2008/10/17 ゼミ 予感を誘う光演出の提案 Proposal of Lighting that causes Presentiment 北陸先端科学技術大学院大学 知識科学研究科 山田 香織 背景 光は古くから演劇など舞台の演出に用いられてきた. 舞台を明るく見えやすくする 時間・場所などを舞台上に表現,劇的にシーンを変化させる 光演出もエンターテインメントの一部として楽しまれるように なっていった. 照明によって印象の異なる2つのシーン 1 背景 デザイン 人間の知覚や認知の特性を理解することによって,音楽の効果を より高める演出が試みられている. 光による演出を行うことによって, キレイ だな ただ“キレイだな”と思わせるだけでなく, 観客の想像を膨らませる 様々な印象を持たせる 良い作品 に つながる 2 先行研究~光デザインの魅力~ 癒しを体感できる空間デザイン 光が深い感動を誘発するという性質に 着目 感傷や癒しの表現と感応・喚起 印象や記憶など 佐野孝太郎 他 有機ELによる和の空間デザイン(2005) 有機EL基盤技術 ソフトイルミネーション 安全性を重視した,高付加価値と個性や デザイン 感性を重視した照明. 大面積 パルス駆動 色彩 版画 美術 リズム 感性 西出隆祐 他 . 有機EL技術に基づくソフトイルミネーションの試作(2006) 安らぎ バイオリズム 医療・福祉 癒し 産業・社会 3 Singing Illuminantの提案 以上のような知見や技術を組み合わせることによって, より人間の心を魅せる演出が可能になるのではないか Singing Illuminantの 提案 音楽に合わせて,光が歌うように変化する. 入力された音楽に同調して, 光の色や明るさが変化 光は音楽を可視化している. 観賞者に視覚的にうったえる ことによって,音楽の効果を 高めている 落ち着く ショック,情熱 …… 過去の経験 思い出,背景 引き出す これからのストーリー の予測… 感性 連想 4 Singing Illuminant 淡く光り,光源そのものを見せる 観賞者を舞台に惹きつける 観賞者それぞれの過去の経験や感性へと訴えかける. シェード 音楽再生 各LED 周波数域によって, それぞれのLEDに 出力する 5 Singing Illuminantの実践 実際の場面におけるSinging Illuminantの実践として, 歌劇『カルメン』 金澤夕ぐれ祭り において,舞台演出の一部を担当した. 2008年3月 金沢歌劇座にて上演(歌劇『カルメン』) ここで,光演出の方法として Singing Illuminantを使用できることを確認した. 2008年7月 金澤夕ぐれ祭り 6 研究のねらい 現在行われている光演出は,なぜ良いとされているのか 連想に着目し,その印象を探る. これにより, より良い光演出のための方法を見つける 研究方法 実験により,光と人間の印象の関係を探る. 光または音楽を観賞することにより,観賞者がうける印象にどのよう な差が表れるか. 7 予備実験 ―目的― 実際の場面では,音楽に合わせて光演出がされている. 本実験では,演出を光のみと音楽のみに分けて,別々に 観賞することにより,光と音楽のそれぞれの効果を比較す る. 観客の想像を膨らませるような演出が良い作品へとつながる. ここで,様々な印象や連想の繰り返しから現れるものが予感だ と考えた. 物語を読んでいる途中に,音楽,または音楽を視覚的に表現した 光をそれぞれ観賞したときに,その先のストーリーへの予感にどの ような違いが現れるか分析する. 8 予備実験 ―手続き― (1) 物語前半の黙読 (7分間) 後で物語について質問すると伝える. 物語に続きがあることは言わない. 実験手続き (2) 予感の記述 (15分間) 光を見ながら,物語の続き を予想してもらう. 音楽グループ:音楽の観賞 2分間 音楽を聞きながら,物語の続き を予想してもらう. 