Neue Fahne Journal

No.121
2016.3.7
ノイエ・ファーネジャーナル
Neue FahneJournal
[発行元]株式会社ノイエ・ファーネ
〒101-0046 東京都千代田区神田多町2-7-3 三好ビル2F ℡.03-5297-1866
http://www.n-fahne.jp
現場マネジメントが
会社組織の帰趨を決する
(1)
― 現場マネジメントの範囲と問われる“安全配慮義務” ―
株式会社ノイエ・ファーネ
代表取締役
本間 次郎
(ほんま
じろう)
1954年生まれ。大学在学中より出版・編集業務に携わり、卒業と同時に出版・編集業界にて、主に労働経済関係を
フィールドとし取材・執筆、編集業務に携わる。中小企業経営者向け経営専門誌の編集、人材教育・研修ツール等
の作成および人事・組織コンサルティング業務を経て㈱ノイエ・ファーネを設立。
“即戦力人材”の渇望と
育成・教育の矛盾
るだけでは済まされない。なぜならば、 くことが、職場における多様な雇用形
こうした事柄は年を追うごとに現場マ 態の存在に対する適切な対処と相まっ
ネジメントの力量不足を露呈すること
になっているからだ。現場から発せら
れる新入社員をはじめとする若手社員
て、これからの現場マネジメントにとっ
て大きな課題となってくる。
現場マネジメントの
範囲と労務管理
3月1日から2017年新卒採用の企業広
報が解禁された。もっとも「解禁」と
への揶揄は、現場マネジメントの側に
人材育成に対する意欲と責任に対する
は経団連の“就職協定”であり、現実
的に機能しているわけではない。とこ
概念の欠如を表出していると見ること
もできる。
ろで、今も昔も新入社員の採用や配属
の時期になると現場マネジメントの側
さらにいえば、育成は現場の責任で
あり“実際に育成を司るのは現場マネ
から発生られる常套句がある。それは
“なぜ、こんな新人を採用したのか”
ジメントの役割である”という自覚や
覚悟が忘れ去られ始めていると危惧さ
“いったい新入社員研修で何を教えた
れるからだ。ただし、これは現場の管
できた。また、指導と非指導の関係も
ある意味で確立していたために「長期
のか”と採用や研修担当者に対する愚
理職だけの問題ではない。今日、あら
ゆる企業で新卒・中途を問わず“即戦
的な育成」という課題も成立していた。
直裁にいえば高度成長期の枠組みであ
この時期になると新入社員の奇異的な 力人材を求める”という風潮が、育成
行動や発言が面白おかしく紹介される。 や教育という概念を単なるコストと位
る。これは雇用形態が比較的単純であっ
たからである。しかし、今日では企業
一昔前であれば「今年の新入社員は〇
〇型」という類だ。
置付けてしまうことになり、現場から
育成・教育への意欲を減退させること
規模の大小に関わりなく、一つの企業
もっとも新入社員の側からは既存社
員とりわけ中高年の会社組織への安住・
に繋がってきた当然の帰結でもある。
いている。いわゆる「正社員」と呼ば
れる「無期雇用契約」の従業員と「有
期雇用契約」として働いている契約社
痴や不満である。また、相も変わらず
依存意識や指導性の欠如に対する不満
さらにいえば現場マネジメントの範疇
に現場での育成や教育が含まれるとい
1990年代初頭までの現場マネジメン
トの対象範囲は、「従業員」と「使用
者側」という枠組みでとらえることが
内にさまざまな雇用形態の人びとが働
が発せられるのも常となっている。こ
のため新入社員と既存社員の双方から
う意識を復権させていく必要がある。
の揶揄の応酬は、お互い様でこの時期
材”を渇望しなければならない現実と、 さらには派遣会社から派遣されてく
一方で人材に対して恒常的に“育成・ る派遣社員や特定の業務を遂行するた
の風物詩になっている感もある。
しかし、こうした一見すると世代間
の相違と語られがちな事柄を嗤ってい
企業組織が職場において“即戦力人
教員”を施す必要性はある意味で矛盾
でもある。この矛盾を解きほぐしてい
- 1 -
員や短時間のパートタイマーやアルバ
イト社員の存在だ。
めに企業と業務委託契約を結んでいる
外部関係者なども存在している。この
ため、職場から育成・教育という概念
が薄れてきた。今後ともこうした雇用
るための前提条件ともなっている。
