保護者の困り感に寄り添った支援

「保護者の困り感に寄り添った支援」
1 保護者を取り巻く状況
2 面談のポイント
3 Q&A
保護者の言葉
「子どもを可愛いと思ったことがない」
(小2 母親)
「子どもとスキンシップがとれなかった」 (中1 母親)
「やられたら やり返せ!」
(年長 母親)
「連絡帳を見て晩ご飯抜きにします」
(年長 母親)
「もうその子と遊ばせないでください」
(年長 母親)
保護者の言葉
「どうしてできないの!」 「なぜ早くやらないの!」
自分でも言い過ぎなのは分かっているけれど・・・
「同居している義父母には、孫が自閉症であることを伏せ
ているので、内緒で訓練に通っている。」
「東京の大学病院で自閉症と診断された。お父さんが一緒
に勉強して育てようと言ってくれて前向きになれた。」
「園や学校からの電話が怖かった。いつも周りの人から
ら責められているようで、孤独だった。」
同じ経験を積んでいないので
100%理解し合えることは難しい
保護者を取り巻く社会の変化
・少子化(一人の子どもに集中・期待→プレッシャーへ)
・核家族化(人と関わる経験不足 本物の体験が少ない)
・地域社会のつながりの希薄さ(井戸端会議ができない)
・家庭環境の複雑さ
・養育環境の弱さ(虐待、ネグレクト)
・夫婦の会話の少なさ
・育児に関する情報量の多さによる混乱
子育てに不安を感じている保護者が増えている
孤育て
保護者の困り感
・子どもが「困っている」ことを理解できない
・「わがまま」「やる気がない」「努力不足」と思って叱る
・「親の育て方が悪い」と言われて自信をなくす
・誰も味方がいない(孤立感・孤独感)
教師 隣近所 夫 親(子)➟すべて敵
・周囲にあやまることが重なり、子どもの気持ちを聞く
「余裕」がなくなる
親の二次障害
自信喪失 自己防衛(人の言うことをきかなくなる)
虐待につながる 躁や鬱になる
保護者の意識の変化
~障害受容の段階的モデル(ドローター)~
先天奇形がある子どもの
不安・悲しみ・絶望感
親の心情の変化
ドクターショッピング
怒りをぶつけながら
訓練に必死になる
安定してくる
新しい生き方・希望
保護者の意識の変化
慢性悲哀説(オーシャンスキー)
悲哀や悲嘆が常に内面に存在する
周囲の人にとって喜ばしい出来事、家族のライフ
サイクルで起きる出来事をきっかけになる
「わが子に障害があると告知されて以降」
ことばを話すようになる時期
就学時
思春期
高校進学時など
家族の就職・結婚・転勤・老齢化など
節目節目で感じる不安な思い(自然な反応)
保護者の意識の変化
新堀和子「職業的課題と対応方法」2011年
障
害
の
受
け
止
め
の
レ
ベ
ル
未
認
知
の
時
期
(
先
送
り
)
悩
み
の
時
期
(
一
番
苦
し
い
)
揺
(
オれ
ー
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ズ
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や
受む
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めず
る
時
期
保護者や本人の意識の変化
積
求極
め的
るに
時支
期援
を
保護者の意識の変化
~保護者の揺れ動く思い~
「いろいろな説の統合」
障害受容の螺旋系モデル中田洋二郎(1995年)
障害を否定する気持ちと肯定する気持ちがコインの
表裏のように共存し、状況に応じてどちらかの感情が
起こる
障害受容の過程は個々に異なり、らせん
階段を登るように、行ったり来たりして
少しずつ適応へと進む
目の前の保護者の
そのときの心情に寄り添う
保護者の4つのハードル
第1のハードル : 障害が発見されたとき
– なぜ、うちの子だけ? そんなはずはない!
第2のハードル :就学の時期
– 期待よりも不安が大きい!
第3のハードル : 卒業の時期
– 期待よりも不安が大きい!
第4のハードル : 親が高齢者になったとき
– 親亡き後のことが不安!
ハードルをステップに!
