知的財産と社会 デジタル時代の著作権とオープン化

知的財産と社会
デジタル時代の著作権とオープン化
野口 祐子
渡辺 智暁
第3回講義
担当: 野口祐子
前回までの復習(1)
• 著作権法のカバーする範囲はとても広い
• 著作権法が及ぶと、原則許諾が必要
• 許諾が不要となる場合
– 例外規定のある場合
– 裁定制度
前回までの復習(2)
• 著作物を利用している人は誰か?というのは、
実は難しい問題
• 特にインターネットでつながっているサービス
の場合に問題になりやすい
– 利用しているのは、個人ユーザーか?
– それともサービス事業者か?
– 判例で揺れ動いている
本日のトピック
現状の著作権制度の問題点
問題点をまとめると
• 規制対象が広すぎる(広がりすぎた)
• 法律を守るためのコストが高すぎる
• 現状の技術環境(の動向)に合っていない
の大きく3つ
対象の多様化
• 分野の多様化
– 小説、音楽、映画、ソフトウェア、データベース、科学
論文…
– その対象範囲は広く、それぞれの経済事情は全く異
なる
– ライフサイクル(たとえば、小説 vs ソフトウェア)
– 消費行動(たとえば、映画、音楽、ソフトウェア…)
対象の多様化
• 経済価値の多様化
– 3D映画から落書きまで
– 予算規模の違い
– 投下資本の回収方法の違い(小説 vs 科学論文)
• 権利者の多様化
– 大企業から小中学生まで
– 動機の多様化
– 仕事か、趣味か
– ビジネスモデルの多様化
コストの増加
• 参加者増加
– 業界法からお茶の間法へ
• 作品数増加
• 共同著作、二次的著作の増加
– 全員OKでないとダメな制度
– 確率は2乗分の1の確率で減っていく
真面目に権利処理をしようとすると…
• 映画会社の著作権処理チーム
– 作品特定
– 権利者特定、連絡
– 利用の説明、条件交渉、合意
– 支払い等
• これを中学生が一人でやれるか?
結局…
• 小規模利用
→ 費用だおれ
• 資金の少ない利用者の利用
→ 諦めざるを得ない
• 持てる者のみが創作・発言が(豊かに、合法
に)できる時代!?
新技術の恩恵をどう見るべきか?
• 会社広報や営業がオンラインでニュースク
リップし、営業資料に使う
• 自動翻訳機を使って外国のサイトを読む
• 沢山の論文を、まず、キーワードでソートして
から読む
なぜこんなことに
なったのか?
著作権法の骨子を定めたベルヌ条約
(1886年合意、日本は1899年加盟)
Copy(X)=Copyright
基本構造は、複製するたびに権利がトリガーされる、というもの
そもそもの著作権の始まり
• 現在の枠組みはベルヌ条約。
• その時代背景は:
– 時代背景は?
– 通信手段は?
– 前提となっていたビジネスモデルは?
19C末

input = free
印刷
出版社
output
当時は、当時の技術水準を受けて、
それなりにバランスを取っていた
制度設計だった
20C
CD
レコード

DVD
印刷、
input = free
パッケージ化
output
20世紀 まだパッケージの時代
著作物の種類が増え、
媒体が増えても、
基本的構造は同じ
ところが…
20世紀末から21世紀
オンラインの時代
Web
CD
20C末
~21C
DVD
Blue-Ray
テキスト、写真、音楽、動画、
ゲーム・ソフトウェア、データ
ベース……

検索
ダウンロード、
キャッシュ
input =
output = 
Remix、
マイニング、
共同製作、
共同研究
?
?
ベルヌ条約の方程式を当てはめると…
Copy(X)=Copyright
オンラインで「見ること」「聞くこと」は? PCを使って「考える」ことは?
複製範囲の拡大
• デジタル技術の浸透により「複製」が利用の
前提として必須となった。
• デジタル → 0と1の表現形式
• 再生するには、一度蓄積してアナログ変換し
なければならない
• 「見ること」「聞くこと」=「複製」??
「一時的複製」の問題
– 米国のMAI Systems Corp. v. Peak Computer,
Inc., 991 F. 2d 511, 519 (9th Cir. 1993), cert.
Dismissed, 510 U.S. 1033 (1994)では、ソフト
ウェアをコンピュータのRAMにローディングする
行為が著作権法上の「複製」に該当すると判示。
– 日本では、長い議論があったが、平成21年度著
作権法改正で、コンピュータの情報処理の過程
において「当該情報処理を円滑かつ効率的に行
うために必要と認められる限度」でのみ著作物の
利用が可能(47条の8)とされた。
47条の8
(電子計算機における著作物の利用に伴う複製)
電子計算機において、著作物を当該著作物の複製
物を用いて利用する場合又は 無線通信若しくは有
線電気通信の送信がされる著作物を当該送信を受
信して利用する場合(これらの利用又は当該複製物
の使用が著作権を侵害しない場合に限 る。)には、
当該著作物は、これらの利用のための当該電子計
算機による情報処理の過程において、当該情報処
理を円滑かつ効率的に行うために必要と認められ
る限度で、当該電子計算機の記録媒体に記録する
ことができる。
では、日本ではパソコンでの
視聴は完全に合法か?
49条1項7号
次に掲げる者は、第二十一条の複製を行つ
たものとみなす。
• 七 第四十七条の八の規定の適用を受けて作成さ
れた著作物の複製物(=キャッシュ)を、当該著作物
の同条に規定する複製物の使用に代えて使用し、
又は当該著作物に係る同条 に規定する送信の受
信…をしないで使用して、当該著作物を利用した者
• オフラインでキャッシュを見たら違法!?
Web
CD
20C末
~21C
DVD
Blue-Ray
テキスト、写真、音楽、動画、
ゲーム・ソフトウェア、データ
ベース……

