初代十勝大橋コンクリートの長期暴露試験にお ける経年

平成27年度
初代十勝大橋コンクリートの長期暴露試験にお
ける経年調査について
国立研究開発法人
国立研究開発法人
国立研究開発法人
土木研究所
土木研究所
土木研究所
寒地土木研究所
寒地土木研究所
寒地土木研究所
耐寒材料チーム
耐寒材料チーム
耐寒材料チーム
○吉田
嶋田
島多
行
久俊
昭典
.
200年にわたる長期耐久性試験として実施されている初代十勝大橋コンクリートの暴露試験に
ついて、完成後74年までに実施してきた強度や中性化等の試験結果から、現時点におけるコン
クリートの物性や耐久性を評価した。その結果、中性化は暴露試験開始以降ほとんど進行して
いないが、試験体の一部で圧縮強度や超音波伝播速度の低下がみられ、凍害による影響が示唆
されたことから、今後も継続的な調査が必要なことを確認した。
キーワード:長期耐久性、暴露試験、圧縮強度、中性化
1. はじめに
初代十勝大橋は、橋長390m(支間41mの9径間+両端部
10.5m)、幅員18mのRCゲルバー桁橋で、橋体コンクリ
ートの許容圧縮応力度は、当時としては最高の6.0~
6.5N/mm2としたため、多くの試験を行って慎重に配合を
決定し、施工にあたっては厳重な管理が行われた1)。
昭和16年(1941年)に完成し、平成8年(1996年)に
治水上の理由により解体されたが、冬期には-20℃以下
となることも多い苛酷環境下において、AE剤が使用さ
れていないにもかかわらず、50年以上もの長期間その健
全性を保持し続けた鉄筋コンクリート構造物として貴重
な存在であった。また、当時、長期材齢でのコンクリー
トの耐久性等に関する研究は世界的にも少なかったこと
から、初代十勝大橋のコンクリート主桁の一部を保存し、
完成時から200年(西暦2146年まで)にわたり耐久性等
の試験調査を行うことが計画された。
橋梁の解体作業と並行して、平成8年(建設後55年経
過)から9年にかけて、コンクリートの物理試験、物理
化学試験および鉄筋調査等の一次調査が行われた2、3、4)。
現在は、寒地土木研究所の美々暴露実験場(苫小牧市字
美沢)に、第7径間部の5つある主桁のうち両外桁を除
く3つの中桁が保存されており(図-1および写真-1)、
5年間隔で圧縮強度等の物理試験が、また10年間隔で物
理化学試験が継続されている。
本報では、一次調査から19年経過(建設後74年経過)
時までに継続的に実施されてきた圧縮強度や中性化深さ
等の調査結果から、現時点におけるコンクリートの物性
や耐久性について検討した結果を報告する。
Susumu Yoshida, Hisatoshi Shimada, Akinori Shimata
図-1 暴露試験体配置図
写真-1 初代十勝大橋コンクリート桁の暴露状況
2. 物理試験および中性化測定
(1) 試験用供試体の採取
試験用供試体は、各暴露箇所(屋根なし、屋根あり)
と高さ方向の各部位(上部、中間部、下部)から直径
15cm、長さ78cmの貫通コア供試体を1個ずつ(計6個)
採取した(写真-2)。その後、写真-3に示すように、貫
通コアの表面を含む両端部5cmをコンクリートカッター
で切断し、中性化深さの測定に用いた。続けてφ15×
30cm供試体を切り出し、圧縮強度および静弾性係数の
測定に用いた。なお、一次調査後の経年調査においては、
写真-2に示した表側から採取した長さ40cm程度のコア
により強度や中性化の試験が実施されてきたが、図-1に
示したように、暴露試験体の表側はほぼ北西に面してお
り、日射の影響を考慮する観点から、今回の調査では暴
露試験体両面について調査した。
(3) 超音波伝播速度測定
暴露試験体の表面から内部方向への劣化状況を確認す
るため、写真-3に示した切断前の貫通コアを用いて、表
側表面から裏側表面に向けて1cm間隔で供試体直径方向
