ロジック・モデルについての論点の整理

PRI Discussion Paper Series (No.16A-08)
ロジック・モデルについての論点の整理
財務省財務総合政策研究所副所長
大西 淳也
財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員
日置 俊
2016 年 5 月
本論文の内容は全て執筆者の個人的見解であ
り、財務省あるいは財務総合政策研究所の公式
見解を示すものではありません。
財務省財務総合政策研究所総務研究部
〒100-8940 千代田区霞が関 3-1-1
TEL 03-3581-4111 (内線 5489)
ロジック・モデルについての論点の整理
2
大西淳也
日置瞬
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要旨
本 稿 で は 、ロ ジ ッ ク・モ デ ル に つ い て の 論 点 を 整 理 す る 。ま ず 、ロ ジ ッ ク ・
モデルの歴史をおさえる。そのうえで、ロジック・モデルについてはいくつ
か の イ メ ー ジ が あ る こ と か ら 、こ れ ら に つ い て 概 観 す る 。そ し て 、ロ ジ ッ ク ・
モデルは米国のプログラム評価論の文脈で論じられることが多いので、プロ
グラム評価論について、ロジック・モデルとの関係を意識しつつ鳥瞰的に整
理 す る 。さ ら に 、ロ ジ ッ ク・モ デ ル は ほ か の 分 野 で も 活 用 さ れ て お り 、ま た 、
類似の方法論もみられることから、これらについても言及する。そして、最
後に、暫定的な考察をくわえることとしたい。
キ ー ワ ー ド:ロ ジ ッ ク・モ デ ル 、ロ ジ カ ル・フ レ ー ム ワ ー ク 、プ ロ ジ ェ ク ト ・
デザイン・マトリックス、ケロッグ財団、理論モデル、アウト
カム・モデル、活動モデル、プログラム評価論、評価階層、セ
オリー評価、プロセス・セオリー、戦略マップ
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本稿を執筆するにあたり、財務総合政策研究所で開催された研究会および
玉川大学で開催された研究会の参加者からたいへん有益なコメントをいただ
いた。ここに記して感謝申し上げたい。なお、本稿で示される結論は、筆者
個人の見解であり、所属する組織の見解ではない。
2 財務省財務総合政策研究所副所長
3 財務省財務総合政策研究所総務研究部研究員
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Ⅰ.はじめに
近年、わが国行政においても、ロジック・モデルという用語がもちいられ
るようになってきている。従来、この用語は、政策評価・行政評価の文脈で
比較的みられた
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が、最近では、経済財 政 諮問会議のと りまと めにもみられ
る よ う に な っ て き て い る ( 経 済 財 政 諮 問 会 議 ( 2015 , p.3))。 そ こ で 、 以 下 で
は、ロジック・モデルについての論点を整理することとしたい。
本稿では、まず、ロジック・モデルの歴史をおさえる。そのうえで、ロジ
ック・モデルについてはいくつかのイメージがあることから、これらについ
て概観する。そして、ロジック・モデルは米国のプログラム評価論の文脈で
論じられることが多いので、プログラム評価論について、ロジック・モデル
との関係を意識しつつ鳥瞰的に整理する。さらに、ロジック・モデルはほか
の分野でも活用されており、また、類似の方法論もみられることから、これ
らについても言及する。そして、最後に、暫定的な考察をくわえることとし
たい。
なお、本稿は、小稿であることもあり、もっぱら米国の議論を参照してい
る 。 し か し な が ら 、 平 澤 ほ か ( 20 16, p .67 2) に よ れ ば 、 ド イ ツ ・ フ ラ ン ス に
はアウトカムに相当する概念はないとのことであり、このことからすると、
ロジック・モデルに相当する概念は、国により異なっている可能性もある。
したがって、本来であれば、米国の議論への適切な距離感を維持する観点か
ら、ほかの先進国の議論も参照することがのぞましい
5。しかし、残念なが
ら、本稿はこの点で力及ばずとなっている。あらためて他日に期したい。
Ⅱ.ロジック・モデルの歴史
た と え ば 、 文 部 科 学 省 HP
http://www.me xt.go .j p/a_menu/hyouka /ke kka/060327 11/002 .htm
平 成 28 年 3 月 ア ク セ ス 。
5 ロジック・モデルのような実務に近い議論の場合、それぞれの国情を反映
していることが多いと思われる。このため、米国の議論だけをみていると、
そういう視点が欠落しかねない。したがって、ほかの先進国における議論、
とりわけ、工夫しつつ国情を反映させているさまを観察することが、本来で
あればのぞましい。
4
2
ここでは、ロジック・モデルの歴史をおさえる。前史として、いくつかの
動 き を 確 認 す る 。 そ し て 、 Hatry( 1999 , 訳 p.64) に し た が い 、 ロ ジ ッ ク ・
モ デ ル は Wholey( 19 79) に よ り 登 場 し た こ と を 述 べ る 。
Ⅱ―1.前史
高 崎 ( 2001, p .69) は 、 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル の 起 源 に つ い て 、 1 960 年 代 後 半
に 米 国 国 際 開 発 庁 ( USAID) が 開 発 し た ロ ジ カ ル ・ フ レ ー ム ワ ー ク と さ れ て
い る と す る 。 城 山 ( 1 993, p.56 ) に よ れ ば 、 ロ ジ カ ル ・ フ レ ー ム ワ ー ク の 基
本 的 発 想 は 、当 初 目 標 に 対 す る 実 際 の 達 成 度 を 測 定 し よ う と い う も の で あ り 、
そこには、経済収益率分析のような投下資源と達成された効用とを比較する
