第 3 Pharamacy Digest的わかりやすいがん治療 回 がん がん ) 療 主な副作用 乳がんの治療戦略には前回で記載した化学療法と、 乳がんホルモン療法の副作用は、女性ホルモンを抑 今回記載するホルモン療法があります。乳がん細胞は、 えることにより発現します。 女性ホルモンにより成長すると考えられています。以 体内のエストロゲン濃度が低下するため、ホットフ 前は、乳がん患者の女性ホルモンを抑える目的で卵巣 ラッシュ(のぼせ、ほてり、急な発汗)や気分の落ち込 摘出術が行われていました。しかし1970年代のタモキ みやイライラなど更年期症状に似た症状が起こります。 シフェンの有効性が示されてからは、薬物療法が中心と エストロゲンは関節の潤滑油的な役割をすることが なりました。薬物療法は閉経前と閉経後では治療戦略 知られており、LH-RHアゴニストのように閉経状態を作 が大きく変わります(図1) 。それは、閉経前後で女性 り出すことで、関節痛や骨痛などのリウマチ様症状や ホルモンの供給源が異なるためです。閉経前乳がんで 変形性膝関節症に似た症状も起こると言われています。 は、主に卵巣から女性ホルモンが供給され、閉経後で 多くの患者さんで注射を始めてから3カ月以内に発症 は副腎から分泌された男性ホルモンが末梢組織のアロ し、1日のうちで関節症状の現れる時期は早朝や動き始 マターゼにより女性ホルモンに変換され供給されます。 めるときであり、リウマチのような症状が現れます。 女性ホルモンは骨吸収を低下させ骨の維持に役立っ がん 療 薬 と 1) ており、ホルモン療法を行うことで破骨細胞による骨 吸収が促進されて骨粗鬆症になりやすくなります。 対処法 乳がんホルモン療法の代表的な薬剤と副作用を表1 事前にこれらの症状を話すことが重要です。日常生 に示します。閉経前乳がんに対しては、選択的にエス 活に影響を与えるほどの副作用であれば、医師に相談 トロゲン受容体を修飾(selective estrogen receptor する必要がありますが、主に対症療法で対応します。 modulator:SERM)するタモキシフェンと、卵巣機 能を抑制するLH-RHアゴニストがあります。 閉経後乳がんに対しては、アロマターゼ阻害薬を使 用します。術後ホルモン療法の治療は、いくつかの試 閉経前 LH-RH アゴニスト製剤 験の結果からLH-RHアゴニストは2∼3年間、タモ 脳内 閉経後 視床下部 副腎皮質 LH-RH CRH 刺激ホルモン 副腎 下垂体 LH/FSH キシフェンやアロマターゼ阻害薬は5年というのが標 卵巣 準でした1,2)。しかし近年、ATLAS試験3)の報告によ アンドロゲン アロマターゼ り、タモキシフェンを10年間内服させたほうが生存 アロマターゼ阻害剤 率を延ばすとの報告があります。患者の負担や医療費 エストロゲン の問題等を考えた場合、10年間服用させるかは難し い選択です。また、2011年、再発後に用いられる新 エストロゲン受容体 乳がん細胞 規ホルモン剤としてフルベストラントが登場しました。 タモキシフェンと同様に、エストロゲンに結合するタ イプの注射薬です。しかしタモキシフェンと違い、エ ストロゲン受容体に修飾するだけでなく、受容体その ものを破壊する新しい作用がある薬剤です。 8 抗エストロゲン剤 プロゲステロン受容体 プロゲステロン製剤 図1 ホルモン療法の作用機序 (出典:佐藤美弥子、櫻井由里子:服薬指導のポイント 実践講座.乳がん(1) . Pharmacy Digest.2012(10).8-9.日本ケミファ株式会社) ▶▶▶日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2016年 Oncology特別号 表1 乳がんホルモン剤と主な副作用 分 類 抗エストロ ゲン薬 アロマターゼ 阻害薬 LH-RH アゴニスト 黄体 ホルモン薬 薬剤名 服用方法と服用期間 主な副作用 タモキシフェンクエン酸塩 1日1回から2回 5年から10年 トレミフェンクエン酸塩 1日1回40㎎ 5年 フルベストラント 、2週間、4週間後に 初回500 ㎎(2筒) 投与。その後4週間毎に投与(左右臀部 注射部位疼痛、肝機能障害、悪心など に1筒ずつ筋肉内注射) アナストロゾール 1回1㎎1日1回 エキセメスタン 1回25㎎1日1回 レトロゾール 1回2.5㎎1日1回 ほてり、悪心嘔吐、食欲不振、血栓症、子宮筋腫、 子宮内膜症、無月経、月経異常、膣分泌物、体重増 加など 関節痛、ほてり、悪心、疲労、性器出血、肝機能上 昇など 3.75 ㎎を4週に1回または11.25 ㎎を12週 ほてり、頭痛、発汗、関節痛、肝機能上昇、食欲不振、 に1回を皮下注 2∼3年間 発疹、間質性肺炎など 3.6㎎を4週に1回を皮下注2∼3年間 リュープロレリン酢酸塩 ゴセレリン酢酸塩 メドロキシプロゲステロン酢 1回200∼400㎎を1日3回 酸エステル 血栓症、うっ血性心不全、子宮出血、月経異常、肝 機能障害、体重増加、耐糖能異常など ホットフラッシュ等:抗うつ薬の代表的なパロキセチ は非常に重要です。 