「 ス ギ 花 粉 ペ プ チ ド 含 有 米 (日 本 晴 )」 の 供与核酸・調製等に関する情報 国立研究開発法人 農業・食品産業技術総合研究機構 目次 (1) スギ花粉ペプチド含有米(日本晴)の宿主と導入遺伝子に関する情報 ...... 1 (2) 供与核酸に関する情報 ............................................................................ 1 ① 構成及び構成要素の由来 ...................................................................... 1 ② 構成要素の機能 ................................................................................... 3 1) 目的遺伝子、発現調節領域、局在化シグナル、選抜マーカーその他の 供与核酸の構成要素それぞれの機能 ...................................................... 3 2) 目的遺伝子及び選抜マーカーの発現により産生される蛋白質の機能及 び当該蛋白質がアレルギー性 (食品としてのアレルギー性を除く) を有 することが明らかとなっている蛋白質との相同性 .................................. 4 (3) ベクターに関する情報 ............................................................................ 4 ① 名称及び由来 ...................................................................................... 4 ② 特性 .................................................................................................... 4 1) ベクターの塩基数及び塩基配列 ........................................................ 4 2) 特定の機能を有する塩基配列がある場合はその機能........................... 4 (4) 遺伝子組換え生物等の調製方法............................................................... 5 ① 宿主内に移入された核酸全体の構成 ..................................................... 5 ② 宿主内に移入された核酸の移入方法 ..................................................... 5 ③ 核酸が移入された細胞の選抜の方法 ..................................................... 5 (5) 細胞内に移入した核酸の存在状態及び当該核酸による形質発現の安定性 ... 5 ① 移入された核酸の複製物が存在する場所 .............................................. 5 ② 移入された核酸の複製物のコピー数及び移入された核酸の複製物の複数 世代における伝達の安定性 ....................................................................... 5 1) 核酸のコピー数 ................................................................................ 5 2) 複数世代における遺伝の安定性 ........................................................ 5 参考文献 ...................................................................................................... 6 (1) 「スギ花粉ペプチド含有米」の宿主と導入遺伝子に関する情報 スギ花粉ペプチド含有米は、イネ品種「キタアケ」にスギ花粉抗原の複数のヒトT細胞エ ピトープを連結した 7Crp 遺伝子を導入して作製した。