研究の背景及び目的 近年急速に進行しつつある地球温暖化は,宮崎県における自給粗飼料生産にも多大な影響を与えつつあり,標高200~400 mの中標高地帯に位置する本県の酪農地帯においても,従来の多年 生寒地型牧草地の維持が困難となり,暖地型草種の導入が必要となっている。本県の酪農家戸数は284戸(平成27.2.1)に減少しており,その経営の継続にあたっては,生産コストの削減が必須と なっている。 近年栽培研究が進行しつつある暖地型マメ科牧草のファジービーンおよび暖地型イネ科牧草矮性ネピアグラスは,このような酪農経営体への導入が可能であり,省力的に高品質の夏型粗飼料 資源の供給を可能とする草種である。また,テフは夏の乾草調製用として,早期水稲・早期とうもろこし跡用作物としての栽培が期待されている。さらに酪農経営においては,適切な糞尿処理,飼料 畑における土壌環境の適正な維持も,必須となっている。ここでは,宮崎県の酪農経営の維持・発展に貢献できる自給粗飼料生産基盤の確立に向けて,県内関係機関との情報の伝達および研究成 果の発信,酪農経営体に対する研修開催を行うことを目的とする。 実施状況 ① 宮崎県立高千穂高校の傾斜野草地における普通種ネピアグラスの草量および飼料品質 1. 生育特性 ・ネピアグラスの越冬率は94~100%であり、十分高い値を維持。 草丈は1番草では1×1 m区で高く,2番草では3×1 m区で低い。 ・草丈はネピアグラスが野草を上回り、茎数密度は1×1 m区で 最も高く,次いで2×1 m区,3×1 m区の順であった。 ・乾物収量は,1番草では, 1×1 m区が野草区より高く,2番草 では,ネピアグラス区は野草区を上回った。 2年間を比較すると,いずれの栽植密度でも,ネピアグラスの 乾物収量が,2年目で増加することが示された。 表1. 研究成果を日本草地学会石川大会(2016年3月)において発表。 図1.造成2年目におけるネピアグラス区と野 草区の乾物収量(平均±標準偏差,n=3). 図2.造成1,2年目のネピアグラスの年 間合計乾物収量および野草の平均合計 乾物収量(平均±標準偏差,n=3). 写真 左:ネピアグラスの再生(5月25日). 右上:1番草刈取り時(8月11日). 右下:2番草刈取り時(11月23日). ② 矮性ネピアグラス(DL)の耕作放棄地(樹園地)への普及 新植区の放牧前の草 量( 2015年11月19日) 新植区(2015年7月1日造成)における,矮性ネ ピアグラス(DL)の生育特性を検討した。新植が 7月上旬に遅れても,造成4か月後の11月下旬 に10日間の放牧が可能であることが実証された。 新植区の放牧後の草 量( 2015年12月4日) ③ 暖地型マメ科牧草の栽培・利用特性の解明 ファジービーン(Pb) サイラトロ(Si) センチュリオン(Ce) グライシン(Gl) バーガンディビーン(Bb) グリーンリーフデスモ ディウム(Gd) 図3.乾物収量(8月上旬播種,11月 上旬調査) ④ 暖地型小穀類テフの生育特性の解明 図4. 本実験における年間3毛作体系と既存の年間2毛作体系 (2008-2012年)との乾物収量およびTDN収量の比較. *:作況調査2008年-2012年(農林水産省)および日本標 準飼料成分表(独立行政法人 農業・食品産業技術総合研 究所機構 編)より作成. 選好性の採食試験の様子. 数種暖地型マメ科牧草について,圃場試験および採食試験 により南九州における栽培と利用の可能性を検討した。 11月の乾物収量はPb,Si,Ce,Gl,Bbの順となった。 前年に栽培したGdにおいては,春に萌芽し,11月の乾物収 量は前年より高い値を示した。 ホルスタイン種泌乳牛による選好性の試験において,Pb,Gl およびGdの各組合せでは,PbがGlおよびGdより高い選好性 を示す傾向にあり,またPb,SiおよびCeの各組合せでは,有 意に選好性が高いと評価されたものは存在しなかったが,Pb, Ce,Siの順に高い傾向が示された。 夏作トウモロコシ-冬作ムギ類体系の端境期へテフを導入し,年間 三毛作体系の確立を検討した。 気象の影響はあるものの,トウモロコシ-テフ-コムギの三毛作体 系では,既往のトウモロコシ-イタリアンライグラスの年間二毛作体 系に比べても高い収量性とTDN収量が得られた。 したがって,今後,テフの収量性を向上させる栽培体系を確立するこ とにより,本作付体系による飼料自給率向上の可能性が示された。 ⑤ 「暖地型飼料作物の栽培技術講習会」の開催 土壌と施肥の 講義 小林市家畜防疫推進大会における 自給粗飼料研究成果のポスター展 示(2016年2月24日) 矮性ネピアグラス草地 の放牧利用の観察 目標の達成度及び成果 ・ 研究経費申請書に記載した研究計画を遂行し、所定の成果を 挙げることができた。 ・ 「暖地型飼料作物の栽培技術講習会」を、学内および小林市で 開催し、畜産技術者ならびに生産者に宣伝する機会を得た。 ・ 平成28年度に、小林市との連携研究において、暖地型飼料作 物の現地実証圃場展示を、宮崎県畜産試験場との連携研究に おいて、地域に降ろせる革新的技術開発を遂行することとなった。 ・所属:宮崎大学農学部 ・名前:石井 康之・飛佐 学・井戸田 幸子 ・地域志向教育研究経費区分:地域課題解決型 3B(事業⑮) ・対象となる領域:宮崎県全域 今後の課題及び展開 ・ 平成27年度の研究成果をパンフレットにまとめ,県内の酪農・繁殖牛 経営への普及に努める。 ・ 平成28年度開始の小林市との連携研究の中で,現地実証圃場を設 置し,県内の酪農・繁殖牛経営へ普及可能な草種の特性把握および宣 伝・普及に努める。 ・ 平成28年度開始の宮崎県畜産試験場を研究代表機関とする、「革新 的技術開発・緊急展開事業」(うち地域戦略プロジェクト)において、「最 大栄養収量を目指した作付体系の開発・実証」および「新規エネルギー 飼料およびタンパク質飼料の安定供給技術の確立」の研究項目につい て、連携研究を推進する。 <問い合わせ先> みやだい COC 推進機構 住所:宮崎市学園木花台西1-1 Tel: 0985-58-7250 E-mail: [email protected]
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