と い う 発 想 は な い 。 目 標 ( goal )、 目 的 ( purpose )、 産 出 ( ou tput )、 活 動
( activities)と い う 当 初 目 標 の レ ベ ル と 、各 レ ベ ル に 対 応 す る 指 標 が あ ら か
じめ設定され、評価時に各指標の達成度とその要因が判断され、記入される
と い う も の で あ る 。 こ れ を 図 示 す れ ば 、( 図 表 1 ) の と お り と な る
6。
(図表1)ロジカル・フレームワーク
6
(図表1)には例示がないことから、若干わかりにくいところがある。そ
の 場 合 に は 、( 図 表 2 ) を 参 照 さ れ た い 。
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ODA( 政 府 開 発 援 助 ) の 文 脈 で は 、 ロ ジ カ ル ・ フ レ ー ム ワ ー ク に は さ ら な
る展開がみられる。具体的には、このロジカル・フレームワークと、これを
発 展 さ せ た ド イ ツ の 目 標 志 向 型 プ ロ ジ ェ ク ト 立 案 手 法( ZOPP) 7 を 参 考 に し
て 、財 団 法 人 国 際 開 発 高 等 教 育 機 構 が 1990 年 の 設 立 当 初 か ら プ ロ ジ ェ ク ト・
サ イ ク ル ・ マ ネ ジ メ ン ト ( PCM) 手 法 の 研 究 開 発 を 進 め て き た ( 財 団 法 人 国
際 開 発 高 等 教 育 機 構 ( 2007, p.12))。
山 谷 ( 1994 , pp.11-1 3) に よ れ ば 、 プ ロ ジ ェ ク ト ・ サ イ ク ル ・ マ ネ ジ メ ン
トには、3つの特徴がある。第1には、一連のながれを「一貫性」をもって
認 識 す る こ と で あ る 。第 2 に 、因 果 関 係 を 踏 ま え て 目 的 -手 段 関 係 を 考 え て い
く「論理性」である。第3に、関係者間でのコミュニケーションを促進する
「参加型」であるとのことである
8。そして、そこでは、ロジカル・フレー
ZOPP( Zielorientie rte Pro jektplanung) は 、 ド イ ツ 技 術 公 社 ( GTZ) が
1983 年 に ロ ジ カ ル ・ フ レ ー ム ワ ー ク を も と に 開 発 し た も の で あ り 、 1980 年
代後半には欧州諸国の援助機関でも導入された(財団法人国際開発高等教育
機 構 ( 2007, p.12 ))。
8 後 述 す る ロ ジ ッ ク・モ デ ル と の 共 通 性 が 感 じ ら れ る の で 、
あえて記述した。
7
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ム ワ ー ク と ほ ぼ 同 じ 内 容 の プ ロ ジ ェ ク ト ・ デ ザ イ ン ・ マ ト リ ッ ク ス ( PDM)
がもちいられる。これを図示すれば(図表2)のとおりとなる。そこでは、
プロジェクトの目標、活動、投入等が記載され、それらの論理的な関係が示
されている。
( 図 表 2 ) プ ロ ジ ェ ク ト ・ デ ザ イ ン ・ マ ト リ ッ ク ス ( PDM)
高 崎 ( 2001 , p.60 ) は 、 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル の 誕 生 に は 、 こ の よ う な 開 発 援
助分野での経験が影響を与えていると指摘する。そして、開発援助分野の政
策 立 案 の 際 に 使 わ れ る プ ロ ジ ェ ク ト・デ ザ イ ン・マ ト リ ッ ク ス も 、ロ ジ ッ ク ・
モ デ ル の 一 種 と さ れ て い る と 位 置 づ け て い る 。な お 、こ の よ う に 、ODA の 分
野 が ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル の 誕 生 に 深 く か か わ っ た 背 景 と し て 、ODA で は 、な ぜ
税金による巨額な資金が海外の諸国に供与ないし貸与されなければならない
の か と い う 質 問 に ど の よ う に 答 え る か が 、ODA 体 制 の 核 と も い え る 領 域 に あ
る こ と が 指 摘 さ れ て い る ( 高 橋 ( 1993 , p.1))。
ま た 、 亀 山 ( 2010 , p.171) は 、 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル の 前 身 と な る の は 、 上 述
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の米国国際開発庁が発表したロジカル・フレームワークであるとともに、
1976 年 の Claude Bennett に よ る プ ロ グ ラ ム 有 効 性 の 階 層 ( Hierarchy o f
Program Effectiveness)で あ る と い わ れ て い る と 指 摘 す る 。そ こ で 、Bennett
に よ る プ ロ グ ラ ム 有 効 性 の 階 層 に つ い て の 図 表 を 、亀 山( 201 0, p.172)か ら
引用する。
( 図 2 )に 示 す よ う に 、プ ロ グ ラ ム 有 効 性 の 階 層 は 、プ ロ グ ラ ム の
工程の資源、参加者の活動、反応、学習、行動、効果が、入力から出力、そ
して成果のそれぞれのレベルに対応するかを示したものである。
( 図 表 3 ) Bennett の 「 プ ロ グ ラ ム 有 効 性 の 階 層 」
Ⅱ―2.ロジック・モデルの登場
Hatry( 1999, 訳 p .64) に よ れ ば 、 ハ ト リ ー の 把 握 す る な か で 最 初 に ロ ジ
ッ ク ・ モ デ ル と い う 用 語 を 使 い 、 そ の 例 を 示 し た の は Whole y( 1979) で あ