に超音波を透過させ、その伝播速度を測定した。測定は、
現地暴露試験体の鉛直、水平方向に合わせて直交する2
測線で行った。
写真-3 コア切断状況
圧縮強度(N/mm2)
80
建設後55年
60
建設後60年
建設後65年
40
建設後70年
建設後74年
20
0
上部
中部
下部
上部
屋根なし
中部
下部
屋根あり
図-2 表側コア供試体の圧縮強度
80
建設後74年コア試料
圧縮強度(N/mm2)
(2) 圧縮強度試験および静弾性係数測定
圧縮強度および静弾性係数の測定は、JIS A 1108およ
びJIS A 1149に準拠して実施した。なお、平成8年に行わ
れた一次調査時には、ひずみゲージを供試体に貼り付け
て静弾性係数の測定が行われたが、以降の測定ではコン
プレッソメータを使用している。また、一次調査では試
験前に供試体を48時間吸水させた後に試験が行われたが、
以降の試験では吸水調整は行っておらず、今回の調査時
に一部の試験体で吸水の影響を検討したが、明確な傾向
は無くバラツキの範囲内であることを確認している。
写真-2 コア採取状況
表側コア
60
裏側コア
40
20
0
上部
中部
下部
上部
中部
下部
屋根なし
屋根あり
(4) 中性化深さ測定
JIS A 1152に準拠して、表層部の試料をコンクリート
図-3 採取面の違いによる比較(圧縮強度)
カッターで暴露試験体の鉛直線に沿って切断し、切断面
にフェノールフタレインエタノール1%溶液を噴霧して、 面の違いで比較した圧縮強度を示す。
1供試体あたり10点(建設後74年の調査では15点)で中
全体として、暴露試験体上部よりも下部の方が圧縮強
性化深さを測定した。
度は高く、これは施工時のブリーディング等の影響が考
えられる。表側コアの圧縮強度を同一部位(高さ)で比
較すると、屋根なしの圧縮強度は屋根ありよりも大きか
3. 試験結果および考察
った。また、経年的には、屋根なしの圧縮強度は建設後
70 年(暴露開始後 15 年)までは概ね増加の傾向を示し
(1) 圧縮強度と静弾性係数の経年変化
たが、建設後 74 年では若干低下した。一方、屋根あり
図-2 に表側コア供試体の圧縮強度の経年変化を、図の圧縮強度は上部を除き経年的な強度の増加はみられず、
3 に建設後 74 年目(暴露 19 年目)における各コア採取
一次調査の建設後 55 年とほぼ同程度だった。
Susumu Yoshida, Hisatoshi Shimada, Akinori Shimata
静弾性係数(kN/mm2)
50
建設後55年
40
建設後65年
30
建設後70年
20
建設後74年
10
0
上部
中部
下部
上部
屋根なし
中部
下部
屋根あり
図-4 表側コア供試体の静弾性係数
50
建設後74年コア試料
表側コア
40
30
裏側コア
20
10
0
上部
中部
下部
屋根なし
上部
中部
下部
屋根あり
図-5 採取面の違いによる比較(静弾性係数)
50
静弾性係数(kN/mm2)
静弾性係数(kN/mm2)
屋根なしの圧縮強度が屋根ありより高いのは、屋根の
有無により供給される水分が異なるためと考えられ、水
分供給が多い屋根なしでは、未水和セメントの水和反応
や細骨材に含まれていた火山灰のポゾラン反応により強
度が増加したと考えられる。なお、未水和セメントの残
存や火山灰のポゾラン反応が生じていることは、これま
でに行われた物理化学分析 5)において確認されている。
一方、水分供給が多い場合、冬期には凍結融解作用を
受けやすくなる。図-3 をみると、屋根なしでは、北西
に面している表側コアの方が南東に面している裏側より
も圧縮強度が高く、裏側の方が日射の影響により冬期に
凍結融解作用を受けやすいと考えると、相対的に裏側の
強度が低下した結果と一致する。
ところが、屋根ありでは裏側の方が表側よりも強度が