ンは症状を改善すると言われていた時期もありました さらに、副作用に対しても化学療法のときのような が、現在ではタモキシフェンの効果を弱めること 嘔吐や下痢などの一時的な強い副作用ではなく、生命 4) が知られているため一緒に内服することはしません。 に影響を与えない副作用が長期間続きます。また、直 また、エストロゲン補充療法を行うと乳がんを再発さ 接的に副作用を抑える薬はなく、対症療法で対応して せる危険性が高まるため、エストロゲン補充療法は行 いくしかないのが現状です。5(10)年間という長い うべきではありません。 期間を、自己中断なく内服させ続けることは非常に重 関節痛・骨痛:痛みが強い場合には非ステロイド性鎮 要であり、保険薬局薬剤師の重要な任務と言えます。 痛薬が処方されます。 骨粗鬆症:アロマターゼ阻害薬を服用している患者は、 骨粗鬆症ハイリスク患者とされ、薬局薬剤師の骨粗鬆 症対策の指導が有用です。カルシウム、ビタミンDと 乳がん化学療法の治療は、手術、薬物療法、放射線 ビタミンKを豊富に含む食品の摂取、身体活動の維持 療法が3本柱です。そのなかのホルモン療法は一番長 を指導することが望ましいです。 い期間治療を行い、生死に影響を与えない慢性的な副 作用との闘いになります。副作用マネジメントやアド がん 療 ヒアランスの向上による治療効果の向上には、保険薬 薬 薬 局薬剤師の力が不可欠です。是非、これからも連携を 乳がんホルモン療法に対する薬局薬剤師の役割は非 取りながら、がん患者さんの治療効果向上に貢献して 常に大きいと言えます。化学療法を行ってきた患者に いきましょう。 とっては、 「病院で点滴をされるというストレスもな く、また内服抗がん薬は副作用が少ない」といった 参考文献 1)日本乳癌学会編:科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン 1治療編 2011年 誤った考えをもった患者も少なくありません。点滴は 2)日本乳癌学会編:科学的根拠に基づく乳癌診療ガイドライン 1治療編 2013年 寝ているだけで指示された薬剤が全て身体に入るのに 比べ、内服ホルモン剤は、毎日の服用が非常に重要で す。海外における研究では、アドヒアランスが十分な 患者と不十分な患者では、乳がんの再発率に大きく影 響しているという結果5) も出ています。そのため保 険薬局薬剤師が患者のアドヒアランスに貢献すること 版.金原出版. 版.金原出版. 3)Davies C ,Pan H ,Godwin J ,et al . :Long-term effects of continuing adjuvant tamoxifen to 10 years versus stopping at 5 years after diagnosis of oestrogen receptor-positive breast cancer:ATLAS,a randomised trial.Lancet 2013;381: 805-16. 4)Goetz MP ,Rae JM ,Suman VJ ,et al . :Pharmacogenetics of tamoxifen biotransformation is associated with clinical outcomes of efficacy and hot flashes. J Clin Oncol 2005;23:9312-8. 5)Hershman DL ,Shao T ,Kushi LH ,et al . :Early discontinuation and nonadherence to adjuvant hormonal therapy are associated with increased mortality in women with breast cancer.Breast Cancer Res Treat 2011;126:529-37. 日本ケミファ㈱発行[PHARMACY DIGEST]2016年 Oncology特別号◀◀◀ 9
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