現場マネジメントが意識しなければ
確かに管理部門としての労務管理業
務は、この種のルーティン業務が存在
形態の人びとが一つの職場に混在する
ケースは増加することはあっても減少
することはない。一方で今後職場マネ
ならないことは、「会社で発生してい
ることは、全て自らに関わりがあるこ
と」との認識だ。これは現場マネジメ
する。一方でこの種の業務を丸ごとア
ントソーシングすることも可能で、実
際に既に多くの企業はこの種の業務を
ジメントにおいては外国人の雇用も一
般化し、ジェンダーやLGBTへの対
ントが職場での労務管理課題を決して
人事部に責任転嫁してはならないとい
「アウトソーシング」している。この
事が現場マネジメントの側に労務管理
処が迫られるなど新たな課題も増加し
てくる。この20年間で現場が抱えるマ
うことでもある。極端な例でいえば勤
怠管理一つとっても現場のマネジメン
をマネジメントとは遠い存在として位
置付ける傾向を助長する結果にもなっ
ネジメント機能は複雑性を超えて混沌
さを増してきたといっても過言ではな
トの質と姿勢が問われることになる。
ていた。
しかし、現場マネジメントでは労務
い。
この混沌とした現場マネジメントの
前線に立つ今日の管理職層は、個々の
現場マネジメントと
人事マネジメントの融合
管理を文字通りマネジメント業務の根
幹に据えなければならない時代に入っ
ている。マネジメントとは単に人材を
管理職によって温度差はあるものの基
本的に高度成長期の管理職によって入
現場の管理者層の役割は所管する部
コントルールするという意味ではない。
あくまでも共通の目的に沿った協働意
社以来指導されてきた。このため、自
らが若かりし頃に指導された高度成長
下にあらゆる意味で「正しいことを行
わせる」という、“たった一言に尽き
欲を形成することに寄与しなければ意
味がない。先に上げた「アウトソーシ
期の手法や意識から脱し切れていない。 る”といっても過言ではないだろう。
むしろ、当時の先輩や上司からマネジ 労務管理はその前提条件であり、これ
ング」できる業務は、単純にコントロー
ルの範疇に属するものであり本来的な
メント手法をしっかりと受け継いだが
故に今日職場マネジメントに必要とさ
れる労務管理視点が抜け落ちている危
を曖昧にしていては会社の業績向上な マネジメント概念とは別次元の事柄で
どはあり得ない。企業組織の維持と発 ある。
展には組織モチベーションが不可欠で、 現場マネジメントが行う労務管理と
険性もある。
あえて乱暴な表現を用いるならば自
個々人のモチベーションも本人の資質
だけではなく、管理職のマネジメント
は、企業組織にとって最大の資産であ
るはずの「人的資源をいかに有効に活
分たちが教わってきた“四の五のいわ
ずに働け”との一喝を踏襲してしまう
資質との相乗効果でしか発揮されない
ものだ。
用していくか」という視点に立ったマ
ネジメント機能でなければならない。
傾向がある。このため、現場の管理職
層の中に“マネジメントには会社組織
高度成長期に個別企業で実践された
労務管理の中心課題は一部の産業構造
このように考えるならば、仮に新入社
員が配属された場合に「こんな新人を
の目標達成に向けて、多様な雇用形態
の人びとを束ね、運用していくために
転換期の企業で発生した労働争議を除
き、一括賃金交渉、人員確保や福利厚
なぜ採用したのだ…」と人事部に不満
をぶつけることは、現場マネジメント
現場での人事マネジメントの視点が不
可欠である”という意識が十分に醸成
されてこなかった。この結果、旧態依
生を含む労働条件の改善に対する対応
がメインであった。労使交渉も幾つか
の例外を除いて、会社と労働組合との
として自らのマネジメント機能の欠落
を自己暴露することになる。企業組織
が組織体としての機能を有していくた
然としたマネジメント意識に留まり、
間での交渉が中心で職場段階でのマネ
めに現場マネジメントが注力を注がな
本来はマネジメントの全体に関わる人
ジメントと切り離される傾向が強かっ
ければならないのは、生まれも育ちも
事マネジメントとしての労務管理を相
た。このため現場の管理者層には、複
異なる様々な個人を有機的に結合させ
も変わらず人事部や総務部の仕事であ
雑な労務管理対応が求められることは