る と す る 。 Wholey ( 1979 ) は 、 評 価 論 の 文 脈 か ら 、 評 価 可 能 性 に つ い て の
評価を8つの段階にわけている。具体的には、①評価対象となるプログラム
の選定、②対象プログラムに関する情報の収集、③情報を総合しモデル化、
6
④対象プログラムの業績評価指標の分析、⑤実績に関する情報の収集、⑥プ
ログラムの目的についての妥当性分析、⑦評価ならびにマネジメントに関す
る オ プ シ ョ ン の 検 討 、 ⑧ 報 告 、 の 各 段 階 か ら な る と す る ( Wh oley ( 1979 ,
pp.75-76))。
そして、ロジック・モデルという用語を示し、これは上記の③の段階に属
す る も の で あ り 、 資 源 の イ ン プ ッ ト ( input )、 活 動 ( activitie s )、 ア ウ ト カ
ム ( outcome ) な い し は イ ン パ ク ト ( impac t) の 関 係 を 論 理 的 に 図 解 す る も
の で あ る と 指 摘 す る( Wholey( 1979 , p.58))。そ こ で は 、典 型 的 な ロ ジ ッ ク ・
モ デ ル と し て 、( 図 表 4 ) が 示 さ れ て い る ( Wholey( 1979 , p .5 9))。
(図表4)登場時のロジック・モデル
Ⅲ.ロジック・モデルについてのいくつかのイメージ
その後、ロジック・モデルについては、いくつかのイメージが示されてい
る。そこで、ここでは、その代表的な例として、まず、ケロッグ財団が提示
するロジック・モデルをおさえる。そして、わが国における一般的なロジッ
ク・モデルのイメージをいくつか確認する。そのうえで、これら以外にもい
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くつかのイメージが提示されていることから、それらについてあわせて言及
する。
Ⅲ―1.ケロッグ財団が示すロジック・モデル
ケロッグ財団においては、生活の質の向上の観点から、ロジック・モデル
の 策 定 と 活 用 の た め の ガ イ ド ブ ッ ク を 作 成 し て い る ( Kello gg Foundation
( 1998, 2004 ))。 そ こ で 、 こ こ で は ま ず 、 Kellogg ( 2004 ) に 示 さ れ て い る
ロジック・モデルをおさえることとしたい。
Kellogg( 2004 , pp.2-3) で は 、 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル の 目 的 に つ い て 、 関 係 者
にロード・マップを示すことにあるとする。そこでは、のぞましい結果とと
もに、計画されたプログラムに必要とされる関連する一連の出来事が記述さ
れる。そして、ロジック・モデルでは、時間のながれのもと、推論のチェー
ン( the chain o f reas oning)、す な わ ち「 も し … な ら ば 、ど う な る 」
( if-then)
という言葉にしたがって示されることになる。これを基本形として図示すれ
ば 、( 図 表 5 ) の と お り と な る 。
(図表5)ロジック・モデルの基本型
そ の 一 方 で 、 Kello gg( 2004 , pp.8-9) で は 、 実 際 の ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル は も
っと複雑であり、そこでは3つの類型に落とし込まれるとする。この3類型
と は 、具 体 的 に は 、① 理 論 モ デ ル( theory a pproach model( conc eptual))、
8
② ア ウ ト カ ム・モ デ ル( outcome approach model)、③ 活 動 モ デ ル( activi ties
approach model( ap plied)) で あ る 。 こ れ ら の ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル は 、 そ れ ぞ
れに目的が異なっている。①の理論モデルは、資金獲得の目的のために、計
画・設計されるものである。②のアウトカム・モデルは、報告等の目的のた
めに、評価等がなされるものである。③の活動モデルは、マネジメントの目
的のために、実施されるものである。そして、これらのすべてのニーズにか
な う ロ ジ ッ ク・モ デ ル は な い こ と か ら 、そ の 使 い 分 け が 重 要 で あ る と さ れ る 。
これら3類型の関係を図示すれば、
( 図 表 6 )の と お り と な る 。こ れ ら の 3 類
型がサイクルとなって示されていることが注目される。
(図表6)ロジック・モデルの3類型
以 下 で は 、 3 つ の 類 型 の ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル に つ い て 、 Kellogg ( 2004,
9
pp.9-13)に 示 さ れ て い る 順 で 整 理 す る
9 。ま ず 、① の 理 論 モ デ ル で あ る 。こ
の モ デ ル で は 、 仮 定 事 項 ( assumptions ) が 重 要 と な る 。 そ こ で は 、 課 題 と
想定される解決策の理由づけに焦点があてられる。そして、理論モデルは大
きな絵を描くものであり、詳細を示すものではない。このモデルは、資金提
供者や援助者が活用するのに適したものであるとされている。
(図表7)ロジック・モデルのうち理論モデル
つぎに、
( 図 表 6 )の ② で 示 す ア ウ ト カ ム・モ デ ル で あ る 。こ の モ デ ル で は 、
プ ロ グ ラ ム の 構 成 要 素 間 に 存 在 す る と 考 え ら れ る 因 果 関 係( c asual linkage)
が重要となる。そこでは、特定のプログラムの活動とアウトカムとの相互関
係が、ロジック・モデルで描かれることになる。このモデルでは、一連の活
動 の 結 果 と し て 得 ら れ る 、短 期( 1 ~ 3 年 )の ア ウ ト カ ム 、長 期( 4 ~ 6 年 )
