診療報酬請求について - 東京医科歯科大学 眼科学教室

診療報酬請求について
- 病名とコストのつけ方のルール -
東京医科歯科大学
東京都立広尾病院
社会保険診療報酬審査委員
宮永 将
本日の内容
 診療報酬請求のしくみ
 病名のつけ方
 コストのつけ方
 入院・手術関連
 例題
大学の傾向
病名(保険病名)?
コスト?
レセプト(診療報酬明細書)?
開業していないし,
診療の売り上げは興味ないし,
面倒くさいな...
• 自分の行った診療行為をしっかり評価してもらうプロセス
• 医師であれば,これからも関わっていかなければならない問題
大学病院では・・・
レセプトを事前に医事課担当者がチェック
問題がありそうなレセプト
外来分は,外来医長
入院分は,病棟医長
それぞれチェックして,
• 病名を追加
• 症状詳記を入力
数が多いと大変!!
関連病院に行くと. . .
それぞれ担当した症例については,
各自でレセプトをチェックする機会も出てきます
その時になって困らないように…
しっかり勉強しておきましょう!
診療報酬について
診療報酬
診療報酬
医療機関からの診療に係る医療費の請求が正しいか審査
レセプト(診療報酬明細書)
診療報酬審査では・・・
 コスト(処置・検査・手術料など)に対応する病名がない場合
 処方薬に対応する病名がない場合
 ルールに違反したコストを請求している場合など
査定
請求された診療報酬を削除
審査委員の給料は,
保険者から支給
病院の収入が減る
診療報酬審査は,医療機関の敵?
診療報酬審査では・・・
 実際の診療内容が良く分からない場合(コストと病名の不一致)
 診療報酬の高いコストがこのままでは査定となる場合(病名の不足)
返戻
医療機関に再度,レセプトの内容をチェックするよう指示
(保険者から再審査請求があった場合に救済できないため)
診療報酬審査は,見合った診療報酬を得られる最後の砦
診療報酬審査の目的
医療費は増加の一途をたどっている
 過剰に診療報酬を請求する医療機関
 架空請求をする医療機関
次回の診療報酬改定の際に,診療報酬が減額される
正当に診療報酬している医療機関が損をする
限られた医療費を正当に分配ができるように調整
診療報酬請求のルール
医科点数表の解釈
「青本」
病名のつけ方
基本ルール
 コストに対応する病名をつける
 処方薬に対応する病名をつける
 疑い病名で検査(1回)を行うことは可,処方は不可
 病名は左右の区別をつける(特に手術に関連する病名など)
 主病名にチェック
 (病名を整理する)
 (疑い病名は数ヶ月したら中止する)
病名のつけ方
病名をつけるタイミング
 新患を診察した時
 これまで行っていない検査をした時
 あらたに処方薬を出した時
 手術をした時
病名のつけ方のコツ
右)遠視
左)近視性乱視
両)乾性角結膜炎
左)白内障
両)視神経乳頭陥凹拡大
 屈折病名は必ずしも正確
でなくて大丈夫
 両眼の病名については
ここまでしなくても大丈夫
 具体的で強い病名にする
近視性乱視
乾性角結膜炎
右)眼内レンズ挿入眼 左)加齢性白内障
正常眼圧緑内障
※白内障だけは避ける→加齢性白内障,核性白内障,後のう下白内障など
※緑内障だけは避ける→開放隅角緑内障,正常眼圧緑内障,閉塞隅角緑内障など
※視神経乳頭陥凹拡大では,視野検査などはできるが緑内障点眼の処方はできない.
