大規模工場が立地する不整形地盤の震動特性に関する研究 名古屋大学工学部社会環境工学科 建築学コース 福和研究室 杉山拓真 (a) (b) (X) 20 ☆ 70m 0 ☆ 5 粗4 砂 6 6 8 粗8 砂 C 10 データ 1 (X)地点 0 0 0 5 5 盛5 土 ボーリングデータを参考にしつつ、浅層レーリー波探査、常時 (ⅱ) 10 10 微動計測により、場所による表層地盤の震動特性の違いを把握 測線S (ⅲ) 15 礫 混 在10 中 砂 図1 工場配置図 B 10 10 100 150 200 250 300 350 400 00 1020304050 B 50 100 C 400 240m 所に施設が立地している場合は、人工的な地形改変が行われる データ 13 盛 土2 ) 35 合がある。特に丘陵地、台地の縁などの傾斜した地形を持つ場 0 4 30 敷地内でも表層地盤の震動特性が場所によって大きく異なる場 データ 13 2 140m 予測が必要である。大規模工場では、立地条件によって、同じ C B 0 ( の影響が大きい。特に、一辺数百 m にもなる大規模工場では、 (Y) 南海トラフ巨大地震に備えて、工場の敷地内における地震動の ☆ A 愛知県は製造業が集中しており、工場施設の耐震性は産業へ A 1.研究の背景と目的 データ 1 ため、建設サイトの表層地盤構造は不整形となり、予測される A’ A そこで、本研究では大規模工場敷地内の旧地形、現地形図や 2.対象サイト概要 対象サイトは西三河地区に立地する 3 工場である。本論では (ⅲ) 30m(ⅱ) A 70m 0 起伏のある山間部を地盤造成して建設された。図 1 に配置図、 1890 年の等高線を重ねて示す。等高線の間隔は 5 m で、標高 35m A 20 40m (ⅰ) A’ 盛土 70 約20m 25 粘土層1.000 Vs 112.73 N 0.256 沖積層1.000 (1 ) 砂層0.885 3.計測概要 地盤構造をできるだけ詳細に把握するため、浅層レーリー波 探査、常時微動計測を行った。浅層レーリー波探査とは、人工 振源により励起された表面波を用いて表層地盤の二次元的な S 波速度構造を求める手法である。計測範囲は図 1 の(a)、(b)であ り、図 3 に一部の計測地点、計測測線を示す。計測範囲(a)の浅 層レーリー波探査から、切盛の違いによる S 波速度構造の把握、 常時微動計測では、地盤震動特性の把握、(b)の常時微動計測か ら、法面上下の地盤震動特性の把握を目的とし計測を行った。 4.計測結果に基づく地盤震動特性の把握 4.1.浅層レーリー波探査に基づく地盤震動特性の把握 得られたデータをもとに解析を行い、切盛の違いによる S 波 速度構造を把握する。図 4 は図 3 に示す測線 S のカケヤによる 人工起振によって励起された記録の1つであり、起振位置に近 い受振点から順に図の上から並べている。起振により励起され た波の走時から、表面波の見かけ速度は 230 m/s 程度であり、 25 00 1020304050 50 100 400 100 200 300 400 N値 S 波速度 C B (Y)地点 [m/s] (ⅳ) B 建屋 (ⅳ) ☆ 盛土 B レーリー波探査計測測線 計測範囲(b) ☆ 常時微動計測地点 図3 0m 450 最 初 10m の 受 振 20m 点 か 30m ら の 距 40m 離 46m Phase Velocity [m/s] 深度 10 m までの平均 S 波速度を算出すると 200 m/s 程度と推測 される。 25 S:シルト (ⅴ) 小さく、基盤岩風化帯と推定されている。旧版地図から推測さ もみられた。N 値から (1)式により S 波速度を簡易的に換算し、 20 粗 砂 図 2 ボーリングデータ (記号は図 1 参照) きいことが確認できる。また、盛土境界以深においても N 値は れる盛土厚とボーリングデータの盛土厚が 8 m 程度異なる部分 S 20 計測範囲(a) B’ 版地図との比較から、盛土厚は最大で 20 m 程度と推測される。 リングデータの盛土厚さの違いからも、旧地形の起伏の差が大 15 15 A-A’断面 の等高線を太線で示す。現在の敷地内の標高は 33 m 程度で、旧 図 1 の(X)、(Y)地点のボーリングデータを図 2 に示す。ボー ) する。 その内の A 工場の分析結果について示す。A 工場は、1968 年に ( (ⅰ) A (P) 測線T 地震動も地点により大きく異なることが考えられる。 0.0 0.1 0.2 0.3 0.4 0.5 Time [s] 図4 起振記録 (ⅴ) ☆ B’ 19m B-B’断面 計測地点 0 5 Freq.[Hz] 10 15 20 25 30 35 40 400 350 切土 300 250 200 盛土 図5 分散曲線 ボーリングデータから推測される S 波速度と概ねの対応してい る。起振記録をもとに解析を行い、得られた分散曲線を図 5 に 示す。測線は切盛土を含むため、各分散曲線に違いがあること が確認できる。 得られた分散曲線から非線形最小二乗法を用いて逆解析を行 い、S 波速度構造を求めた結果を図 6 に示す。浅層レーリー波 探査の計測測線が北に進むにつれて表層の S 波速度が遅くなっ ていることが確認できる。