の ア ウ ト カ ム 、そ れ に イ ン パ ク ト( 7 ~ 1 0 年 )に 細 分 化 さ れ る こ と も あ る 。
9
(図表6)に示された矢印にしたがえば①→③→②となるが、ここでは
Kellogg( 20 04) に し た が う 。
10
アウトカム・モデルは、効果的な評価や戦略の報告に役立つものであるとさ
れている。
(図表8)ロジック・モデルのうちアウトカム・モデル
最後に、
( 図 表 6 )の ③ で 示 す 活 動 モ デ ル で あ る 。こ の モ デ ル は 、実 施 プ ロ
セスの詳細に注意をはらうものである。そこでは、プログラムの実施プロセ
スに描かれる、計画されたさまざまな活動について関連づけられるものとな
っている。これは、プログラムの監視・管理の目的に役立つものであり、作
業計画あるいは管理ツールとして活用される。そして、この活動モデルによ
り、プログラムの資源と活動がのぞましい結果にどのようにつながるのか、
詳細が示されることとなる。
(図表9)ロジック・モデルのうち活動モデル
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Ⅲ―2.わが国におけるロジック・モデルの一般的なイメージ
それでは、わが国においてロジック・モデルがどのようにイメージされて
い る の か に つ い て 確 認 す る 。結 論 か ら 先 に 示 せ ば 、
( 図 表 6 )② の ア ウ ト カ ム・
モデルに相当する説明が一般的であるように思われる。たとえば、高崎
( 2001,pp.60-61 )は 、ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル に つ い て 、具 体 的 な 行 政 活 動 か ら 最
終的な成果にいたるまでの中間段階でおこりうるであろうさまざまな出来事
( event ) を 要 素 と し て 示 し 、 そ れ ら 要 素 間 の 関 係 を 1 本 な い し 複 数 の 線 で
つなげることによって、成果達成のための道筋・手順をあきらかにする役割
を果たす。そして、ブラック・ボックスになりがちであるプログラムの成果
導出過程について、それをだれの目にもあきらかな形で示すことができると
い う 特 徴 を 有 す る と す る 。以 上 の よ う な ロ ジ ッ ク・モ デ ル の 説 明 に お い て は 、
(図表6)①の理論モデルでいう仮定事項には言及されておらず、また、③
の活動モデルでいう行政内部の活動も細かくわけられていないことが一般的
であることが注目されるのである。
12
ロジック・モデルは図の形で示されるが、そのイメージもいくつかあるよ
う で あ る 。 高 崎 ( 200 1, pp.60-62 ) に よ れ ば 、 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル に は 、 フ ロ
ー・チ ャ ー ト 型 と ボ ッ ク ス 型 の 2 つ の 表 現 形 式 が あ る
1 0 。そ し て 、こ の ボ ッ
ク ス 型 に は 、高 崎( 200 1)が 示 す よ う な ヨ コ・ボ ッ ク ス 型 と 、龍 =佐 々 木( 2000)
が 示 す よ う な タ テ・ボ ッ ク ス 型 が あ る
1 1 。そ こ で 、こ こ で は 、① フ ロ ー ・ チ
ャート型、②ヨコ・ボックス型、③タテ・ボックス型について、それぞれ代
表的な例と思われるものを示こととする。
まず、①のフロー・チャート型のロジック・モデルである。これは、個別
の出来事の要素をそれぞれ別個の箱に表現して、要素単位でのつながりをみ
る も の で あ る ( 高 橋 ( 2001, p .61)。 そ の 具 体 的 な イ メ ー ジ は 、( 図 表 1 0 )
の と お り で あ る 。わ が 国 で 普 及 し て い る と 思 わ れ る 概 説 書( Rossi ほ か( 2004,
訳 p.90))に お い て も 、同 じ イ メ ー ジ の ロ ジ ッ ク・モ デ ル が 掲 げ ら れ て い る 。
こ の イ メ ー ジ の ロ ジ ッ ク・モ デ ル は 、後 述 の 2 つ の ボ ッ ク ス 型 に く ら べ る と 、
要素単位でのつながりについて、個別に確認しやすいという特徴を有してい
ると思われる。
(図表10)フロー・チャート型のロジック・モデル
高 崎( 2001)が 参 照 す る TBSCanada( 2001, pp.12-15)で は 、
“ Flow Chart”
Logic Model と “ Res ults Chain” Logic M odel が 代 表 的 な 例 と し て 示 さ れ て
い る 。 こ こ で は 、 わ が 国 で の 活 用 イ メ ー ジ と い う こ と か ら 、 高 崎 ( 2001) に
ならう。
11 ヨ コ 、 タ テ の 名 称 は 、 あ く ま で 仮 の も の で あ る 。
10
13
つ ぎ に 、② の ヨ コ・ボ ッ ク ス 型 の ロ ジ ッ ク・モ デ ル で あ る 。こ れ は 、資 源 、
活動、結果、成果の各段階といったレベルごとに複数の出来事をたばねて、
ひとつのボックスに表現して、ボックス単位でのつながりをみていくもので
あ る 。そ の 具 体 的 な イ メ ー ジ は 、
( 図 表 1 1 )の と お り で あ る 。わ が 国 で 普 及
し て い る と 思 わ れ る 概 説 書 ( Rossi ほ か ( 2004, 訳 p.138)) で も 、 こ れ と 同
じ イ メ ー ジ の ロ ジ ッ ク・モ デ ル が 掲 げ ら れ て お り 、ほ か に も 、三 菱 UFJ リ サ
ー チ & コ ン サ ル テ ィ ン グ ( 2006 , p .31) や 野 地 ほ か ( 2009, p.79) な ど の 例
がある。わが国では、この形のロジック・モデルがもっとも一般的なイメー
ジであるかもしれない。
(図表11)ヨコ・ボックス型のロジック・モデル
14
