもたらさ れる政策的インプリケーションにつ いて書かれている。 9 ワールド3のモデル構成 ワールド3は、人口、工業資本、汚染、耕地面積な どのストックを追及する。これらのストックは、出生や 死亡(人口の場合)、投資や減価償却(資本の場合)、 汚染排出量や汚染吸収量(汚染の場合)といったフ ローによって変化する。 耕地面積に土地の平均収穫量を掛け合わせると 食糧生産量になり、食糧生産量を人口で割ると1人 あたりの食糧生産になる。そしてその1人あたりの食 料が、死亡率に影響を与える。 10 ワールド3のモデル構成 ワールド3では、人口増大の勢いや汚染の 蓄積、設備資本の長い寿命、投資の奪い合 いなども考慮に入れている。特に、物事が起 こるまでの時間や、情報の流れや物理的作 用の遅れも考慮している。 これらの要素は力学的に複雑に統合されて いる。 またモデルは、フィードバック作用の上に構 築されている。 11 12 ワールド3の特徴 成長のプロセス 限界 遅れ 侵食プロセス 13 ワールド3の特徴:成長のプロセス 幾何級数的成長とは 幾何級数的成長の原動力となる人口と資本 幾何級数的な成長がおきるには2つの理由が ある。 1.それ自身が自己増殖するもの 2.幾何級数的に増加する何かに突き動かさ れて成長するもの 14 ワールド3の特徴:成長のプロセス 必ず幾何級数的に成長するということでは ない。制約がかからなければ、幾何級数的成 長しうるという意味。 実際には様々な制約がかかる。 人口なら、出産にかかわる行動を促す要因や 抑制する要因、病気など。 15 16 ワールド3の特徴:限界 ワールド3における限界は、4種類の物理的・生物 的限界のみである 1.耕地面積 2.単位面積あたりの土地収穫率 3.再生不能資源 4.地球の汚染吸収能力 社会的限界を含んでいないので、楽観的になりや すい。 すべての限界をシステムから取り除くと、人口には、 自己抑制する拘束力が構造的に含まれているが、 資本に関しては自己抑制する拘束力は含まれてい ないということがわかる。 17 ワールド3の特徴:遅れ 成長する物理的現象が、正確に限界で止まること ができるのは、その限界地点を知らせる徴候を正 確・迅速に受け取り、すばやく正確に対処した場合 に限られる。 行き過ぎを制御するシグナルが遅れたり、ゆがめ られたり、あるいは、シグナルに対する反応が遅れ たりすると、システムは限界に正しく適応できない。 これらのうちいずれかが当てはまれば、成長する 現象は行動の修正が間に合わず、限界を行き過ぎ てしまう。 18 ワールド3の特徴:遅れ ワールド3において、どの部分に情報や反応の遅 れが生じるか。 例)汚染物質が、生物圏内に排出されてから測定可 能な損害を及ぼすまでの時間 例)人口の年齢別構成によるもの ワールド3にはこのほかにも多くの遅れ(物理的な) が存在している。 ただし、科学者が問題を理解するために必要な時 間や、政治家が政策決定を下すまでの時間などは 含まれていない。 19 ワールド3の特徴:遅れ このような物理的な遅れだけでも、世界の経 済システムがS字型成長を遂げる可能性は十 分除外されてしまう。 自然の限界からの警告には遅れが伴う。 ゆえに、自ら限界を課さない限り、行き過ぎ は避けられない。 20 ワールド3の特徴:遅れ 行き過ぎと振動 環境がやせ細らない場合には、限界を告げる 警告が遅れたり、反応が遅れたりしても、そ の成長する減少はしばらく限界を行き過ぎ、 やがて軌道修正して再び限界以下に逆戻りし たかと思うと、また行き過ぎるというように、一 連の振動を繰り返す。 その後通常は限界以下の均衡状態に落ち着 く。 21 ワールド3の特徴:遅れ 行き過ぎと振動 行き過ぎと振動が可能なのは、環境がシステ ムを維持でき、負担が軽減されたらすばやく 事故修復して元の状態に回復できる場合に 限られる。 もちろん行き過ぎの中には、後戻りできないも のもある。 22 行き過ぎと振動 23 ワールド3の特徴:遅れ 行き過ぎから破局へ 限界からの警告や反応が遅れ、過剰負担を課せら れている間に環境が不可逆的に損なわれてしまうと、 成長する経済は地球の収容力を超え、資源基盤を 劣化させ、破局に至るであろう。 