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死 の 法 医 学
死の概念
個体死
臨床的死
心,肺,脳の機能のいずれかひとつの永久的停止
生物学的死
人体を構成するすべての細胞の死
脳死
脳幹を含む全脳の永久的機能停止
臓器移植法の判定と関連する
脳死の判定
脳死の判定基準
死の徴候
死の不確徴
死の確徴
死亡の確認に役立つ簡単な検査方法
仮
死
ゴウ
死亡時刻の推定
死亡時刻の社会的重要性
死亡時刻は社会における人の終止を意味する
重要な瞬間
死亡診断書 (死体検案書) には必ず記載する
ことが要求される
死亡時刻
心・肺死: 心停止と呼吸停止(瞳孔散大・対光反射
消失)が現在の医療水準で永久的である
と判定された最初の瞬間
脳 死: 脳機能停止が永久的かどうかを確認する
ための確認期間(6時間)を義務づけて
いる.臓器の移植に関する法律の指針
では,死亡時刻を脳死確認時刻とする
社会的重要性
死亡届と戸籍の抹消
刑事的重要性: 犯罪事件では,犯行時刻の推定する
民事的重要性: 遺産の相続,各種生命保険,労災の
認定など
検死時の注意事項
問診の重要性: 死亡時刻の推定は捜査結果,関連者
の提供情報の正確性を必ず客観的に
チェックする
虚偽の記載は刑法違反: 家族や関係者から依頼され
故意に虚偽の死亡時刻を記載しては
ならない (虚偽記載の禁止,刑法160条)
死亡確認時刻と死亡時刻の違い
死体で発見された場合,死体現象などから死後経過時間
を推定し,逆算して死亡時刻を推定する
死後明らかにある程度の時間が経過したような死体におい
て,死亡確認時刻が死亡時刻とされている例がある
来院時心肺停止状態(CPAOA) の患者に死の確実徴候は
なく,救命救急処置を行ったが,死亡した場合には,
死亡確認時刻を死亡時刻としてもよい.この場合,救急
医療の費用は請求できる.
死後経過時間の推定方法
死体から推定
各種死体現象の発現程度・性状: 死体の冷却,
死斑の進行など
生化学的方法: 体液のpH,蛋白量やイオンの
変化など
直腸内温度からの死後経過時間推定
死後経過時間= 37.0℃ー直腸内温度 (℃)
0.83
死後経過時間の推定方法
死体以外の現象や情報
家族,関係者の供述: 最後の生存確認
死体周囲の状況: 配達物,新聞の取り入れ状況
,
血痕,吐物の乾燥状況など
死後経過時間推定の原則
多種類の死体現象から総合的に判断する
ある程度の範囲をもたせて推定する: 12時間前後,
1日前後(推定)
教科書のデータを参考時に注意: 地方により,季節
により死体現象の進行速度は異なる
死 因 の 判 定
死因の判定の意義
死因統計作成の資料: 疾病の予防,衛生行政の
ための資料となる
死因の種類を判断する根拠
人権への影響: SIDS診断の問題
臨床の診断・治療が正確かどうかの判断根拠
災害予防: 集団災害の死因分析から正しい予防
方法が制定できる
死因の判定の問題点
死因が客観的診断されたか: 剖検率,関連検査,経験
と関連する
診断名が適切に記載されているか: 急性心不全,呼吸
不全などは不適切
国際疾病分類(ICD): WHOによる「国際疾病,傷害および死因
統計分類」の略称.