物語前半は回収する. 光グループ:光の観賞 2分間 物語前半は回収する. (3) 物語後半の黙読 時間は制限しない. 先ほどの物語に続きがあったことを伝える. (4) アンケート 被験者自身について 刺激(光or音楽)の評価 1. 刺激は予感を記述するのに役立ったか? 2. 刺激は物語と合っていたか? 3. 予感した物語と物語後半は一致していたか? 予感の土台となる物語(オペラ のストーリー)の前半を黙読す る. 音楽(オペラの間奏曲)刺激, または音楽から生成した光刺 激を観賞する. それぞれの刺激を参考に,物 語前半の続きを予想し,記述 する.(その間も刺激は継続し ている) 物語の後半を黙読する. 被験者自身,刺激の評価につ いてのアンケートに回答する. 9 分析方法 テキスト 実験手続き(2)記述で得られた文 章を分析し,光グループと音楽グ 漢字・ひらがなを揃える 明らかな誤字を修正 ループで比較する. 記述された語の数 形態素解析 Syntaxラベル Sourceラベル できごと 想像 連想 要素 Syntaxラベル “要素”・“できごと” . Sourceラベル 『既存』・『連想』・『想像』 . 既存 光 比較 アンドリューが他 の女性と結婚する と思いこみ、エリ ザベスが自殺して しまい、後をおっ て アンドリューも 自殺する。 エリザベスとロ バートが結婚する ことになり、その 後でロバートが最 高議会を説得。ア ンドリューはエイ ミーと暮らすこと に…。 音 楽 10 分析方法 Sourceラベルによる分類 物語前半の語と連想関係にある語 記述された予測の語 連想概念辞書 を用いて拡張 『既存』 物語前半に 含まれる語 『連想』 物語前半に 含まれる語と 連想関係にある語 新しく出てきた語 物語前半の語 『想像』 新しく出てきた語 『既存』と『連想』は,機械的に連想可能な語だと判断する. 『想像』は2段階以上連想されている. そのきっかけとして,刺激が作用するのではないか? 11 分析の観点 光では,連想がくり返され『想像』が増えるのではないか? 音楽には,『楽しい曲』,『悲しい曲』というイメージが明確にある. しかし,光にはそのようなイメージは固まっておらず,様々に解釈 のしようがある.そのため,予感する際には制約が少なくなり,音 楽よりも多くの連想が生まれるのではないか? 物語を読む際に,音楽があることによって,予感が生まれ やすくなるのではないか? 物語の途中で,先のストーリーのヒントを与えることは,想起を促 す. オペラなどの舞台では,幕と幕の間で音楽が演奏される.この 音楽は,舞台のその先を予感させている. 12 予備実験 ―実験結果― 刺激 光 音 被験者 6人 6人 記述した文章数 質問1 質問2 質問3 5.83 2.83 3.00 2.67 4.00 3.50 2.50 1.67 1. 刺激は予感を記述するのに役立ったか? 4.とても 3.やや 2. 刺激は物語と合っていたか? 2.あまり 3. 予感した物語と物語後半は一致していたか?1.ない 5.非常に 4.かなり 3.まぁまぁ 2.少し 1.全くない 予感を記述するのに音楽が役立った 音楽では,“悲しい”,“楽しい”などのイメージが 固まっているため,記述しやすかった? 本実験においては,光のほうが物語と合っ ていると評価された. 光は多様に解釈できるため? 13 実験結果 ―分析― Syntaxラベルについて,それぞれ記述された語の数の平均 を光・音楽グループで比較した. 要素 できごと “要素”・“でき ごと”とも光グ ループの方が 数が多かった. Sourceラベル 間での語数の 差はない. 有意差 要素の語数 F(1,10)=8.18 , p<0.05 14 考察 課題の記述量は光グループが多かった. Syntaxラベルの“要素”の語数について,音楽グループと比較し, 有意に多くなっていた. Sourceラベル間の語数に有意な差はなかった. アンケートでは,音楽が予感を記述するのに役立ったと評 価された. 