物 理 の た め の 幾 何 入 門 担当 岡村 隆 第 1 回 レ ポ ー ト (16/6/10 出題 ; 提出〆切 6/24 講義開始時) 1 平面曲線の媒介変数表示, 曲率 ( ) ( ) ⃗ = x(t) , y(t) = R (t − sin t) , R (1 − cos t) xy 面上の曲線 C: ζ(t) (0 ≤ t ≤ 2π) を考える. (1) 曲線 C はサイクロイドと呼ばれる. この曲線 C を図示せよ. また媒介変数 t の幾何的意味を述べよ. (2) 原点 O から媒介変数の値が t となる点までの弧長 s(t) を求めよ. (3) 弧長 s(t) の逆関数 t(s) を求め, サイクロイド C を弧長 s で媒介変数表示せよ. (4) 弧長パラメータ s をもちいた曲率の定義に従い, サイクロイド C の曲率 κ(s) を求めよ. (5) 弧長パラメータを経由することなく, もとの媒介変数 t で曲線 C の曲率を求め, それが前小問の結果 と一致することを確かめよ. 2 曲率の力学的意味 ⃗ = 一般の媒介変数 t をもちいて ζ(t) ( ) x(t) , y(t) のように表示される曲線 C がある. 媒介変数 t の値が 0 となる曲線 C 上の点を O とし, 点 O から媒介変数の値が t となる点までの弧長を s(t) とする. そして, 弧 ⃗ 長パラメータ s で媒介変数表示した曲線 C を, 簡単に ζ(s) と表す.*1 以下では, 曲線 C が t や s について, それぞれ十分滑らかであるとして答えよ. (1) 弧長パラメータの値が s0 となる点を P0 とする. 点 P0 近傍において, 曲線 C が ( ) ⃗ ⃗ 0 ) + ζ⃗′ (s0 ) (s − s0 ) + 1 ζ⃗′′ (s0 ) (s − s0 )2 + O (s − s0 )3 , ζ(s) = ζ(s 2 と表せることを説明せよ. ここで, プライム ′ (2.1) は s による微分を表す. (2) 点 P0 における曲線 C の単位接ベクトル, 単位法ベクトル, および曲率を, それぞれ ⃗e0 := ⃗e(s0 ), ⃗n0 := ⃗n(s0 ), κ0 := κ(s0 ) とする. このとき, Eq.(2.1) を ⃗e0 , ⃗n0 , および κ0 で書き直せ. 前小問で得られた結果を, 一般の媒介変数 t を用いた表記に書き直したい. 一般の媒介変数 t を用いた場合の 2 ⃗ ⃗˙ ⃗ ⃗¨ として*2 次式で表せる: Eq.(2.1) に対応する式は, ⃗v (t) := dζ(t)/dt = ζ(t), ⃗a(t) := d2 ζ(t)/dt = ζ(t) ( ) ⃗ = ζ(t ⃗ 0 ) + ⃗v (t0 ) (t − t0 ) + 1 ⃗a(t0 ) (t − t0 )2 + O (t − t0 )3 . ζ(t) (2.2) 2 ˙ ⃗ と略記する. このとき, “速度ベクトル” ⃗v (t) と “加速度ベクトル” ⃗a(t) が, 単 (3) v(t) := ⃗v (t) = ζ(t) 位接ベクトル ⃗e(s(t)), 単位法ベクトル ⃗ n(s(t)), 曲率 κ(s(t)) をもちいて ( ) ⃗v (t) = v(t) ⃗e s(t) , ( ) ( ) ( ) ⃗a(t) = v 2 (t) κ s(t) ⃗n s(t) + v̇(t) ⃗e s(t) , (2.3) と表されることを示し, Eq.(2.2) を ⃗e, ⃗ n, κ で書き直せ. (4) “加速度ベクトル” ⃗a(t) を, “速度ベクトル” ⃗v (t) に平行な成分 ⃗a∥ (t) と直交する成分 ⃗a⊥ (t) とに分解 すると, 次式となることを示せ: ( ) ( ) ⃗a⊥ (t) = v 2 (t) κ s(t) ⃗n s(t) . ⃗a∥ (t) = v̇(t) ⃗e(t) , *1 ( ⃗ 弧長 s(t) を t について逆解きしたものを t(s) とする. このとき, 曲線 C は弧長 s をもちいて ζ̃(s) := ζ⃗ t(s) (2.4) ) と表されるが, ⃗ ⃗ 面倒なので, ζ̃(s) を ζ(s) と略記する. *2 ⃗ t による微分をドット ˙ で略記した. また, 媒介変数 t を “時刻” に, ζ(t) を「“時刻” における質点の位置ベクトル」と見なせ ば, ⃗ v (t), ⃗a(t) は, それぞれ速度ベクトル, 加速度ベクトルと見なせる. 