発達障がいのある少年院仮退院 予定者の福祉事業所への受け入れ プロセスについての実践的研究 南海福祉専門学校 原田 和明 研究目的① 障害者の福祉事業所 実習や体験利用によって利用への意思確認, 事業所としての受け入れの可否確認. 矯正施設収容者の場合 自由に制限,距離的な問題,護送についての 人員的問題,面接の制限など 一定の制限がある 研究目的② 帰住先がない障害のある矯正施設退所予定者 は,福祉事業所の利用が必要となる場合があ る. 少年院(医療少年院)仮退院予定者を福祉施 設で受け入れる時の望ましい実践方法とはどう いったものか. また,その際に留意する点とは何かを実証し提 言する. 研究方法① 本研究における発達障害の定義 主たる障害が注意欠陥多動障害(ADHD AD, HDそれぞれのみも含む),広汎性発達障害 (PDD 自閉症,アスペルガー障害,特定不能の 広汎性発達障害),学習障害(LD)のある者 また,これらの障害と知的障害とを重複してい るが,知的障害が中度ないしは軽度である場 合についても,発達障害と定義. 研究方法② 同じ少年院(医療少年院)を仮退院した男性 X とYのケースについてその支援のプロセスや結 果を比較.(ただし仮退院は同時期ではない) X仮退院時 17歳 自閉症,軽度知的障害 Xは福祉事業所に定着せず再非行 Y仮退院時 18歳 広汎性発達障害 Yは福祉事業所に定着し自立生活を目指す 事例X① 仮退院時 17歳 自閉症,軽度知的障害 児童自立支援施設入所歴あり 知的障害者入所更生施設利用 相談支援事業所の面接2回,施設担当者1回 施設見学及び実習1回とその際に保護観察官 も立ち合いで意思確認. 身元引受人は母親 事例X② 見学時は明るく作業をしており強く入所の意思を示 す. 入所直後はトラブルなし. しかし,1か月程度で重度の他の利用者に対して の暴力が始まる.在院中は他者への暴力はなし その後も暴力行為がおさまらず,また,無断外出し て自宅に戻ることが多くなる. 「殴らないことは守らないといけないことにはなって いない」本人 事例X③ あまりにも暴力がひどくなり,同一法人内での 施設変更を検討する. 本人,無断外出し帰宅.施設に戻らない意志が 強固なため退所となる. その後,相談支援事業所の支援を受け,市役 所で家族も交えて今後の対応検討するが, まもなく,家族に対する傷害等により検挙され, 再度少年院送致となる. 事例Y① 仮退院時 18歳 広汎性発達障害 強制わいせつ等の非行事実 高等学校卒業認定試験合格 相談支援事業所面接1回(兼ケアホーム事業所), 通所事業所実習,ケアホーム見学及び現場での支 援会議3回 障害福祉および生活保護の援護の実 施者,保護観察所,ケアホーム事業所,相談支援 事業所,通所事業所 実習と支援会議はほぼ1日 受け入れ後も2回支援会議(現在まで)を実施 事例Y② 実習は複数場面を試してみる. →障害特性から,パン製造 本人の希望,接客 接客で定着 暮らしについての自己決定 →どんな暮らしがしたいか,自身で決める.福 祉事業所の枠組みでできるのか確認.所得保 障についても確認ができた. 事例Y③ ケアホームに居住して,通所事業所に通所する. コミュニケーション障害があるものの,他者との トラブルもなく生活ができている. BBSを利用しての自主学習を行う. 6か月以上経過しても規則正しい生活,金銭の 自主管理ができており,ワンルームタイプの自 立生活型グループホームに転居予定. 比較的早期に自立する予定. 考察① Xの場合,自己決定への選択肢の提示が不十 分→実習内容イコール作業,暮らし方の自己決 定が不十分 相談支援事業所も含め福祉事業所との事前の 関係づくりができていなかった.→課題を共に 解決することができなかった. Yの場合 自己決定の選択肢を実習という形で 提示,暮らし方も自己決定. 複数回の支援会議による福祉事業所との関係 づくり 考察② X,Yの能力の差を勘案した上で 少年院という環境下の面接を多く行うことよりも, 見学,実習という体験の方が,具体的で認知し やすい.したがって,自己決定に結びつきやす い. 選択肢があることで自己決定しやすい. 暮らし方(生活)は,自身で計画し自己決定する. 納得のいく暮らし→触法行為をしないほうが快 適な暮らし 考察③ 少年院や保護観察所もふくめた支援体制を構 築し,実習時からその体制を開始して輪型支援 の体制をとる. 輪型支援体制の構築(生活環境調整)を行うこ とで,多面的視線で本人を見ることができ,スト レングスを見出しやすくなる. 矯正,保護,福祉の支援方向性を統一化できる →本人中心主義に基づく支援 司法も含めた支援者によってアフタフォーロー を行うことで,支援の継続性を担保できる. 提言 少年院での面接はインテーク程度にとどめ,移 動や人的な面などの課題はあるが,実習・見学 を複数回行い,その際に支援会議を行うことで 支援の継続性が担保され,自己決定による暮 らしを送ることが自立を図るにあたって効果的 といえる. したがって,発達障害のある少年の福祉事業 所を利用した仮退院にあたっては,種々の課題 はあるものの,本研究で提示したプロセスを踏 むことが望ましいといえる.
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