天然由来レチノイドX受容体アゴニスト 愛知学院大学 薬学部薬用資源学講座 教授 井上 誠 従来技術とその問題点 核内受容体 主に核内に存在し、リガンド依存的に遺伝子発現を制御する転 写因子である。これまでに、ヒトでは48種類の核内受容体が見つ かっている。 核内受容体アゴニスト医薬品 RARアゴニスト:アムノレイク(Am80) 適用:急性前骨髄性白血病 副作用:レチノイン酸症候群(息切れ,発熱,胸の痛み) 感染症,間質性肺炎,縦隔炎,横紋筋融解症 肝機能異常,催奇形性 PPARγアゴニスト:ピオグリタゾン 適用:インスリン抵抗性 副作用:浮腫,心不全,肝障害,低血糖増強 従来技術とその問題点 レチノイドX受容体 (RXR) RXRアゴニスト:ベキサロテン 適用:皮膚T細胞リンパ腫 副作用:高脂血症,高コレステロール血症,甲状腺機能低下, 白血球減少 他 ※多くの副作用がある! 現状 1)RXRアゴニスト単独では… ①RXR/RAR、RXR/VDRヘテロダイマーを活性化できない。 ②パートナー受容体アゴニストを使用した方が効果的である。 ③RXRの制御は難しい。 ①~③の理由で、RXRアゴニストの開発は進んでいない。 2)RXRアゴニストは、糖尿病、動脈硬化症、自己免疫疾患への 応用が考えられているが、実際に開発は進んでいない。 3)合成RXRを用いて、動物実験で上記疾患に対する有用性は 証明されている。 本研究の目的 天然由来新規RXRアゴニストを探索し、その特性 および有効性を、合成RXRアゴニストであるベキサ ロテンと比較検討して、各種疾患への臨床応用を目 指す。 RXRアゴニスト活性スクリーニング サンズコン サンプル濃度:100 µg/mL サンズコン 基原:マメ科Sophora subprostra chun et T. chen の根を乾燥させたもの。 成分:キノリチジンアルカロイド、フラボノイドなど。 応用:解毒、鎮痛、抗腫瘍薬 サンズコンから単離したRXRアゴニスト 2-[{3‘-hydroxy-2’,2’-dimethyl-8’-(3-methyl-2butenyl)chroman-6’-yl]-7-hydroxy-8-(3-methyl-2butenyl)chroman-4-one 2-[{2‘-(1-hydroxy-1-methylethyl)-7’-(3-methyl-2butenyl)-2’,3’-dihydrobenzofuran}-5’-yl]-7-hydroxy-8-(3methyl-2-butenyl)chroman-4-one O O OH HO O HO O OH O 化合物 1 O 化合物 2 参考論文(NMRデータ) Xing-Nuo Li et al. Magn. Reson. Chem. 2008, 46, 898-902 C30H36O5分子量476 RXR アゴニスト活性の比較 サンズコン化合物 Bexarotene 15 SSPF1 化合物 1 : SSPF3 化合物 2 : 1 3 HK 8 6 4 2 Relative luciferase activity (fold) Relative luciferase activity (fold) 10 10 5 0 0 0 5 10 15 20 Concentration (µM) 25 0 -9 -8 -7 -6 Concentration (LogM) -5 RXRアゴニスト活性 Relative luciferase activity (fold) 35 30 10 µM PA452 (RXRアンタゴニスト) 25 20 15 10 5 0 CTRL BEX (0.1 µM) 化合物1 (10 µM) 化合物2 (10 µM) PPARδ/RXRヘテロダイマーの活性化に及ぼす影響 -1 6 1 0 7 day 培地交換 2% HS Gelatin Coating Plating C2C12細胞 5×104 cells/well (24-well plate) 20% FBS サンプル添加 RNA抽出 RT-PCR Target gene: Angptl4 BEX : 1 µM TO : 1 µM GW : 1 µM 化合物 1: 10 µM 化合物 2: 10 µM 400 Angptl4 / β-actin mRNA 350 300 250 200 150 100 50 0 CTRL BEX 化合物1 化合物2 CTRL BEX 化合物1 化合物2 GW501516(PPARδアゴニスト) サンズコン由来RXRアゴニストとベキサロテンの生活 習慣病関連遺伝子発現(マイクロアレー)に及ぼす効果 BEX TO901317(LXRアゴニスト) 化合物2 BEX 化合物2 GW501516(PPARδアゴニスト) 化合物2 BEX Abca1 7.7 2.4 4.9 22.7 11.6 1.1 7.3 3.1 Angptl4 7.5 4.8 0.8 4.9 5.0 21.1 30.2 47.1 Apod 1.3 0.5 1.6 27.1 3.5 0.7 0.9 0.6 Apoe 1.5 0.9 1.6 3.7 2.2 0.9 1.5 1.2 Cpt1a 1.3 0.7 0.6 1.0 1.0 1.6 1.7 2.1 Fabp3 1.6 0.8 0.9 1.5 0.9 0.9 3.1 2.3 Fasn 1.3 0.5 1.1 2.3 0.9 0.7 1.1 0.6 Hmox1 0.9 0.8 0.7 0.7 1.3 1.0 0.9 2.1 Lpl 1.9 1.5 2.0 5.5 4.6 1.7 3.0 3.6 Me2 0.9 0.9 1.0 1.0 1.1 1.2 1.1 1.2 1.4 1.1 1.0 2.2 1.2 1.0 0.7 2.1 1.4 6.1 11.9 12.4 1.4 1.2 2.1 1.3 2.0 