て最適な成果を生み出していくことで
るとの認識から脱することができない
なかった。つまり、現場の管理者層に
ある。
管理者が存在することになってしまっ
は会社組織の運営や課題に合致した人
このため現場マネジメントは、如何
た。
事マネジメントは不必要(考えなくと
にして「現状の自社」に適合する人材
も済まされる)でもあったわけだ。
を採用し、教育・育成・訓練を施して
現場の管理者層は多様な雇用形態が
増加するという現実からもはや決して
一般的に人事・労務管理とは採用、
適時適切な配置・配属に向けて評価実
逃げることはできない。管理者の側が
勤怠管理、給与・報酬の計算や計画、
践を繰り返す必要がある。そして、人
「労務管理は自分の仕事ではない…」
社員教育・育成をはじめ日常的な福利
事マネジメントプロセスの全過程に対
などといっていては、現場マネジメン
厚生、あるいは労使関係の調整という
して積極的に主導性を発揮して融合さ
トの役割を全うすることはできないと
概念で捉えられる。このため、現場マ
せていかなければならない。
いうことを自覚しなければならない。
ネジメントの側は、「労務管理は管理
何故なら現場における労務管理の機能
部門の範疇である」という意識を持つ
不全は、職場組織の崩壊に繋がり、ひ
傾向が強い。さらに現場マネジメント
いては会社組織全体の帰趨に大きな影
では労務管理を給与や時間外労働時間
響をもたらすからだ。この意味で労務
の計算などの定型的な業務と考えてし
管理課題は現場マネジメントが機能す
まう傾向もある。
- 2 -
現場マネジメントに
とっての“安全配慮義務”
という概念
現場マネジメントと人事マネジメン
トの融合の必要性は、従業員からの労
から安全配慮義務違反による損害賠償
働訴訟の実態からも明らかになってき
が請求されることにもなる。
ある。
安全配慮義務トラブルに対する回避
た。従来からも従業員からの会社に対
安全配慮義務は労働契約を交わした
ポイントは、直接的に物事が発生する
する訴訟は発生していた。ところが最
近では会社のみならず現場の管理職を
時点で発生する。また、安全配慮義務
の範囲は広く、物理的な事故、労働災
現場においてマネジメント機能をしっ
かりと確立するということだ。このた
同時に訴訟対象とするケースが増して
いる。この際の争点は会社が行うべき
害などのトラブルに留まらず、精神面、 め会社ならびに管理者層が安全配慮義
心身の安全も含まれる。実際に安全配 務を全うさせていくためには、基本的
“安全配慮義務”を現場マネジメント
が疎かにしたという論調である。
慮義務違反が問われる訴訟では、労災
事故と安全配慮義務、長時間労働によ
には現場マネジメントがしっかりと機
能しているか否かが問題となってくる。
企業に対する安全配慮義務は、昭和
る健康障害と安全配慮義務、精神障害
現場において新入社員に対する育成・
50年の最高裁判例で確立された概念だ
が、平成20年から施行された労働契約
の労災認定における安全配慮義務、ハ
ラスメント問題と安全配慮義務などの
教育が不完全であれば、現場マネジメ
ントの責任が問われるのと同じである。
法第5条で「使用者は、労働契約に伴
い、労働者がその生命、身体等の安全
関係として争われている。
人事部門は会社組織全体に対して安全
配慮を喚起させなければならない。
を確保しつつ労働することができるよ
う、必要な配慮をするものとする」と
明文化されたものだ。
現場の管理職が
損害賠償訴訟の
対象になる
一言でいえば“会社は労働者の安全
しかし、現実に日常的な現場のマネ
ジメントを司り安全配慮義務を直接担
うのは、職種に限らず管理者層の直接
的な任務と役割となる。現場で発生す
や健康へ配慮しなければならない”と
いう意味である。この概念のポイント
は、会社が契約で労働者を支配管理下
たとえば、先輩社員による後輩への
指導を逸脱したハラスメント行為、雇
るあらゆる問題について、「それは人
事部の問題だ」などと責任転嫁しては
ならない。いや、責任転嫁はできない
に置く特別な関係を持つ関係というこ
とであり、契約であるからには「強制
用形態の異なるスタッフに対する嫌が
らせ行為などに対して現場の管理職が
ということだ。
今日では人事マネジメントの優劣が
労働」ではなく、会社は従業員に対し