死亡診断書(死体検案書)や死産証書(死胎検案書)に
記載された死因の分類の基準である
死因の概念と分類
外因や疾病と死因との因果関係の程度による分類
直接的死因 (一次性死因)
外因,疾病と死因が直接的(一次的)に結びついてい
る場合
間接的死因
外因,疾病と死因が間接的(二次的)に結びついてい
る場合: 合併症
死因の概念による分類
外因死
外因的概念: 外因の種類がそのまま死因となる
(熱傷死,凍死など)
形態学的概念: 外因による高度の臓器損傷で機能障害を起
こし,その臓器の形態学的変化を死因とする
(心破裂,脳挫滅など)
機能的概念: 外因による機能障害で死亡した場合
(失血,窒息など)
症候的概念: 外因による引き起こされた症候で死亡した場合
(ショック),形態学的所見乏しい
死因の概念による分類
病死
症候的概念: 症候名で表現 (高血圧症,栄養失調)
形態的概念: 病理形態学的所見で表現する(肝硬変,
動脈硬化)
機能的概念: 機能異常による疾患名(代謝異常)
病因的概念: 疾病の原因による疾患名(感染症,
ビタミン欠乏症)
直接死因,先行死因,原死因
直接死因: 直接的死因とは異なる.死亡した直接の原因(頭部
外傷から敗血症で死亡した場合,直接死因は敗血症である
先行死因: 直接死因のみが単独で生じられるか,多くの場合,
これを引き起こした原因(先行死因)がある
原死因: 直接死因,先行死因と医学的因果関係でさかのぼって
いった最初の原因
直接に死亡を引き起こした一連の病的現象の起因
直接死因,先行死因,原死因
冠状動脈硬化による心筋梗塞で死亡したの場合
直接死因: 心筋梗塞
先行死因: 冠状動脈硬化症
原死因: 高血圧
死因に関する問題
死因の競合: 死因となり得る2つ以上の損傷や疾病が存在する
死因の集合: 2つ以上の重篤な変化を1つにまとめて死因とする
死因の共同: 同じ性質,同じ程度の変化が共同して,1つの
死因を形成する場合 (心臓の刺創による失血死の
場合,死因は「心臓刺創による失血」となる)
死因の連合: 1つの重篤な変化から直接的に他の重篤な変化
が発生して死因となる (頭蓋底骨折で血液を吸引
して窒息死した場合「頭蓋底骨折による血液吸引」
となる)
死因に関する問題
死因の共存
2つ以上の性質の異なる重篤な変化が独立して存在する
優先順位の判定基準
生命維持に重要な臓器(心,肺,脳)
受傷や発症の時期が早いもの
損傷や疾病の程度が重傷のもの
死因の連立
1つの外因で2つ以上の性質の異なる重篤な変化が存在
外傷による脳,心臓が同時に挫滅を起こした場合,
死因を心脳挫滅とする
正確な死因診断の条件
死者に関する情報収集
家族などから直接聴取
警察官から捜査結果の聴取
臨床医から臨床経過の説明
死者に関する記録の調査
医療機関のカルテ,X線,生化学検査の結果など
警察から遺書,事件現場の写真など
当事者の供述調書など
加害者や被疑者の供述
新聞やテレビの報道
正確な死因診断の条件
有用な情報
既往歴: 既往歴,持病,外傷など
臨床経過
死亡時の状態
習慣: 飲酒歴,医薬品の使用状況など
その他: 精神状態,生活状況など
先入感の問題: 正確な判断は,剖検および検査の
所見に基づく診断する
死因診断の注意事項
死因の診断はその時代の医学水準,検案や解剖の精度,
診断技術の進歩により変化する
無責任の死因の診断は家族や社会に悪影響を与える
乳幼児突然死症候群(SIDS)
剖検診断名: 剖検せずに診断してはならない
除外診断: 精度の高い剖検を行っても死因を説明できる所見
が認められない場合にやむを得ず下さる診断名
死亡診断書(死体検案書)における死亡の種類
病死
疾病による死亡,加齢による自然死
外因死
体外からの機械的,電気,熱および化学エネル
ギーが生理的限界を超えて人体に作用すること
外因の作用様式
自殺
自らの意志で死ぬことを目的として,致死的な外因を積
極的,あるいは消極的に自分に作用させて死亡すること
積極的行為: 縊死,自傷,薬毒物の服用,飛び降りなど
消極的行為: 絶食
心中: 特別な人間関係による複数の個体の死のうち,少なく
とも1人に自殺の意志がある
無理心中: 親子心中,一家心中など
合意の有無により自殺,他殺に分れる
子供が道連れの場合は他殺とする
外因の作用様式
他殺
他人から加えられる外力による死である
災害死
自殺と他殺を除いた外因死のすべて
死因判定の社会的重要性
死亡者,加害者,家族の権利に直接関連する
家族や関係者からの死亡の種類の変更や虚為の
記載の要求に決して応じてはならない
死因が不明な場合は,不詳にして,決して無理に
診断をしない
法律上の分類判明の根拠となる
死亡統計の資料の一部