1 (5) Eq.(2.4) は, 曲率の力学的意味を表現している. 以下に注意して, 曲率の意味を力学的に説明せよ: • 加速度がない, つまり等速直線運動する質点の軌道は, 直線となる. • 等加速度直線運動する質点の軌道も直線となる. 3 応用問題: 平面曲線の媒介変数表示, 曲率, 線積分 (1) 双曲関数 cosh, sinh は, cosh(ζ) := (eζ + e−ζ )/2, sinh(ζ) := (eζ − e−ζ )/2 と定義される. cosh, sinh が満たす関係式を求めよ. (ヒント: cos, sin は指数関数でどのように表されるか?) (2) 双曲関数の逆関数は, 三角関数の逆関数のように cosh−1 , sinh−1 と表される. つまり, z が与え られたとき, z = cosh(ζ) を満たす ζ は*3 ζ = cosh−1 (z) と記され, z = sinh(ζ) を満たすもの は ζ = sinh−1 (z) と記される. 次式を示せ: ( ) √ cosh−1 (z) = ln z + z 2 − 1 , ( ) √ sinh−1 (z) = ln z + z 2 + 1 . (3) x 軸上を加速度 a で等加速度直線運動する物体 A の軌道は, x(t) = x0 + at2 /2 で与えられる. (簡単 の為, t = 0 で速度がゼロとした.) しかし実際には, A の速度が光速度 c に近付くと相対論的効果が効 き始め, 等加速度直線運動する A の軌道は次式となることが知られている: ( ) √( 2 )2 c2 c x − x0 − = + c2 t2 . a a (3.1) (a)物体 A の速度が光速度 c よりも十分小さい (a t ≪ c) 場合, Eq.(3.1) が x(t) ∼ x0 + at2 /2 と近似 されることを示せ. (b)簡単の為, 以下 x0 = c2 /a とする. A の運動を, 横軸を x, 縦軸を t とする平面 (時空図という) 上 にグラフで表せ. (物体の運動を表す曲線を世界線とよぶ.) (c)便利な媒介変数 (ℓ とする) を自分で導入し, A の運動を表す曲線 (世界線) を媒介変数表示せよ. (d)A の世界線の曲率を求めよ. (4) この小問では, 等加速度直線運動に限らず任意の運動を考える. 物体 A と共に運動する時計が示す時刻を固有時 τ という. 固有時の進み dτ *4 は, A が動いて見える観 測者 B の感じる時間経過 dt ではない. B から見て, A が世界線に沿って (x, t) から (x + dx, t + dt) に微小に “移動” した*5 とき, 固有時の経過 dτ は次式で与えられる: 2 2 (dτ )2 = (dt) − (dx) /c2 . これより, 世界線の媒介変数 ℓ が α から β へ変化したときに経過する固有時を与える表式を導け. (5) 小問 (3) の等加速度直線運動の場合に対し, 静止状態から (微小ではない) ∆x だけ移動したとき経過 する固有時 ∆τ を求めよ. (6) 地球から最寄りの(太陽を除く)恒星までの旅行を考える. 地球上の重力環境と同じ状態を保つため, 前半は大きさ a = 9.8 m/s2 の加速度で加速し, 後半は同じ大きさの加速度で減速して恒星に到着する 旅程とする.*6 (片道)旅程に要した宇宙船内の時間を求めよ. (つまり, 経過した宇宙船の固有時はい くらか?) また, そのとき地球上での経過時間はいくらか. さらに, 銀河中心までではどうか? *3 *4 *5 *6 cosh は偶関数 (cosh(−ζ) = cosh(ζ)) なので, 一般に z = cosh(ζ) を満たす解 ζ は, 正負に一つずつある. 以下では, 正の解の 方を, 逆関数に選ぶ. 平たく言うと, A の感じる時間経過. 普通の言い方をすると, 「観測者 B の時刻が t から t + dt まで微小経過したとき, 物体 A は x から x + dx に移動した」 簡単のため, (危ない話ではあるが)加速期から減速期への切り替えに要する時間はゼロとする. 2
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