2.4 Pck2 Pdk4 2.5 Rgs2 3.7 Srebf1 2.5 1.1 1.8 4.1 2.4 1.1 2.1 1.1 Ucp2 1.7 1.5 0.7 1.2 1.5 5.1 5.6 6.7 Vegfa 1.6 0.9 1.0 2.7 1.8 0.9 1.4 1.7 Vldlr 1.5 1.3 1.4 1.5 2.0 1.3 1.9 1.6 BEX:1 µM TO:1 µM 化合物 2: 10 µM GW:1 µM Relative expression サンズコン由来RXRアゴニストとベキサロテン の遺伝子発現に及ぼす効果の比較 10 Relative expression 化合物2 6 4 2 0 Abca1 Angptl4 Apod Apoe Cpt1a Fabp3 30 Fasn Hmox1 Lpl Me2 Pck2 Pdk4 Rgs2 Srebf1 Ucp2 LXRアゴニスト共添加 Vegfa Vldlr BEX 20 化合物2 10 5 0 Relative expression BEX 各々のアゴニスト単独 8 Abca1 Angptl4 Apod Apoe 50 Cpt1a Fabp3 Fasn Hmox1 Lpl Me2 Pck2 Pdk4 Rgs2 Srebf1 Ucp2 PPARδアゴニスト共添加 Abca1 Angptl4 Apod Apoe Cpt1a Fabp3 Fasn Hmox1 Lpl Me2 Pck2 Vldlr BEX 化合物2 5 0 Vegfa Pdk4 Rgs2 Srebf1 Ucp2 Vegfa Vldlr RXR/LXR標的遺伝子ABCA1 の蛋白質発現に及ぼす効果 <RAW264.7細胞> ABCA1 化合物 1 0.01 0.1 1 20 TO:0.1 化合物 2 0.01 0.1 1 20 (µM) β-actin (µM) ABCA1を介したコレステロールの排出能 に及ぼす効果 Cholesterol efflux ( % ) <RAW264.7細胞> CTRL BEX:0.1 BEX:1 HK:10 化合物 1:1 化合物 1:10 化合物 2:1 化合物 2:10 新技術の特徴・従来技術との比較 ・重篤な副作用を示さないRXRアゴニスト 薬用資源として漢方薬、民族薬として使われてきた植物を使用。 重篤な副作用は出にくく長期投与が可能。予防薬として利用が可能。 ・ベキサロテンが有する副作用を示さないRXRアゴニスト ベキサロテンとは遺伝子活性化プロファイルが異なる。 ・ベキサロテンとは異なる疾患への応用が可能なRXRアゴニスト 肥満、糖尿病、潰瘍性大腸炎、動脈硬化症、アレルギー疾患へ応用可能。 ・ベキサロテンとは構造が大きく異なるRXRアゴニスト 新たなRXRアゴニストの製造を可能にするリード化合物になる 可能性を有する。 想定される用途 1 今回単離同定した化合物は… 1)天然物としては最も強いRXRアゴニスト活性を示す。 2)PPARγ/RXR, PPARδ/RXR, RXR/LXR, RXR/RARヘテロ ダイマーを単独で活性化することができる。 3)PPARγ/RXR, PPARδ/RXR, RXR/LXR, RXR/RARヘテロ ダイマーのパートナー受容体アゴニストによる活性化を 相乗的に増強することができる。 4)ベキサロテンが示す高脂血症作用の原因と考えられる脂質 代謝系の遺伝子を活性化しない。 5)抗炎症作用、内皮細胞保護作用を有する遺伝子を活性化する。 想定される用途 2 ① 各々の核内受容体の標的遺伝子の発現を誘導できるので、 以下の疾患予防・治療への応用が期待できる。 ・PPARγ/RXR :肥満、インスリン抵抗性 ・PPARδ/RXR :潰瘍性大腸炎、アレルギー疾患 ・RXR/LXR :動脈硬化症、炎症 ・RXR/RAR :食物アレルギー、関節リウマチ ② 既存のPPARγアゴニスト(ピオグリタゾン)やRARアゴニ スト(アムノレイク)との同時使用により、それらの副作用 を軽減することが期待できる。 実用化に向けた課題 これまでに… 1)化合物のRXRアゴニストとしての特性、 2)既存合成RXRアゴニストであるベキサロテンとの特性の相違、 を解析してきた。 ・ 現在、糖尿病モデルマウス、潰瘍性大腸炎モデルマウスに対する効 果を検討しており、疾患の改善効果が得られている。 ・ 今後、応用が可能と考えられる疾患のモデル動物を使用して、化合 物の有効性を精査していく予定である。 ・ さらに、実用化に向けては、一般薬理試験、毒性試験、ヒトでの有 効性試験等を行う必要がある。 企業への期待 ・ 我々は、本化合物の疾患動物モデルにおける有効性を 十分に立証していくので、本化合物を疾患予防・治療 に適用するための最終的な製品にする過程を強力に バックアップしていただきたい。 ・ 我々は、本化合物を経口的に使用することを目指して おり、かなり脂溶性の高い化合物の製剤化・食品化に おいて高い技術を有する企業との共同開発を希望する。 ・ 最終的にヒトへの応用を目指すため、臨床開発の経験 を有する企業との共同開発を希望する。 本技術に関する知的財産権 発明の名称:RXRアゴニスト剤,RXRアゴニスト剤を含有する食品及 び外用剤,並びにRXRアゴニスト剤を製造するための サンズコンまたはその抽出物の使用 出願番号 :特願2012-177803 出願人 :学校法人愛知学院 発明者 :井上 誠、田邉 宏樹、石田 幸大、小谷 仁司 問い合わせ先 愛知学院大学 事務局研究支援課 知財担当 : 水野、久野 TEL 052-751-2561(代) FAX 052-757-6709 E-mail [email protected] ※ お気軽にご連絡ください。
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