近代的な家族像を作り上げたジャン=ジャック・ルソー

ルソーが批判した産着
ルソーについて話す前に
バダンテールによる18世紀および
ルソー研究の紹介
「母性本能の起源と解体」『現代思想』1980
年12月号
ジェンダーと文明
第7回
ジャン=ジャック・ルソー(1712年生まれ)
『エミール』第5編 ソフィー(1762)
(冒頭のテクストを読むpdf)
『新エロイーズ』
近代家族像をつくりあげたルソー
現代から見れば反フェミニスト
ルソーは18世紀フランス社会の
堕落への批判者
パリの社交界の堕落(「現代の習俗の腐敗」「
大都会においては、退廃は人が生まれるとと
もに始まる」
子どもへの無関心への批判(母親の手で育
てられなかったすべての女性は、自分の子ど
もを育てるのを好まない」
「真に家庭の女たるものは、社交界の女性で
あるどころか、・・・自分の家に引きこもってい
る」(いずれも『エミール』第5編)
ルソーの女性論は現代から見ると
アンチ・フェミニスト
『エミール』第5編(ソフィーについて)1762年
エミール第5編 ソフィーについて
いくつかの引用
ソフィー 理想の女性像(男にとって)
女性は男性のためにつくられている
ばあやと女の子の会話
(後述)
性における 男性=能動 女性=受動 (こ
の図式はのちにフロイトが言うのと同じ)
男性が一人でいるのはよくない。エミールは
もう男性なのだ。(中略)彼に妻をあたえねば
ならない。それがソフィーである。
ソフィー 15歳
性にかかわりのないすべての点において、女
性は男性である。同じ器官、同じ欲求、同じ
能力をもつ。(中略)両者のあいだには程度
の差しかない。
性にかかわりのあるすべての点において、女
性と男性はいたるところに類似があり、いたる
ところに相違がある。
最初の相違
一方は能動的で強く、他方は受動的で弱くな
ければならない。
一方は意志と力をもたねばならない。他方は
それほど抵抗しないだけで十分である。
この原則が確立されれば、女性はとくに男性
に好かれるために作られているということに
なる。
性の結果については、両性の間はけっして平
等ではない。
子どもに授乳するためには家にいて体を動か
さぬ生活をせねばならず、子どもを育てるに
は忍耐とやさしさがなければならない。
両性の相互の義務の厳格さは同一ではない
し、同一ではありえない。
夫の子でない子どもを夫に与えて、夫も子ど
もも裏切り、不実に背信を加えるのだ。
だから、妻は貞節であるだけでなく、(中略)
貞節だと判断されることが重要なのである。
女性に固有の使命は子どもを生むことなのだ
。
両性に共通な能力はすべて、両性に平等に
分けあたえられているのではなく、(中略)補
い合っている。
女性がどんなことにも無知であるように育て
られ、家事の務めだけに限定されるべきだ、
ということになるだろうか。(中略)もちろん、そ
うではない。(中略)彼女たちは、多くのことを
学ぶべきだが、彼女たちが知るのにふさわし
いことのみを学ぶべきなのである。
かくて、女性の教育はすべて男性にかかわら
せて考えられるべきである。男性に好かれ、
男性の役に立ち、男性から愛され敬われ、
幼いときは育て、大きくなれば配慮を尽くし、助
言し、慰め、その生を快い甘美なものとすること
、それこそいついかなる時にも女性の義務であ
り、女性に子どもの時から教えるべきことなの
である。→良妻賢母の思想
ばあやと女の子の会話
ばあや:女の子は大きくなると、なにになるの
ですか。
女の子:お嫁様になります。
ばあや:そして、お嫁様はなにになるのです
か。
女の子:お母様になります。
悪い母親
1自分の子供を愛さない、つまり優しさの欠如
2エゴイスト、子供のために自分を犠牲にしな
い
3労働する女性
知識人の女性を非難(献身、犠牲がない)
ソフィーからジュリーへ
ルソー的近代家族
(ヴォルマールの家父長的な眼、ジュリーの
愛による家族経営=小さな共同体=理想社
会)
(吉岡知哉、ジャン=ジャック・ルソー論)
ジュリーとその家族
小説の舞台(大都会パリではなく、スイスの片
田舎、退廃した都市/無垢な自然)
無神論者の夫 ヴォルマール
二人の子ども(小説に子どもが家族の重要な
要素として登場するのは初めてか?)