高く、傾向は逆転した。屋根ありの場合、屋根の掛かり
方の関係から表側の方が裏側よりも水分供給を受けやす
く、凍結融解作用を受けた可能性がある。しかし、最も
水分供給が少ないと考えられる屋根あり裏側の強度が最
大となっており、本調査結果だけでは一連の現象を説明
できないため、バラツキの影響も含めて今後も継続的に
調査して検証する必要がある。
図-4 に表側コア供試体の静弾性係数の経年変化を示
す。静弾性係数は、若干低下した建設後 70 年の試験値
を除くと、ほぼ同程度で推移しており、暴露年数の経過
に伴う変化は確認できなかった。
図-5 に建設後 74 年目(暴露 19 年目)における各コア
採取面の違いで比較した静弾性係数を示す。屋根なしで
は、圧縮強度と同様、表側コアの方が裏側よりも静弾性
係数が大きい傾向があったが、その他の部位では大きな
差は無かった。
図-6 にコア供試体の圧縮強度と静弾性係数の関係を
示す。図には 2012 年制定コンクリート標準示方書[設計
編]6)に示されている計算式より算出した静弾性係数の値
も併記しているが(図中曲線)、圧縮強度あたりの静弾
性係数がいずれも示方書の値より高いことを確認した。
40
30
建設後55年
建設後65年
建設後70年
建設後74年
土木学会式
20
10
0
0
20
40
60
80
圧縮強度(N/mm2)
100
図-6 圧縮強度と静弾性係数の関係
間部と下部は屋根なしの方が超音波伝播速度が屋根あり
(2)コア供試体の超音波伝播速度
よりも速かった。特に下部で大きな差がみられ、屋根あ
図-7 に建設後 74 年における貫通コア供試体の直径方
りの中心部は超音波伝播速度が大きく低下しており、水
向に透過させた超音波伝播速度を示す。なお、凡例の
平測線の測定ではその傾向が確認されていないことから、
(水平)とは、現地暴露試験体の水平方向に合わせてコ
施工上の不具合により生じた水平ひび割れの等の内部欠
アの左右側面を超音波の発振子と受振子で挟み込んで測
陥が生じていた可能性がある。
定した伝播速度を、(鉛直)とは、鉛直方向に合わせて
一方、外気に接する表面付近の超音波伝播速度は、内
コアの上下を挟み込んで測定した伝播速度を示している。 部よりも低くなる部位があることが確認できる。いずれ
水平測線で測定した場合(図-7 の左図)、上部と中
も最大で表面から深さ 5cm 程度までに限定されており、
間部の超音波伝播速度は、概ね屋根なしの方が屋根あり
凍結融解作用等により劣化を受けた可能性がある。
よりも速度が速く、特に両端面から 10cm 以深の内部で
以上の調査結果を用いて、全体のおおよその傾向を簡
その傾向が確認できた。下部はほぼ同程度であり、屋根
易的に把握する観点から、水平と鉛直の測定値を平均す
の有無による大きな差は無かった。
ることに加え、表側表面から 10 点ずつ平均化(コア全
鉛直測線で測定した場合(図-7 の右図)、上部はほ
長 78cm に対し、実際には 1~2cm の誤差があったため、
ぼ同程度で屋根の有無による大きな差は無かったが、中
裏側表面部は 6~8 点の平均)して評価を試みた。
Susumu Yoshida, Hisatoshi Shimada, Akinori Shimata
屋根なし(水平)上部
4.3
4.5
屋根あり(水平)上部
超音波伝播速度(km/s)
超音波伝播速度(km/s)
4.5
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
4.5
10
20
30
40
50
60
表側表面からの距離(cm)
屋根なし(水平)中間部
4.3
70 78
裏側表面
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
0
表側表面
4.5
