特別支援教育支援員として心掛けたいこと

特別支援教育支援員研修会
「児童生徒の自立を目指した支援の具体」
~子どもに伝わる言葉掛け~
1 子どもの捉え方
2 9つの言葉の掛け方
3 演習「みんなでスカッと!」
秋田県立支援学校天王みどり学園 加賀谷 勝
どんな言葉を掛けますか?
「何回こぼすの! ごめんなさいは」
「こぼしちゃったね どうしようか?」
共感
適切な行動を考えさせる・教える・一緒に片付ける
子どもの捉え方
~発達段階ごとの特徴と課題~
小学校低学年:集団のルールを学ぶ
・集団活動を通して善悪の判断や規範意識の形成
・美しいものに感動する心の育成
7歳までは模範と規範
根拠のない自信
小学校中学年:友達の結束を大切にして対人関係を学ぶ
・抽象的な思考への適応や他者の視点に対する理解
(他者との違いに気付き、自分に疑問を抱き始める)
からかいやいじめの対象 9歳の壁のハードル
子どもの捉え方1
~発達段階ごとの特徴と課題~
小学校高学年:思春期(自我に目覚め、不安も生じる)
・自己肯定感の育成や他者への思いやりなどの涵養
・集団における役割の自覚や主体的な責任意識の育成
不登校等を含む二次的な問題 告知を考える時期
中学生:青年期前期 反抗期 異性への関心 進路選択
・自己のあり方に関する思考
・社会の一員として自立した生活を営む力の育成
・法やきまりの意義の理解や公徳心の自覚
問題行動の深刻化 言いたいことがあっても言えない
甘えと自立をいったりきたりして成長
子どもの捉え方2
~視点の転換~
困った子ども
子どもを変える
なぜできないの!
やる気がない子
~しかできない子
一人の子の困り感
みんなに同じ支援
→ 困っている子ども
→ 環境を整える
→ 何に困っているのか
→ やり方が分からない子
→ ~があればできる子
→ 周囲の子の困り感
→ 一人一人に必要な支援
子どもの見方を変えて 味方になろう
問題行動の捉え方
~子どもは問題行動で語る~
・発達要求のあらわれ、コミニュケーション
・対象児と環境の相互作用で決まる(ミスマッチ)
・子どもの困っているサイン、最も辛い選択
・一番何とかしたいと思っているのは子ども
・子どもの行動や発言と本音は必ずしも一致しない
・学習されたもの
(誤学習・未学習・不足学習・決定権の誤解)
分からないことがあったら 子どもを見る
行動の原則
・よいことをすれば よいことが起こる ○
・よいことをしたのに 悪いことが起こる ×
何も起こらない
×
・悪いことをすれば 悪いことが起こる ○
・悪いことをしたのに よいことが起こる ×
何も起こらない
○
子どもとの信頼関係
発達の遅れや偏りのある子どもも そうでない子どもも
身に付けさせたい力は同じ 接し方・教え方も原則は同じ
ただし、学びにくさ・教えにくさ
びっくりぽんな情報1
読 む
話 す
聞 く
推論する
書 く
計算力
何度言っても分からない理由
・話を集中して聞くことが苦手
・見えない話し言葉を理解することが苦手
・人と目を合わせることが苦手
・音の弁別・選別することが苦手
・ワーキングメモリーに弱さがある
・言葉の意味理解に課題がある
・こだわりが強い
・人の気持ちや状況を理解して合わせることが苦手
・全体を捉えることが苦手で細部に注目してしまう
脳の多様な機能を
同時総合的に働かせることがうまくできない
子どもに伝わる言葉掛け1
1 分かる言葉で簡潔&具体的に
・絵になる言葉や数字を使う
・五感に訴える
「忍者のように歩こう」 「おへそをこっちに向けてください」
「きれいに片付けなさい」➟
「積木を箱に入れよう」「絵の具と画用紙を片付けよう」
「もうちょっとで終わり」➟
?
「長い針が5で終わり」 「タイマーがなったら終わり」
「あと3問できたらおしまい」
子どもに伝わる言葉掛け2
2 やってほしい行動を伝え、最後はほめて終わ
る
・肯定的な表現はシンプルに理解して行動できる
(否定語は混乱する)
「水を出しっぱなしにしてはダメ」➟「水を止めて」 「ありがとう」
「コップを落とさないで」➟
「コップを離さないで持って」 「できたね」
「低めのボールを打つな」➟ ?