そしてぶどう園で働く人々(農園経営者と労働
者の関係は主人と奴隷ではない。)
→小さな共同体=家族(核家族を中心とする
大家族)
18世紀フランス
ルソーの『エミール』のソフィー、『新エロイーズ』
のジュリー
 近代的女性像(近代的家族)の確立

 『エミール』第5編における女性の理想像(ソ
フィー)は18世紀後半から200年にわたる近
代的家族のモデルとなるが、現代のフェミニ
ズムから見れば、悪の根源
 フロイトに引き継がれる女性像
ジャン=ジャック・ルソー(1712-
78)
 アンチ・フェミニスト
 近代的家族像を提示、男は外、女は内
 『エミール』の妻になるソフィー
 フランス革命後の女性観に強い影響
 ルソー、ヘーゲル、フロイトの系譜(男性中心
主義)
ルソー (続き)
 科学、語学,神学、歴史は彼女にとって無用
なだけではなく、有害である。
 彼女が知るべきことは家事の技術と針仕事
だけである。
 彼女には話し手を喜ばせる才気だけが必要
だ。
 男性は外、女性は内、これこそ自然の法則で
ある。
バダンテール『ふたりのエミリー』
ルソー継承と批判
– ルソーの継承者:デピネ夫人
– ルソー批判:ウルストンクラフト
学問に生きたシャトレ侯爵夫人(1706-49)
ヴォルテールの恋人、ニュートンの翻訳者
子供の教育に熱心なエミリー(デピネー夫人)、ルソー
の影響
三つの従属
子供に服従する母性
夫に服従する結婚生活
社会規範に従属する社交界生活
女性解放の主体
ルソーの人間解放の中心:小生産者層(自然
状態に近い、自由・独立の生活の原型)
経済的自立を基盤とする
中産階級の女性に焦点
ここまでルソー
エルベシウス
Helvetius
1715-71
すべての人間は、生得的素質において平等であり、
個性の差はただ経験と教育と社会環境の結果にす
ぎない。
同じ大脳-同等の思考力
無神論者
富の適切な配分
封建的な法と統治形態を批判
72年、『人間論』
靴下のマニファクチュア(ボレ)
コンドルセCondorcet
本物のフェミニスト
コンドルセ(1743-94)
女性の欠陥ー教育や生活条件により形成
92年、「公教育の総組織に関する報告と布告の草
案」-女子にも男子と同水準の教育を男女共学で
行なうべき
95年、「人間精神進歩の歴史的素描」-フランス革
命を人類進歩の最高の到達点と見る。楽観的歴史
観、人間の無限の完成可能性、ヨーロッパ世界に特
殊な思想
リセの創立(アリストテレスの学校リュケイオンから)
男女共学
イギリスのオーエン
ウィルダースピン(1792-1866)
1870年代
– 男女共学、義務教育、無償、宗教的に中立の小
学校の設立
イギリス市民革命と女性
市民革命から18世紀末までのイギリス
地主的市民階級が主導
家父長制
ロックLocke(1623-1704)
「最終決定権、すなわち(家庭のなかで)命令
権がどこかに置かれなければならないが、そ
れは有能で強力な者としての男性の手にお
のずから帰する。」
矛盾
ルソー、ロック
政治原理=民主主義(自由、平等):公
家族制度=家父長制(強者の論理):私
イギリスの女性教育
市民階級の上昇の手段は娘の結婚
寄宿学校
– ダンス、音楽、フランス語(男性とつきあい、男性
の気を引く趣味的教養。知的教育は無視された)
1739
ソフィア『女性は男性より劣等ではない』
反論として無署名
『男性は女性よりすぐれている』
紳士
地主的市民階級の理想の紳士(庶民を支配
する階級の呼び名)
家柄ではなく、土地を持っていること
地方行政の担当者(治安判事)か
中央の国会議員、上級官吏、外交官、軍人
紳士
学問的知識を拒絶
経験的知識、礼儀作法、しつけのよさを尊重
→女性=社会で活動する男性に休息の場と
しての家庭を提供(「棚の上に飾られた陶
器」)
→ウルストンクラーフト(最初の理論的フェミ
ニスト)による批判の対象