平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 【ヘルスプロモーション総論】 I 権利としての健康—プライマリヘルスケア(PHC)【新予防歯科学 189 ページ】 PHC は 1978 年に WHO/UNICEF 主催の会議がアルマアタ(現在のカザフスタン)で あり、アルマアタ宣言として採択された。 n Health for All by the year 2000 (HFA):「すべての人に健康を」 戦前、健康は義務であり、健康な民は健康な兵になるという発想であった。1946 年の WHO 憲章で健康は基本的人権の一つという位置づけがされた。 n PHC の主役は住民 Ø n 専門家が中心ではない PHC はプライマリケア(一次医療、初期医療)を含む。 II アルマアタ宣言の内容 宣言は英文で 5 ページ、10 項目からなる。そのうち、第 1 項に 1)健康の定義、2)健 康は基本的人権であること、3)可能な限り最高レベルの健康水準を達成すること、4) 社会的目標であること、とある。 ・第 2 項、第 3 項に1)先進国と発展途上国のギャップ、2)すべての人に健康を(HFA) が平和と経済・社会開発の基礎であること、が述べられている。 ・第 4 項では住民参加の原則である。単に住民を対象として巻き込むのみでなく、主 体的な参加という意味も含んでいる。 ・第 5 項では、全ての人々に健康を、のカギが PHC であることが述べられている。 その他、第 8 項から第 10 項では各国や国際社会の役割が述べられている。 ※アルマアタ宣言では、健康水準の格差が先進国と発展途上国で容認できないレベルに なっているという医療の南北問題が指摘された。 n PHC の必須 8 項目(:我が国での問題) n こられの問題を解決すれば世界人口の約 80%の命や健康が改善できるという。 Ø 栄養不良:肥満・拒食症問題 Ø 飲料水:安全な水の確保 Ø 衛生:シックハウス症候群、アトピー、ダイオキシン問題 1 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 Ø 母子・家族計画:子育て、虐待 Ø 予防接種:肝炎予防接種、インフルエンザ予防接種、子宮頸癌予防接種 Ø 流行病:新型インフルエンザ、エイズ、結核 Ø 健康教育:メンタルケア、タバコ、自殺 Ø 一般的疾病・外傷の治療:がん、糖尿病、高血圧、認知症など II 健康格差ということ 健康は、遺伝子や生活習慣だけでなく、経済的地位といった社会的要因によって決定さ れている。しかし、グローバル化のなかで拡大する社会の格差、社会保障の削減の結果、 健康格差が広がっている。 III ヘルスプロモーション【新予防歯科学 177、189 ページ】 PHC の精神を生活習慣病や新しいライフスタイルの健康づくりに適応させ、 「健康は目 的ではなく、QOL 獲得のための手段」とした考え方。 1986 年の WHO のオタワ憲章がもとになっている。 n n 5 つの活動領域 Ø 健康的な公共政策づくり(例:飛行機での喫煙) Ø 支援的な環境づくり(例:食品売場にカロリー表示をする) Ø 地域活動の強化(例:地域の会合に出向く) Ø 個人技術の開発(例:プリン体を減らしたビール、家庭用血圧計) Ø 健康サービスの方向転換(例:二次予防から一次予防へ) 3 つの方法 Ø 健康のための advocacy:唱道・推奨すること Ø 能力付与 enabling:人材育成・自己開発能力 Ø 調停 mediating:様々な立場や利害、意見が存在することを認めた上で、 人々の保健改革に関する対立を調停して住民参加を実現したり、保健政 策を立案することを目指す意味合いがある 2 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 Health promotion ! ! ! ※2005 年にタイのバンコックでバンコック宣言がだされた。オタワ憲章のヘルスプロ モーションの定義が一部修正された。 『人々が自らの健康とその決定要因をコントロールし、改善していけるようになるプロ セスである』 IV PHC とヘルスプロモーションとの関係 いわば車の両輪の関係。ヘルスプロモーションは、PHC の精神を生活習慣病やライフ スタイルに適応させ、 『健康は目的ではなく、QOL 向上のための手段』とする考え方で ある。例えば、障がいがあっても精一杯生きて理想とする自己像に近づき、自己実現に 向けて生きていくこそが目的のはずである。 Ⅴ 日本のとりくみ【新予防歯科学 190 ページ】 HFA を受け、米国では 1979 年からヘルシーピープルがはじまる。わが国では第 3 次 国民健康づくり対策として、2000 年(平成 12 年)から健康日本 21 が開始し、10 年間 続いた。平成 23 年度に最終評価がなされた(詳細は厚労省 HP 参照)。 <健康日本 21 の基本理念> n 健康寿命の延伸と生活の質(QOL)の向上 <健康寿命とは> n 寝たきりや認知症にならずに生活できる期間のこと 3 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 <特徴> n ヘルスプロモーションの考え方の導入と QOL の重視 n 具体的数値目標の設定 n EBM の考え方の導入 n 9個の重点項目:①栄養・食生活,②身体活動・運動,③休養・心の健康づくり, ④たばこ,⑤アルコール,⑥歯の健康,⑦糖尿病,⑧循環器系,⑨癌 <健康日本 21 と歯の健康> n 主な目標値 n 80 歳における 20 歯以上の自分の歯を有する者の割合:20%以上(現状 参考値 11.5%): A n 60 歳における 24 歯以上の自分の歯を有する者の割合:50%以上(現状 参考値 44.1%): A n 定期的に歯科健診を受けている者の割合:30%以上(現状参考値 15%): A n 3歳児における齲蝕のない者の割合:80%以上(現状参考値 59%): B n 3歳児までにフッ化物歯面塗布を受けたことのある者の割合:50%以上 (現状参考値 39%): A n 12 歳児における DMFT 1歯以下(現状参考値 2.9 歯): B n 学齢期におけるフッ化物配合歯磨剤使用者の割合:90%以上(現状参考 値 45.6%): B n 40,50 歳における進行した歯周炎に罹患している者(4mm 以上の歯周 ポケットを有する者)の割合:3割以上の減少 (40 歳 32%,50 歳 46.9%): A <第二次国民健康づくり運動(健康日本21(第二次)>(平成 25 年度〜34 年度) ライフステージに応じて、健やかで心豊かに生活できる活力ある社会を実現し、その結 果、社会保障制度が持続可能なものになるよう、国民の健康の増進に総合的な推進を図 ることを目指す。 n 基本的な方向 Ø 健康寿命の延伸と健康格差の縮小 ² Ø 平均寿命と健康寿命の差が、男性:約 9 年、女性:約 12 年 生 活 習 慣 病 の 発 症 予 防 と 重 症 化 予 防 の 徹 底 ( Non-Communicable Diseases【NCD】の予防) 4 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 ² Ø がん、循環器疾患、糖尿病、COPD(慢性閉塞性肺疾患) 社会生活を営むために必要な機能の維持および向上 ² こころの健康(メンタルヘルス) ² 高齢者の健康(認知機能低下ハイリスク者、ロコモティブ症候群、 低栄養傾向への対応) Ø 栄養・食生活、身体活動・運動、休養、飲酒、喫煙および歯・口腔の 健康に関する生活習慣および社会環境の改善 <歯・口腔の健康> 歯・口腔の健康は摂食と構音を良好に保つために重要であり、生活の質の向上にも大 きく寄与する。目標は、健全な口腔機能を生涯にわたり維持することができるよう、 疾病予防の観点から、歯周病予防、う蝕予防及び歯の喪失防止に加え、口腔機能の 維持及び向上等について設定する。当該目標の達成に向けて、国は、歯科口腔保健に 関する知識等の普及啓発や「8020(ハチマルニイマル)運動」の更なる推進等に取り組 む。 (参考) <健康増進法> n 健康日本 21 など国民の健康づくりや疾病予防を推進するため 2003 年に施行され た n 健康診査の実施に関する指針の策定 n 国民健康・栄養調査の実施 n 保健指導などの実施 n 受動喫煙の防止 5 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 【ヘルスプロモーション各論】 I 健康支援に必要な基本理念 1) 住民第一主義:住民本人が主体的に意思決定することを重視。サッチャー元首 相が提唱した患者第一主義 patient first が原点。 2)インフォームドチョイス:専門職の役割は、健康についての科学的な最新情報を提 供し、住民の主体的な意思決定を支援すること。 3)健康教育の理念と方法 理念 従来の健康教育 新しい健康教育 対象者は指導の対象 住民第一主義 トップが決定権をもつ インフォームドチョイス 基本的人権 方法 他者依存型 人々の主体的参画 専門家主導 当事者がエンパワーされる支援 II 健康支援のための戦略【新予防歯科学 263 ページ】 以下の 2 つの戦略(ストラテジー)がある。 1) ポピュレーション戦略:集団全体へのアプローチ 例:フッ化物水道水添加によるう蝕予防、タバコ自動販売機の撤去による子ど もの喫煙防止 2) ハイリスク戦略:健康リスクの高い者へのアプローチ 例:病院・診療所での診療活動、薬物療法 6 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 <疾病の自然史>【新予防歯科学 4〜6 ページ】 1 2 3 <Leavell と Clark の 3 つの予防レベル> n 1次予防(primary prevention) :健康ではあるが、感受性をもつ者に対して疾 病を未然に防ぐこと n 健康増進(health promotion) n 特異的予防(specific protection) n 2次予防(secondary prevention):定期健診などで病気の芽をみつけ、早い段 階で摘みとること n 早期発見・早期治療(early diagnosis and prompt treatment) n 3次予防(tertiary prevention):病気にかかってしまったら、きちんと最後ま で治療を受け、機能の回復・維持を図ること n 機能障害の防止(disability limitation) n リハビリテーション(rehabilitation) ※3 次予防のうち、機能障害防止については 2 次予防に分類する考えもあるので注意。 <1 次予防> n 健康増進 n 健康教育・健康相談 n 栄養指導 n 禁煙指導 n 口腔衛生指導 n 特異的予防 7 平成 28 年 4 月 20 日 安細担当 n フッ化物応用 n シーラント処置 n PTC, PMTC n 再石灰化療法 <2 次予防> n 早期発見・早期治療 n 精密検査 n レジン充填処置 n フッ化ジアンミン銀塗布 n 歯周基本治療 <3 次予防> n 機能障害の防止(2 次予防に入れる場合もある) n 歯内療法 n 抜歯 n 歯周外科処置 n 歯の固定 n リハビリテーション n 補綴処置 n インプラント治療 8
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