第 9 回 Pharamacy Digest的わかりやすいがん治療 がん ルモンの影響を受けて成長します(図1)。そのため と 前立腺がんに対する薬物療法はホルモン療法が中心的 世界における前立腺がんの罹患数は年間約90万人 な役割を果たします。ホルモン療法の効果は治療開始 であり、男性のがんとしては2番目に多いがんとされ 後すぐにPSAの低下が見られますが、2∼3年で効 ています。本邦においての罹患数は4.2万人とされて 果が弱まり再上昇する傾向にあります。ホルモン療法 いますが、今後上昇傾向にあり、2020年には約7.8 で効果が得られなくなった場合に化学療法を行います。 万人にまで罹患数が増えることが予想されています。 ホルモン療法により男性ホルモンの分泌が抑えられ 前立腺がんのリスク因子は、年齢(高齢者)、人種 ている(内科的去勢)にもかかわらず、前立腺がんが (黒人) 、家族歴のみが確立され、食事や栄養素に関し 進行するがんを去勢抵抗性前立腺がん(CRPC)とい ての確立した要因はありませんが、動物性脂肪、葉酸、 います。CRPCに対しては化学療法が中心でしたが、 亜鉛などの摂取が前立腺がんのリスクを高め、野菜や 新しい作用機序のホルモン治療としてアビラテロン酢 大豆、コーヒー、セレン、ビタミンEの摂取がリスク 酸エステルが使用できるようになりました。前立腺が を低くすることが示唆されています。 んに使用するホルモン療法薬と抗がん薬を表1に示し ます。 がん 療 抗アンドロゲン薬 精巣(睾丸)から分泌されるホルモンと副腎から分 前立腺がんの治療には、PSA監視療法、手術療法、 泌されるホルモンを前立腺がん細胞に働きかけないよ 放射線療法、ホルモン療法、化学療法があり、これら うにする薬であり、1日1∼3回服用します。前立腺 をリスク病期、患者の状態などを考慮して選択をして または前立腺がんのアンドロゲン受容体に結合する抗 います。詳しい治療戦略については『前立腺癌診療ガ アンドロゲン薬にはステロイド性と非ステロイド性が イドライン2012年版』などをご参照ください。 あり、前者には、クロルマジノン酢酸エステル、後者 前立腺がんのリスク分類には、わが国ではD Amico にはビカルタミド、フルタミドがあります。副作用と の分類が広く用いられており、PSA 10かつGS 6 して、一部の抗アンドロゲン薬は肝臓の機能障害を起 か つT1-T2aを 低 リ ス ク 群、PSA=10.1∼20ま た は こすことがあるので、定期的に肝臓のチェックを行う GS=7またはT2bを中リスク群、PSA 20またはGS =8∼10またはT2cを高リスク群と定義しています。 脳内 ここで示すPSAとは前立腺特異抗原であり、前立腺 で作られる蛋白質で、前立腺細胞の破壊により血中に 漏れ出すため、前立腺がんがあれば高値を示します。 GSとはGleason Scoreであり、病態検査に基づく前 立腺がんの悪性度を示す数値。6以下は低悪性度、7 は中程度悪性度、8∼10は高悪性度とされています。 T因子は原発巣でのがんの広がりを示しています。 視床下部 LH-RH アゴニスト製剤 LH-RH CRH 下垂体 性腺刺激 ホルモン 副腎皮質 刺激ホルモン 精巣 (睾丸) 副腎 テストステロン 副腎性アンドロゲン 抗アンドロゲン薬 がん 療薬と 前立腺がんはホルモン依存性のがんであり、男性ホ 20 前立腺、前立腺がん 図1 前立腺がんにおけるホルモン療法 ▶▶▶日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2016年 Oncology特別号 表1 前立腺がんに使用するホルモン薬と抗がん薬 作用点 分類 抗アンドロゲン薬 非ステロイド性 微小管阻害薬 用法・用量 フルタミド 1回125㎎ 1日3回 ビカルタミド 1日1回80㎎ エンザルタミド 1日1回160㎎ ステロイド性 クロルマジノン酢酸エステル 1回50㎎ 1日2回※1 CYP17 阻害薬 アビラテロン酢酸エステル 1日1回1,000㎎ 空腹時※2 エストラムスチンリン酸エステル 1回2カプセル 1日2回 LH-RH アゴニスト リュープロレリン酢酸塩 4週に1回3.75㎎、12週に1回11.25㎎ ゴセレリン酢酸塩 4週に1回3.6㎎、12週に1回10.8㎎ エストラジオール ゴナドトロピン 分泌抑制 一般名 LH-RH アンタゴニスト テガレリクス酢酸塩 初回120㎎ずつ2カ所、2回目以降80㎎ 1カ所4週間間隔 抗がん薬 ドセタキセル 1日1回75㎎/㎡ 3週間おき カバジタキセル 1日1回25㎎/㎡ 3週間おき ※1 1回25㎎1日2回で使用する場合は前立腺肥大症で使用。 ※2 プレドニゾロン錠と併用。 必要があります。CRPCに対して最近、エンザルタミ きるとされています。副作用としては、注射部位反応 ドが新しいホルモン薬として登場しました。本剤は、 の他に、ほてり、体重増加、発熱などがあります。 「アンドロゲンが受容体に結合する過程」「アンドロゲ CYP17阻害薬(アビラテロン酢酸エステル) ン受容体が核内へ移行する過程」「アンドロゲンと 前立腺がんの増殖および生存に必要なアンドロゲン DNAが結合する過程」など、アンドロゲンに関わる は、コレステロールからプレグネノロン、プロゲステ 複数の機構を阻害することが知られ、いくつかのシグ ロン、コルチコステロンを経てアルドステロンとなり ナル伝達を抑えることで増殖を抑えることがいわれて ます。プレグネノロンとプロゲステロンはCYP17 : います。主な副作用として、国内臨床試験の結果では、 17αヒドロキシラーゼの働きによって合成され、前 高血圧、便秘、疲労、海外臨床試験では、疲労、悪心、 立腺腫瘍組織に必要なテストステロンやデヒドロエピ ほてりなどが報告されています。 アンドロステロン、アンドロステンジオンのような代 LH-RHアゴニスト、LH-RHアンタゴニスト 謝物となります。本剤は、その代謝に必要なCYP17 脳に働きかけて、精巣(睾丸)からの男性ホルモン を不可逆的かつ選択的に阻害することで活性を示しま の 分 泌 を 止 め る 薬 剤 と し て、LH-RHア ゴ ニ ス ト と す。アンドロゲン合成が阻害されるに伴い、コルチ LH-RHアンタゴニストがあります。LH-RHアゴニス ゾールの合成が減少し、フィードバック作用が働き、 トは、 第 3 回 に も 紹 介 し た 乳 が ん 治 療 薬 で も あ る 視床下部-下垂体-副腎系の更新によりACTH濃度が上 リュープロレリン酢酸塩、ゴセレリン酢酸塩がありま 昇します。これにより鉱質コルチコイド作用があるス す。1カ月および3カ月に1回皮下注射をするタイプ テロイド濃度が上昇し、高血圧や低カリウム血症、体 があり、精巣(睾丸)を摘出するのと同じ効果がある 液貯留などが起こります。そのため、プレドニゾロン といわれています。性腺刺激ホルモン放出ホルモンの の併用が必要とされています。 レセプターのダウンレギュレーションを引き起こすこ とにより、精巣からのテストステロン産生を抑制しま す。しかし投与直後にテストステロンが一過性に上昇 するため、一時的に骨痛増強や排尿困難などの症状 近年、日本での前立腺がんの患者数は年々増加傾向 (フレアアップ症状)を起こすことがあります。副作 です。ホルモン療法が中心である前立腺がんは保険薬 用としては、ほてり、多汗などがあります。 局での投薬が中心となり、薬局薬剤師の役割が必須と LH-RHアンタゴニストであるテガレリクス酢酸塩 いえます。ホルモン療法の副作用対策やアドヒアラン は、4週間ごとに皮下注する薬剤です。アンタゴニス ス向上に向けた薬局薬剤師の取り組みが、前立腺がん トであるため、アゴニストであったフレアアップ症状 治療の向上につながると考えられますので、ますます がなく、速やかにテストステロンを抑制することがで 薬局薬剤師の力が必要です。 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2016年 Oncology特別号◀◀◀ 2
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