微生物・植物・土壌等間の共生および 相互作用の包括的解明と利用技術

「微生物・植物・土壌等間の共生および
資料3
相互作用の包括的解明と利用技術開発」
微生物・植物・昆虫・土壌小動物・ウイルス・生態・共生進化・
土壌肥料・環境科学・ゲノム科学・遺伝資源・栽培・育種など
多様な研究分野を糾合する研究領域の構築
倉田 のり
農業・食料産業技術総合研究機構(理事)
国立遺伝学研究所(名誉教授)
日本学術会議会員(会員)
「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
地球との共存基盤としての、微生物・植物・小動物・土壌間の環境科学・生存圏農学
植物生育・生産の最適化
劣悪地球環境の生物的改良
新たな生物の相互作用
組み合わせによる
環境復元力の創成
・生物改良のための技術革新
・植物改変による相互作用力増強
・多様な生物種の相互作用機能デザイン
植物・昆虫・微生物(菌根菌など)・
土壌小動物(線虫など)相互作用の
効果的利用
・ 植物・昆虫・微生物・土壌小動物間相互作用因子の解明
・ 相互作用の特性分析と利用
・ 相互作用生物間ネットワークの解明
植物ホロゲノム解明と利用
生存環境・農業環境の
生物相互作用の全容を知る
植物の共生微生物は、動物の腸内細菌と同じ
菌根菌非接種株(左)
接種株(右)
共生なくしては生存困難
メタゲノム解析:ゲノム同定、種・系統分類、相互作用解明、単離培養技術
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「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
想定される研究課題
➤
共生マイクロバイオーム解析基盤構築
➤
植物ホロゲノミクス研究創設と全体像解明
➤
宿主生物(植物・昆虫等)と微生物間の共生許容及び排除機構の解明
➤
共生成立による生物の高機能化、高付加価値化の科学的証明
➤
微生物間、宿主微生物間相互作用から生まれる新規物質同定・機能解析
➤
難培養微生物の培養(単離・混合)、増殖、保存技術開発
➤
農作物生産の適正化及び生産性向上につながる基盤情報
➤
荒廃地改善と緑化:環境復元への基盤技術
➤
ヒト-植物-共生系の制御に基づく安全・安定的農作物生産技術
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「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
期待される主要な研究成果
①微生物-植物-土壌-小動物-水圏等にまたがる共生系の包括的解明
②共生系を介した宿主生物の機能変換・亢進の評価手法及び有用形質の制御技術
③複合微生物系を利用した培養技術および新規物質生産技術
④共生系に関連する微生物、植物等バイオリソースを整備するための技術開発
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「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
植物生育・生態系に不可欠な菌根菌
1、植物にとっての菌根菌は、人間にとっての大腸菌
・ ほとんどの動物は、細菌が消化器に共生していないと、食物を分解できず生存も非常に困難である。
・ 菌根菌は、栄養分が少ない土からでも植物が自分自身では十分にとれない栄養素や水を補給して
くれる、植物にとっての重要な共生細菌である。
2、菌根菌は、90%以上の植物の根に内部または外部共生し、養分を植物に供給する
・ 特に植物のリン酸吸収は、菌根菌の共生に依存して進化して来たため、菌根菌の貧弱な土壌
では植物の生育は大きく低下する。
・ 菌根菌は、富栄養下では、共生・増殖が大きく低下し、効果が少ない。大量肥料投入により
土壌微生物は激減している。
3、菌根菌は、自然界で最も大量の炭素固定を行っている
・ 菌根菌は、植物に養分と水分を供給する代償として、植物から大量の炭素を受け取り増殖する。
4、菌根菌は植物の根を介して土壌中に巨大ネットワークを作る
・ 菌根菌は、植物の根と共生・増殖して数センチから数メートルに及ぶ菌根を伸ばし、植物の根を
介した巨大ネットワークを形成する。
5、植物共生とは独立に菌根菌の培養が可能に・・・
・ 植物との共生状態でしか繁殖できなかった菌根菌の、単独培養が可能となって来た(数年前より)。
・ アメリカでは、安価な大量培養が一部成功し、胞子の大量利用が可能になりつつある。
・ 胞子の土中接種により、植物生育の劇的な改善が見られる。
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菌根菌
菌根(きんこん)は、菌類が植物の根に侵入して
形成する特有の構造を持った共生体。菌根を作
る菌類を菌根菌という。菌根には7つの主要な