光では,より詳細な予感がされているのではないか. 音楽でも充分な予感がされているが,光はさらにそれを膨 らませる効果があったのではないか. 15 考察 ―本実験へ― 光と音楽では,それぞれ予感に対する効果が異なるという 可能性が示された. 音楽… 予感を誘発する 光…… より詳細な予感 右の図で,四角の大きさは記述された 語の種類数,色の濃さは語の個数. (グループごとの平均) 実際の演出では,音楽と光演出を組み合わせて行われる. 組み合わせ方によって,印象は異なるか? 実際の演出で行われる方法の多くは,光演出先行型である.これは, どのような点で,同期型よりも良いのだろうか? 16 本実験 ―目的― 予備実験において,音楽と光演出のそれぞれの効果を観 察した. 本実験では,音楽と光演出を組み合わせて,印象の評価 を行う. 実際の場面で行われる演出では,音楽と光演出を完全に 同期させるよりも,光演出を音楽にやや先行させた演出が 多くされている. では,どのような点で優れているために先行型演出が用い られるのか?同期型演出と先行型演出の印象の評価を比 較する. 本実験 ―方法― 音楽と光演出が完全に同期した(『同期演出』)の動画,光 演出が音楽にやや先行した(『先行演出』)の動画,光演出の ない音楽のみの動画を被験者に提示し,それぞれの印象を 評価してもらう. 評価尺度には,AVSM(音楽作品の感情価測定尺度項目) の24項目を用い,SD法による5段階評価で評定してもらう. 音楽は,映画のテーマ音楽(歌のはいっていないもの)を5 曲使用した. [モア,トム・ジョーンズの華麗な冒険,シャレード,ラレード通り,飾 りのついた4輪馬車] 本実験 ―仮説― 印象には“質”と“強さ”がある. “質”は「可愛らしい」,「悲しそうな」など “強さ”はどれくらい印象を感じるか.「ちょっと」悲しい,「とても」悲しい 『同期演出』でも『先行演出』でも,印象の“質”には差がない. 2つとも構成している音楽,光は同じものである.そのため,印象は変 わらないのではないか. 『先行演出』のほうが『同期演出』よりも,より“強い”印象をう ける. 時間差が期待感をもたせ,それがより強い印象を導く. 本実験 ―分析方法― 谷口(1998)を参考に,24項目5段階のSD法による評価 陽気な + 高 揚 - うれしい 楽しい 優しい 親 和 いとしい 恋しい きまぐれな 軽 さ 浮かれた 軽い 明るい おだやかな 落ち着きのない 沈んだ 強い 厳粛な 哀れな 悲しい 暗い 強 さ 猛烈な 刺激的な 断固とした 荘 重 おごそかな 崇高な 気高い 各カテゴリ毎に得点を計算する. これにより,評価対象の音楽作品がどのような感情的性格をどの 程度持っているか測定する. 本実験 ―実験結果― データは予備実験のものです. 音楽A 16 音楽A 12 8 『同期演出』でも『先行演出』でも同じ 4 高揚 親和 強さ 『同期演出』 軽さ 荘重 『先行演出』 ようなグラフの形になった. 印象の質は変わらなかった. “強さ”の項目について,『先行演出』 音楽B 16 の方が値が大きい. より強い印象だった. 12 8 音楽B 4 高揚 親和 『同期演出』 強さ 軽さ 荘重 『先行演出』 グラフの形が『先行演出』,『同期演出』 で全く異なっている. 参考文献 佐野孝太郎ら,2005,“有機ELによる和の空間デザイン”,デ ザイン学研究作品集,Vol.11,No.11,pp.62-67 西出隆祐ら,2006,“有機EL技術に基づくソフトイルミネー ションの試作”,日本デザイン学会,No.53,pp.22-23 永井由佳里,山田香織ら,2007,“光によるインタラクティヴ・ オペラの参加的創造”,EC2007,pp.225-228 23
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