債権総論 練習問題 名古屋大学大学院法学研究科教授 加賀山 茂 練習問題1 自衛隊員Aは、昭和40年7月、自衛隊の車両整備工場で車 両整備中、大型車両を運転していた同僚Bの過失により、 その車両に轢かれて即死した。 Aの両親X1X2は、翌日これを知らされ、国家公務員災害補 償金の支給を受けたが、自衛隊幹部から、自衛隊員は、国 に対して訴えを起こすことができないとの説明を受け、自賠 法に基づく損害賠償請求を行わなかった。 ところが、弁護士から、自衛隊員も国に対する損害賠償を 請求できることを聞き、昭和44年10月、国Yに対して、自賠 法3条、および、安全配慮義務違反に基づき損害賠償を請 求した。Xらの請求は認められるか。 もしも、請求が認められるとして、それは、不法行為上の損 害賠償請求権か、信義則上の債務不履行に基づく損害賠 償請求権か。 安全配慮義務 最三判昭50・2・25民集29巻2号143頁 国は、公務員に対し、国が公務遂行のために設置すべき場所、施設もし くは器具等の設置管理又は公務員が国もしくは上司の指示のもとに遂 行する公務の管理にあたって、公務員の生命及び健康等を危険から保 護するよう配慮すべき義務(以下「安全配慮義務」という。)を負っている ものと解すべきである。 右のような安全配慮義務は、ある法律関係に基づいて特別な社会的接 触の関係に入った当事者間において、当該法律関係の付随義務として 当事者の一方又は双方が相手方に対して信義則上負う義務として一般 的に認められるべきものであつて、国と公務員との間においても別異に 解すべき論拠はな[い]。 国に対する右損害賠償請求権の消滅時効期間は、会計法30条所定の5 年と解すべきではなく、民法167条1項により10年と解すべきである。 債務不履行責任と 不法行為責任 債務不履行責任 第415条〔債務不履行〕 第167条〔債権・財産権の消滅時効〕 債務者カ其債務ノ本旨ニ従ヒタル履行ヲ為ササルトキハ債権者ハ其損害ノ 賠償ヲ請求スルコトヲ得債務者ノ責ニ帰スヘキ事由ニ因リテ履行ヲ為スコト 能ハサルニ至リタルトキ亦同シ ①債権ハ10年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス ②債権又ハ所有権ニ非サル財産権ハ20年間之ヲ行ハサルニ因リテ消滅ス 不法行為責任 第709条〔一般不法行為〕 故意又ハ過失ニ因リテ他人ノ権利ヲ侵害シタル者ハ之ニ因リテ生シタル損害 ヲ賠償スル責ニ任ス 第724条〔損害賠償請求権の消滅時効〕 不法行為ニ因ル損害賠償ノ請求権ハ被害者又ハ其法定代理人カ損害及ヒ 加害者ヲ知リタル時ヨリ三年間之ヲ行ハサルトキハ時効ニ因リテ消滅ス不法 行為ノ時ヨリ二十年ヲ経過シタルトキ亦同シ 練習問題2 Y1 , Y2 , Y3が,Xに対して連帯債務を負 い,負担部分は,それぞれ,300万円,200 万,100万円である。 Y1 が,Xに150万円の弁済を行った場合, Y1 は,他の連帯債務者に対して求償をす ることができるだろうか。 できるとしたら,いくらの額を求償できるか。 相互保証モデルによる連帯 債務の性質の図解 Y3 Y2 Y1 Y1 Y3 Y1 Y1 Y2 Y2 Y2 X Y3 Y3 練習問題3 Xは, Y1 , Y2 , Y3が連帯して債務を弁済 することを条件に,それぞれに,300万円, 200万,100万円を貸し付けた。 その後,Y1 の経営が不振となったため,気 の毒に思ったXは,Y1 に対して,連帯債務 の半額を免除することにした。 Xは, Y2 , Y3に対して,それぞれ,何万円 の弁済を請求をすることができるか。 相互保証モデルによる免除 (民法437条)の図解 Y3 Y2 Y1 付従性による 消滅 Y3 Y1 Y1 Y2 Y2 全額免除 (Y1の負担部分の免除 と連帯の免除) X Y1 付従性による 消滅 Y2 Y3 Y3 練習問題4 妻Y1と男性Y2とが不倫したため、婚姻関係が破 綻し、夫Xと妻Y1とは離婚した。そして、Xは、妻Y1 と男性Y2とを相手取って、連帯して慰謝料100万 円を支払えとの損害賠償請求を行った後、妻に 対しては、損害額を半額に免除するとの通知を 行った。 その場合、Xは男性Y2に対して、100万円の損害 賠償全額を請求した。この場合,Xの請求はどの 範囲で認められるか。 共同不法行為と不真正 連帯債務 最一判平6・11・24判時1514号82頁 民法719条所定の共同不法行為者が負担す る損害賠償債務は、いわゆる不真正連帯債 務であって連帯債務ではないから、その損害 賠償債務については連帯債務に関する同法 437条の規定は適用されないものと解するの が相当である(最高裁昭和43年(オ)第431号 同48年2月16日第二小法廷判決・民集27巻1 号99頁参照)。
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