タイプがあり、それぞれ関与する菌類や植物が
異なり、構造も異なる。
アーバスキュラー菌根、外生菌根または外菌根、
内外生菌根、アルプトイド菌根、モノトロポイド菌根、
エリコイド菌根、ラン菌根の7つの主要なタイプと、
最近認識されてきたハルシメジ型菌根がある。
http://www.cleanplanet.info/lib/mycorrhiza/mintroduction.htmより
植物の根が活発に生長している若い時期に、根の
周りに菌根菌の胞子を施用するだけで共生関係が
生まれる。土壌中の植物根圏で成長し繁殖する。効
果は一週間後には現れ、柑橘類を中心とした果樹、
クルミ、アーモンドなどのナッツ類、トマト、イチゴなど
では、数倍の(時には数十倍の)収穫量が得られる
ことが報告されている。
また、菌根菌を接種した植物は、病気、虫害、温度
差などへの抵抗性が向上し、厳しい環境下での生
存率が高まる。
根粒菌
根粒菌はマメ科植物のみで
見られる共生微生物で、マメ科
の種ごとに特異的な根粒菌の
系統があり、宿主特異性が非常
に強い。
根粒無
根粒有
植物体内共生細菌 エンドファイト による植物機能強化・生育促進
エンドファイト(endophyte):
生殖過程、多くの種・
系統で失われている
➤ 植物中に共生する微生物一般を指し、
糸状菌型と細菌型がある
➤ 相利共生により、植物に昆虫、病原菌、
乾燥などの抵抗性を与える
➤ 共生菌は種子を通じて次世代に伝搬
される
➤ 植物体内で隔離・伝搬されてきた共生菌
は雑種(異質倍数体)が多く変異が激しい
➤ この結果、同属内でも、種や菌系により分泌
2次代謝産物が大きく異なる場合が多い
➤ 休眠胞子ステージをもたないため、種子
の長期保存で死滅することが多い
*エンドファイト分離培養>新規宿主への人工接種
手法開発>エンドファイト感染牧草実用化
*耐寒性、不良環境耐性のトールフェスク品種の実用化
*コムギ、オオムギ、イネへの適用が試みられている
無生殖過程、
病班なしで感染
Neotyphodium属の種:
N. Lolii
N. coenophialum
N. Uncinatum
N. occultans
etc.
菅原幸哉 Mycotoxins Vol.61, 25-, 2011 より引用
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東北大学総合学術博物館より引用
➤ Sato et al.,1994 ラオス乾燥・急斜面・貧栄養地域
でたわわに実る陸稲を発見
(こしひかりの1.5倍ほどの粒大x200-300粒/穂)
➤ エンドファイトの可能性の指摘 :
Elbeltagy et al., 2001, Minamisawa et al., 2004.
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「微生物・植物・土壌等間の共生および相互作用の包括的解明と利用技術開発」
線虫
➤土壌中、海中を中心に50万種の生息が推定されている
➤連作障害の要因の一つ
➤全世界の作物生産の10%以上が線虫被害により失われている
➤30万種の陸上植物に、それぞれ特異的線虫が寄生しているとも言われる
➤表層より1mまでの土壌中に含まれる生物としては、最も重い総重量を示す
➤対抗作物: 線虫の種により、忌避植物が効果のある事も知られている
ネコブセンチュウにはギニアグラス、クロタラリア、ネグサレセンチュウにはマリーゴールドやエン麦野生種など。
➤体長1mm以下
➤細菌・微生物を餌とする
➤培養は極めて困難
➤2011年、地下3.6Kmでの生息を確認、数千年以前からの生息と見られる
➤2012年、線虫を餌とする食虫植物の存在が明らかにされた
写真:
農業・食品産業技術総合研究機構
中央農業総合センター
病害虫検出同定法研究チーム
相場聡 氏による
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生物共生研究におけるこれまでの成果例1
・病原体に対する植物の免疫システム
・植物には特定微生物に自らの体内に感染、
共生を許すシステムが存在することが判明
植物は自分の身体に
棲んで良い微生物を
制御しており、宿主
と共生微生物の双利
共生を維持している。
・共生関係が植物の生育・機能を補い、向上
・農作物の増収・品質向上への期待
基礎生物学研究所
農業生物資源研究所
PNAS (2014)
TML
基礎生物学研究所
理化学研究所CSRS
Nature Commun
(2014)
(図:基生研press release より引用)
生物共生研究におけるこれまでの成果例2
根粒菌とマメ科植物の共生
(根粒形成)は植物生育を向上
させる→収量向上
新規発見:環境問題解決への共生利用
東北大学と農業環境技術研究所研究グループが
植物共生微生物である根粒菌とを使って温室効
果ガスを削減できるということを世界で初めて