「高めのボールをねらえ」 「いいね」
子どもに伝わる言葉掛け3
3 指示は一度に一つ
・活動中に複数の情報を理解して処理することが
難しい
「算数の教科書を出して、27ページの問題の1問か
ら5問までノートに写して、答えを書いてください」
「算数の教科書を出してください」
「27ページを開いてください」
「問題1から問題5まで ノートに写してください」
「じゃあ、1問目から 解いていこう」
子どもに伝わる言葉掛け4
4 穏やかにCalm・近付いてClose・
静かにQuiet
・近付いて、視線を合わせて、静かな声で穏やかに、名
前を呼んで 「○○○○」 (大声は伝わらない)
5 視覚情報を併用す 担任と支援員のPDCAハンドブック
る・見て分かる情報を見えるように伝える
P4
身振り手振り イラストや写真 具体物 文字や数字
子どもに伝わる言葉掛け5
6 事前の声掛けでやるべきことを明確にす
る
・行動の前の状況を変えれば、適切な行動に変わる
・事前指導と予防的対応を大切にする
「教室に戻って最初にやることは? そうだね次は?」
「あと5分で 終わりだよ」
7 能力や結果よりも努力の過程や部分に注目
する
・結果や出来映えだけでなく、「今」をほめる
「頑張っているね、それでいいんだよ」
「間違ったところを直すことができたね」
「木を細かく描いてね」
子どもに伝わる言葉掛け6
8 よかったことを届くように伝える
・どのようにやればうまくいくのか捉え直しをする
・努力が結果に結び付いていることを伝える
「えらい」➟「イライラしたとき、深呼吸すると落ち着くんだね」
「毎日欠かさず漢字練習をしたから90点取れたね」
9 選択肢を示して選ばせる(やってほしいことを2つ提示)
・自分で選択すると実行に移しやすくなる
「宿題やる? やらない?」 ➟
「漢字と計算どっちやる?」
「9時からやる?それとも9時10分からやる?」
びっくりぽんな情報2
男女別の言葉の掛け方
男の子は「根拠」「具体的」
・「転校してきたばかりだから 一緒に遊んでね」
・「一人でブロックを片付けたね さすが!」
S(さすが) O(お願い) S(すごい)
女の子は「情緒」
・「あの子は一人ぼっちで 寂しそうでしょ」
・「みんなのためにブロックを片付けてくれて、優しいね」
A(ありがとう) U(嬉しい) T(助かった) O(おかげで)
ケース1
思い通りにならないと不安定になる
・100点を取れないと不安定になってテストを破ることが
あります。また、友達のアドバイスに、バカにされたと思
って暴言を吐いたり、手や足が出たりします。
どのように対応しますか?
ケース1
思い通りにならないと不安定になる
〈予想される困り感の背景〉
・勝負へのこだわりが強い
・白黒思考、完璧主義、自分が一番という考え
・自分の気持ちをうまく言葉で表現できない
・気持ちのコントロールが難しい
・人の気持ちや状況が理解できない
・振り返る力が弱く、多面的な自己理解が難しい
担任と支援員のPDCAハンドブック P7
[行動・情緒面]
ケース1
思い通りにならないと不安定になる
1 想定外を想定内にする
・事前に分かる場合は、「○個間違いがあったよ」と伝え、心の準
備をさせる(予告)
・満点でなかったらどうするか、いくつか選択肢を与え、リハーサ
ルをする(予測と対処)
・少しでも我慢できたときを見逃さないで評価する(部分をほめる)
・新しい価値観を教える(一番にこだわらないゲームを体験する)
2 共感しながら気持ちを切り替える
・話を聞く(状況を振り返る)→相手の気持ちを見えるように伝え
る→すりあわせをする・新たにポジティブな意味付けをする
・調子のよいときに、暗黙のルールや適切な行動を伝える
・静かな場所に行き、落ち着いてから気持ちを言葉で表現させた
り、代弁したりして、共感しながらも望ましい行動を教える
相手の気持ち > ごめんなさい
社会性を高める支援1
1 物事の捉え方を修正して感情や行動を変える
○
or
and
×
半分しか入っていない
半分も入っている
「こっちのやり方がいいよ」と言われた
マイナスのシナリオ 「バカにされた」
プ ラ ス のシナリオ 「心配してアドバイスをしてくれた」
社会性を高める支援2
2 怒りと不安をコントロールする
深呼吸 おまじない 水を飲む
ミサンガやハンカチに触る
別室で休む ヘルプサインを出す
感情を数値化する
3 100点取れなかった場合の対処法を決めておく
ア イライラしたら 深呼吸する
イ 間違ったところを支援員の先生と直す 家でやり直す
ウ どうしても不安なときは 落ち着くまで 保健室で休む
ケース2 書くことが苦手
・黒板の文字を書き写すことが苦手で、時間がかかり
ます。机に伏せ、書きたがらないときもあります。
どのように対応しますか?
