大人たちが読んだ『トルストイのアーズブカ』

<タイトル> 大人たちが読んだ『トルストイのアーズブカ』
<はじめに>
19 世紀から 20 世紀にかけてのロシア文学を代表するレフ・トルストイ(1828-1910)は、
自分の広い領地に住む農民の子どもたちのために学校を開き、率先して子どもたちを教え
ました。そして、
『アーズブカ(初等教科書)
』と名付けた小学 1 年生用の読み書き入門書ま
で作りました。アーズブカとはロシア語でアルファベットのABCという意味です。
初版は値段が高いこともあって不評でしたが、奮起して全面改訂版を出すと大評判にな
り、ずっと売れ続けました。ソ連時代にはもう過去のものになったとみなされましたが、ソ
連崩壊を機にトルストイ教育にも新たに目が向けられ、
『アーズブカ』を受け継いだ教科書
も出版されました。私たちが日本語で読むことのできる『トルストイのアーズブカ』
(1997
年、八島雅彦訳、新読書社)の原本も、その一つです。
この本は、トルストイ記念トゥーラ国立教育大学のヴィターリー・レーミゾフ教授(その
後、国立トルストイ博物館館長)が編集したもので、日本トルストイ協会の初代会長だった
昭和女子大学の人見楠郎・第 2 代理事長(2000 年死去)が監修出版者となって日本語訳の
出版を実現させました。さらに「図書館に置いて一人でも多くの子どもたちに読んでもらい
たい」と、全国の小学校に計 2 万 4,452 冊を寄贈しています。
前置きが長くなりましたが、私たちは昭和女子大学と日本トルストイ協会の有志でトル
ストイ勉強会(通称)を立ち上げ、
『トルストイのアーズブカ』に出てくる小話を順番に取
り上げて、感想や特徴、意図、背景などを気兼ねなく自由自在に話し合っています。出入り
はありますが、出席者は毎回、大体 10 人前後でしょうか。トルストイやロシア文学の研究
者がいつも同席するとは限らず、大半が「ふつうの人」の立場からの発言です。同じ目線で
読んでいただき、何かの手掛かりにでもなればとひそかに願いつつ、
「大人たちが読んだ『ト
ルストイのアーズブカ』
」として、順次、WEB 登載していくことにしました。
(注 1)『トルストイのアーズブカ』には全部で
126 話が掲載され、私たちが確認できた限り
で 27 話がイソップ寓話を題材にしていました。古代ギリシャのイソップ寓話などを
原文で読んで『アーズブカ』に使うため、トルストイは数か月で古代ギリシャ語をマ
スターしたと言われています。
(注 2)
「皇帝から農民の子どもに至るまで、2
世代のロシアの子どもたちみんなが、この『ア
ーズブカ』を使って勉強し、最初の詩的な感銘を受け取ってほしいと、こんな思い上
がった夢を抱いています。ですから、これを書き上げれば、ぼくは安心して死ねます」。
トルストイはおばさんにあてた手紙で、自分の熱意をそう吐露していました。
(注 3)『トルストイのアーズブカ』の
WEB 転載にあたっては、編集者のレーミゾフさん、翻
訳者の八島さん、発行元の新読者社から快く了解をいただきました。本文中の挿絵(イ
ラスト)とルビは省略してあります。
三浦正己編