研究報告 平成27年度 土木分野No.7 越流のエネルギー減衰に及ぼす

研究報告
平成27年度
土木分野No.7
越流のエネルギー減衰に及ぼす堤防裏法被覆工の相対粗度間隔に関する研究
Evaluation of energy reduction by changing relative spacing of protection blocks on back slope of sea
embankment
埼玉大学
准教授
八木澤 順治
1.研究背景と目的
2011年東日本大震災時には,多くの地点で津波が海岸堤防を越流し,裏法尻の巨大な洗掘,
高速流による裏法被覆工の流失によって堤体に大きなダメージを与えた.こうした大きな越
流を伴う状況下においても,内陸への越流量・流体力を最小限に抑えるために,越流に対し
て粘り強い堤防を構築することが減災上非常に重要である.海岸堤防の裏法面は凹凸のある
コンクリートブロックを被覆することが多く,岩手県の小本川河口の海岸堤防では裏法地盤
との落差が10m程度と大きく,震災時に2-3mの越流水深があったにもかかわらず,それほど大
きな洗掘が生じていなかった.このことからも越流によるエネルギーを効果的に減少させる
粗度間隔があることが示唆される.しかしながら,従来の研究では底面の凹凸によってエネ
ルギー減衰を促す研究は数多くなされているものの,常流・緩勾配条件化での検討が多く,
海岸堤防の裏法面のように急勾配で射流が発生するような条件下での検討はあまり例を見な
い.そこで,本研究では裏法被覆工の粗度形状がエネルギー減衰・洗掘軽減に及ぼす効果を
明らかにするため,水理模型実験により最適な粗度間隔,高さを種々の越流条件化で把握す
ることを目的とする.
2.研究手法
津波襲来時には津波の規模,海岸堤防高に応じて,様々な越流状況が想定される.このよ
うに条件が大きく異なる津波特性・海岸堤防の形状特性に応じて広く適用可能な裏法被覆工
の形状(粗度間隔や高さ)を明らかにするためには,「裏法面での越流水深(相対水深)」と「堤
防形状(堤防高,法面勾配)」という両者の影響を把握することが重要である.また,津波時
には堤防天端においてフルード数が1を大きく上回る流れが越流するが,このような条件下で
のエネルギー減衰特性については特に未解明な部分が多い.
上記を踏まえ、以下の2つの検討を実施した.
2-1 相対粗度間隔によるエネルギー減衰効果把握のための水理模型実験 (実験1)
実験モデルは実スケールの1/30を想定し,
長さ400 cm,幅40 cm,高さ50 cmの水路に,
高さ30cm,裏法勾配が1/3の木製堤防モデ
ルを設置して実験を実施した(図-1).堤防
モデルの裏法面に一辺の長さ3.0mmの正方
形断面の桟粗度モデルを一定間隔で設置し,
相対粗度間隔s/k が7ケース,相対水深3ケ
ースの計21ケースを実施した(表-1).
図-1
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実験1の実験装置概要図
表-1 実験1および2の実験条件一覧
相対粗度間隔
s /k
0 (粗度無し)
4
6
8
10
12
14
0.1
実験1
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
実験2
〇
〇
〇
-
相対水深比 h /H
0.15
実験1
実験2
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
0.2
実験1
〇
〇
〇
〇
〇
〇
〇
実験2
-
本実験では,コントロールとして裏法面に粗度を配置しない実験も合わせて実施し,粗度配
置の変化がエネルギー減衰,に及ぼす効果を浮き彫りにする.
裏法肩の相対水深が実験条件を満たし定常流となった状態で,ポイントゲージを用いて法
肩から下流190cmまでの水面形を測定した.その際,ポイントゲージを落とした際の波の伝播
から擾乱の開始点Aを測定し,Aと最も近い水面形の測定点から法肩までの長さl a を測定した.
また,堤防頂部において限界流が生じる条件とベルヌーイの式,連続式より,裏法肩と裏法
尻それぞれの水深を用いてエネルギー減衰率Eloss をEloss =(E1 -E2 )/E1 より算出した.ここで,E1
は裏法肩のエネルギー水頭,E2 は裏法尻のエネルギー水頭である.
2-2 裏法尻付近の局所洗掘実験 (実験2)
1)と同様の水路を用いて定常流条件下
で実験を行う.1)で明らかとなったエネ
ルギー減衰特性が大きく異なる水理条
件・粗度条件下において,裏法尻以降に
移動床(d 50 =4mm)を設置し,静的洗掘が
生じる条件下で実験を実施した.実験で
は,移動床部分が平衡状態になるまで実
験を継続し,どのケースでも概ね30分程度
図-3 実験2の実験装置概要
で平衡状態に至ったことを確認している.