最後に、③のタテ・ボックス型のロジック・モデルである。②のものをタ
テ に し た も の で あ る 。 東 ( 20 11, p .112) で も 、 こ の イ メ ー ジ の ロ ジ ッ ク ・ モ
デルが示されている。このタテ・ボックス型には、スペースの関係から、段
階が多くなっても記述が容易という特徴があるように思われる
12 。
(図表12)タテ・ボックス型のロジック・モデル
12
行 政 内 部 の 活 動 を 細 か く 記 述 で き る と い う 点 で は 、( 図 表 6 ) ③ の 活 動 タ
イプに適した表記であろう。
15
Ⅲ―3.そのほかのイメージのロジック・モデル
ロジック・モデルは、実務での活用が重要である。このため、実務の要請
に 応 じ て 、さ ま ざ ま な イ メ ー ジ の ロ ジ ッ ク・モ デ ル が 活 用 さ れ る こ と と な る 。
そこで、ここでは、上記の3つのイメージとは異なるイメージのロジック・
モデルをみることとする。
まず、戦略目標を階層的に設定するタイプのロジック・モデルである。こ
こ で は 、階 層 的 戦 略 目 標 設 定 型 と い う 。具 体 的 な イ メ ー ジ は 、
( 図 表 1 3 )の
とおりである。これは上水道事業に関するロジック・モデルである
13
が、
上述のロジック・モデルにくらべると、結果(アウトプット)や多段階にわ
たる成果(アウトカム)を、階層的な戦略目標のなかで整理しており、図と
坂 本( 2012)に お い て は あ き ら か で は な い も の の 、図 の 様 式 、お よ び 、階
層的戦略目標設定型のロジック・モデルと具体的な個別の業務活動とを関連
づけていることなどから、その発想方法には後述の戦略マップの影響がみら
れるようにも思われる。
13
16
していくぶんすっきりしているように思われる
14 。
(図表13)階層的戦略目標設定型のロジック・モデル
また、ロジック・モデルの導出プロセスに着目したユニークな方法論も存
在 す る 。 刈 谷 ほ か ( 2 008, pp.71-75 ) で は 、 4 つ の ス テ ッ プ か ら な る 方 法 論
が 示 さ れ て い る 。 ま ず 、 Step1 「 問 題 の 列 挙 化 」 と し て 、 思 い つ く か ぎ り の
問 題 や 課 題 を 紙 に 書 き だ す 。 つ ぎ に 、 Ste p2 「 問 題 の 構 造 化 」 と し て 、 書 き
だ さ れ た 各 要 素 間 の 関 係 を 因 果 関 係 に も と づ き 整 理 し て い く 。 そ し て 、 Step
3「問題の切りだしと再構造化」として、特定の問題に関係する部分の範囲
を限定(切りだし)し、より本質的な問題について再度項目を整理する(再
構造化)
1 5 。 最 後 に 、 Step3 の 結 果 を 踏 ま え て 、 Step4 「 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル
の 構 築 」を 行 う 。こ の な が れ を 図 示 す れ ば 、
( 図 表 1 4 )の と お り と な る
16 。
14
ア ウ ト プ ッ ト 、多 段 階 に わ た る ア ウ ト カ ム 、最 終 的 な イ ン パ ク ト( あ る い
はアウトカム)といった言葉や枠組みを理解する手間が省けるからである。
1 5 刈 谷 ほ か ( 2008, pp.71-75) に お い て は 、 再 構 造 化 と い う 用 語 は も ち い ら
れていない。
1 6 刈 谷 ほ か( 2008)で は 言 及 さ れ て い な い が 、川 喜 田 二 郎 ・ 東 京 工 業 大 学 名
誉 教 授 が 提 唱 す る KJ 法 の 影 響 が 強 い よ う に 思 わ れ る 。
17
(図表14)独特の方法論にもとづくロジック・モデルの構築
Ⅳ.プログラム評価論のなかのロジック・モデル
ロジック・モデルは、米国のプログラム評価の文脈で論じられることが多
い。そこで、ここでは、プログラム評価論について、ロジック・モデルとの
関係を意識しつつ、俯瞰的に整理することとしたい。
Ⅳ―1.プログラム評価論の概要
ここでは、まず、5つの評価階層について概略をおさえる。そののち、そ
れぞれの評価階層について端的に整理する。
Ⅳ―1―1.評価階層
Rossi ほ か( 2004 訳 p.28)に よ れ ば 、プ ロ グ ラ ム 評 価( pro gra m e valuation)
と は 、社 会 的 介 入 プ ロ グ ラ ム の 効 果 性 を シ ス テ マ テ ィ ッ ク に 検 討 す る た め に 、
18
社会調査法
17
を利用することをいうとされる。プログラム評価における具
体的な評価手法は、その内容から、①評価性評価、②セオリー評価、③プロ
セス評価、④インパクト評価、⑤効率性評価の5つに分類される。そして、
これらは(図表15)に示すように階層を形成している。下位の階層が上位
の階層にくらべて、より詳細なものとなっており、それぞれ下位の階層にあ
る 評 価 が 、そ の 上 位 の 階 層 の 評 価 に 必 要 な 情 報 を 提 供 す る と い う 関 係 に あ る 。
(図表15)評価階層
Ⅳ―1―2.個々の階層
ここでは、それぞれの評価階層について、上位の階層から順に、端的に整
理する。なお、以下では、プログラム評価論のながれについて、わかりやす
く ま と め て い る 田 辺 ( 2002) を 中 心 に 記 述 す る こ と と し た い 。
(1)効率性評価
効率性評価とは、投入された資源と政策効果を比較し、予算額に見合う効
17
社 会 調 査 法 は 、体 系 的 な 観 察 、測 定 、標 本 抽 出 、調 査 統 計 、デ ー タ 解 析 と
いった諸技法を活用して、事実に即して社会現象を記述するものである
( Rossi ほ か ( 2004 訳 p.16))。
19
果があるかどうかの分析や、政策代替案の優劣の比較を行うものである。そ
して、効率性評価には、費用便益分析と費用効果分析との2種類がある(田
辺 ( 2002, p.41))。