病名のつけ方(大学の傾向)
コストに対応する病名をつける
•
強度近視眼の光学的眼軸長測定[150]:
「後部ぶどう腫」
•
手術前後以外の角膜内皮細胞検査[160]:
「水疱性角膜症」,「円錐角膜」
•
中心フリッカー[38]:
「視神経萎縮」,「視神経炎」など
病名のつけ方(大学の傾向)
処方薬に対応する病名をつける
•
抗VEGF抗体硝子体内注射:
「加齢黄斑変性」,「網膜静脈閉塞症に伴う黄斑浮腫」,
「近視性脈絡膜新生血管」,「糖尿病黄斑浮腫」
•
ステロイド内服中の胃薬:「胃潰瘍」
•
ステロイド内服中の骨粗鬆症薬:「骨粗鬆症」
•
長期の抗ウイルス剤内服処方:症状詳記を追加
病名のつけ方(大学の傾向)
疑い病名で検査を行うことは可,処方は不可
•
ぶどう膜炎で検査し,点眼処方:
「サルコイドーシス性ぶどう膜炎 疑い」,「・・・ 疑い」ではダメ
→「ぶどう膜炎」
•
EKCを疑い,アデノチェックを行い陰性であったが点眼処方:
「流行性角結膜炎 疑い」のみではダメ
→「結膜炎」
病名のつけ方(大学の傾向)
病名は左右の区別をつける(特に手術に関連する病名など)
•
白内障手術後:
「右 or 左 眼内レンズ挿入眼」 (術後虹彩炎は不要)
※ すでに僚眼が手術されており,眼内レンズ挿入眼が登録されて
いても左右を追加して登録を!
•
緑内障手術後:
「右 or 左 緑内障術後」
•
硝子体手術後
「右 or 左 硝子体切除術後」
コストのつけ方
基本ルール
 算定できる状況が限られた検査がある
 月に1回しか算定できない検査がある
 同時に算定してはいけない検査がある
 頻繁に算定できない検査がある
コストのつけ方
算定できる状況が限られた検査
 屈折検査[69]
•
•
•
•
初診時
眼鏡処方を行った時
子供の遠視で調節麻痺剤を使用して検査した時
屈折の変化する手術を行った時(白内障手術後など)
 角膜曲率半径計測[84]
•
•
•
初診時
眼鏡処方を行った時
白内障手術前後と術後半年以内(月に1回まで)
コストのつけ方
月に1回しか算定できない検査
 眼底三次元画像解析[200]
 汎網膜硝子体検査[150]
 角膜形状解析検査[105]
コストのつけ方
同時に算定してはいけない検査
 細隙灯顕微鏡検査(前眼部)[48]
 細隙灯顕微鏡検査(前眼部及び後眼部)[112]
 角膜曲率半径計測[84]
 角膜形状解析検査[105]
 眼底カメラ撮影(通常)[58]
 眼底三次元画像解析[200]
 眼底カメラ撮影(通常)[58]
 眼底カメラ撮影(蛍光眼底)[400]
 眼底カメラ撮影(自発蛍光)[510]
コストのつけ方
同時に算定してはいけない検査
 細隙灯顕微鏡検査(前眼部及び後眼部)[112]
 汎網膜硝子体検査[150]
 細隙灯顕微鏡検査(前眼部)または(生体染色)[48]
 汎網膜硝子体検査[150]
 超音波検査(Aモード)[150]
 光学的眼軸長測定[150]
コストのつけ方
頻繁に算定できない検査
 網膜光凝固術(通常のもの)[10,020]
 網膜光凝固術(その他特殊なもの)[15,960]
•
•
•
•
•
糖尿病網膜症
網膜剥離裂孔
円板状黄斑変性症
網膜中心静脈閉鎖症による黄斑浮腫
未熟児網膜症
目的に達するまでの一連の作業で1回のみ算定
(「一連につき」という条件つき)
入院・手術関連
術式とDPC登録
 術式に対応する病名を登録する
 入院中に処方した全ての薬に対応する病名を登録する
 手術による合併症に対する治療は算定不可
入院・手術関連
術式に対応する病名を登録する
硝子体茎顕微鏡下離断術(網膜付着組織を含むもの)[38,950]
• 「硝子体出血」,「硝子体混濁」のみでは返戻または査定
→硝子体茎顕微鏡下離断術(その他のもの)[29,720]
