知財と社会 デジタル時代の著作権とオープン化 野口祐子 渡辺智暁 第3回 講義 「著作権基礎 2」 2014.5.1 担当：野口 (*本資料のライセンスについては、最後のページをご覧下さい。) 本日の献立 ・著作権の現状と歴史 ・著作権の改正のあり方 今、著作権法を考える なぜ？ 情報の利用を広くカバー 文章、画像、音、 データベース ソフトウェア… 切っても切れない存在 著作権の誕生 何が問題？ どうすればいいの？ まず、たとえ話 あるところに王様 賢者 素晴らしい法律を整備 唯一の心配事 素直すぎる王子 あるとき… チャンス！ 陳情 王子は… 王様は… そこで 元老院の全会一致 利害の対立 安心して譲位 100年後… 国民は 裁判所は さて、あなたなら どうする？ ／たとえ話 著作権の歴史 現在の姿は19世紀末 悩み 特に、外国での出版 複数の国で同時に保護 ロビイング 1886年 ベルヌ条約 著作権法の骨子を定めたベルヌ条約 （1886年合意、日本は1899年加盟） Copy（X）＝Copyright 基本構造は、複製するたびに権利がトリガーされる、というもの 印刷技術は？ ターゲットは出版業者 重要な原則 アイディア・事実はフリー 見る・聴く・読む＝フリー １９Ｃ末 ｉｎｐｕｔ ＝ ｆｒｅｅ 印刷 出版社 ｏｕｔｐｕｔ 外国 登録なし 交通手段は？ ベルヌ条約の基本原則 • インプットは自由 – つまり、見たり読んだりすることは自由 – 事実やデータには著作権は発生しない • 「複製」という商業行為を行うと規制される – 実態は産業規制法 • 「外国の」著作権は登録なしで発生する – 外国の登録はコストが高すぎるため 当時はとても合理的 20世紀 パッケージの時代 ２０Ｃ ＣＤ レコード ＤＶＤ 印刷、 ｉｎｐｕｔ ＝ ｆｒｅｅ パッケージ化 ｏｕｔｐｕｔ コンテンツの種類が増え 流通形態が多様化 でも、基本構造は同じ 大きな問題もなし ところが 20世紀末～21世紀 インターネットの時代 Web ＣＤ ２０Ｃ末 ～２１Ｃ ＤＶＤ Blue-Ray テキスト、写真、音楽、動画、 ゲーム・ソフトウェア、データ ベース…… 検索 ダウンロード、 キャッシュ ｉｎｐｕｔ ＝ ｏｕｔｐｕｔ ＝ Remix、 マイニング、 共同製作、 共同研究 ? ? 総クリエーター・ 総発信者時代 昔は大産業しかできなかった 複製や配信が個人で可能に ほとんどすべての情報利用に 著作権が適用される時代 ／著作権の歴史 どんな変化？ 大きな２つの変化 変化 その１ デジタル技術 コピーが容易に 配信も容易に 経済活動の原則＝ 簡単に手に入らないから お金を払う 簡単に手に入るものには… お金を払わない？ 簡単に 「コピー」できないものが ビジネスの中心に コンサート ライブ（放送） ＡＫＢ４８ 握手 携帯ゲーム・携帯マンガ等 ２０世紀のビジネスモデル＝ コンテンツの「コピー」を販売 限界 商業権利者による 保護強化のロビイングの原動力 変化 その２ 当初の著作権法 産業規制法 今の著作権法 ・・・規制法？ もちろん産業も 電子機器は生活の全ての場面 で使われている 子供や学生の情報発信 学校の教材 科学論文 研究データ 初音ミク 産業・学校・お茶の間・ 科学・学習・共同研究・ 休暇・趣味・パーティ・ …規制法 全てに同じルール ハリウッドのルール 学習＝ハリウッド？ 科学研究＝ハリウッド？ 初音ミク＝ハリウッド？ 一つのコンテンツに 権利者が沢山 専門の弁護士チームが必要？ 子供？学生？ 先生？ 科学者？ どんな問題が？ 「持てる者」のみ アウトプットできる社会？ 加えて、インプット量も増加 どのデータは安全なもの？ 何を見るのは合法か？ 何をすると違法か？ 私的違法ダウンロード 刑罰化（2012） インプットはフリー の原則のゆらぎ 問題点のまとめ 産業の変化 そちらに 気を取られている間に… 著作権弁護士チームが いないと インプットもアウトプットも 安心して出来ない？ 技術的には可能だけど 法律的には不可能？ 結局、社会の進歩とは何か？ 技術的に可能なことの全てを 禁止することが 本当に社会のためか？ ／問題点 解決に向けた提案 馬車と船の時代の法律を 宇宙船時代に使っているなんて ナンセンス！？ 解決策は？ シンプルな解決策のひとつ 制度に柔軟性を 守ってほしい人の権利は守る それ以外はもっと自由に 登録制 実は、著作権以外の 情報保護法はほとんど登録制 そうすれば、 両方ハッピーに 「権利者がわからない」 →解決！ しかし… • ベルヌ条約は加盟国（現在163カ国が加盟） の全員一致でなければ変更できない（27条3 項） – 現在の南北対立の激しい状況では、全員一致は 相当困難 • むしろ、TRIPS協定（1994年）、WIPO条 約（1996年）、ACTA（2011年）、TPP （ongoing)等で、見直すどころか、強化の 波。 その震源は米国のハリウッド 今も…ＴＰＰ知財問題 どうすればいい？ 改善策のひとつ：例外規定 利用させる 正当な理由があるとき （引用、教育、報道…） 許諾なしで使ってOK 日本にもある 足りない？ 遅い？ わかりにくい！ （送信可能化された情報の送信元識別符号の検索等のための複製等） 第四十七条の六 公衆からの求めに応じ、送信可能化された情報に係る送 信元識別符号（自動公衆送信の送信元を識別するための文字、番号、記号 その他の符 号をいう。以下この条において同じ。）を検索し、及びその結果 を提供することを業として行う者（当該事業の一部を行う者を含み、送信可 能化された情報の収 集、整理及び提供を政令で定める基準に従つて行う者 に限る。）