市民公開講座要旨 市民公開講座【C-1】 減塩も「見える化」がポイント ○兎澤 真澄、相澤 寛 秋田県大館保健所 健康・予防課 1)秋田県の健康状態と管内の健康課題 秋田県の年齢調整死亡率は、脳血管疾患や消化器系の悪性新生物を原因とするものが全国と比較し高く 推移してきた。そのため秋田県では昭和45年度から脳卒中予防総合計画により、健診による高血圧者の早 期発見並びに早期治療と生活指導を始めた。この運動により脳卒中については10年間で若年層の死亡半減 の成果を収めた。 合わせて、昭和50年からは県栄養士会を中心として正しい栄養素のバランスを基調とした低塩食生活を 図る長期運動を展開して全国との差を縮めてきたが、死亡率は平成10年ころより差は縮まらなくなり平行 して推移するようになっている。 管内にあるK市が平成22年市町村別平均寿命で男女とも秋田県最下位となったことを受けて、死亡原因 を探るため標準化死亡比(平成19年~23年)をみたところ、脳血管疾患による死亡が全国の2倍であるこ とがわかり、対策を講じる必要性を痛感した。 2)武庫川女子大学との出会い 秋田県では、昭和62年から5年ごとに県民栄養調査を実施してきたが、保健所単位で評価できる対象で なく、K市民の食生活の状況も把握できずにいた。その頃、家森先生が実施している24時間尿により食塩 摂取量やナトカリ比を把握する方法を知り注目していたところ、偶然武庫川女子大学と連携してK市民を 対象に調査する機会を得た。 3)平成26年度「自分の塩分を知るプロジェクト」 K市民90名を対象に、24時間尿により食塩摂取量とナトカリ比を評価したところ、「適塩で野菜もたっ ぷり」のAタイプは11%、「適塩でカリウム少なめ」のBタイプが21%、「食塩摂取量は多いけれどもカリ ウムは良くとれている」Cタイプは5%で、63%の方々は「塩分摂取量が多く、カリウムの摂取も足りない」 Dタイプとわかり、それに伴う食生活の傾向も見えてきた。 4)平成27年度「減塩・健幸プロジェクト」 平成26年の調査を踏まえ、K市と共催で減塩と野菜摂取増を目標に2カ月取り組む事業を行い、29人が チャレンジした。取組期間の前後には武庫川女子大学の協力により24時間尿による食塩摂取量とナトカリ 比の測定を行い、取組期間中はオムロンヘルスケア株式会社の協力で貸与されたナトカリ計を使用し日々 のナトカリ比を指標に食生活改善に取り組んだ。食塩摂取量やカリウム摂取の状況が数値化されたことで、 参加者は自分の食事を見直し、早い段階で食生活改善のこつが分かったと回答した。取組後の24時間尿に よる評価では、3人いた食塩20g以上の摂取者が0人になり、Aタイプが増加しDタイプが減少した。 5)今後の取組 減塩と野菜摂取増を中心とした食生活改善は、「見える化」することで成果が得られることが分かった。 特に、女性の改善は大きいことが分かったが、男性については調理担当者に働きかけるなどの工夫が必要 なことも分かった。今後も、市と連携し、特定保健指導や教室で効果的な方法を探っていきたい。 市民公開講座【C-2】 “栄養チェック”で食事はよくなる! ○次田 一代、垣渕 直子 香川短期大学 1)「『栄養で日本を元気に』プロジェクト」に基づく24時間採尿調査 香川県栄養士会30周年記念講演会参加者を中心とする235名を対象として、武庫川女子大学国際健康開 発研究所(以下、研究所という)提唱の「『栄養で日本を元気に』プロジェクト」に基づく身体計測・血 圧測定、24時間採尿調査、食事調査を実施した。24時間採尿調査は、研究所開発の容器を用いて被験者自 身が採尿、香川短期大学(以下、本学という)で回収し、研究所に送付・解析の後、結果を被験者に返却 した。 採尿から算出された食塩摂取量は、約半数の被験者の値が、食塩摂基準値(男性9g未満、女性7.5g未 満)より高かった。尿中ナトリウム(Na)/カリウム(K)比が適正値(3.0以下)の被験者は全体の約30%であり、 食塩摂取量とNa/K比を組み合わせた評価表によると、食塩摂取量もNa/K比も適正なAタイプ20%、食塩 摂取量は適正だがカリウム摂取量が少なくNa/K比が不適正なBタイプ32%、塩分摂取量は多いがNa/K比 が適正なCタイプ11%、食塩摂取量もNa/K比も不適正なDタイプ37%であった。 2)本学における適塩指導 24時間採尿調査者の内31名(評価表のAタイプ25%、Bタイプ22%、Cタイプ16%、Dタイプ37%)に対 し、本学において適塩教室を3回実施した。1回目は「好みの塩分量チェック」のテーマで、みそ汁の塩 分チェック、フード模型を使用した1食当たり塩分量の把握、簡易自記式食事歴法質問票(BDHQ)によ る食事調査を実施。2回目は「適塩目標設定」のテーマで、適塩ランチ(塩分2g)試食後、各自適塩目 標設定、食行動に関するアンケート調査を行い、その後2ヶ月間適塩目標が実行できたかどうかのセルフ モニタリングを実施した。3回目は「適塩目標の達成チェック」のテーマで、再24時間採尿調査、BDHQ による食事調査、適塩ランチの再試食、2回目と同じ食行動に関するアンケートを実施した。 