したがって、この部分は盛土と推測 でき、旧版地図から推測される地形と対応している。また、深 度 20 m 付近には、工学的基盤となる S 波速度 400 m/s 以上であ る層が確認できる。 4.2 常時微動計測に基づく地盤震動特性の把握 A 0 A’ 200 切盛の違いによる地盤震動特性を把握するため、速度フーリ エスペクトル、H/V スペクトル、伝達関数により分析を行う。 260 10 320 図 7 に地点(ⅰ)~(ⅴ)で得られた常時微動記録の 3 成分の速度フ ーリエスペクトル、図 8 に H/V スペクトルを示す。H/V スペク 20 380 トルは、水平成分のフーリエスペクトルのベクトル和と上下成 分の比を意味する。 図6 10 1 スペクトルを見ると、地点(ⅰ)では 3 Hz 付近に卓越がみられる 10-1 から切土になるにつれて、卓越振動数が高振動数側へ移動して いることが確認できる。 地点(ⅳ)、(ⅴ)の結果では、速度フーリエスペクトルから、法 面上の地点(ⅳ)の振幅が大きく、盛土の影響による増幅と考え Amp.[mkine×sec] 地点(ⅰ)~(ⅲ)の結果では、どの方向の速度フーリエスペクト ルも、振幅が地点(ⅰ)から(ⅲ)にむけて小さくなっている。H/V が、地点(ⅱ)、(ⅲ)では、4~5 Hz 付近に卓越がみられる。盛土 440 m/s 70m 測線 S の S 波速度構造 (ⅰ) (ⅱ) (ⅲ) 10-2 EW NS UD 10-30 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8 10 a) 地点(ⅰ)~(ⅲ) 10 (ⅳ) (ⅴ) 1 ▼ ▼ ▼ られる。また、地点(ⅳ)から EW、UD 方向では 4 Hz 付近に、 10-1 NS 方向では 5 Hz 付近に卓越が見られ、卓越振動数に差がある 10-2 ことが分かる。これは、地点(ⅳ)の北側が法面であることが影 10-3 0 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8 10 0 2 4 6 8 10 EW NS UD Freq.[Hz] 響しているためと考えられる。 b) 地点(ⅳ)、(ⅴ) 図 7 速度フーリエスペクトル 図 9 に法面下に対する法面上の伝達関数を示す。EW 方向を 見ると、4 Hz 付近で卓越が見られ、位相差も 90 度となってお 12 16 り、卓越振動数と考えられる。法面の平均 S 波速度は 4 分の 1 (ⅰ) (ⅱ) (ⅲ) 12 Amp. 波長則により f=4 Hz H=19 m から 300 m/s 程度となることが推測 される。 5.計測結果とボーリングデータの比較 実測記録から得られた S 波速度とボーリングデータから(1) 4 0 0 2 4 両者の深さ方向の分布を図 10(a)に示す。深度 2~7m では両者 A 工場では両者のデータの地点が近いものが 1 地点のみだっ たので、B 工場の比較結果を図 10(b)、(c)に示す。B 工場も起伏 のある山間部を地盤造成した敷地に立地している。図 11(b)は推 定盛土厚が約 4 m の地点、(c)は切土地点のものである。両者は 良く対応していることがわかる。しかし、(b)の計測結果から、 6 8 図8 Coh. Phase. Amp. は良く対応していることが分かる。 8 8 4 式により求めた S 波速度の比較を行う。図 3 の P 地点における (ⅳ) (ⅴ) 0 10 0 Freq.[Hz] 2 4 6 8 10 H/V スペクトル 18 ▼ ▼ 10 ▼ 0 180 -180 1 00 4 m 付近の盛土による S 波速度の違いは見られなかった。また、 2 4 6 8 10 0 EW方向 図9 (b)、(c)から浅層レーリー波探査の結果は、ボーリングデータか 2 4 6 8 10 0 Freq.[Hz] NS方向 2 4 6 8 10 UD方向 伝達関数(法面上/下) ら求めた S 波速度に見られるような逆転層をとらえられていな 地形図やボーリングデータを参考に浅層レーリー波探査、常 時微動計測を行った。前者の分析結果から、切盛土の違いによ 深度 [m] 6.まとめと今後の展望 深度 [m] いことが分かる。 る S 波速度構造を把握できた。後者の分析結果から、切盛土、 法面上下の違いによる地盤震動特性を把握することができた。 浅層レーリー波探査から得られた S 波速度とボーリングデータ S波速度 [m/s] S波速度 [m/s] から求めた S 波速度の比較では、実測結果が推定と良く対応し ていることが確認できたが、実測結果は逆転層をとらえていな いことが分かった。 今後は、得られた地盤特性を用いて、1 次元重複反射理論や 非線形を考慮した数値解析を行うことで、地震時の場所による 地盤震動の評価を行う予定である。 S波速度 [m/s] ボーリングデータ S波速度 [m/s] レーリー波探査 (a) A 工場 (b) B 工場(盛土) (c) B 工場(切土) P 地点 図 10 実測結果とボーリングデータの S 波速度の比較 参考文献 1) 内閣府:東南海、南海地震等に関する専門調査会(第 16 回)地盤構造に関する資料-、pp81、2003.12
© Copyright 2024 ExpyDoc