地域住民ベースの健康支援・保健指導の進め方と地域支援ネットワーク

平成 28 年 6 月 15 日
安細担当
【4 月 20 日の復習から】
【ヘルスプロモーション各論】
I 健康支援に必要な基本理念
1)
住民第一主義:住民本人が主体的に意思決定することを重視。サッチャー元首
相が提唱した患者第一主義 patient first が原点。
2)インフォームドチョイス:専門職の役割は、健康についての科学的な最新情報を提
供し、住民の主体的な意思決定を支援すること。
3)健康教育の理念と方法
理念
従来の健康教育
新しい健康教育
対象者は指導の対象
住民第一主義
トップが決定権をもつ
インフォームドチョイス
基本的人権
方法
他者依存型
人々の主体的参画
専門家主導
当事者がエンパワーされる支援
II 健康支援のための戦略【新予防歯科学 263 ページ】
以下の 2 つの戦略(ストラテジー)がある。
1)
ポピュレーション戦略:集団全体へのアプローチ
例:フッ化物水道水添加によるう蝕予防、タバコ自動販売機の撤去による子ど
もの喫煙防止
2)
ハイリスク戦略:健康リスクの高い者へのアプローチ
例:病院・診療所での診療活動、薬物療法
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<疾病の自然史>【新予防歯科学 4〜6 ページ】
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<Leavell と Clark の 3 つの予防レベル>
n 1次予防(primary prevention)
:健康ではあるが、感受性をもつ者に対して疾
病を未然に防ぐこと
n 健康増進(health promotion)
n 特異的予防(specific protection)
n 2次予防(secondary prevention):定期健診などで病気の芽をみつけ、早い段
階で摘みとること
n 早期発見・早期治療(early diagnosis and prompt treatment)
n 3次予防(tertiary prevention):病気にかかってしまったら、きちんと最後ま
で治療を受け、機能の回復・維持を図ること
n 機能障害の防止(disability limitation)
n リハビリテーション(rehabilitation)
※3 次予防のうち、機能障害防止については 2 次予防に分類する考えもあるので注意。
Leavell と Clark の”Preventive medicine for the doctor in his community”の第 2 版で
は 3 次予防に、第 3 版では 2 次予防に含まれている。厚生白書や医学の教科書の多く
は 2 次予防となっており、歯科医学の分野では多少の混乱がある(新予防歯科学 P.5
欄外)。
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<1 次予防>
n 健康増進
n 健康教育・健康相談
n 栄養指導
n 禁煙指導
n 口腔衛生指導
n 特異的予防
n フッ化物応用
n シーラント処置
n PTC, PMTC
n 再石灰化療法
<2 次予防>
n 早期発見・早期治療
n 精密検査
n レジン充填処置
n フッ化ジアンミン銀塗布
n 歯周基本治療
<3 次予防>
n 機能障害の防止(2 次予防に入れる場合もある)
n 歯内療法
n 抜歯
n 歯周外科処置
n 歯の固定
n リハビリテーション
n 補綴処置
n インプラント治療
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【地域住民ベースの健康支援・保健指導の進め方と地域支援ネットワーク】
Ⅰ 健康支援(学)とは何か
すでにヘルスプロモーションに関するオタワ憲章(1986 年)について学習した。オ
タワ憲章では具体的な活動方針として、5つの活動領域、すなわち①健康的な公共政策
の立案、②健康を支援する環境づくり、③地域活動の強化、④個人技術の開発、⑤保健
医療サービスの方向転換、が提唱された。
つまり、従来の「自らの健康は自らで守る」→「人々が健康問題を自分でコントロー
ルするために社会的なレベルの努力が必要」という認識に移行していった。
※ 健康支援(学)の定義:健康に関する疫学と政策科学を基盤にして住民、指導者、
行政および環境要因を含んだ全人的アプローチとネットワークづくり、ないしシス
テム構築のこと。
Ⅱ 健康づくりを支援する専門職に必要な基本理念
1)住民第一主義
住民本人が主体的に意思決定することを重視し、その力量が高まるように支援する
ことを意味する。patient first ともいう。
住民第一主義の概念は保健医療福祉分野に限らず、地域、学校、職場での健康づ
くりや街づくりプロセスでも活用できる。
2)インフォームドチョイス(情報提供と本人の意思決定)
健康づくりを支援する専門職の役割は、健康についての科学的な最新情報を提供し、
住民の主体的な意思決定を支援することである。
「説明を受けた上での選択」のこと。
インフォームドコンセントをさらに推し進めて患者主体の考え方で、契約をしな
いという選択肢も設定されている。ある病院やクリニックで治療を受けるという契
約を結ぶかどうかは、最終的には住民が意思決定をすることになる。
健康教育においてもインフォームドチョイスの考え方は重要で、専門職が判断す
る「最も望ましいすがた」を指導するのではなく、選択と判断については住民や患
者が自分の価値観に基づいて決めるのが望ましいとされる。
3)専門職が価値づけをしない
住民がどのような選択をしても専門職はその選択が「正しい」とか「よくない」と
かの価値づけ(judgment with value)をしないこと。また、住民が最終的にどの
ような選択をしても責任は本人にあることを確認することもインフォームドチョ
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イスの前提として重要なことである。 こうした「住民第一主義」、
「インフォーム
ドチョイス」、「専門職が価値づけをしない」等の理念は「健康日本 21」でも示さ
れたものでもある。
4)健康教育の変遷(予防歯科学第 4 版 p174)
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Ⅲ 健康づくりを支援する戦略とその実践方法
ハイリスク戦略(ストラテジー)とポピュレーション戦略(ストラテジー)(新予防歯
科学第 4 版 p263)
ハイリスク戦略
ポピュレーション戦略
目標
う蝕歯の減少
う蝕歯の減少
対象
高う蝕罹患者
地域住民全体
リスクが高い
リスクが低い
う蝕予防処置(フッ化物塗
フッ化物の集団応用(フロ
布、シーラントなど)
リデーション、フッ化物洗
口腔ケア・生活習慣指導
口など)、学校や教育委員
方法
会、行政との連携
場所
クリニック、病院など
地域全体
住民参画
患者の主体的な取組が必要
主体的な住民参画が必要
関連分野
(歯科)医療関係分野
保健医療以外の分野との連
携