図 1 a に示されるように、スギ Cry j I の 3 箇所、スギ Cry j II の 4 箇所、計 7 箇所が、ヒトのスギ花粉アレルゲン特 異的 T 細胞が認識する主要なエピトープとして同定されてきた。スギ花粉ペプチド含有米 には、これら 7 個のエピトープを図 1 b のように連結した 7 連結ペプチド (7Crp;96 ア ミノ酸の長さ) に KDEL 配列を連結した 100 アミノ酸のペプチドをコードする遺伝子が 導入されている。7Crp は、KDEL 配列及びシグナルペプチドの働きにより、小胞体由来 の蛋白質顆粒 PB-Ⅰ(protein body I)に蓄積する。 またスギ花粉ペプチド含有米には、選抜マーカー遺伝子として、大腸菌由来のハイグロマ イシン耐性遺伝子 (hpt)を導入した。しかし、図2に示す様に再分化個体の選抜過程で脱離 反応によりMAT ベクターカセット(図2A)が脱離した系統(図2B)を選抜した。 a. 212 (ペクテートリアーゼ) Cry jⅠ 224 235 247 1 312 2 330 3 花粉壁表層 N C (353a.a) Cry j Ⅱ N C (388a.a) (ポリメチルガラ クツロナーゼ) 澱粉粒 4 5 77 89 96 6 107 192 7 204 356 367 b. 7Crp(ヒト7連続T細胞エピトープ) N 4 1 6 7 2 3 100アミノ酸残基 5 C KDEL 図 1. ヒトの T 細胞が認識するスギ花粉アレルゲンの抗原決定基 (エピトープ) と、7Crp 中の 7 つのエピトープの配列順序 (2) 供与核酸に関する情報 ① 構成及び構成要素の由来 スギ花粉ペプチド含有米の作出に用いたプラスミドのマップを図 2A に、供与核酸の 構成及び構成要素の由来を表 1 に示した。 1 図2 MAT ベクターシステムの概要 表1 供与核酸の発現カセットの構成要素、サイズ、由来及び機能 構成要素 サイズ 由来及び機能 7Crp 発現カセット グルテリン 2.3 kbp イネ種子貯蔵蛋白質グルテリン GluB-1 をコードする遺伝子 GluB-1 プロ のプロモーター。種子登熟期の胚乳組織特異的に発現を規定す モーター る。イネ由来。(アクセッション番号 AY427569) (GluB1-P) グルテリン 72 bp グルテリン GluB-1 のシグナルペプチド配列。グルテリン蛋白 GluB-1 シグ 質の小胞体膜内への輸送に関与する。 ナルペプチ (アクセッション番号 AY427569) ド (sigGlu) 7Crp (目的遺 288 bp スギ花粉 Cryj I 及び Cry j Ⅱ 由来で、ヒトのスギ花粉抗原特 伝子) 異的 T 細胞が認識する7箇所の配列を連結させた人工ペプチ ドをコードする遺伝子。スギ由来。図1を参照。 KDEL 局在 12 bp 化シグナル グルテリン 導入遺伝子産物の小胞体への係留に関与するシグナル配列。イ ネ由来。図1を参照。 0.65 kbp グルテリン GluB-1 をコードする遺伝子のターミネーター。 2 GluB-1 ター 転写終結を規定する。イネ由来。 ミネーター (アクセッション番号 X54314) (GluT) MAT ベクターカセット* CaMV 35S 0.8 kbp 恒常的発現プロモーター。下流につないだ遺伝子を植物体全体 プロモータ で発現させる。カリフラワーモザイクウイルスゲノム DNA 由 ー (35S-P) 来。 (アクセッション番号 U28417) hpt 1.1 kbp ハイグロマイシン耐性を付与する選抜マーカー遺伝子。大腸菌 由来。(アクセッション番号 AY373338) Nos ターミ 0.3 kbp アグロバクテリウム Ti プラスミド上のノパリン合成酵素遺伝 ネーター 子のターミネーター。導入遺伝子の転写終結を規定する。アグ (NosT) ロバクテリウム Ti プラスミド由来。 (アクセッション番号 AE009420) T-IPT 1.4 kbp アグロバクテリウム Ti プラスミド上のサイトカイニン合成酵 素遺伝子 (ipt) と、そのターミネーター。選抜マーカー遺伝子 として使用。アグロバクテリウム Ti プラスミド由来。 (アクセッション番号 AB025109) R 1.4 kbp 酵母の部位特異的組換え酵素をコードする遺伝子。酵母 pSR1 プラスミド由来。(アクセッション番号 AX380956) RS 0.4 kbp 酵母の部位特異的組換え DNA 配列。酵母 pSR1 プラスミド 由来。 (アクセッション番号 X02398) *)本遺伝子組換えイネ (7Crp #242-95-7) には、MAT ベクターカセット(図2A)は存在 せず、RS 配列が1個存在する(図2B)。 ② 構成要素の機能 1) 目的遺伝子、 発現調節領域、 局在化シグナル、選抜マーカーその他の供与核酸の構成 要 素それぞれの機能 ・7Crp 発現カセット GluB-1 プロモーターは、イネ由来種子貯蔵蛋白質グルテリンのプロモーターで、 DNA を鋳型に mRNA 合成を開始する DNA 上の特定の塩基配列である。種子登熟 期の胚乳に特異的に発現する。 GluB-1 シグナルペプチドは、イネ由来種子貯蔵蛋白質グルテリンのシグナルペプチ ドの塩基配列である。シグナルペプチドは、合成された蛋白質の小胞体への付着及び 膜通過の先導役を努め、膜通過後にシグナルペプチターゼで切断される。 7Crp は、スギ花粉中の花粉症の原因となる抗原蛋白質 Cry j I 及び Cry j II に含 まれ、ヒトのスギ花粉抗原特異的 T 細胞により認識されるアミノ酸配列 (T 細胞エピ トープ) 部分を発現させる塩基配列である (図 1 参照)。Cry j I から 3 箇所、Cry j II から 4 箇所の合計 7 箇所について、それぞれ 12 から 19 個のアミノ酸残基からな 3 るヒト T 細胞エピトープが同定されている。この 7 箇所のエピトープ (アミノ酸配 列) を連結させ、96 アミノ酸残基からなる人工ペプチド (7Crp) を発現させるため、 T 細胞エピトープのアミノ酸配列に従って人工遺伝子を合成した (図 1 参照)。合成 の際、イネ種子の主要な貯蔵蛋白質をコードする遺伝子群の中で使用頻度の高いコド ンを選択した (Takagi et al., 2005a, 2005b)。 KDEL 配列は、蛋白質を小胞体へ局在化させる役割を果たす 4 つのアミノ酸の塩 基配列であり、C 末端に KDEL 配列 (アミノ酸) を持つ蛋白質は小胞体に局在化す る。GluB-1 ターミネーターは、イネ由来蛋白質グルテリンのターミネーターで、 mRNA の合成を終結させるのに必要な塩基配列である ・RS配列 酵母の部位特異的組換え DNA 配列。酵母由来の R 遺伝子産物である部位特異的 組換え酵素がRS配列を認識し、RS 配列に挟まれた領域をゲノム DNA から除去する。 この反応時に残る片側のRS配列である。 2) 目的遺伝子及び選抜マーカーの発現により産生される蛋白質の機能及び当該蛋白質が アレルギー性 (食品としてのアレルギー性を除く) を有することが明らかとなってい る蛋白質との相同性 ・7Crp ペプチド スギ花粉ペプチド含有米には、スギ花粉抗原であるスギ由来の Cry j I 及び Cry j II 蛋白質の持つ主要なヒト T 細胞エピトープ配列のみを連結して作製した 7Crp が蓄 積している。7Crp は、Cry j I 及び Cry j II のヒト T 細胞エピトープ部分であるが、 一連のアレルギー反応に必要とされる抗原特異的 IgE 抗体との結合性はなく、B 細 胞エピトープも含まない。 (3) ベクターに関する情報 ① 名称及び由来 名称は、pMAT/GluB1 7Crp(図2A)。大腸菌 K-12 株及び Agrobacterium tumefaciens C-58 株に由来する。T-DNA 領域 (Right Border と Left Border との間) に選抜マー カー遺伝子である 7Crp 遺伝子、及びRS配列(酵母の部位特異的組換え DNA 配列) で囲まれたMATベクター領域(T-IPT遺伝子 hpt 遺伝子)が挿入されている。 ② 特性 1) ベクターの塩基数及び塩基配列 スギ花粉ペプチド含有米の作出に用いたプラスミドの全塩基数は 20.9 kbp。本 pMAT/GluB1 7Crp ベクターの構造等については、図2及び文献参照(Endo et al., 2002) ) 2) 特定の機能を有する塩基配列がある場合はその機能 薬剤耐性遺伝子としてハイグロマイシン耐性遺伝子 (hpt)、サイトカイニン合成酵素 遺伝子として ipt 遺伝子、発現調節因子としてカリフラワーモザイクウイルス由来の 4 CaMV 35S プロモーター、アグロバクテリウム Ti プラスミド由来のノパリン合成酵 素遺伝子ターミネーター及びサイトカイニン合成酵素遺伝子のターミネーター、部位 特異的組換え酵素として酵母 pSR1 プラスミド由来の R 遺伝子、部位特異的組換え DNA 配列として酵母の pSR1 プラスミド由来の RS 配列が存在する。 (4) 遺伝子組換え生物等の調製方法 ① 宿主内に移入された核酸全体の構成 宿主内に移入された核酸全体の構成は図 2 のとおりである。ただし、本組換え体の調 製の過程で、図2のとおり Hm-MAT ベクターシステムの脱離反応により MAT ベクタ ーカセット部分は除去されている。 ② 宿主内に移入された核酸の移入方法 アグロバクテリウム法によった。 ③ 核酸が移入された細胞の選抜の方法 目的遺伝子を導入したアグロバクテリウムをイネ種子カルスに感染させ、ハイグロマ イシン (50 mg/L) を含む選抜培地で核酸が移入された細胞を選抜し、再分化植物を得た。 その後、正常な茎葉の伸張を指標にして、部位特異的組換え酵素の作用によりマーカー 遺伝子が除去されたイネ個体を選抜した。なお、マーカーフリー個体の選抜原理につい ては以下のとおりである。MAT ベクターカセット部分に位置する ipt 遺伝子は、アグ ロバクテリウム Ti プラスミド由来のサイトカイニン合成酵素をコードする。この ipt 遺伝子産物により合成されるサイトカイニンには植物の茎葉の分化を促進する作用があ り、ipt 遺伝子を保持する個体は、過剰なサイトカイニンの作用により多芽体を形成する (Endo et al., 2002)。一方、酵母由来の R 遺伝子産物である部位特異的組換え酵素によ り、ipt 遺伝子や hpt 遺伝子等のマーカー遺伝子を含む RS 配列に挟まれた領域がゲノ ム DNA から除去された個体では、細胞内サイトカイニン濃度が低下して、正常な茎葉 が伸長する。この茎葉の形態の違いを指標として、マーカー遺伝子が除去されたマーカ ーフリー個体が選抜される。 (5) 細胞内に移入した核酸の存在状態及び当該核酸による形質発現の安定性 ① 移入された核酸の複製物が存在する場所 ゲノム DNA を用いたサザンブロット解析により、移入した核酸は染色体上に挿入さ れていることを確認した。また、世代間でサザンブロット解析のバンドパターンが一致 していた事から、移入した核酸は染色体上に存在すると判断した。 ② 移入された核酸の複製物のコピー数及び移入された核酸の複製物の複数世代における 伝達の安定性 1) 核酸のコピー数 T2 T3 T4 世代のゲノム DNA のサザンブロット解析により、7Crp 遺伝子はゲノム 上に安定に保持され、コピー数は 1 と推定した。 2) 複数世代における遺伝の安定性 5 T0、T2 T3 T4世代のゲノム DNA のサザンブロット解析の結果、各世代で安定して 遺伝子が保持されていた。また、T3、T4 各世代のゲノム DNA のサザンブロット分 析の結果及び T4 世代の PCR 分析の結果、hpt 遺伝子、ipt 遺伝子、R 遺伝子につ いて、シグナル及び増幅されたバンドは検出されなかった。このことから、これらの 3遺伝子は、ゲノム DNA から除去されたと判断された。 参考文献 Endo, S., Sugita, K., Sakai, M., Tanaka, H., Ebinuma, H. (2002) Single-step transformation for generating marker-free transgenic rice using the ipt-type MAT vector system. Plant J. 30, 115-122. Takagi, H., Saito, S., Yang, L., Nagasaka, S., Nishizawa, N. and Takaiwa, F. (2005a) Oral immunotherapy against a pollen allergy using a seed-based peptide vaccine. Plant Biotech. J. 3, 521-533. Takagi, H., Hiroi, T., Yang, L., Tada, Y., Yuki, Y., Takamura, K., Ishimitsu, R., Kawauchi, H., Kiyono, H. and Takaiwa, F. (2005b) A rice-based edible vaccine expressionf multiple T cell epitopes induces oral tolerance for inhibition of Th2-mediated IgE responses. PNAS 102, 17525-17530. 6
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