行き過ぎから破局へと進行した場合、結果的に環境 は永久に損なわれ、物資的に生活水準は、環境に 過剰負担をかけなかった場合の水準をはるかに下 回ることになる。 24 行き過ぎから破局 25 ワールド3の特徴:侵食ループ 「行き過ぎと振動」と「行き過ぎから破局」の ちがいは、システム内に「侵食ループ」が存在 するか否かである。 侵食ループは通常は機能せず眠っているが、 いったん状況が悪化すると、事態を一層悪化 させる方向に働く。 26 ワールド3の特徴:侵食ループ 例えば、世界各地の牧草地は、それをはむ草食動 物とともに進化してきた。葉が食い尽くされると残っ た茎屋根が土壌からさらに水分と養分を吸い上げ、 再び葉をつける。草食動物の数は、肉食動物による 捕食や季節的な移動によって抑制され、生態系も侵 食されることはない。しかし、捕食者がいなくなり、移 動もできなくなると、土地は過放牧の状態になり、過 剰に増えた草食動物によって牧草は根まで食い尽く されてしまう。草木が減れば、土壌を覆う草木が減る ので、表土が風に飛ばされ、雨に流され、さらに草木 が減る。そのうち、都市の生産力は、加速度的に低 下しいき、やがて、砂漠になるといった次第である。 27 ワールド3の特徴:侵食ループ ワールド3にもいくつかの侵食ループが含まれてい る。その中でも興味を引く侵食ループがある。「汚染 水準があまりにも高くなりすぎると、自然の吸収機能 自体が損なわれ汚染の蓄積速度に一層拍車がか かる」というものである。 侵食ループは、それが目にも明らかになるころに はすでにその機能を研究する余地も、それを食い止 める余地もほとんど残されていない。 28 ワールド3:2つのシナリオ ワールド3のシミュレーションの世界では、経 済成長が続くことが産業の倫理の1つになっ ている。 ワールド3を実際には知らせてみた結果のう ちの2つが、シナリオ1及びシナリオ2である。 29 ワールド3:2つのシナリオ シナリオ1 現状のままのプログラムを実行した際の ワールド3の行動を表している。メドウスらが 現実的と考える数値をインプットし、目新しい 技術革新や政策変更はないという仮定にもと づいている。 このシナリオでは、経済は様々な限界のた めに成長を中止し、逆戻りする。そして行き過 ぎから破局へと移る。 30 ワールド3:2つのシナリオ シナリオ2 現実的と考える2倍の量の資源がいまだ発 見されず地下で眠っていると仮定した場合の 結果である。 このモデルも生きすぎから破局へというパ ターンをたどる。 31 ワールド3:2つのシナリオ ポイントは、人間は、将来的に自分たちの上 に起こる出来事を予測し、その出来事への対 応を変えることもできるし、自らのすステム構 造を変化させることもでき、それによって未来 を変えることもできる。 しかし、現実のシステムには、行き過ぎから破 局へと進行する可能性が高いということであ る。 32 なぜ行き過ぎ・破局に至るのか 資源の採取や汚染の排出が持続不可能なペースで 行われている時点で、人口と経済は、行き過ぎの状 態にある。 その原因として、 1.抽出できる資源ストックがある 2.物理的な勢いが警告のシグナルに対する反応を 遅れさせる(フィードバックに対する反応) 3.成長 がある。最終的に破局に至らしめるのは、浸食作用 である。 33 なぜ行き過ぎを回避する方法 超えてしまった外部の限界からのフィード バックによってではなく、未来の問題を予期す る人間の決断によって、人口と資本の成長を 減速させ、最終的に成長を止めなくてはなら ない。 資本効率を大きく高めることで、エネルギー と物質のスループットを減らさなければならな い。 34 なぜ行き過ぎを回避する方法 供給源や吸収源を保護し、可能なら回復さ せる必要がある。 シグナルを改善し、反応を早める必要があ る。社会はもっと先を見通し、長期的なコスト と便益にもとづいて現在の行動を決める必要 がある。 35
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