ポピュレーション戦略は、地域住民全体に対策が行き渡る割合が高いという特性があ
る。一方、ハイリスク戦略はリスクの高い特定の集団に焦点を当てることから、ポピュ
レーション戦略に比べると、より少数の対象者に効果的な治療やケアを行う。いずれの
戦略も結果的に地域全体のリスクを低下させ、健康寿命の延伸につながるものであり重
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要である。
(参考文献)
ロンドン大学衛生学 Geoffrey Rose 著 The strategy of preventive medicine(予防医
学のストラテジー)(曽田、田中監訳、医学書院)
ハイリスク戦略
ポピュレーション戦略
<利点>
<利点>
①個人に対して適切
①革新的、抜本的
②個人に対して強い動機づけ
②全集団に対して大きな恩恵
③医療者にも強い動機づけ
③生活習慣の変容が適切
④(費用対効果分析による)リスク便益比
が高い
<欠点>
<欠点>
①ハイリスク者の把握が困難
①個人には小さな恩恵
②効果は一時的
②個人にとって弱い動機づけ
③効果には限界がある
③医療者にも弱い動機づけ
④生活習慣の変容が困難
④リスク便益比が低い
(水嶋春朔著 地域診断のすすめ方、医学書院より)
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Ⅳ 疫学研究と健康政策
1)記述疫学研究:地域診断(人口動態統計、疾病登録、モニタリング、サーベイラン
スなど)
2)分析疫学研究:地域相関研究(生態学的研究)、横断研究(断面調査)、症例対照(ケ
ースコントロール研究)、コホート研究
3)介入研究:臨床試験、野外介入研究、地域介入研究
4)ヘルスサービス研究:保健サービスプログラム、予防医学戦略、有効性評価など
5)ヘルスポリシー研究:健康政策、社会保障制度
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Ⅴ PDCA サイクル
P:何をどのように進めるのか計画を立てる
D:計画に従って実行する
C:計画の達成度など評価・問題点を分析する
A:計画を継続するか変更するか決定する
P:Plan(計画)
D:Do(実施)
C:Check(評価)
A:Act(改善)
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Ⅵ 専門職の役割
日常的な地域保健活動(健康教育、健康相談、健康診査など)や調査活動、統計デー
タの整理などを通じて、地域の健康課題(ヘルスニーズ)を明確にし、その実態を関係
者と共有できるようにすることが求められる。
ヘルスニーズを顕在化させ、まず専門職間で意見を集約し、健康課題とその解決方法
を提示する必要がある。その上で、その健康課題について住民との話し合いの場を設定
し、住民に情報の提供をして課題と解決方法を共有していく。
A
A
<ウオンツ、デマンドとニーズとの関連>
wants ウオンツや demand デマンドは住民の要望だが、専門職の視点としては、住民
が気づいていない needs ニーズを明示し、住民らと共有することが大切となる。
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Ⅶ 地域保健活動における評価
<Outcome、process、structure、評価>
Public health 活動における評価のしかたとしては 3 段階がある。
1.成果(アウトカム、outcome)評価:目標が達成されたかどうかを検討する。
2.過程(プロセス、process)評価:アウトカムだけの評価ではなく、成果を得るま
でのプロセスに重きを置いた評価。関係者が対等であったか、会議や討論において本音
の話ができたか、あるいは住民や関係者の学びおよび共有化されたかどうかを評価する。
3.構造(ストラクチャー、structure)評価:対策の基盤となる資源の状況であり、
人的資源や物的資源のこと。
【生活習慣を例にとると】
日頃の生活習慣
最終的な成果(アウトカム)
適切な食生活を送る者の割合
適切な運動習慣をもつ者の割合
その他の習慣(喫煙・飲酒等)が適切な者
の割合
サービス提供実績(プロセス)
自ら健康度の把握をしている者の割合
健康づくりのアクセス(知識普及率など)
行政の取り組み(運動習慣普及のためのイ
ベント企画、条例の制定など
対策の基盤となる資源の状況(ストラクチ
ポピュレーション・アプローチの人的資源
ャー)
(保健師数、住民ボランティア数など)
ポピュレーション・アプローチの物的資源
(健康づくりのための施設、ウオーキング
ロード整備、など)
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Ⅷ エンパワメント empowerment とは(予防歯科学 p. 175、p. 178)
「自らの健康を決定する要因を統御する能力を獲得し、自らの健康目的を達成するこ
とができる能力」のこと。
傾聴—対話—行動という 3 段階の過程を経て住民が自らのパワーを獲得していくこと
を支援していくという考え方である。
参加者が主人公として位置づけられるエンパワメントの要素には以下のようなもの
がある。
<エンパワメントの要素>
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改善
Improvement
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コミュニティ・エンパワメント
Community empowerment
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包み込むこと
Inclusion
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民主的な参画
Democratic participation
5
社会的公正
Social justice
6
地域住民の知識
Community knowledge
7
化学的根拠に基づく戦略
Evidence-based strategies
8
力量獲得の支援
Capacity building
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組織的な学習
Organization learning
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説明責任
accountability
(公衆衛生、医学書院より)
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Ⅸ 地域保健活動の具体的イメージ
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(新予防歯科学第 4 版、p179)
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