DNA認識能を持つ核酸塩基を タンパク質の任意の 位置に導入する手法 産業技術総合研究所 バイオメディカル研究部門 主任研究員 加藤 義雄 1 技術分野の背景(1) ・近年のシークエンス技術の発展により、ヒトゲノムの配列 情報が容易に「読み取れる」ようになり、ゲノムの配列情 報に基づいた「診断」が行われるようになってきた。 ・さらに、ゲノムの配列情報を「書き換える」ゲノム編集と 呼ばれる技術が海外で開発されている。 ・ゲノムを書き換えるためには、配列を読み取る「認識」部 と、配列を書き換える「酵素」部が必要となる。 2 技術分野の背景(2) ゲノム編集 元となる細胞 ゲノム:染色体DNA C G 産業有用細胞 二本鎖DNA切断の 細胞内修復 DNA配列の欠失/挿入 C G GCCTTTTGCAGTTTACAGGATGAGGATGACCAG CGGAAAACGTCAAATGTCCTACTCCTACTGGTC GCCTTTTGCAGTTTATCAGGATGAGGATGACCAG CGGAAAACGTCAAATAGTCCTACTCCTACTGGTC NHEJ/SSA/NM EJ/HR 3 技術分野の背景(3) <ゲノム編集酵素の基本構造> 融合 作用 認識 Nuclease グラム陰性菌 Zinc-Finger ヒト由来 制限酵素 TALE 植物病原菌由来 CRISPR/Cas 真正細菌由来 4 技術分野の背景(4) ZFN DNA結合ドメイン Zinc Finger DNA切断ドメイン Nuclease (FokI CD) 1モジュールで、3塩基対を認識 ZFN-R 12 塩基対 G T C A T C C T C A T CC T G A T A A A C T GC A A A AG C A G T A GG A G T A GG A C T A T T T G A CG T T T T C 12 塩基対 1モジュール 28アミノ酸 ZFN-L 12 塩基対 5-7 塩基対 12 塩基対 Chandrasegaran et al., PNAS (1996) 5 技術分野の背景(4) 一過的な導入でも、効果は持続する 発現ベクター 精製タンパク質 導入 ZFN ウイルス DNA 細胞 RNA 核酸(DNA・RNA)を使わない、より安全なゲノム編集 6 技術分野の背景(5) 48-well 細胞 105 ZF ZF ZF His ZF GAC GAT GAG GAT 個 GFP 緑:ZF融合GFPタンパク質 青:核(Hoechst) タンパク質 1µM ZFN-L 1µM ZFN-R 1µM ⋍ 40 ng/mL 洗浄(HEPES) 100 µL 37°C, 1時間 培地交換 37°C, 3日 ⇒ ZF-GFPタンパク質は細胞内に入る 7 技術分野の背景(6) 様々な細胞で、ZFNタンパク質導入によるゲノム編集効率をテスト HEK293 THP-1 HDF CD4+ Intact DNA Hetero-duplex after genome editing 8 技術分野の背景(7) 細胞内のタンパク質の存在量 ゲノム編集の効率 ターゲット 細 胞 内 存 在 量 CCR5 タンパク質添加 Ctrl Pro Vec 発現ベクター オフターゲット CCR2 PGC Ctrl Pro Vec Ctrl Pro Vec 時間 タンパク質の添加(Pro) - 1 2 4 8 16 32 48 72 ZFN actin オフターゲット効果が少ない (他の遺伝子への影響が少ない)。 発現ベクターによる導入(Vec) - ZFN actin 1 2 4 8 16 32 48 72 遺伝子が挿入される恐れが無い。 必要なタイミングで必要な量を導入することで、 より安全にゲノム編集を行うことができる。 Gaj, Kato et al., Nature Methods (2012) 9 技術分野の背景(8) 物理的な物質導入:ナノニードルアレイ 産総研・中村史 グループ長が開発 Creリコンビナーゼの導入 293.RxG CMV RFP pA loxP GFP pA loxP + Cre リコンビナーゼ 293.G CMV GFP pA 1 mm 5 μm 10 µmピッチ ナノニードルアレイ 直径 200nm、高さ21µm 10 µm ナノニードルの細胞への挿入 操作後48時間後のGFP及び RFP蛍光像 Matsumoto, Kato et al., Sci. Rep. (2015) 10 従来技術とその問題点(1) ・DNA認識能を持つタンパク質には、ジンクフィンガーや TALE等ならびに、CRISPR/CasのRNA-タンパク質複合 体が知られているが、前者は配列認識能が低く、後者は 分子量が非常に大きいという難点がある。 ・これまでのDNA認識モジュールは、外国で開発されたも のであり、実用化の際の特許の取扱いが不明瞭。 ・分子量が大きくなると、タンパク質工学による改良や、 細胞・核へのデリバリーが難しくなるという問題がある。 11 従来技術とその問題点(2) 相対的なサイズ Nuclease グラム陰性菌 Zinc-Finger ヒト由来 TALE 植物病原菌由来 CRISPR/Cas 真正細菌由来 Zinc-finger, TALEN, CRISPR/Casは、海外発の技術。 CRISPR/Casはサイズが大きいため、タンパク質工学的な改変が難しい。 また、細胞・核へのデリバリーが難しいという問題点を抱えている。 したがって、サイズが小さい、国産のDNA配列認識タンパク質が求められている。 12 新技術の特徴・従来技術との比較 (1) • 従来は、タンパク質表面のアミノ酸によるDNAの配列認 識、または、RNAによるDNAの配列認識に限定されてい たが、核酸塩基をもつアミノ酸をタンパク質へ導入する ことにより、分子量を小さくすることが可能となった。 • 新技術では、核酸塩基を側鎖としてもつアミノ酸を、試 験管内での翻訳反応に供することにより、タンパク質上 の任意の位置に核酸塩基を導入する。 • 本技術の適用により、様々なタンパク質酵素と核酸塩基 との融合化が期待される。 13 新技術の特徴・従来技術との比較 (2) ヌクレオアミノ酸(NBA) U U ①NBAの合成 人工アシル化tRNA AlaU ②アミノアシル化 タンパク質性アミノ酸(20) Ala Cys Asp Glu Phe Gly His ILe Lys Leu mRNA in vitro 翻訳 核酸塩基をもつタンパク(NBP) Met Asn Pro Gln Arg Ser Thr Val Trp ③タンパク質合成 Tyr U 14 新技術の特徴・従来技術との比較 (3) DNA PNA 天然のペプチド骨格とは異なる NBP 天然のペプチド骨格と同じ 塩基間の原子数が同じため、塩基対形成が可能 15 想定される用途(1) • DNAやRNAの配列を認識して改変するゲ ノム編集関連技術。 配列の改変 U C A G 酵素 DNA 16 想定される用途(2) • DNAやRNAの配列を認識して検出する診 断に向けた技術。 蛍光 U C A 配列の検出 G DNA 17 想定される用途(3) • タンパク質のタグ化・固定化技術。 目的 タンパク U C A G ビーズ等 固相 18 実用化に向けた課題 • 現在、いくつかの核酸塩基について導入で きることを検証したところ。今後、全ての 核酸塩基について導入できることを検証。 • 核酸塩基を側鎖としてもつアミノ酸の構造 には複数種類のものが想定される。どの構 造が適しているのか、最適化していく必要 がある。 • 複数種類のアミノ酸を導入するには、空き コドンを用意する必要がある。 19 企業への期待 • 未解決の複数種類同時導入については、 tRNAの分子工学技術により克服できると 考えている。 • 人工アミノ酸の合成技術や、タンパク質の 試験管内合成技術を持つ企業との共同研究 を希望。 • また、ゲノム編集分野への展開を考えてい る企業には、本技術の試験・導入が有効と 思われる。 20 本技術に関する知的財産権 • 未公開特許の出願あり 21 お問い合わせ先 国立研究開発法人 産業技術総合研究所 生命工学領域研究戦略部 イノベーションコーディネータ 新間 陽一 TEL 029-862 - 6032 FAX 029-862 - 6048 e-mail [email protected] 22
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