色彩と香りの調和が作業効率に与える影響

色彩と香りの調和が作業効率に与える影響
○米田明・藏口佳奈・蘆田宏
(京都大学大学院文学研究科)
キーワード:作業効率, 香り, 色彩
Effects of harmony between color and fragrance on the work efficiency
Mei YONEDA, Kana KURAGUCHI and Hiroshi ASHIDA
(Graduate School of Letters, Kyoto University)
Key Words: work efficiency, odor, color
表 1、香りに対する調和色(上)と不調和色(下)の選択者数
赤
橙
黄
黄緑
緑
青緑
青
青紫
紫
赤紫
無彩
0
8
0
3
3
1
5
1
4
2
3
0
7
2
1
0
0
2
0
3
1
2
[本実験]
正答数について 2(香りあり/なし)×2(調和色/不調和
色)×2(前半/後半)の 3 要因分散分析を行ったところ, 二次の
交互作用が見られたため(F(1,23)=11.24, p <.001), 下位検
定を行った。調和色/不調和色についてそれぞれ 2 要因分散
分析を行った結果を図 1, 図 2 に示す。
The number of
correct answers
180
175
**
+ p <.10
* p <.05
** p <.01
*** p <.001
n.s..
170
165
the first half
160
the second half
155
fragrance no-fragrance
図 1、調和色条件における各条件の正答数
180
The number of
correct answers
目 的
色と香りはそれぞれ単独で環境要因として用いられた場
合に,疲労感や作業効率に影響を与えることが知られてい
る。また,Araujo, Rolls, Velazco, Margot, & Cayeux (2005)は,
香りについて与えられた情報によって嗅覚刺激に対する脳
の応答の仕方が変化すると報告し, ボトムアップ的な嗅覚
情報の処理がトップダウン的な情報によってゆがめられる
ことを示した。このことから, 香りに対する色彩のイメー
ジが実際の視覚イメージと調和することで, 相乗効果が得
られると予想される。本研究では,作業効率を高めるとされ
るペパーミントの香りに色彩環境を付加した際の作業効率
について, 香りと色の主観的な調和・不調和という観点か
ら検討した。
方 法
実験参加者 大学生 24 名(M=12, F=12, 平均年齢 21.5)
[予備実験]
香り刺激 ペパーミントの精油をムエットに浸み込ま
せ,褐色瓶に入れたもの。
手続き 参加者に香り刺激を一種類ずつ呈示し,調和す
ると感じる色・不調和であると感じる色を液晶ディスプレ
イ上のカラーパネルからそれぞれ 1 色ずつ選択させた。
[本実験]
香り刺激 香りあり条件において, ペパーミント精油
0.15mL を実験室内に揮発させて呈示した。
色刺激 計算課題を呈示する画面の背景に, 実験参加者
が予備実験において調和色・不調和色として選択した色を
呈示した。
手続き 香り(あり・なし)×色(調和色・不調和色)の 2×2
被験者内計画で実験を行った。実験参加者は各条件におい
て PC 画面上で 10 分間の計算課題(2 桁の自然数同士の足し
算)を, 3 分間の休憩をはさんで 2 セット行った。実験参加
者にはできるだけ早く正確に数字キーを押して回答するよ
う教示した。条件の順番についてはカウンターバランスを
とった。
結 果
[予備実験]
調和色・不調和色ともに, 色相について一定の傾向が観
察されたものの個人差が大きいという結果となった。表 1
に予備実験の結果を示す。
175
*
***
170
165
+ p <.10
* p <.05
** p <.01
*** p <.001
the first half
160
the second half
155
fragrance no-fragrance
図 2、不調和色条件における各条件の正答数
考 察
調和色条件において香りがある場合にのみ後半の正答数
が有意に増加していたことから, 色彩と香りが調和してい
るときに作業後半における疲労が軽減され, 作業効率が上
昇したといえる。また, 不調和色条件においては香りがあ
る場合に比べて香りがないときの方がより多く後半の正答
数が増加していたことから, 香りに対する調和色と実際の
視覚情報が一致しない場合には葛藤が生じて作業効率が低
下する可能性が考えられる。ただし, 香りがない場合には
不調和色においてのみ後半の正答数が有意に増加していた
ため, 色相そのものが持つ効果の存在についても否定でき
ない。
引用文献
Araujo I. E., Rolls, E. T., Velazco, M. I., Margot, C. & Cayeux, I.
(2005). Cognitive modulation of olfactory processing,
Neuron, 46, 671-679.