平成26年度 学位授与式 式辞 本日、学士の学位を得た422名の学部卒業生の皆さん、修士の学位を得た98名の大学 院修士課程修了生の皆さん、卒業・修了おめでとうございます。 山田京都府知事様、多賀府議会議長様はじめ御来賓の皆様、本学同窓会の北川会長な らびに本学後援会の中村理事長、そして列席の理事長・副学長、部局長、名誉教授とと もに、みなさんのご卒業を心からお祝いいたします。あわせてご家族あるいは関係者の 皆様にも、心からお慶びを申し上げます。 私たちは、常に変化する社会の中にあって、自らも変化を遂げつつ、日々の生活を送 っています。大規模な自然災害やテロ・戦争など、世界をめぐる情勢は、深刻な模様を 呈しています。その背景には、地球温暖化、増大する人口と資源の有限性、民族や文化 の多様性とアイデンティティの模索、経済のグローバル化など、大きな変化とそこに生 きる人々の様々な思いや苦難があります。 変化を読みとり、暮らしや社会、そして自分自身の変革を遂げていこうとするとき、 学ぶことの意義がそこにあります。もう 30 年も前のことになりますが、ユネスコの「学 習権宣言」は、「学習活動はあらゆる教育活動の中心に位置づけられ、人々を、なりゆ きまかせの客体から、自らの歴史をつくる主体にかえていくものである」と謳いました。 みなさんの、学部、大学院における学びが、日本の、そして世界の歴史に主体的に参画 していくよりどころとなっていくことを、何よりも願っています。 少し大きな話になりましたが、ここで、目を身近な暮らしに向けてみましょう。私は、 社会教育・生涯学習を研究領域としてきましたので、日本各地の町や村を数多く訪ねて きました。そこで目にしたのは、過疎や高齢化の現実に直面しつつも、新たな発想で、 その地域の魅力や可能性を掘り起し、賑わいを取戻し、将来への活路を切り拓こうと活 動されている住民の姿でした。今この瞬間にも、日本中の多くの地域で、 「村おこし塾」 「地域づくり委員会」などの組織がつくられ、住民と行政・NPOなどの協働によって、 調査や計画づくりを含んだ学習活動が展開されています。 本学の「環境共生教育演習」という教養教育科目で、京都府内の市町村を訪れ、地域 の自然や歴史・文化を活かした、地域活性化のプランづくりなどに取り組んだ皆さんも 多いと思います。私も5年余り、学生のみなさんと一緒に、丹後や丹波のまちなどでお 世話になりました。今、思い出されるのは、学生のみなさんの生き生きとした表情とと もに、住民のみなさんが暮らしに向ける熱い思いです。神社の祭りや伝承の保存、特産 品づくり、都市と農村の交流、住民の集いの場づくりなど、多彩なメニューで楽しい賑 一 わいをつくっていきたいという“夢”がそこにはありました。 ある交流会の場面で、学生のみなさんに自己紹介と将来の夢を語ってもらったのです が、続く住民のみなさんのスピーチでも、「将来の夢」が語られました。人生の先輩と して、あるいは厳しい条件の下で地域づくりを進めていく苦労話などを想定していた私 は、“夢”が語られたことに新鮮な驚きを感じるともに、“夢”があってこそ、困難に 立ち向かう力が湧いてくるのだと、あらためて教えられた思いでした。 成人学習、生涯学習の分野で世界的に著名なパウロ・フレイレというひとがいます。 「1921 年、ブラジルの東北部に生まれ、1960 年代初頭の『民衆文化運動』に参加、そ の卓越した成人識字教育の実践によって、広くブラジル内外の注目を集めた1」方です。 そのフレイレの著書『希望の教育学』の中に、 “夢”について書かれた箇所があります。 少し抜粋・引用してみましょう。 「何よりも夢見ることが重要だということ。夢見ることは、…人間の歴史的社会的な 存在様式そのものであるのだ」「人間は歴史をつくる主体であると同時に、その歴史に よって形成され再形成される客体でもある。とどのつまり、夢もまた歴史を動かす原動 力のひとつだったのである。夢がなければ、変化はありえない。希望なしには夢があり 得ないように」 フレイレの成人識字教育の実践は、ブラジル農民の厳しい生活現実の中で生み出され たものであり、フレイレ自身も 1964 年の軍部のクーデターにより祖国を追われ、15 年 間の亡命生活の中で主要著作が著されていることを念頭に置くと、ここで語られている “夢”は、厳しい現実との葛藤の中で描かれた、住民の切実な願いとも言えます。 みなさんがこれから直面する社会の現実も想像以上に厳しく、ささやかな願いであっ ても、容易には叶わないことが多いと思います。しかし、フレイレも言うように、「夢 がなければ、変化はありえない」のであって、目の前の現実の一歩先にあるものを目指 して、困難を乗り越える力をこれからも培っていって欲しいと思います。 日本は 2008 年をピークに人口減少に転じ、これから本格的な人口減少社会に突入す ると言われ、新たな成長戦略、地方創生が話題となっていますが、人類的な課題の解決 に向けた研究・啓蒙活動に取り組んでいる民間のシンクタンクであるローマクラブ2が 『成長の限界』という報告を世に問うたのは 1972 年でした。同じ年に、『未来への学 習』というユネスコの教育開発委員会報告(フォールレポート)が出され、生涯教育が、 1 里見実訳『パウロ・フレイレ 希望の教育学』2001 太郎次郎社 著者紹介より引用 2世界各国の科学者、経済学者、政策立案者、教育者や企業経営者などで構成し、公害、環境破 壊、貧困、天然資源の枯渇化など人類が直面する脅威を緩和、回避することを目的に、その方法 を探り、解決策の実現のために研究、啓蒙活動をしている。 二 「先進国にとっても発展途上国にとっても、来るべき時代における教育政策の基本とな る概念」であると提唱しています。それから 40 年余り、 「成長の限界」を超える鍵、未 来への鍵が、学習にあるということが一層鮮明になっていると思います。 みなさんの大学という場での学習、そして研究はひとまず終わるわけですが、働く中 で、暮らしの中で学び続けること、小さな疑問、ささやかな興味を大切に、調べ、考え、 行動する経験を身近な誰かと共有していく、そんな歩みを今日この瞬間から進めていっ て欲しいと思います。 京都府立大学は、府民・地域によって支えられ、ともに歩む研究・教育、学びの場と して、本年創立 120 周年を迎えますが、これからも新たな歴史を重ねていきます。卒業 生のみなさんのこれからの人生の歩みも、本学の歴史と共にあることを願っています。 結びに、あらためて、みなさんのご健勝とご活躍を祈念して、式辞と致します。 平成 27 年 3 月 24 日 京都府立大学 学長 築山 崇 三
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