前者の費用便益分析は、政策の費用と便益をすべて貨幣価値に換算し、便
益 総 額 と 費 用 総 額 と の 差( 純 便 益 )や 、便 益 総 額 を 費 用 総 額 で 除 し た も の( 費
用便益比)などを算出するものである。この費用便益分析における金銭価値
で 示 さ れ る 便 益 評 価 に は 、( 図 表 1 6 ) で 示 さ れ る 手 法 が あ る 。
(図表16)便益評価の手法
後者の費用効果分析は、後述のインパクト評価でえられた政策効果を貨幣
価値に換算せず、そのままの単位でかかった費用と比較するものである。政
策の効果を貨幣価値に換算する際の技術的な問題点を回避することができる。
しかし、そのぶん、純便益等の算出が困難であったり、同種の効果間での比
較しかできなかったりなど、その応用可能性に限界があるとされる(田辺
( 2002, p.42))。
(2)インパクト評価
インパクト評価は、政策による社会状況への改善効果(インパクト)があ
ったかどうか、あったとしたらどの程度かについて、あきらかにするもので
20
ある。政策が意図した目的を達成しているかどうかは、アウトカムの指標に
あらわれる。しかし、この指標はさまざまな外部要因によって影響される。
そこで、社会状況の改善が政策実施の結果か否かという因果関係の確認と、
そ の 程 度 を 測 定 す る ( 田 辺 ( 2002 , p .39))。 こ の イ ン パ ク ト 評 価 の 手 法 に つ
いて、端的にまとめれば(図表17)のとおりである。
(図表17)インパクト評価の手法
(3)プロセス評価
プロセス評価は、政策が意図されたとおりに実施されているか、想定され
た質・量のサービスが提供されているかを検証するもので、モニタリングと
もよばれる。政策の実施状況についての情報を政策実施者にフィードバック
することによって、政策改善に役立つものである。このプロセス評価は、前
述のインパクト評価の前提ともなる。なぜなら、政策が当初の計画どおりに
実施されておらず、効果があがっていない場合には、政策のインパクトも期
待 し え な い と い う 関 係 に た つ か ら で あ る ( 田 辺 ( 2002 , p .39))。
21
(4)セオリー評価
セオリー評価は、政策のデザインが政策目的達成のために妥当かどうかを
検証し、どういった事象がどのように実施されるべきか、実施のためにはど
れだけの資源が必要か、などについてあきらかにするものである。具体的に
は、インプット→活動→アウトプット→アウトカムにいたる仮定の連鎖があ
り 、こ れ を セ オ リ ー と い い 、
( 図 表 1 8 )の よ う な ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル で 示 さ れ
る。
( 図 表 1 8 )に あ る よ う に 、イ ン プ ッ ト → 活 動 → ア ウ ト プ ッ ト ま で の プ ロ
セス・セオリーと、アウトプット→アウトカムのインパクト・セオリーとの
2 つ の 部 分 か ら な る と す る ( 田 辺 ( 2002, p.38))。
政策のなかには、目的達成までの道筋がよく考えられていないために失敗
するものが多くある。セオリー評価は、政策のよってたつ前提をあきらかに
し、その妥当性を検証するものでもある。政策立案段階の事前準備として、
また、すでに実施されている政策の見直しのためにも有用である。そして、
セオリー評価でえられた情報は、前述のプロセス評価やインパクト評価の際
にも役立つものとなる。このため、プログラム評価のテキストでは、セオリ
ー 評 価 の 重 要 性 が と く に 強 調 さ れ て い る ( 田 辺 ( 2002 , p .39))。
(図表18)セオリーとロジック・モデル
22
(5)必要性評価
最 後 に 、必 要 性 評 価 で あ る 。あ ら ゆ る 政 策 は 、社 会 に 何 ら か の 問 題 が あ り 、
政策的介入が必要であることを前提としている。この問題の性質と程度を分
析 す る の が 、 必 要 性 評 価 で あ る ( 田 辺 ( 2 002, p.38))。 し た が っ て 、 前 述 の
すべての評価の前提となる評価といえるものである。
Ⅳ―2.米国における評価の歴史
米国におけるプログラム評価論の体系は上記のとおりであるが、つぎに、
このプログラム評価論が歴史的にどのように展開してきたのかを確認する。
まず、効率性評価に含まれる費用便益分析の導入からはじまり、その後、プ
ログラム評価論について、より下位の評価階層に対象を拡充してきた。近年
では、より簡易な評価手法である業績測定を開発する方向に進んでいること
をみる。
Ⅳ―2―1.費用便益分析
米 国 に お け る 政 策 評 価 の 起 源 で あ る 効 率 性 評 価 に つ い て は 、1930 年 代 に 水
資源開発プロジェクトの採否に際して、費用便益分析にもとづき便益が費用
を 上 回 る こ と が 条 件 と さ れ た こ と か ら は じ ま っ た 。 そ の 後 、 1 960 年 代 に は 、
費用便益分析を連邦政府の政策立案に大々的に導入することを意図して、
PPBS( Planning Pro gramming Budgeting System)が 導 入 さ れ た 。し か し 、
PPBS は 大 き な 成 果 を あ げ る こ と な く 、 短 期 間 で 挫 折 し た 。 そ の 後 、 費 用 便
益分析は、公共事業等のいくつかの分野で限定的に活用されるにとどまって
い る ( 田 辺 ( 2002 , p.43))。
Ⅳ―2―2.プログラム評価
1960 年 代 の 米 国 に お い て は 、 民 主 党 政 権 に よ る 「 偉 大 な 社 会 」「 貧 困 と の
戦い」とよばれる一連の社会政策が推進され、数多くの公共プログラムが実
23
施された。これらについて評価がもとめられたことから、それを契機に政策
効果の評価手法に関する研究がはじまった。そして、同時期に取り組まれて
い た PPBS の 挫 折 に よ り 、 必 要 性 に 応 じ た 事 後 的 な 政 策 効 果 の 検 証 と い う 、
