基準法地震動と実地震動との関連と誤解(インタビューの補足)

日経ホームビルダーにおけるインタビュー記事「今回の地震動において、現行基準が想定している地震
動より大きかったかは今後詳細な検討が必要だが、超過していたとしてもわずかと現段階では考えてい
る。」という表現について、何人かの方からご指摘をいただいた。
指摘の内容は、
「基準法の地震動は大地震時の地動加速度 400gal 程度に過ぎないのだから、今回の地震動が大きいのは
明白」ということであったり、
「現行基準が想定している地震動」といえば震度5弱ないしは5強に過ぎ
ず、「超過していたとしてもわずか」ということはない」というものである。
私の説明不足のためにこのような指摘をいただいたわけであるが、以下に発言の意図を簡単に説明する。
現行の耐震設計は、経験工学であって、木造では外力を Co=0.2 とし、建物側の限界値をいわゆる許容耐
力(許容耐力を求める際に大地震時のことも考慮もしているが詳しくは省略)として、大地震時の安全性
を担保している。よって、基準法の地震動の破壊力=実地震動の破壊力ではないし、建物の許容耐力=木
造の倒壊限界でもない。つまり、経験から決められた設計上の外力と限界値があり、それにより設計行為
をおこなっている。
私が発言している「基準法で想定した地震動」という意味は、上記の設計上、仮に決められた地震動と建
物の限界値の関係における「地震動」という意味で、これが直接今回の地震動のある指標、例えば、周期
○○秒における外力とか、速度とか、を直接示してはいない。さらにいえば、
「超過しているとしてもわ
ずか」のわずかが、1.25 とした場合、外力は Co=0.25 となるが、これが直接の地震動のある指標を表し
ているわけではない。とはいえ、この組み合わせ上の外力を上げることによって、倒壊を防ぐことがで
き、この数値に対して、今後検討を要するとしている。何度もいうが、この数値は単に地震動からは決ま
らない。あくまでも建物の限界値との組み合わせで決まるものである。なお、保有水平耐力計算もあくま
でも設計上の外力と限界値と私は考えていて、実地震動の外力と倒壊限界を直接表すものではない。
よって、あえて発言を訂正するのであれば
「基準法想定している”仮の地震動”」とか「基準法想定している地震動と建物の限界値で決まる“地震
動“」ともいえばよいのか。とにかく実地震動そのものと比較できる地震動ではなく、建物の限界値の設
定が必ず介在するものである。
なお、インタビューではここまでを説明しているわけであるが、それは割愛されているし、長くなるの
で、あえて説明するまでもなく専門家である読者であれば理解をしていただけるとも考えたが、私の説
明不足で誤解を与えてしまった。ここに記してお詫びいたします。
追1)限界耐力計算で安全限界=倒壊限界と考えられている方がいるが、それでは危険な建物ができる。
追2)耐力壁の壁倍率、許容耐力の評価の際に、荷重変形関係の変位の終局点を最大荷重以後 0.8Pmax、
1/15rad を限界とすることが多いが、この時点で建物は倒壊をしない。安全側の耐力評価に加え、これ以
降倒れるまでの変形によって、大地震の安全性を担保している。
追3)日本木材学会 60 巻 4 号 (2014)
総説「木造住宅の性能指向型耐震設計に関する研究と経験工学
の安全性」にて、以上の内容を過去の研究成果を含め整理し、詳しく述べている。まとめの文章をここに
あげ、参考に資する。
耐震設計は作用する地震外力と建物の抵抗力を比較し、
「外力<抵抗力」をもって安全を確認する作
業である。性能設計では外力、存在応力、抵抗力、変形量などがそれぞれ明示されるが、壁量計算と
その関係告示ではそれらは不明で本来的に経験工学である。
本稿で考察してきた住宅の主な設計法である壁量計算とその関連告示の内容を、実態と比較して、危
険側の評価と安全側の評価にわけて示すと、
危険側:外力(地震動)
、固定荷重、積雪荷重
安全側:積載荷重(微妙だが)、安全限界(設計法としては「耐力の評価」と読み替えることもでき
る)
である。また、保有耐力接合や偏心計算が略算や緩和規定として存在するが、耐力壁の種類や接合部
との組み合わせによっては不十分の接合や配置になる。以上が現状の設計法であり、控えめな外力と
安全側の抵抗力、あいまいな設計法と評価法の微妙なバランスで、設計上要求している地震動よりも
大きい 1995 年兵庫県南部地震に対して「結果オーライ」となった。
さて、今回の地震動に対して「結果オーライ」となるのであろうか。これから検討である。