屋根あり(水平)中間部
超音波伝播速度(km/s)
超音波伝播速度(km/s)
屋根あり(鉛直)上部
3.1
0
表側表面
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
10
20
30
40
50
60
表側表面からの距離(cm)
屋根なし(鉛直)中間部
4.3
70 78
裏側表面
屋根あり(鉛直)中間部
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
0
表側表面
4.5
10
20
30
40
50
60
表側表面からの距離(cm)
屋根なし(水平)下部
4.3
70 78
裏側表面
0
表側表面
4.5
屋根あり(水平)下部
超音波伝播速度(km/s)
超音波伝播速度(km/s)
屋根なし(鉛直)上部
4.3
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
10
20
30
40
50
60
表側表面からの距離(cm)
屋根なし(鉛直)下部
4.3
70 78
裏側表面
屋根あり(鉛直)下部
4.1
3.9
3.7
3.5
3.3
3.1
0
表側表面
10
20
30
40
50
60
表側表面からの距離(cm)
70 78
裏側表面
0
表側表面
10
20
30
40
50
60
表側表面からの距離(cm)
70 78
裏側表面
図-7 建設後 74 年におけるコア供試体の超音波伝播速度(直径方向に対する透過法)
超音波伝播速度(km/s)
4.2
4.1
4.0
表側表面からの深さ
0~10cm
40~50
※鉛直、水平の平均値
10~20
50~60
20~30
60~70
30~40
70~78
3.9
凍害劣化
3.8
3.7
上部コア削孔箇所
3.6
屋根なし 屋根あり 屋根なし 屋根あり 屋根なし 屋根あり
上部
中間部
下部
図-8 表面から 10cm 毎に平均した超音波伝播速度
図-8 に表側表面から 10cm 毎に平均した超音波伝播速
度を示す。表側表面から内部にかけての超音波伝播速度
は、概ね屋根なしの方が屋根ありよりも速く、表側コア
の圧縮強度の傾向と一致している。また、屋根なしの上
部と中間部および屋根ありの上部では、表側表面から裏
側表面に向かって超音波伝播速度が低下する傾向がみら
れたが、その他の部位ではそれらに大きな差は無い。屋
根なしの上部と中間部で裏側表面に向かって超音波伝播
速度が低下する傾向は、図-3 で裏側コアが表側コアよ
りも相対的に強度が低下した傾向と一致している。裏側
Susumu Yoshida, Hisatoshi Shimada, Akinori Shimata
写真-4 暴露試験体裏側上部の凍害劣化
の上部ほど日射の影響を受けやすく、上部は水分供給が
多いことを考慮すると、裏側屋根なし上部の速度の低下
が大きいのは、凍結融解作用を受けた可能性がある。な
お、屋根あり上部でも超音波伝播速度が低下しているが、
上部ほど気温変化の影響を受けやすく、凍結融解作用が
比較的生じやすい部位と考えられるものの、原因の詳細
については今後検討する必要がある。
写真-4 は、実際の暴露試験体の裏側上部に生じた凍
害によると考えられる劣化である。劣化が生じている部
分は初代十勝大橋の桁と一体で切り出された床版コンク
建設後55年
建設後65年
建設後70年
建設後74年
建設後74年裏側
40
平均中性化深さ(mm)
リートの一部であり、継続調査の対象外の部位であるが、
このような劣化は南東に面している裏側にしか見られず、
表側では生じていない。このことからも、裏側は凍結融
解作用を受けやすい環境であることがわかり、表面付近
で超音波伝播速度が低下したのは、凍害の影響によると
推察される。しかし、目視では桁コンクリートに凍害に
