経済分析レポート 2016 年 7 月 1 日 全7頁 Indicators Update 2016 年 5 月全国消費者物価 コア CPI は 3 ヶ月連続のマイナス。英国の EU 離脱に伴う円高に要注意 エコノミック・インテリジェンス・チーム シニアエコノミスト 長内 智 エコノミスト 小林 俊介 [要約] 2016 年 5 月の全国コア CPI(除く生鮮食品、以下コア CPI)は前年比▲0.4%となり、 市場コンセンサス(同▲0.4%)通りの結果となった。財・サービス別(4 分類)の寄 与度の変化を見ると、 「サービス」のみが押し上げに寄与する一方、 「耐久消費財」と「非 耐久消費財」が押し下げに寄与、 「半耐久消費財」は横ばいとなった。 2016 年 6 月の東京都区部コア CPI(中旬速報値)は、前年比▲0.5%(5 月:同▲0.5%) と 6 ヶ月連続のマイナスとなった。6 月の東京都区部コア CPI の結果を踏まえると、6 月のコア CPI は前年比▲0.5%と見込まれる。 先行きのコア CPI の前年比は、引き続き円高(物価押し下げ要因)と原油高(物価押し 上げ要因)という逆方向の影響がせめぎ合う中で、マイナス圏での推移がしばらく続く と想定している。足下の動向については、想定外の英国の「EU 離脱」決定後に原油価 格が一旦下落し、円高が大きく進んだことにより、物価下押し圧力が強まっている点に 注意が必要だ。 図表1:消費者物価指数の概況(前年比、%) 2015年 10月 全国コアCPI 2016年 11月 ▲ 0.1 0.1 12月 0.1 1月 0.0 2月 0.0 3月 ▲ 0.3 4月 ▲ 0.3 コンセンサス DIR予想 全国コアコアCPI 東京都区部コアCPI コアコアCPI 5月 6月 ▲ 0.4 ▲ 0.4 ▲ 0.5 0.7 0.9 0.8 0.7 0.8 0.7 0.7 0.6 ▲ 0.2 0.4 0.0 0.6 0.1 0.6 ▲ 0.1 0.4 ▲ 0.1 0.5 ▲ 0.3 0.6 ▲ 0.3 0.6 ▲ 0.5 0.5 ▲ 0.5 0.4 (注1)コンセンサスはBloomberg。 (注2)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコアCPIは食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合。 (出所)総務省統計より大和総研作成 株式会社大和総研 丸の内オフィス 〒100-6756 東京都千代田区丸の内一丁目 9 番 1 号 グラントウキョウ ノースタワー このレポートは投資勧誘を意図して提供するものではありません。このレポートの掲載情報は信頼できると考えられる情報源から作成しておりますが、その正確性、完全性を保証する ものではありません。また、記載された意見や予測等は作成時点のものであり今後予告なく変更されることがあります。㈱大和総研の親会社である㈱大和総研ホールディングスと大和 証券㈱は、㈱大和証券グループ本社を親会社とする大和証券グループの会社です。内容に関する一切の権利は㈱大和総研にあります。無断での複製・転載・転送等はご遠慮ください。 2/7 全国コア CPI は 3 ヶ月連続のマイナス。東京都区部コア CPI は 6 ヶ月連続のマイナス 2016 年 5 月の全国コア CPI(除く生鮮食品、以下コア CPI)は前年比▲0.4%となり、市場コ ンセンサス(同▲0.4%)通りの結果となった。財・サービス別(4 分類)の寄与度の変化を見 ると、「サービス」のみが押し上げに寄与する一方、「耐久消費財」と「非耐久消費財」が押し 下げに寄与、 「半耐久消費財」は横ばいとなった。コア CPI は 3 ヶ月連続の前年比マイナスと弱 い動きが続いており、日本銀行の 2%のインフレ目標や政府の目指す「デフレ脱却」には程遠い 状況にある。他方、季節調整値によって指数の基調的な動きを確認すると、コア CPI には弱さ が残っており、コアコア CPI(食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合)は横ばい圏で推移 していると評価できる。 