検索
ダウンロード、
キャッシュ
input =
output = 
Remix、
マイニング、
共同製作、
共同研究


馬車の時代の法律を宇宙船時代に
使っているなんてナンセンス!?
しかし…
• 著作権法の基本構造は簡単には変更不可
• ベルヌ条約は、加盟国(現在163カ国が加盟)
の全員一致でなければ変更できない(27条3
項)
– 現在の南北対立の激しい状況では、全員一致は
相当困難
• むしろ、TRIPS協定(1994年)、WIPO条約
(1996年)で、見直すどころか、強化の波が…
• その震源は米国のハリウッド
ハリウッドが世界を動かす
• そもそも、ハリウッドをめぐる政治状況は特殊
– 民主党 v 共和党が機能していない
– 通常は消費者・労働者の味方とされる民主党が
ハリウッドを票田にしているため、政党間対立が
起こりにくい
• ハリウッド v シリコンバレー(学者・図書館
連合)の対立
• ハリウッドでは、国内の反対勢力に対する説
得工作として、条約を用いた戦略を早くから
採用
1996年WIPO条約の例
• Clinton Administration, GREEN PAPER (1994)
• Clinton Administration, WHITE PAPER (1995)
• これに基づいて、DRM保護法などの国内立法を試
みるも、挫折
• その後、WIPOでのロビイングへ
→1996年にWIPO Copyright Treaty成立
• 1998年The Digital Millennium Copyright Act
(DMCA)成立
• その結果、世界中がDMCA類似の法律を定めなけ
ればならないことに
現在では、米国が
通商条約活用中
• WIPOの機能不全
– ブラジル、中国などの反対
• 通商条約は、他の条件と抱合せにできるため、
交渉における材料が増える
• 通商条約は、政府間の秘密交渉が可能
– 事前に条文案を世間に公表しなくてよい
– 条約の中身について、識者から批判を浴びにくい
・具体例:米韓FTA(2011),TPP
自由と規制のバランスが
崩れ始めている
~著作権と表現の自由(憲法21条)
との関係は~
表現の自由に対する
著作権法におけるバランス・ツール
• 規制の範囲外の行為
– アイディア・事実(客体)は保護されない
– 情報へのアクセス・視聴(行為)は自由
– つまり、情報のインプットは自由
• 規制の例外の行為
– 日本においては30条以下
– 米国では107条以下(もっとも有名なものが107
条のFair Use)
• 著作権期間の制限
– インセンティブを与えるのに必要な期間を過ぎた
後はPublic Domainとなる
バランスの変化~自由の縮小
• 規制外の行為が「規制内」に?
– アクセスに伴なう複製も「複製」ならインプットは自
由ではない!?
– 写真や音楽における「アイディア」って何?
• 例外規定の厳格運用
– 日本では伝統的に「厳格に」解釈するとされてき
た(近年では、裁判所に疑問を呈されつつある)
– 米国ではフェア・ユースの範囲の縮小が話題に
• 著作権期間の延長
– 著作権はどんどん延長され、自由が縮小
著作権期間延長をめぐるバトル
• ディズニーも、グリム童話(著作権期間が切
れたあとの著作物)をもとに映画を沢山作っ
ている。
• 一定期間をすぎた古い著作物は、社会の公
共財産として還元する(投下資本を回収する
期間だけ保護すればよい)という制度設計
• ところが、先進国は著作権期間をどんどん延
長(米国では、78年に保護期間を19年間延
長、98年には20年間延長。つまり、最近は20
年ごとに20年延長=永遠に切れない?)
メリットとデメリット
• 創作意欲が高まる?過去の作品の創作はも
う済んでいる?すでに十分長い?
• 世界標準に合わせるべきか?何が日本に最
善か考えるべきか?
• 著作権を保護したほうが流通する?保護しな
いほうが流通する?
• 詳しくは、以下を参照
http://thinkcopyright.org/reason.html
個人的な意見としては
• 今でも十分長いと思う
• もしも、どうしても延長したいのなら、延長によ
る弊害を解消する手当を同時に導入すべき
• たとえば、希望者延長制度(登録制)にしては
どうか?
• これにより、「一部の権利者を守るために延
長を望まない多数の著作物が死蔵される」問
題は解消するのでは?
このような著作権の現状を
改善する方法はあるか?
ここから次回