は、当該検索及びその結果の提供を行うために必要と認められる 限度において、送信可能化された著作物（当該著作物に係る自動公衆送信 について受信者を識別するための情報の入力を求めることその他の受信を 制限するための手段が講じられている場合にあつては、当該自動公衆送信 の受信について当該手段を講じた者の承諾を得たものに限る。）について、 記録媒体への記録又は翻案（これにより創作した二次的 著作物の記録を含 む。）を行い、及び公衆からの求めに応じ、当該求めに関する送信可能化さ れた情報に係る送信元識別符号の提供と併せて、当該記録媒体に記 録さ れた当該著作物の複製物（当該著作物に係る当該二次的著作物の複製物 を含む。以下この条において「検索結果提供用記録」という。）のうち当該送 信元識 別符号に係るものを用いて自動公衆送信（送信可能化を含む。）を 行うことができる。ただし、当該検索結果提供用記録に係る著作物に係る送 信可能化が著作権 を侵害するものであること（国外で行われた送信可能化 にあつては、国内で行われたとしたならば著作権の侵害となるべきものであ ること）を知つたときは、そ の後は、当該検索結果提供用記録を用いた自動 公衆送信（送信可能化を含む。）を行つてはならない。 米国 批評、解説、ニュース報道、教授（教室における使 用のために複数のコピーを作成する行為を含む）、 研究または調査等を目的とする著作権のある著作 物のフェア・ユース [考慮すべき要素] (1) 使用の目的および性質（使用が商業性を有するか または非営利的教育目的かを含む） (2) 著作権のある著作物の性質 (3) 著作権のある著作物全体との関連における使用さ れた部分の量および実質性 (4) 著作権のある著作物の潜在的市場または価値に 対する使用の影響 柔軟に社会の変化・進歩に 対応できるメリット 結果の予測可能性が低い というデメリット 近年、特に メリット＞デメリットでは？ Google, YouTube, Twitter, Facebook, Kindle… 日本版フェア・ユース？ 知的財産戦略本部 デジタル・ネット時代における 知財制度専門調査会 報告書（2008年１１月２７日） http://www.kantei.go.jp/jp/singi/tite ki2/houkoku/081127digital.pdf 我が国が国際社会において 競争力を発揮するため 世界最高水準と言われる 情報通信環境をいかし、 新たなネットビジネスの発展や 技術開発を促すとともに、 クリエーターの 創作インセンティブを高めるための基 盤を確立することが 不可欠 技術の進歩や 新たなビジネスモデルの出現に 柔軟に 対応できる法制度 日本では2009年からの 審議を経て… 2012年６月、国会通過 （T T） ・背景等への写りこみ ・許諾利用の過程で不可避的に生 じる利用 ・技術開発・実用化試験のため ・情報発信の準備のため 個別の例外規定×４ と同じ結果に 技術の進歩や 新たなビジネスモデルの出現に 柔軟に 対応できる法制度 からは程遠い なぜ？ ２つの理由 政府提出法案 理由１：審議会 大筋でコンセンサスを重視 ヒアリング 権利者団体数＞利用者団体数 （反対派＞賛成派） 米国型フェア・ユースは この審議方式では無理？ 理由２：立法事実の重視 立法事実 ＝立法の必要性を示す 「具体的な」事実 イノベーション 具体的に「困った」 事例の列挙 挙がった事例に対応する 範囲のみ立法 内閣法制局の厳格な審査 「米国型フェア・ユース など無理」 民意を反映していない 一行政局がなぜ 審議会結論を変更できる権限をも つのか？ どうすればいい？ 私的違法ダウンロード 刑罰化 導入 政府提出法案ではなく 権利者のロビイングによる 議員立法 文化庁は反対 （損害賠償で十分。 刑罰化までは必要ない） 政治家へ直訴し ねじれ国会を利用して 国会通過 世論が反対したときには 手遅れだった （議員の党議拘束決定後） 問題も多い法改正 ・法執行の不平等 ・誤認逮捕のリスク？ しかし、議員立法は、 よくも悪くも 立法事実の審査が非常にゆるい ロビイング活発化 （また後日議論） 今後の著作権の あり方は？ 今後の著作権改正の あり方は？ 本資料のライセンスについて この資料を 2 種類のライセンスで提供し、利用者が選べるようにするために、利用許 諾に関する注意書きを以下に記し ます。 ・ この資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライ センスされています。 ・ この資料は、 CC-BY-SA 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by-sa/2.1/jp/ ) でライセンスされています。 なお参考までに、本作品のタイトルは「今、著作権を考える」で、原著作者と許諾者は 野口祐子です。本作 品に係る著作権表示はなく、免責に関する注意書きもなく、 許諾者が本作品に添付するよう 指定した URI もありません。 そこで、例えば、CC-BYライセンスで要求されるクレジット等の表示の義務を満たすに は、次のような類の表示をすればよいということになります： 「今、著作権を考える」 by 野口祐子 この資料は、 CC-BY 2.1 JP (http://creativecommons.org/licenses/by/2.1/jp/ ) でライセ ンスされています。
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