2016 年 6 月の東京都区部コア CPI(中旬速報値)は、前年比▲0.5%(5 月:同▲0.5%)と 6 ヶ月連続のマイナスとなった。前月からの寄与度の変化を確認すると、 「耐久財」と「半耐久消 費財」のプラス寄与縮小が続いた一方、 「非耐久消費財」のマイナス寄与縮小が押し上げに寄与 した。「サービス」は横ばいであった。エネルギーに関しては、「電気代」、「ガス代」のマイナ ス寄与度縮小を主因に、前年比マイナス幅に底打ちの動きが出ている。6 月の東京都区部コア CPI の結果を踏まえると、6 月のコア CPI は前年比▲0.5%と見込まれる。 図表2:全国 CPI の水準(季節調整値) 105 (2010年=100) 104 103 102 コアCPI 101 100 99 98 コアコアCPI 97 96 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 7 10 1 4 2005 06 07 08 09 2010 11 12 13 14 15 16 (月/年) (注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコアCPIは食料(除く酒類)及びエネルギーを除く総合。 (注2)シャドーは政府の「月例経済報告」において「デフレ」の文言があった時期。 (出所)総務省、内閣府資料、日本銀行資料より大和総研作成 3/7 図表3:全国コア CPI の内訳(消費税除く) 4 (前年比、%) (前年比、%) 3 2 図表4:全国コア CPI の前年比と寄与度 8 3.5 6 3.0 4 2.5 2 2.0 1 0 1.5 0 -2 1.0 -1 -4 0.5 -2 -3 -4 12 13 14 15 16 コアCPI 半耐久消費財 コア非耐久消費財 サービス 耐久消費財(右軸) -6 0.0 -8 -0.5 -10 -1.0 -12 -1.5 (年) (前年比、%、%pt) 12 13 14 消費税の影響 エネルギー 半耐久消費財 コアCPI 15 16 (年) サービス コアコア非耐久消費財 耐久消費財 (注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、コア非耐久消費財は生鮮食品を除く非耐久消費財、コアコア非耐久 消費財は生鮮食品及びエネルギーを除く非耐久消費財。 (注2)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値。 (出所)総務省統計より大和総研作成 全国コア CPI の前年比は、しばらく円高と原油高がせめぎ合う展開 先行きのコア CPI の前年比は、引き続き円高(物価押し下げ要因)と原油高(物価押し上げ 要因)という逆方向の影響がせめぎ合う中で、マイナス圏での推移がしばらく続くと想定して いる。足下の動向については、想定外の英国の「EU 離脱」決定後に原油価格が一旦下落し、円 高が大きく進んだことにより、物価下押し圧力が強まっている点に注意が必要だ。前月時点に おいて、コア CPI は、2016 年 2 月半ば以降の原油高を背景に、マイナス幅を着実に縮小し、秋 以降にプラスに転じると予想していた。しかし、英国の EU 離脱問題に起因する物価下押し圧力 を考慮すると、コア CPI が明確にプラス転換する時期は年末以降に後ずれすることになろう。 今後の消費者物価の押し下げ要因としては、昨年の食料品、日用品、耐久財の値上げの影響 が剥落する効果や円高に伴う値下げの動きに加え、家計と企業の期待インフレ率が鈍化傾向に あることが挙げられる。他方、押し上げ要因と想定される原油価格の先行きについては、米国 の原油生産・在庫の減少ペースや Fed(米国連邦準備制度)の金融政策スタンスとドル安基調の 持続性、さらには英国の EU 離脱問題が国際商品市況に及ぼす影響に注意したい。なお、「電気 代」の先行きに関して、6 月と 7 月は電力大手全 10 社が値下げする予定となっている。 日本銀行は、2016 年 4 月 28 日に公表した「経済・物価情勢の展望(展望レポート)」におい て、インフレ目標が実現する時期を 2017 年度前半頃から 2017 年度中へと実質的に後ずれさせ た。