3.実験結果
3.1 射流条件下でのs/kによるエネルギー減衰率の相違
相対粗度間隔s⁄kによるエネルギー減衰率の変化を表したグラフを図-4に示した.h⁄Hが0.1,
0.15, 0.2ともに,s⁄kが増加するとエネルギー減衰率も増加していき,エネルギー減衰率が最大
となる点,つまり最も減勢に効果的なs⁄kが全てのh/Hのケースで12となった.それよりs/kが増
加し,s/k=14になるとエネルギー減衰率は小さくなっていった.この図より,s/kが小さすぎる
と粗度間の凹部が死水域となり抵抗が小さくなる一方,s/kが大きすぎると単純に粗度要素の
抵抗が小さくなるという常流条件で確認されている傾向が射流条件でも確認できた.また,
射流条件ではエネルギー減衰率が大きくなるs/kの範囲が,常流条件よりも大きくなる方向に
シフトした.この現象におけるエネルギー減衰の要因は,粗度の抗力と,粗度後背で生じる
剥離流による運動量交換の二つである.エネルギー減衰率が大きくなるs/kの範囲が常流条件
の場合と変化した理由として,射流となり常流条件よりも粗度上部の流速が大きくなったこ
とで,粗度背後で生じる剥離流が再付着し十分に運動量交換を起こすのに必要な長さが伸び
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図-4
相対粗度間隔によるエネルギー減衰率の比較
図-5
表-2
s/k
h/H
1A間
A2間
相対粗度間隔によるl a ⁄lの比較
擾乱前後での平均エネルギー勾配の比較
10
12
14
0.1 0.15 0.2
0.1 0.15 0.2
0.1 0.15 0.2
0.25 0.18 0.22 0.30 0.26 0.22 0.24 0.23 0.23
0.35 0.41 0.43 0.55 0.64 0.74 0.35 0.37 0.38
たためと考えられる.
また,s⁄kによるl a ⁄lの変化を図-5に示した.擾乱開始位置がケースによって異なっているこ
とがわかる.h⁄Hが0.1, 0.15の場合はs⁄kが10から12でl a ⁄lは最も小さくなり,その後はs⁄kの増加
とともにl a ⁄lは増加した.h⁄Hが0.2ではピークは見られずs⁄kの増加とともにl a ⁄lは減少した.Eloss
が最大となるs⁄kの範囲について,擾乱開始位置であるA点を境界とした1A間(上流側)とA2間
(下流側)の平均エネルギー勾配のs⁄kとh⁄Hによる変化を表-2に示した.比較した全ケースで1A
間よりA2間の方が,平均エネルギー勾配が大きいことがわかる.エネルギー減衰率が最大と
なるs⁄k=12の場合,1A間とA2間の平均エネルギー勾配の比はh⁄Hが0.1, 0.15, 0.2のとき,それぞ
れ1.83, 2.46, 3.36となり,比較したケースの中で最も勾配の変化が大きかった.2011年の東北
地方太平洋沖地震津波以降,海岸堤防本体を可能な限り維持するため,裏法面上に裏法尻保
護のために盛土する試みがある.裏法尻をできるだけ長く保護するという目的上余盛り高さ
はなるべく大きく取るべきだが,図-3で示すA点よりも上部に盛土した場合,エネルギー減衰
が十分生じる前の高エネルギーの越流水によって大きく洗掘され,内陸への土砂流入量を増
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加させてしまう可能性がある.
3-2 エネルギー減衰率が大きく異なる条件下での裏法尻の局所洗掘
3-1でエネルギー減衰率および流れの構造が大きく異なるs/k=0(粗度無し),6, 12のケースに
おいて,裏法尻での局所洗掘特性を調べた.ここでは,図-3に示すように形成された洗掘孔
のうち最大洗掘深をS D ,裏法尻から原河床高さまで堆積した点までの距離を洗掘長S Lと定義し,
s/kによる相違を把握した.図-6にs/kによる無次元洗掘深(S D/E1 ),無次元洗掘長(S L/E1 )の変化
を示す.
洗掘深についてみると, s/kが大きくなるにつれて無次元洗掘深が減少していることがわか
る.この傾向は相対水深比が0.1でも0.15でも同様の傾向であった.一方,洗掘長についてみ
ると,s/k=0のケースでは洗掘長が最も小さくなった.その後,s/k=6で最大となり,s/k=12で
やや減少するという傾向が見て取れる.このことは,s/k=0のケースでは他の2ケースと比較
して裏法尻付近の鉛直方向への洗掘により多くのエネルギーを消費していることが考えられ
る.また,この結果から,エネルギー減衰率が最も高かったs/k=12のケースでは,洗掘深,洗
掘体積ともに最小化できるケースであることが示唆される.しかしながら,相対水深比が0.15
の場合,0.1の場合と比較して急激に洗掘長が大きくなる傾向にある.そのため,より大きな
越流水深を想定した場合,侵食体積の観点からs/k=12でも効果が得られなくなる可能性もある
ため,この点については今後の課題としたい.
(a)
(b)
図-6 相対粗度間隔と無次元洗掘深(a),無次元洗掘長(b)との関係
4.おわりに
本研究で得られた主要な結論を以下に示す.
1) 相対粗 度 間隔s/kが10-12でエネ ル ギー 減衰 率 が最 大と な り, その 範 囲は 常流 条 件の 場合(s/k=6-10)よ
りも大きくなることがわかった.
2) 越流による裏法尻周辺の局所洗掘特性を調べたところ,h 1 /H=0.1-0.15の範囲では,エネル
ギー減衰率が大きかったs/k=12で無次元洗掘深,無次元洗掘長ともに最小化し,洗掘規模を小
さくできることがわかった.
( 発 表 論 文 )
狩野匠,八木澤順治:堤防裏法被覆工の相対粗度間隔が越流のエネルギー減衰に及ぼす影響,
平成28年度土木学会全国大会第71回年次学術講演会 (2016年9月発表予定)
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