実証
根粒無
根粒有
←根粒
Nature Climate Change 3
(2013)
生物共生研究におけるこれまでの成果例3
産業技術総合研究所生物共生相互作用研究グループによる成果
共生細菌により昆虫が
餌にできる植物種が変わる
共生細菌による
害虫化と非害虫化
タイワンマルカメムシ
マルカメムシ
エンドウ
ヒゲナガ
アブラムシ
非
害虫
害虫
ダイズを食べる
共生細菌PAUS*が
共生細菌PAUSが
いなくても餌にできる いないと餌にできない
腸内細菌
交換
タイワンマル
カメムシの
腸内細菌
マルカメムシ
カラスノエンドウ
*Pea Aphid U-type Symbiont
(γプロテオバクテリアに属する未記載共生細菌)
シロツメクサ
Science 303(2004)
ダイズを食べない
マルカメムシ
の腸内細菌
タイワンマルカメムシ
ダイズを食べない
ダイズを食べる
非害虫化
害虫化
Proceedings of the Royal Society B (2007)
海外における生物共生研究分野の動向
マイクロバイオームは
地域(国)、環境、条件で
異なるために欧米の知見が
すぐに日本で利用可能ではない
網羅的な
環境マイクロバイオーム
研究(参加型)
→
欧米では数年前から
Plant microbiome/
日本における
マイクロバイオーム
研究開発が必要
Phytobiomeの概念
モンサント社(農業バイオ企業)とノボザイム社(産業用酵素)
による農業バイオテクノロジーにおける業務提携
米国NIHによる
「BioAg Alliance」が「植物マイクロバイオーム」に注目
ヒトマイクロバイオームプロジェクト(2008~)
海外における生物共生研究分野の動向
モンサント社(農業バイオ企業)とノボザイム社(産業用酵素)
による農業バイオテクノロジーにおける業務提携
「BioAg Alliance」が「植物マイクロバイオーム」に注力
植物関連微生物の農業利用に向けて微生物株収集に参入
世界的なバイオリソース機関よりも
ユニーク株の多さを強調
(計72,000株)
一年半で約24,000株の
植物関連微生物株
(自社分離=ユニーク株)
を収集
(計25,000株)
agbiome HP
※日本の代表的微生物保存機関の保有微生物株数:NBRC(約30,000)、理研JCM(25,000)、MAFF(約24,000)
国内外における生物共生研究施策の動向
農水省委託事業: H16~H20
生物機能を活用した
環境負荷低減技術の
開発
国内
海外
人体には約600兆細胞の常在菌が生息
(大部分は腸内細菌で約1,000種類)
基礎研究成果
ヒトマイクロバイオームプロジェクト
(米国NIH:2007(H19)~約180億円/5年)
H14:かずさDNA研究所
根粒菌ゲノム解読
CREST: H14~H20
共生ネットワーク
の分子基盤
(根粒菌・菌根菌)
科研費特定領域: H17~H21
微生物ゲノムシーケ
ンシング体制の活用に
よる微生物システム解
明への基盤構築
(服部正平)
連携
ACCEL: H26~
共生ネットワーク
の分子基盤とその
応用基盤
(菌根菌社会実装)
Elizabeth & Segre 2011
関連規制:
・農薬取締法
・肥料取締法、等
環境
食品
地球マイクロバイオームプロジェクト
地球上の20万箇所(サンプル)のメタゲノム
データを収集中
(賛同者協力型国際プロジェクト)
農業
Terragenome(土壌メタゲノム)プロジェクト
米国、カナダ、フランスが参画
(2008~、2011~NSF支援
微生物共生
研究推進の方法のイメージ
研究推進基盤領域
植物生産力向上研究拠点における三研究領域「植物能力開発研究領域」、「共生機能研究領域」、「土壌機能研究領域」
における、研究効率化のために支援業務に努める。各領域における共通技術基盤(分子生物学的手法、)を構築し、各領域の
支援と領域横断型研究を推進する役割を担う。
拠点間連携の推進
♥微生物の培養・保存
♥昆虫等小動物の飼育
♥共生ネットワークモデル構築・・・等
領域共通技術支援メニュー
(バイオインフォマティクス・トランスオミクス等)
イメージング・
モニタリング支援
データベース構築・運
用
バイオイン
フォマティク
ス支援
分子生物学的手法支
援
NGS解析支援
(ゲノム・メタゲノム・RNA-seq
等)
メタボロミク
ス
支援
プロテオミクス支
援
土壌機能研究領域
♠土壌メタゲノム抽出・解析
♠土壌特性分析
♠気象(環境)データ測定・・・等
支援
♣実験植物の栽培管理
♣遺伝子組換え株作製・組織培養
♣植物オミクスデータの解析・・・等
支援
共生機能研究領域
支援
研究推進基盤領域
植物能力開発研究領域
領域特有技術支援メニュー
植物栽培管理・圃場管理
気象(環境)データ解
析
土壌分析
植物の遺伝子組換え
及び組織培養技術支
援
微生物の培養・
保存管理