しかし、以上のようなコア CPI の動向を勘案すると、そのハードルは依然として高いと評 価できる。また、当社のこれまでの見方通り、日本銀行の参考系列である「生鮮食品とエネル 4/7 ギーを除く CPI」が 0%台半ばに向けて徐々に鈍化していることから、7 月の展望レポートでは、 政策委員の物価見通しが再度引き下げられるとみられる。内閣府の参考系列にも頭打ち感が出 ており、政府は 6 月の月例経済報告において消費者物価の基調判断を「緩やかに上昇している」 から「このところ上昇テンポが鈍化している」へと 14 ヶ月ぶりに下方修正した。政府判断の下 方修正については、前月の当社レポートの指摘に沿ったものであることから特段のサプライズ はないが、政府と日本銀行に対しては、わが国が再びデフレに後戻りしないような万全な対策 が期待される。 図表5:家計の期待インフレ率(1 年先)● 6 (%) 図表6:全国 CPI のエネルギーの寄与度 1.0 5 (%pt) 0.5 4 0.0 3 -0.5 2 -1.0 1 -1.5 0 10 11 12 13 内閣府(旧) 14 15 内閣府(新) 16 13 (年) 電気代 灯油 エネルギーの寄与度 日本銀行 (注1)内閣府の期待インフレ率は消費税の影響を含む、 日本銀行は含まない。 (注2)内閣府と日本銀行の期待インフレ率のいずれに おいても上方バイアスがあるため、方向や 相対的な水準で評価する必要がある。 (出所)内閣府、日本銀行統計より大和総研作成 14 15 16 ガス代 ガソリン (年) (注)寄与度は、対コアCPI。 (出所)総務省統計より大和総研作成 図表7:GDP ギャップと全国コア CPI 6 (前年比、%) (%) 4 4 3 2 2 0 1 -2 0 -4 -1 -6 -2 -8 -3 -10 -4 85 90 95 00 GDPギャップ(2四半期先行) 05 10 15 全国コアCPI(右軸) (注1)コアCPIは生鮮食品を除く総合、2014年4月~2015年4月における消費税の影響は 日銀の試算値を用いて調整。 (注2)GDPギャップの予想値は大和総研による。 (出所)総務省、内閣府統計、日本銀行資料より大和総研作成 (年) 5/7 図表8:コア指標の推移 2.0 図表9:コア指標のウエイト比較(10 年基準) (前年比、%) 品目 の数 1.5 1.0 ウエイト(1万分比) 全国 東京都区部 総合 588 10,000 10,000 コアCPI 524 9,604 9,628 -0.5 コアコアCPI 361 6,828 7,204 -1.0 日本銀行の参考系列 519 8,832 9,111 -1.5 内閣府の参考系列 505 8,324 8,655 1 1,558 1,941 0.5 0.0 -2.0 帰属家賃 11 12 13 14 15 コアCPI コアコアCPI 日本銀行の参考系列 内閣府の参考系列 16 (年) (注1)日本銀行の参考系列は、生鮮食品とエネルギーを除く総合、直近は大和総研による試算値。 (注2)内閣府の参考系列は、コアCPIから石油製品、電気代、都市ガス代およびその他特殊要因(米類、鶏卵、切り花、 診療代、固定電話通信料、介護料、たばこ、公立高校授業料、私立高校授業料)を除く総合。 (注3)2014年4月~2015年4月は、消費税の影響を除くベース(大和総研による試算値)。 (出所)総務省、内閣府、日本銀行統計より大和総研作成 6/7 財・サービス別にみたコアCPIの動き 全国コアCPIの財・サービス別寄与度分解 3.5 耐久消費財 (前年比、%、%pt) 0.4 3.0 0.3 2.5 0.2 2.0 0.1 (コアCPIへの寄与度、%pt) 0.0 1.5 -0.1 1.0 -0.2 0.5 -0.3 0.0 -0.4 -0.5 -0.5 -1.0 -0.6 -1.5 12 13 14 耐久消費財 コアコア非耐久消費財 サービス コアCPI 15 -0.7 16 12 13 (年) 半耐久消費財 エネルギー 消費税の影響 携帯電話 冷暖房用器具 耐久消費財 14 15 教養娯楽 その他 16 家事用耐久財 (年) 消費税の影響 (注)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値、コアCPIは生鮮食品を除く総合、コアコア非耐久消費財は生鮮食品及び エネルギーを除く非耐久消費財。 (出所)総務省統計より大和総研作成 半耐久消費財 0.4 非耐久消費財(生鮮食品、エネルギーを除く) (コアCPIへの寄与度、%pt) 1.2 (コアCPIへの寄与度、%pt) 1.0 0.3 0.8 0.2 0.6 0.4 0.1 0.2 0.0 0.0 -0.1 -0.2 12 13 14 15 家具・家事用品 被服及び履物 教養娯楽 自動車関連 身の回り品 その他 消費税の影響 半耐久消費財 16 12 (年) 13 14 15 食料 家事用消耗品 保健医療 教養娯楽 たばこ その他 消費税の影響 非耐久消費財 16 (年) (注)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値。 (出所)総務省統計より大和総研作成 一般サービス 0.8 公共サービス (コアCPIへの寄与度、%pt) 0.5 0.6 0.4 0.4 0.3 0.2 0.2 0.0 0.1 -0.2 0.0 (コアCPIへの寄与度、%pt) -0.1 -0.4 12 13 外食 教育関連 その他 一般サービス 14 15 家賃 通信・教養娯楽等 消費税の影響 16 (年) (注)2014年4月~2015年4月における消費税の影響は大和総研による試算値。 (出所)総務省統計より大和総研作成 12 13 家賃 医療・福祉関連 教育関連 消費税の影響 14 15 保険料等 運輸・通信関連 教養娯楽関連 公共サービス 16 (年) 7/7 他の関連指標の動向 輸入物価と企業向け価格 4 名目実効為替と原油価格 (前年比、%) (前年比、%) 20 3 15 2 10 1 5 0 0 -1 -5 -2 -10 -3 -15 -4 -20 140 (ドル/バレル) (2010=100) 120 -5 -25 10 11 12 13 14 企業物価 15 16 60 ↑ 円安 70 80 100 90 80 100 60 110 40 120 円高 ↓ 20 130 10 (年) 11 12 13 WTI原油先物価格 企業向けサービス価格 14 15 16 (年) ドバイ原油スポット価格 名目実効為替(右軸、逆目盛) 輸入物価(円ベース、右軸) (注)企業物価、企業向けサービス価格は消費税を除くベース。 (出所)日本銀行統計、各種資料より大和総研作成 企業物価(最終財:うち耐久消費財) 25 企業物価(最終財:うち非耐久消費財) (前年比、%) 20 20 (前年比、%) 15 15 10 10 5 5 0 0 -5 -5 -10 -10 -15 -15 10 11 12 耐久消費財 13 14 うち国内品 15 うち輸入品 10 16 11 12 13 非耐久消費財 (年) 14 15 うち国内品 16 (年) うち輸入品 (注)企業物価は消費税を除くベース。 (出所)日本銀行統計より大和総研作成 家計の期待インフレ率(1年先) 6 ガソリン価格と灯油価格 (%) 180 (円/リットル) (円/18リットル) 1,900 170 5 2,000 1,800 160 4 1,700 1,600 150 1,500 3 140 2 1,400 1,300 130 1,200 1 120 1,100 110 0 10 11 12 内閣府(旧) 13 14 内閣府(新) 15 日本銀行 16 (年) 1,000 12 13 14 レギュラー・ガソリン店頭価格 15 16 (年) 灯油店頭価格(右軸) (注1)内閣府の期待インフレ率は消費税の影響を含む、日本銀行は含まない。 (注2)内閣府と日本銀行の期待インフレ率のいずれにおいても上方バイアスがあるため、方向や相対的な水準で評価する必要がある。 (出所)左図は内閣府、日本銀行、右図は資源エネルギー庁統計より大和総研作成
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