よる表面上のひび割れは確認できていないことから、引
き続き経過観察を行うとともに、現在並行して実施中の
物理化学分析で詳細に検討する必要がある。
30
20
10
0
上部
中間部
下部
上部
屋根なし
中間部
下部
屋根あり
図-9 平均中性化深さ
Susumu Yoshida, Hisatoshi Shimada, Akinori Shimata
建設後55年
最大中性化深さ(mm)
80
建設後65年
建設後70年
60
建設後74年
建設後74年裏側
40
20
0
上部
中間部
下部
上部
屋根なし
中間部
下部
屋根あり
図-10 最大中性化深さ
中性化速度係数(mm/√年)
(3)中性化深さの経年変化
図-9 にコア供試体の測点 10 点(建設後 74 年は測点 15
点)を平均した平均中性化深さを、図-10 に最大中性化
深さを示す。なお、建設後 74 年裏側以外は、表側表面
からの中性化深さである。また、建設後 55 年は一次調
査時の値であるが、屋根なしの値は上流側外桁の中間部
位から採取したコアによる試験結果を、屋根ありは暴露
試験体と同じ上流側中桁の中間部位から採取されたコア
の中性化深さを示している。なお、建設後 55 年の屋根
なしの一次調査値は、供用中 55 年間屋根なし相当の環
境に曝されていたもの(外桁)であり、暴露試験以降に
外部に曝されたその他の屋根なしのデータとは環境履歴
が異なるため参考値である。
平均中性化深さは建設後 70 年の屋根なし下部を除く
と 5~20mm 程度であり、いずれの箇所および部位にお
いても、建設後 55 年の一次調査値とほぼ同程度以下で
あった。また、最大中性化深さも一次調査値と比べて差
はなく、経年的に中性化はほとんど進行していないもの
と判断できる。なお、建設後 70 年の屋根なし下部につ
いては、既報 5)において、圧縮強度やコンクリート内部
の超音波伝播速度が低下していたことから、経年的な劣
化によるものではなく、施工時に生じた不具合の影響と
推察したが、今回の調査においても中性化深さの経年的
な進行は認められなかったことから、調査した部位の不
具合に起因した特異な値と考えられる。
一方、今回調査した建設後 74 年において、屋根なし
では部位の違いで差はほとんど無いが、屋根ありの上部
と下部では中性化深さに差がみられた。これらの差につ
いては、並行して実施中の物理化学分析において、細孔
構造や反応生成物等を考慮して評価する必要がある。
図-11 に平均中性化深さから算定した中性化速度係数
を示す。中性化速度係数αは、中性化深さを材齢の平方
根で除した値で定義されるため、全体の傾向は図-9 に
示した平均中性化深さと同じである。暴露試験後の建設
後 65 年~74 年の表側の中性化速度係数を暴露箇所毎に
平均すると、屋根なしα=1.42(mm/ 年 )(ただし、建
設後 70 年の屋根なし下部を除いた平均値)、屋根あり
α=1.71(mm/ 年 )となる。
一方、既往の研究 7)により、中性化深さの推定式とし
て式-1 が提案されており、2012 年制定コンクリート標
建設後55年
建設後65年
建設後70年
建設後74年
建設後74年裏側
5
4
3
2
1
0
上部
中間部
下部
屋根なし
上部
中間部
下部
屋根あり
図-11 中性化速度係数
準示方書[設計編]8)においても、中性化速度係数を導
出する際の参考として記載されている。
 p  3.57  9.0W / B
(式-1)
ここで、αp:中性化速度係数の予測値(mm/ 年 )
W/B:有効水結合材比
初代十勝大橋の桁コンクリートの水セメント比は、示
方配合3)から52%である。この値と上式より算定される
中性化速度係数はα=1.11となり、暴露経年調査結果の
平均値から求められた中性化速度係数の方がいずれの暴
露箇所においても大きい結果となる。