て「危ないことや過剰な働き方をさせ
「見て見ぬふり」をしてしまうケース
などは要注意だ。仮にこの結果、対象
会社全体の帰趨をも決するといっても
過言ではない。現場マネジメントに労
てはならない」ということである。
従って、もし従業員がケガをしたり
とされた従業員が何がしかの健康を害
したとして会社に損害賠償の訴訟を起
務管理の知識と機能を含む人事マネジ
メント視点が確立されていなければ、
病気になったりした場合は、現場マネ
ジメント機能が不善であると位置づけ
られ、会社が「安全に対する配慮を怠っ
こしたならば、ほぼ間違いなく会社の 現場の基本的なガバナンスが成立しな
みならず「見て見ぬふり」をしていた いということだ。
現場の管理職も訴えられることになる。 「人事マネジメントは人事部の仕事で
たためにケガや病気になった」という
主張がなされるということだ。会社が
現場マネジメントが機能不全に陥った
ならば、会社も当該管理職も損害賠償
あり、現場マネジメントであるライン
の管理職には関係ない」などというこ
安全配慮義務を怠ると、従業員(家族)
責任から逃れられないということでも
とはもはや通用しない。
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日本の雇用システムは労働法令の改正を含めて大きな転換点を迎えています。この雇用システムの転換は、企業におい
てリスク管理視点からの労務管理の重要性が増してきます。また、人事マネジメントの在り方に大きな影響を及ぼして
くることは必定です。そこで、企業において人事・労務を担当する方々はもとより、現場でマネジメントに携わってい
る方々や広くヒューマンビジネスに携わる人びとによる不定期な集いを通して、忌憚のない本音の討議や意見交換を行
う“場”=サロンとして、“ミニ・フォーラム”を再開し今後の人事マネジメントの帰趨を考えて行きたいと思います。
人事マネジメント課題は現場において採用(入口)から出口(雇用調整)までのあらゆる過程で発生するものです。このた
め相互の経験や実例を踏まえたうえで広角的な課題の見極めや課題解決に向けた道筋の模索が有益になると考えます。
“ミニ・フォーラム”は各回とも問題提起に基づいて参加者相互が討議や意見交換の中で見地を高めあい、職場におけ
るマネジメントの新たな方向性や労務管理の視点を探求していく端緒になると考えています。
第17回
ミニ・フォーラム
“人手不足”が流布する中で、
中途採用の実情を読み解く
新卒採用現場では「売り手市場」と喧伝されている。また、中途採用でも“人手不足”の影響からか一見すると転職
市場が“活性化”しているかのように思われている。実際に転職を斡旋するサイトでは、転職希望者に対して「お薦
めの人気職種が多数」であるとか「未経験からチャレンジできる、そんな”希少な求人”をご紹介」などの転職を促
す訴求が行われている。一方で求人企業に対しては選考のための母集団形成の実績を誇る案内で溢れている。はたし
て、本当の意味で企業が求める転職希望者はいわゆる市場に存在しているのか…。現実の中途採用の実情はどのよう
になっているのか…。さらに、“優良人材”を欲する企業と転職希望者との間に横たわる課題・問題点は何か…。
第17回ミニ・フォーラムでは、人材紹介事業を第一線で携わっている率直な問題提起を受けて、企業が中途採用あたっ
て把握すべき課題や転職希望者の実像について意見交換をしたいと考えています。
◎問題提起: 「人材紹介の現場から透視する中途採用の現状」
株式会社キーカンパニー
人材紹介事業部
部長
大町 闘(おおまち
たかし)
プロフィール
■最近の転職者の特性から見えてくること
人材関連企業にて営業・人材コンサルを経てアウトソーシ
■企業が求める人材は“外部労働市場”に存在しているのか? ング事業の立ち上げ、経営を行い年間1,000人超の面接・
採用を行う。現在は、ミドルクラス以上のキャリアの人材
紹介を専業とする。
■企業が求める人材要件の変遷から見えてくる現実と
ミスマッチ
[日 時]
[参加費]
[会 場]
3月10日(木)
2,000円
17:30~20:00(受付開始17:20~)
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