ケース2
書くことが苦手
〈予想される困り感の背景〉
・注意して見る、文字の形を捉えることが苦手
・文字の形を正確に記憶することが苦手
・文字の表す音と文字の形を結び付けて記憶することが困難
・音の聞き分けが苦手(ラクダ→だくだ ライオン→だいおん)
・目と手の協調した動作が苦手、不器用さがある
・空間認知が弱い
・文字を思い出して書くことが苦手
・指の力の入れ加減がうまくできない、運筆がぎこちない
・書くことの苦手意識が強く、学習意欲が低下している
担任と支援員のPDCAハンドブック P7
[書く]
ケース2
書くことが苦手
〈学級全体への支援〉
・板書をノートに写す時間を保障する
・板書計画と子どもたちのノートを一緒にする
・チョークの色分け、線で囲む等の工夫をする
・聞くと書く活動を区別する(一時一作業)
・ワークシートを活用して視写する量を減らす
・漢字練習は大きな見本を用意する、一つのマスが四
分割されている黒板やノートを使う、「教師が見本を示
す→空書き→ドリルに書く」とパターン化する
・解答欄を拡大する等、数種類のプリントを用意して子
どもが選べるようにする
ケース2
書くことが苦手
〈個別の支援〉
・鉛筆やノートなど、使いやすいものを用意する
・書き写す量を調整したり、板書計画を手元において書か
せたりして書く負担を減らす(付箋やメモ用紙に書いて渡す)
・事前に書く量・範囲を決めておく(線で囲んだところ)
・文字カードを準備していつでも見られるようにする
・言葉で意味付ける
書き順を 「いち・に・さん・・・」「横・縦・・・」
「親は木の上に立って見る」「日が暮れて音しか聞こえないから暗」
・書き順や文字の形にこだわらず、できているところをほめる
・ノートの1ページ目を丁寧に書くようにする
目立たないように さりげなく
具体的な支援(書く)
「花」
草が化けて
花になる
ケース3
周囲の子どもの理解推進
・支援員の先生がいることで、その子がいじめや
からかいの対象にならないようにするためには
どのような配慮をしますか?
担任と支援員のPDCAハンドブック P2 ⑥
ケース3
周囲の子どもの理解推進
1 子どもの努力や願いに共感できるように
・支援対象児が頑張っていることやみんなと仲よく関わりたいと
願っていること、「△△が苦手だから応援して」と、具体的な姿
に即して伝える
2 周りの子どもが不公平感をもたないように
・困ったときは誰でも支援を受けられることを伝え、「みんなの先
生」を宣言する(特別な支援を当たり前な支援へ)
・一人一人が「かけがえのない自分」を実感できるように、周りの
子どもと関わる(ラブラブメッセージを伝える)
3 指導者がよきモデルとなるように
・支援対象児に対する指導者の見方、関わり方が周りの子ども
に伝染するので、適切な関わり方を実際に示す
・日頃から子どもの強みやよい面を伝える(元気な○○さん)
ケース3
周囲の子どもの理解推進
ある支援員の先生
・子どもと一緒に活動し、一緒に楽しんでいる
・分からないことは、周りの子どもに聞いている
・子どもの興味あることで気分転換を図っている
・命令しないで、自己選択できるようにしている
・子どもの話はじっくり聞き、受け止めている
・昨日までできていたことをしない、友達に暴言を吐く
など、わがままなのか、苦しさを訴えているのか判断
のつかないときは自分をコントロールして、「穏やかな
気持ち」で接するようにしている
※休み時間や給食の時間など、自分から担任に声を掛
けている 担任と支援員のPDCAハンドブック P2 担任との連携の例
びっくりぽんな情報3
A
B
人はマイナス面に目が向くので
子どものよいところを見ようとする気持ちを持ち続ける
まとめにかえて
・私にとって最も辛いことは、みんなができることができないこと
ではなく、できない気持ちを分かってもらえないこと。
・心が通じるとは、自分の思いを相手に理解してもらうことでは
ない。自閉症の人に対して、伝えたいことが伝わらないのは、
言葉が通じない理由だけではない。相手が心を開こうとしてい
るのか、相手も自分と同じように心を通わせたいと考えている
のか、そのことを忘れてはいないか。
・僕は人に伝えることができる以上のものを感じられる。一番感
じるのは、あなたが「僕にできる」と思っているかどうかだ。
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