• 「網膜前膜」,「硝子体黄斑牽引症候群」,「黄斑円孔」,
「糖尿病網膜症」,「網膜剥離」などの病名を登録
増殖性硝子体網膜症手術[54,860]
• 「増殖性硝子体網膜症」,「増殖性糖尿病網膜症」などの病名を登録
入院・手術関連(大学の傾向)
術式に対応する病名を登録する
• 硝子体茎顕微鏡下離断術と同時の水晶体再建術の際に
→「白内障に関連する」病名の抜けあり
• 硝子体茎顕微鏡下離断術単独手術の際に
→粘弾性物質の算定あり
• 緑内障術後のニードリングの際に
→「結膜嚢形成手術(部分形成)[2.250]」
「緑内障術後」病名と手術コメントの抜けあり
入院・手術関連
入院中に処方した全ての薬に対応する病名を登録する
• 臨時処方を行った内科の内服薬など
• 術中の高血圧に使用した薬剤:「術中異常高血圧」
• 術後の眼圧上昇に使用した薬剤:「術後高眼圧」
入院・手術関連
手術による合併症に対する治療は算定不可
白内障手術時に後嚢破損した場合
• 前部硝子体切除を行っても,硝子体切除術[15,560]は算定不可
• ただし,多く使用した粘弾性物質は症状詳記すれば算定可
まとめ
 基本的なルールに従ってコストをつける
 行った検査,処置,処方に対応する病名がついているか
常にチェック
 手術を行った場合は,術式と病名に左右をつける
 標準的な治療を外れる場合は症状詳記を書く
 返戻された場合は,必ず病名が足りているかチェック
(症状詳記をいくらしても病名が不十分であれば査定されます)
例題 1
白内障術前または抗VEGF抗体硝子体注射前の
抗生剤点眼処方の病名は?
病名
「結膜炎」
病名は不要
用法を詳細に記載する
処方
クラビット1.5%点眼液 1本 右)4回/日
手術3日前から点眼開始
または
○月○日から使用開始
例題 2
ゴールドマン眼圧計で眼圧を測定した時に,
フルオレセイン染色で乾性角結膜炎患者の
角膜障害をチェックした時のコストは?
コスト
「精密眼圧測定[82] 」
角膜上皮疾患病名があれば,
「精密眼圧測定[82] 」
「細隙灯顕微鏡検査(生体染色)[48]」
例題 3
ぶどう膜炎一式検査を行って,点眼処方時の病名は?
• 採血・検尿
「ぶどう膜炎」は絶対に必要
ACE, リゾチーム, RF定量, 抗核抗体, 梅毒定性, HTLV-1抗体,
トキソプラズマ抗体, sIL-2R, 尿中β2ミクログロブリン
クオンティフェロン,結核菌特異的IFN-γ(ELISPOT)
• 胸部レントゲン,ツベルクリン反応
「サルコイドーシス 疑い」 「関節リウマチ 疑い」
「梅毒性網脈絡膜炎 疑い」 「HTLV-1ぶどう膜炎 疑い」
「トキソプラズマ網膜症 疑い」 「糸球体腎炎 疑い」
「悪性リンパ腫 疑い」 「結核性ぶどう膜炎 疑い」
例題 4
緑内障術後にニードリングを行った時のコストと病名は?
コスト
「右 or 左 結膜嚢形成手術(部分形成)[2,250]:ニードリング」
※手術のコメントに「ニードリング」を入力
病名
「緑内障術後」
例題 5
片眼の上下眼瞼の結膜結石除去をした時のコストは?
病名
「結膜結石」
コスト
「右 or 左 結膜結石除去術(少数のもの)[260]:上・下」[520]
または,
「右 or 左 結膜結石除去術(多数のもの)[390]」
※多数のものを片眼について上・下算定することは不可
例題 6
CMV虹彩炎に対して,ガンシクロビル硝子体内注射
を行った時のコストと病名は?
コスト
「右 or 左 硝子体内注射)[580]」,ガンシクロビル薬剤代
病名
「サイトメガロウイルス網膜炎」,「免疫不全」
※標準的治療から外れた治療の場合は症状詳記を行う
難治性のCMV虹彩炎に対して,ガンシクロビル硝子体内注射を行った.