よ り 現 実 的 な ア プ ロ ー チ に プ ロ グ ラ ム 評 価 の 関 心 が あ つ ま っ た( 田 辺( 2002 ,
p.43))。
初期のプログラム評価においては、純粋に政策効果にあたる部分を抽出す
る必要があったことから、インパクト評価に主眼がおかれた。その後、プロ
グラム評価の経験が蓄積するにつれ、現実の政策では、しばしば政策目的が
明確でないなどの理由から、意味のある評価ができないことがあった。ここ
から、政策が意図したとおりに実施されているかをみるプロセス評価や、政
策のそもそもの前提を検証するセオリー評価が発展した。こうして、プログ
ラム評価論は、当初のインパクト評価から次第に対象を広げ、現在の形にな
っ て い っ た の で あ る ( 田 辺 ( 2002 , p .44))。
Ⅳ―2―3.業績測定
業績測定は、アウトプットやアウトカムに関する具体的な指標を定期的・
継続的に測定することによって、政策の改善につなげる評価方法である。こ
れは、政策のアウトカムに関するデータをもっていない地方政府においても
実 施 可 能 と な る よ う に 、簡 易 で 実 用 的 な 評 価 手 法 と し て 開 発 さ れ 、1980 年 代
の 行 政 改 革 の な が れ の な か で 地 方 政 府 に 広 く 普 及 し た( 田 辺( 2002, p.44))。
こ の 業 績 測 定 に つ い て 、 田 辺 ( 2002, p.4 5) は 、 プ ロ グ ラ ム 評 価 論 の 「 セ
オリー評価→プロセス評価→インパクト評価」にあたる部分を簡略化し、政
策現場で役立つように体系化したものであると指摘している。そして、この
業 績 測 定 と プ ロ グ ラ ム 評 価 と の 関 係 に つ い て 、 山 谷 ( 2009 , p .11 ) は 、 両 者
の手法や学問的背景、実践における手間のかけ方などの違いを考えると、両
者は相互補完的な関係にたつものとなろうと指摘する。
Ⅳ―3.プログラム評価論におけるロジック・モデルの位置づけ
24
プログラム評価論の各評価階層については、以上のとおりである。そこで
は、セオリー評価の重要性が強調されており、その中心にロジック・モデル
が位置づけられていた。
米国のプログラム評価論は、前述のように、そもそも、もっとも難易度の
高い効率性評価からはじまり、より簡易な手法へむかう方向発展してきた。
効 率 性 評 価 の 大 々 的 な 導 入 を め ざ し た PPBS に 無 理 が あ る こ と が わ か り 、効
率性評価からその一歩手前のインパクト評価に関心がむかうこととなり、そ
の後の発展過程で、プロセス評価、セオリー評価、必要性評価に対象を広げ
ていった。効率性やインパクトの定量的評価を試みるなかで、政策の前提と
したセオリーや、政策プロセスの検証の必要性に、次第に気づいていったの
が、米国における評価方式発展の歴史である
18
と 指 摘 さ れ る ( 田 辺 ( 2002,
pp.45-46))。
このように、米国のプログラム評価論は、歴史的な経緯のなかで発展して
きた歴史的概念であると考えられる。したがって、その中心に位置づけられ
ているロジック・モデルについても、評価論の文脈での歴史的な経緯をじゅ
うぶんに反映している可能性もあるように思われる。換言すれば、評価に適
したロジック・モデルになっている可能性があるのではないかということで
ある。
Ⅴ.ロジック・モデルに類似する戦略マップ
以上のように、ロジック・モデルは、評価論の影響のもとに発展してきた
も の と 思 わ れ る 。そ の 一 方 、経 営 管 理 の 分 野 で は 、別 の 文 脈 か ら 、ロ ジ ッ ク ・
モデルに類似した手法として、戦略マップが指摘されるようになってきた。
そこで、ここでは、まず、戦略マップについて鳥瞰する。そして、戦略マッ
プにおいては、マネジメントへの関心が高いことを確認する。そのうえで、
戦略マップとロジック・モデルとの両者を比較することとしたい。
18
それゆえ、プロセス・セオリーやインパクト・セオリーなどの用語法や、
評価階層の整理が、素人目には若干わかりにくいものとなるのであろう。
25
Ⅴ―1.戦略マップの概要
経営管理の分野においては、多様なステーク・ホルダーを認識し、ステー
ク・ホルダー・アプローチをとる戦略の策定・実行と業績評価のシステムと
し て 、 BSC( Balanced Sc orecard: バ ラ ン ス ト ・ ス コ ア カ ー ド ) が 199 2 年
に 提 唱 さ れ た ( 櫻 井 ( 2015, p.6 11))。 19 92 年 の 発 表 当 初 に は 、 BSC は 主 と
して業績評価のツールとして提案された。しかし、その後の実務への導入過
程において、戦略を策定し実行させ、経営品質を向上させるためのツールと
し て の 役 割 が 大 き い こ と が あ き ら か に な っ て き た と さ れ る ( 櫻 井 ( 2015 ,
p.611))。
BSC に お い て は 、 財 務 の 視 点 、 顧 客 の 視 点 、 内 部 ビ ジ ネ ス ・ プ ロ セ ス の 視
点および学習と成長の視点の4つの視点から、さまざまな業績尺度をもちい
て 評 価 し て い く も の で あ り 、そ の 際 に は 、因 果 関 係 が 重 視 さ れ る こ と と な る 。
この因果関係についての全体像を図に示したものが戦略マップであり
19
、
(図表19)のとおりである。
こ の よ う な BSC お よ び 戦 略 マ ッ プ に つ い て は 、わ が 国 で も 導 入 が 報 告 さ れ
ている。そこでは、企業の事例のみならず、医療機関をはじめとする公的組
織の事例も研究されている
20 。
(図表19)戦略マップのイメージ
BSC と 戦 略 マ ッ プ と を 別 個 に 扱 う べ き か 、 BSC と そ の 支 援 ツ ー ル と し て
の戦略マップと位置づけるかについては議論もあるが、ここでは立ち入らな
い ( Kaplan=Norton ( 2006 訳 p.32 訳 注 1 6))。
2 0 た と え ば 、 伊 藤 ( 20 14)