これについて、初代十勝大橋コンクリートに使われて
いたセメントは、現在の中庸熱ポルトランドセメントに
相当すると考えられており3、 5)、上記の予測式は中庸熱
ポルトランドセメントも考慮された式ではあるものの、
当時のセメントは現在のものよりも粒子が大きいため、
セメントの水和速度が遅く、材齢初期には中性化の進行
抑制に寄与する水酸化カルシウムの生成量が少なかった
と考えられる。また、長期的にも細骨材に含まれていた
火山灰のポゾラン反応3、5)によりコンクリート中の水酸化
カルシウムが消費され、中性化が進行しやすい状態であ
ったことが推察される。なお、今回の経年調査からも明
らかなように、一次調査以降は中性化がほとんど進行し
ていない状況を考慮すると、コンクリートの中性化は供
用中の早い段階から進行していたと推察される。また、
暴露試験体は内桁であり、供用時には雨水等の影響を受
けにくい部位であったことから乾燥しやすく、これが中
性化の進行を助長したことが考えられる。
以上から、中性化深さは現在の予測式から算出される
値より大きいものの、暴露試験開始以降は中性化がほと
んど進行していないことを確認した。
試験開始以降は大きな変化は無く、中性化はほとんど進
行していないことを確認した。
本調査は今後も継続し、実環境下におけるコンクリー
トの耐久性を長期的かつ定期的に把握するとともに、得
られた試験データを活用して既存の耐久性等の予測評価
式の妥当性を検証することによって、より精度の高い長
期耐久性の予測評価手法を確立していきたい。
参考文献
1) 例えば、横道英雄:河西橋に関する報告及び研究(其の 6)
-鉄筋工及び橋体コンクリート施工法について-、北海
道開発局土木試験所報告第 3 号、pp.20~44、1948 など
2) 佐伯昇、熊谷守晃、太田利隆、星俊彦:初代・十勝大橋の
コンクリートが示すもの、セメント・コンクリート、
No.639、pp.1~9、2000.5
4. まとめ
3) 熊谷守晃、星俊彦、佐伯昇、太田利隆:50 数年経過した
コンクリートの物理、化学的特性と耐久性、土木学会論
文集 No.686/Ⅵ-52、pp.41~54、2001.9
施工後 74 年経過時点までに継続的に実施されてきた
物理試験および中性化試験の結果から、現時点における
コンクリートの物性や耐久性について検討した。圧縮強
度は、暴露試験開始以降も屋根なしの箇所において増加
の傾向を示していたが、今回の調査では若干強度の低下
が確認され、特に南東向きの面で比較的強度が低い状況
が確認されたことから、今後も継続的に調査し凍結融解
作用の影響も含めて検証する必要があることを確認した。
また、超音波伝播速度の測定結果からも、南東に面した
表層部で速度が低下する傾向がみられ、現地暴露試験体
の上部にも凍害劣化が確認されたことから、今後詳細な
検討が必要である。一方、中性化深さは、現在の予測式
から算出される値よりも大きい傾向があるものの、暴露
Susumu Yoshida, Hisatoshi Shimada, Akinori Shimata
4) 熊谷守晃、太田利隆、佐伯昇、星俊彦:十勝大橋に用い
られた鉄筋の特性及び鍛接継手、土木学会論文集 No.693/
Ⅵ-53、pp.35~46、2001.12
5) 吉田行、島多昭典、田口史雄:初代十勝大橋コンクリー
トの長期耐久性試験、寒地土木研究所月報、No.719、
pp.2-13、2013.4
6) 土木学会:2012 年制定コンクリート標準示方書[設計
編:本編]、p.44、2008.3
7) 土木学会:フライアッシュを混和したコンクリートの中
性化と鉄筋の発錆に関する長期研究(最終報告)、コン
クリートライブラリー第 64 号、1988.3
8) 土木学会:2012 年制定コンクリート標準示方書[設計
編:標準]、pp.147-148、2008.3