ケインズ型「短期消費関数」とクズネッツ型 「長期消費関数」を矛盾なく説明する理論 フランク・モジリアニとアルバート・アンドウは ライフ・サイクル仮説を提唱した。 個人の消費行動は、今期の所得によって決 めれると言うよりも、貯蓄を通じて、その個人 が一生の間に消費することのできる所得の総 額(生涯所得)の大きさによって決められる。 退職によって、所得は大きく低下する。 退職後の消費をある一定の水準に維持する ために、現役時代から貯蓄を行う。 例 寿命 T歳 年収 Y円 年間支出額 C円 退職年齢 R歳 所得以外の資産 W円 R i R i Y 現在 i歳の人が働く年数 年 この人の所得総額は 円 現時点で、 Wi の資産がある場合 生涯所得は R i Y Wi この人の寿命は 消費総額は T i 円 年なので、 T i Ci 円 子孫に遺産を残さないと仮定すれば、 生涯所得と生涯消費は一致する。 T i Ci R i Y Wi 一年分の消費は 1 R i Ci Wi Y T i T i 円 貯蓄残高 =富 Y 貯蓄 C 消費 取り崩し 20 勤労期間 60 引退 80 年齢 死亡 消費水準を一定に維持という前提がある。 具体的な数値例 現在100万円の年収があり、200万円の資産 を保有している20歳の人がいる。この人が60 歳まで働き、80歳まで寿命があり、将来の所 得は現在の所得と同額であるという予想の下 で、生涯にわたり毎年同額の消費を行うと仮 定する。このときの、毎年の消費額、限界消費 性向、平均消費性向はいくらになるか。ただし、 個人はライフサイクル仮説に従い、利子所得 はないものとする。 (80 20)C (60 20) Y W 60C 40Y W 40 W C Y 60 60 限界消費性向は 40 / 60 0.67 平均消費性向は C 40 200 2 200 Y 60 60Y 3 6000 経済全体では、様々な年齢の世代が存在するが、 ここでは簡単化のために、2種類の家計がいる場 合を考える。 若年労働世代: Y 人 老年引退世代: O 人 n n ある時点での経済全体の消費量 C nY CY nOCO R 1 1 nY WY Y nO WO T T R T 一年分の消費は 1 R i Ci Wi Y T i T i ここで、i=0をおく。それを若年世代の消 費とする。 1 R CY WY Y T T 老年世代の消費は CO WO /(T R) この式を整理すると WY R WO C nY nY Y nO T T T R 1 nOWO R 1 nYWY W n Y Y T R W T T W ただし W nYWY nOWO ある時点における、異なる年齢の人の消費 および富を集計する。 経済全体の消費関数(集計的消費関数) C W Y ・総消費は人口の年齢構成に依存する。 ・総消費は富(=資本ストック)にも依存する。 ライフ・サイクル消費関数 C C=αW+βY β αW 1 Y 平均貯蓄性向は C W Y Y 短期あるいはクロス・セクションでは、 αWは一定=ケインズの消費関数なので 平均消費性向は所得水準とともに減少する。 時間の経過ともに、経済全体の資産が 蓄積して、消費関数の上方シフトが起きる C 長期 W2 短期 W1 所得 Y 長期間では、富が増加すると W1 W2 短期消費関数(正のy切片を持つ)は上方へシ フトする。 長期の平均消費性向は一定となる。 アンドウとモジリアニは、米国の年次データより W C 0.7Y 0.06 P を推計した。 アンドウ・モジリアニの分析では、平均期待所得 Yが現在の所得によって決まると仮定した。 この仮定が当てはまらない場合もある。 1965~90年の期間について 日本の経済データを用いて、実質資産の消費 に対する効果を測定すると W C 14 0.59Y 0.09 P Wはマネーサプライ(M2+CD)と国債残高の 合計金額 長期の消費関数は C 0.86Y 1973~77年の期間の四半期データを 使うと C 18 0.71Y このモデルでは、経済全体の消費・貯蓄率は 主として、人口分布に依存する。 個人はライフ・ステージによって、貯蓄量が異 なる。 正の貯蓄をしている若年家計 負の貯蓄をしている老年家計 経済全体の貯蓄を見るために、この2種類 の家計の貯蓄を合計する。 正の貯蓄(富の増加)がなされる理由 ① 若年人口が老年人口より多い時 ② 人口成長率が正、あるいは高い時 ③ 老年世代が子供に遺産を残そうとする時 ④ 自分の寿命が、不正確にしか予測できな いので、老後の消費のため 資産効果(ピグー効果) 家計が保有する金融資産や土地などの実質 価値の変動が消費に与える効果。 実質資産は、CPI等でデフレートした値が用い られ、株価や地価が一般物価以上に上昇した 場合には、プラスの資産効果が働く。 資産効果は資産の評価額の変化(心理効果) ライフ・サイクル仮説への2つの疑問 ① 高齢者の消費と貯蓄の実証研究によれば、 モデルが予測するほど、高齢者は貯蓄を 取り崩さない。 ② 現在の消費は、モデルが予測する以上に 現在所得に対して、感応的。 借り入れ制約の存在 ③ 消費額一定の仮定の正当化 短期の消費関数 今 年 の 消 費 ケインズ型 現実 ライフ・サイクル型 Y0 Y1 今年の可処分所得 高い高齢者の貯蓄率 日本全体の家計貯蓄率を高めている。 日本の高齢者は、およそ80歳から85歳になる まで、貯蓄を続けている。 高齢者の貯蓄がマイナスになるという ライフ・サイクル仮説と矛盾する。 高齢者の高い貯蓄率の理由 ① 予備的貯蓄動機 予想以上に長生きしたり、病気にかかったり したときなどの支出に備えて行う貯蓄。 意図しない遺産。 しかし、高齢者は保険に入ったり、年金を受給 しているので、不確実性の大部分は除去でき るのでは? ② 子供に遺産を残すことを目的とした、 意図された遺産。 家族内の契約、利他主義 結局、退職の備えて貯蓄を行う単純なライフサ イクル理論では不十分であり、予備的動機や遺 産動機などで保管する必要がある。 No.142の解答 cL NY W L年の寿命、 N年の稼得期間 W N c y a0 a1 y L L a1 は N 60 20 2 a1 L 80 20 3 限界消費性向 平均消費性向は c W N 1000 40 3 y yL L 200 60 60 4 • 1970年代の石油危機や1991年のバブル の崩壊、1997年から1998年にかけての金 融危機(北海道拓殖銀行、日本長期信用銀 行、山一証券の倒産)には、人々の将来の不 安から急速に貯蓄を増やして、消費を控えた ので、平均消費性向が下落。 恒常所得仮説で説明できる。 • しかし、90年代は平均消費性向が増加。20 00年以降は再び低下傾向。しかし、この間日 本経済は成長を続けているので、人々の所得 は増加しているので、ケインズの消費関数で は説明できない。 • 90年代は平均消費性向が増加は、ライフサ イクル仮説で説明できる。これは、日本の急 速は高齢化により、貯蓄を取り崩し始めた。 • 2000年以降の同じ傾向はあるが、失われた 10年を経験して、成長率は低く、かつ少子化 進行によって、将来の年金不安が増大して、 平均消費性向を減少させる。これも、ライフサ イクル仮説で説明できる。
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