伝わりにくい4つの理由
1 保護者に「正しく理解されていない」
・専門用語を使っていないか 回りくどい言い方 まとまっていない
2 保護者が「理解したくない」
・言われなくても分かっている、理解して対応してきたという疲労感
3 子どもの状態像の「理解に差がある」
・活動する場所、人、内容によって異なる
4 保護者が発達障害そのものを「理解できていない」
・見えない障害だから分かりづらい
「伝える」と「伝わる」は違う
不適切な伝え方
1 立ち話のついでに子どもの様子を伝える
・心の準備ができていないのでショックを受ける
2 専門家のコメントをそのまま伝える
・専門家がうちの子のことを理解しているはずがないと反発する
3 障害名を使って話す
・「この先、成長することがないのだ」と重く受け止めてしまう
4 無理に子どもの状態に目を向けさせようとする
・子どもの状態を直視したくない気持ちが強い
5 周りが困っていると伝える(困っているのは子ども)
・わが子はやっかいな存在と感じて孤独感を強める
伝わらないことで起こる誤解・混乱を回避する
面談中の保護者
・ 一方的に話すことが多い
・気持ちが揺れ動いている
・一人で悩みを抱えている
・自分を責める傾向にある
・障害を受け入れたくない
・よい評価にすがりたい
・夫婦であっても思いが食い違うこともある
・たくさんの情報(相談機関・就学先等)を知りたがっている
・後押ししてくれる人、不安を分かち合える人を求めている
・第一子、第二子・・・
・家族構成、家族の理解や協力
・障害、特性の状態
・地域性
・性格、受容の程度
保護者のおかれている立場を考慮
面談で配慮すること
・内容・場所・メンバー・終わりの時間を確認する
・複数で対応する(連帯感が安心感に 事前に承諾を得る)
・情報提供をするが結論は急がない(早急な助言は反発を招く)
・共感と肯定的な表現を心掛ける(頑張りやよいところを伝える)
・かみ合う部分を探す(共通点・同じような体験)
・就学や進路と結び付ける(常識にとらわれない)
・細かい記録は取らず、あとで整理する
・期間を設けて評価し、変容を基に次の支援を提案する
人は説得されて動くのではなく
納得して(感情)動く
話しやすい状況づくり
1
2
3
4
5
6
7
えがお
~聴き上手のあいうえお~
笑顔(雰囲気を和ませる 最高のコミュニケーションツール)
アイコンタクト(目線を相手の目元、頬から首の辺り 目で聴く)
姿勢を正す(人は態度で判断 腕・足組みは拒絶のシグナル)
うなずく(もっと話してほしい 理解しているというメッセージ)
相づちをうつ(話を引き出す効果がある なるほど・へえー・それで)
表情・動作・言葉を合わせる(心を開くきっかけとなる)
キーワードを復唱する(伝わっている喜びを実感できる)
オーム返し
非言語メッセージが相手の心を揺さぶる
身体の変化を見抜いて 心の動きを読む
相談のポイント
~口は一つ 耳は二つ~
人はそもそも他人の話を聴いていない
一人一人独特の考え方をもっており、独特の翻訳機をつけて、相
手の言ったことを自分の都合のいいように翻訳して聴いている
(聴いてほしい・分かってほしい・認めてほしい)
聴くことは一石三鳥
・子どもの情報や保護者の心情を知ることができる
・保護者の存在を肯定する
・保護者とよい関係を維持できる
聴いてくれる人に 信頼を寄せる
Q&A
Q
A
子どもの状態に気付いていない保護者に
どのように 様子を伝えたらよいか?
・伝える必然性があるかどうか 園・校内委員会で共通理解を図る
(伝える意図が保護者と共有されていないとボタンのかけ違いが生じる)
・誰が、何を、どのように伝え、伝えた後の支援内容も明確にする
誰:管理職、学年主任、コーディネーター、担任等
何をどのように:気になる様子を具体的に伝える(作品等を提示)
家での様子や子どもへの接し方も聞く
伝えた後の支援:期間を設けて支援・評価する(指導計画の作成)
関係機関には何回か評価・面談した後に考える
※フリー参観日を設けたり、関係機関と連携を図ったりする
保護者が気付く以前に他人から障害を指摘されると診断時と
同じショックを受ける
はじめに時間をかける
Q&A
Q
関係機関につなぐ場合、どうしたらよいか?
A
保護者に動くように依頼するのではなく、園・学校としてどう対応し
ていいか分からないので、関係機関に相談に行きたい、専門家の
話を参考にしたいと、自分を主語にし、園・学校も動くこと、一緒に
考えること、困っているのは子どもであることを前提に話す
指導者側の困り感だけで勧めない
「念のため」という言葉を忘れずに
子どもの様子を記録した資料を渡す
保護者の同意があれば一緒に行く
薬物療法は対症療法・補助的手段、環境整備が大切
Q&A
Q
保護者自身も発達的な課題がある場合の対応は?
※ADHDの子どもの両親・兄弟には25%のADHD者が認められた
両親のどちらかがADHDであれば子どもにADHDが現れる確率は最大50%
A
・子どもと同じ傾向があれば、保護者は子どもの特性に気付くこと
が難しいことが多い
・わが子のことで本を読んだり、専門家に話を聞いたりする機会が
増え、自分で気付くこともある
・診断名にこだわらず、保護者の特性を知った上で十分に話を聞く
・「はさみを使った活動が苦手➟線の上を切ることが難しい➟家庭
でもはさみを使った遊びを取り入れてください」
問題を一つずつ取り上げて具体的・視覚的に伝え
Q&A
Q 特別支援学校や特別支援学級への進学を
拒否する場合は?
A
・子どもの就学を考える上で、重要なことは、どのような教育を受
けさせることが子どもの力を最大限に伸ばせるか、子どもが安心
して学べる環境になるかについて、子どもの特性に合わせて考
えていくこと
・それぞれのよさを伝えた上で、実際に見学することを勧める(保
護者が不安であれば担任も同行する)
・十分に話し合っても変わらなければ、保護者の意向を尊重する
説得ではなく 納得できるように!
まとめ
「理解は偶然に起こり、誤解は必然に起こる」
直接会って話し合う
主語と数字をはっきり伝える
共感的な態度で接する 「聴き上手+観察上手」
自信をもって子どもと関わる姿を見せる
ホッとできる言葉を掛ける
かみ合う部分を見付けて信頼関係を築く