大乗仏教概説 大乗仏教成立の背景とその中心課題 担当者 宮下晴輝 2006 第10回 大乗仏教の成立 (2) 仏土を説く経典と大乗を説く経典 最初の“大乗経典” ・般若経の影響(空の思想)を受けていない“大乗経 典”がある。その代表は、無量寿経の最古の訳で ある『大阿弥陀経』である。 ・般若経の最古の訳『道行般若経』と『大阿弥陀 経』と、そのいずれが先に成立したと考えるべ きであろうか。 ・このことは、大乗仏教が何を課題にして成立し たのかを決定するうえで、極めて重大な問題と なる。 2 二つの経典の特徴 ・『道行般若経』に初めて「大乗」(Mahyna)と いう言葉が用いられた。しかし『大阿弥陀経』 には用いられていない。 ・『道行般若経』には、般若波羅蜜(智慧の至高性) を獲得することと、諸法が空であることとが、 特に強調されている。 ・『大阿弥陀経』には、法蔵菩薩の誓願と阿弥陀 仏の仏土である極楽世界が説かれている。 3 『道行般若経』の前提 ・『大阿弥陀経』の特徴は、仏土を説くというと ころにある。『道行般若経』は仏土を説くこと に主眼をおいていない。 ・しかし『道行般若経』に仏土の語が用いられな いのではない。般若波羅蜜を得るための菩薩の 仏道にとっては、菩薩たちが仏土に生まれるこ とは前提となっている。 ・したがって『道行般若経』の前に、すでに仏土 を説いた経典がなければならない。 4 結集伝承外の最初の経典 ・『大阿弥陀経』は自ら“大乗”と名のっておら ず、『道行般若経』以前の成立とすれば、厳密 には“大乗経典”と呼ぶことはできない。 ・しかし阿含経典という結集伝承の外部に成立し た最初の経典ということができる。 ・その最初の経典の最重要な課題は仏土を説くこ とにあった。 5 仏土を説く経典 ̶ <無量寿経>の開始点 <無量寿経>は、燃燈仏授記物語をさらに根 源へと遡る物語として説き出されている。 仏、阿難に告げたまわく、「乃往過去、久遠無量不可思議無央数 劫に、錠光(Dīpakara 燃燈)如来、世に出興して、無量の衆生を教 化し度脱して、みな道を得せしめて乃し滅度を取りたまいき。次に 如来ましましき。名をば光遠と曰う。次をば……。 その時に次に仏ましましき。世自在王如来應供……仏世尊と名づ けたてまつる。 6 仏陀との出会いから始まる仏道 ・燃燈仏授記物語が示したことは、仏陀と出会 うことによって初めて菩薩となり、仏道を歩み 始めることになるということであった。 ・<無量寿経>は、その物語からさらに遡って物 語を始める。はかり知れないほど遙かな過去に 燃燈仏が出現した。それよりもずっと以前に仏 陀たちが出現した。そのさらに前に世自在王仏 が出現し、そのとき法蔵との出会いがあった。 ・これは、菩薩の誕生の物語である。 7 菩薩そのものの誕生 ・燃燈仏授記物語は、「求道者としての釈尊の誕 生」(釈迦菩薩の誕生)をメーガ青年の物語として 語る。 ・<無量寿経>は、「菩薩そのものの誕生」を法蔵 菩薩の物語として語る。 ・なぜなら「法蔵菩薩」の物語は、無限の過去に 遡ることによって、もはや「釈尊の求道」とい う歴史的固有性を超えた物語となっているから である。 8 衆生の求道心としての菩薩の誓願 ・釈尊の求道心が生まれてくる根源を尋ねること によって、衆生の求道心が見いだされることに なった。それが法蔵菩薩の物語である。 ・菩薩の誓願の基本形は、「願わくば仏陀と作ら ん」であり、その中には「衆生を済度せん」と いう願が含まれていた。菩薩の誓願とは、苦し みのなかにある衆生と共に仏陀になる道を求め る衆生の求道心である。 ・その衆生の求道心は、仏陀との出会いによって 成立する。 9 仏土に生まれる ・仏土(buddhaketra)とは、世親(Vasubandhu)によれ ば、「仏陀が出現する場所」を意味する。 ・それは「たとえば稲田(liketra)のごとくであ る」と説かれている。(『十地経論』) ・稲を求めているなら、稲(li)が育つ田畑(ketra) に行かねばならない。それと同様に、仏陀に会 うことを求めているなら、仏陀の出現するとこ ろに行かねばならない。 ・仏陀の出現する場所に行くことを「仏土に生ま れる」(仏土に往生する)と、経典は説く。 10 仏土の誓願 ̶ 仏陀と出会う場所の約束 ・菩薩の誓願はこのように言う。 もし私が仏陀になったとき、すべての衆生が私の仏土 に生まれて仏道を成就しないとすれば、私は仏陀にな らない。 ・苦しむ衆生がその苦しみを超えることができる のは、その苦しみそのものを超えようとする求 道心が生ずることによってである。 ・その衆生の求道心は、仏陀に出会うことによっ て決定する。その仏陀と出会う場所が、仏土で ある。 11 仏土に生まれんことを願う心 ̶ 信仰心 ・仏土に生まれる(往生仏土)ことによって、仏陀に 出会うことになる。 ・仏陀に出会いうるものとなることが、仏土に生 まれるということである。 ・仏陀との出会いを成り立たせるものは信仰で あった。したがって、信仰が仏陀との出会いを 可能にし、仏土に生まれることを実現する。 12 衆生の求道心と般若波羅蜜 ・信ずる心によって仏陀と出会い、しかもその信 ずる心は仏陀と出会うことによって生ずる。 ・不可思議と言うべきこの心が、衆生において成 立することを、仏教の歴史は見いだしてきた。 ・この衆生の求道心とは、どのような心なのか。 ・般若経の主題は、この菩薩の心とはどのような ものであるかを明らかにすることに集中する。 したがって般若経は、その冒頭から、菩薩はい かにして般若波羅蜜を獲得するか、と問うことから 経典を開始する。 13 般若波羅蜜を求める心 ・なぜ般若経は、菩薩の心を問題にするのか。 ・なぜ般若経は、菩薩の仏道を“大乗”と呼んだ のか。 14
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