。
19
26
Ⅴ―2.戦略マップのマネジメントへの活用
上記のような戦略マップは、米国における実務の展開のなかでうみだされ
た 。す な わ ち 、集 中 す べ き 戦 略 目 標 を BSC の 4 つ の 視 点 で と り あ げ る と 、実
務家は直感的にその戦略目標どうしを矢印で結びつけはじめた。従業員の能
力やスキルをいかに向上させるか、そして、これをあたらしい技術と組みあ
わせて重要な内部プロセスをいかに改善するか、さらに、プロセスの改善を
通じて顧客満足度ひいては顧客への価値提案を向上させ、最終的には株主価
値を向上させる、といった基本的なパターンがみられ、これを戦略マップと
し て ま と め た と さ れ る ( Kaplan=Norton ( 2004 訳 pp.ⅹ ⅶ -ⅹ ⅷ )。
このような経緯から、戦略マップでは、いかにうまくマネジメントをして
い く か と い う 視 点 が 強 調 さ れ て い る と 考 え ら れ る 。た と え ば 、
( 図 表 2 0 )に
おいては、戦略マップのもとに、さまざまな目標を設定し、マネジメントし
ていくのか、について図示されている。そこでは、マネジメントのために必
要な情報が盛りこまれていることが確認される。
27
( 図 表 2 0 ) 戦 略 マ ッ プ か ら BSC お よ び ア ク シ ョ ン ・ プ ラ ン へ
Ⅴ―3.戦略マップとロジック・モデルとの比較
ここで、戦略マップとロジック・モデルとについて比較する。共通点と相
違点が、それぞれ大きくひとつずつあげられよう。
まず、両者の共通点として強調されるべきは、因果関係あるいは論理性で
あ る 。上 記 の と お り 、BSC に お い て は 因 果 関 係 が 強 調 さ れ 、そ れ を 図 示 し た
ものが戦略マップであった。他方、既述のとおり、ロジック・モデルにおい
て は 、「 も し … な ら ば 、 ど う な る 」( i f-then) と い う 言 葉 に し た が っ て 推 論 の
チ ェ ー ン ( the chain of r easoning) が 示 さ れ る こ と と な る 。
つぎに、相違点である。これは、わが国における現状のロジック・モデル
を前提にした場合、両者の相違点をひとことでいえば、マネジメントへの重
点の置き方ということになると思われる。上記の(図表20)にみられるよ
28
うに、戦略マップにおいては、マネジメントへの活用が想定されていること
があきらかである。これに対して、ロジック・モデルにおいては、インプッ
ト→活動→アウトプット→アウトカムのうち、インプットからアウトプット
にいたるプロセスが一般的に非常に短いことが注目される。概念的には、
Kellogg( 20 04, pp.2-3) や ( 図 表 6 ) ③ に 示 さ れ て い る よ う に 、 ロ ジ ッ ク ・
モデルのうち活動モデルがきちんと構築されれば、行政内部の活動が複数の
段階にわかれて示されることとなるので、マネジメントへの活用もじゅうぶ
ん に 考 え ら れ る こ と と な ろ う 。ど の よ う な 段 階 の 活 動 を 、ど の よ う に す れ ば 、
どうなるのか、イメージしやすいからである。しかしながら、ここでみてき
たように、ロジック・モデルについてのわが国の現状からは、行政内部の活
動はひとつの段階にまとめられてしまうことが多く、活動モデルに相当する
ようなロジック・モデルは例外的ですらあると思われるのである。
Ⅵ.暫定的な考察
ロジック・モデルに関する先行研究のサーベイは、以上のとおりである。
これをうけて、ここでは、中途段階の整理として、暫定的な考察をまとめて
おくこととしたい。
Ⅵ―1.ロジック・モデルにおける目的の多様性
Kellogg( 2004 ) が 示 す よ う に 、 ロ ジ ッ ク ・ モ デ ル に は 多 様 な 目 的 が 想 定
さ れ て い る 。 Kellogg( 2004, pp.2 -3) で は 、 目 的 に よ り 3 つ の ロ ジ ッ ク ・ モ
デルが示されている。すなわち、①資金獲得のために、すなわち、資金を拠
出する者に説明し、合意を得るために活用される理論モデル、②報告等を目
的として、評価等を行うために活用されるアウトカム・モデル、③マネジメ
ントに活用される活動モデル、の3つである。しかも、ここでみてきたよう
に 、図 と し て 示 さ れ る ロ ジ ッ ク・モ デ ル の イ メ ー ジ も 実 の と こ ろ 多 様 で あ る 。
この両者をあわせて考えると、活用される目的、場面により、ロジック・モ
デルじたいのイメージは相当程度に異なってくる可能性もあると思われる。
29
Ⅵ―2.ロジック・モデルにおけるマネジメントへの活用という課題
ロジック・モデルは、歴史的概念である米国のプログラム評価論のなかで
発展してきたという歴史を有する。すなわち、米国では主に評価の文脈で発
展してきたのである。くわえて、わが国における現状のロジック・モデルの
イメージからは、上述のとおり、行政内部のさまざまな段階の活動が、換言
すれば、行政内部のプロセスがみえにくいという課題がある。このようなこ
とから、とりわけ、わが国においては、マネジメントの文脈でのロジック・
モデルの活用という発想がきわめて弱いように思われる。
ロジック・モデルにおいては、分析への活用中心から、マネジメントへの
活 用 へ と 変 わ っ て き て い る と の 指 摘 が あ る( 三 菱 UFJ リ サ ー チ & コ ン サ ル テ
ィ ン グ ( 2006 p .119))。 し か し 、 現 状 で は 、 上 記 の と お り 、 行 政 内 部 の プ ロ
セスがみえにくい。しかも、行政においては、複数のプログラムについて、
さまざまな制約のなかで、同時並行的に行わなければならない場合も多く、
その際に、これらをどうマネジメントしていくという視点も重要となる。し
たがって、ロジック・モデルについては、マネジメントへの活用という点が
今後の課題となると考えられるのである。
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