適塩指導前後における5つの行動変容段階ステージ(無関心期、関心期、準備期、実行期、維持期)該 当者数を調査した結果、適塩指導前は65%であった無関心期、関心期、準備期の該当者が、適塩指導後は 40%に減少し、実行期該当者は1.7倍に増加した。野菜摂取、油脂の適正摂取、塩分の適正摂取、適切な 食事量の自己評価得点において、実行期、維持期該当者は、無関心期、関心期、準備期該当者より有意に 高値を示した。また、適塩ランチの再試食において、塩味が調度よいと答えた人が1回目より有意に増え ていた。適塩指導前後における24時間採尿と食事調査結果に有意な差は見られなかったが、嗜好や意識の 変化は認められており、さらに継続した指導と調査が必要である。 以上のことから、適塩に向けた食事改善指導には継続的な栄養チェックが必要であり、そのために24時 間採尿調査は有効であると考えられる。 市民公開講座【C-3】 “メタボ”にも“ロコモ”にもならない食事とは? ○福尾 惠介、谷野 永和 武庫川女子大学 栄養科学研究所 「健康寿命を延ばす食べ方」とはどのような食べ方でしょうか?それを考えるには、まず、年を取ると どのような健康障害が起こりやすいかを知ること、つまり、皆さん自身の目の前に迫る敵を知ることが重 要です。実は、加齢とともに体脂肪が若い時に比べ倍近くに増加し、同時に筋肉量が著しく低下するため、 メタボリックシンドローム(メタボ)や糖尿病になりやすいことが分かっています。つまり、自分が気づ かないうちに、じわじわとメタボの危険が高まっているというわけです。メタボは、ご存知のように、脳 卒中や心筋梗塞などの心血管系の病気だけでなく、がんや認知症など健康長寿を妨げる重大な病気の元に なります。では、まず、メタボになりにくい食事についてですが、この講座では、特に、最近のトピック スである腸内細菌叢とメタボとの関係に注目したいと思います。つまり、どのような食事や食習慣が腸内 細菌叢を正常に保ち、健康長寿につながるかをご一緒に考えてみたいと思います。 次に、ロコモティブシンドローム(ロコモ)になりにくい食事についてですが、最近、地域では1人暮 らし高齢者数が年々増えています。1人暮らしは気楽ですが、それは健康であってこそです。皆さんが1 人暮らしになられた場合、果たして、健康長寿を維持することは容易でしょうか?私たちの地域での活動 や過去の報告から、1人暮らし高齢者は活動量が低下して閉じこもりや低栄養に陥りやすいことが分かっ ています。特に、夫や妻との死別などで1人暮らしを始めたばかりの方は、これらの危険がさらに高まり ます。閉じこもりや低栄養は、まさにロコモにつながるため、ロコモを予防するためには、運動と低栄養 予防が重要です。ここでは、特に、低栄養予防について食事の面から考えたいと思います。注目していた だきたいのは、低栄養は、自覚症状が少ないため、ほとんどの方が自覚していません。では、この自覚症 状の少ないこの「低栄養」をどのようにして発見できるのでしょうか?それは、一つには定期的な体重測 定です。特殊な例を除いて、ほとんどの低栄養では体重が低下します。つまり、知らないうちに体重が減っ てきている場合は、低栄養が強く疑われます。しかし、困ったことに、高齢者のほとんどの人が、体重が 減ることに危機感がなく、むしろその方が良いと勘違いしている人が多いようです。その理由は、最近、 マスコミ等を通じて、メタボや肥満による健康障害が頻繁に紹介されるとともに、痩身願望を煽る過剰な 宣伝報道が連日繰り返されるため、高齢者においても、一様に体重を減らすことが健康に良いとの刷り込 みがなされているためではないかと思われます。 この講座では、私たちが出会った1人暮らし高齢者の事例を通じて、健康長寿につながる食について皆 さんと考えたいと思います。 市民公開講座【C-4】 生涯元気な食べ方上手 ○家森 幸男、森 真理 武庫川女子大学国際健康開発研究所 1)世界調査が明らかにした和食の特徴 世界保健機関(WHO)の協力で1985年以来、世界の60を超える地域の50歳代前半の男女の24時間尿を集め、 栄養のマーカーと生活習慣病(メタボ)との関係を分析し、イソフラボンとタウリンの測定から大豆と魚 の日常的摂取が多いのが日本人の食生活の特性と分った。 2)長寿を支えるごはん、大豆と魚の摂取 長寿の指標、平均寿命は心筋梗塞の死亡率(心臓死)が多い程短く、先進国中で日本人は心臓死が最低で、 これが日本人の世界一の長寿の原因である。心臓死は血清コレステロールが高いと増えるが、日本人で心 臓死が少ないのは、米食でコレステロールが低く、更にイソフラボン、タウリンの測定から、大豆、魚の 摂取の多い事が心臓死を少なくし日本人の長寿を支えている事が明らかになった。 3)和食で健康寿命を延ばすには しかし、大豆、魚を摂取している日本人は塩分の摂取も多い。世界調査で塩分の摂取が多いと脳卒中や胃 癌の死亡率も高く、脳卒中は寝たきり、認知症の原因にもなるので、塩分の過剰摂取と、更に慢性のカル シウム摂取不足が骨粗鬆症からの骨折で寝たきりにもなるので、健康寿命を平均寿命より10歳以上も短く している。そこで、WHOの目標、1日5gの減塩と、ナトリウムの害を抑えるカリウムの多い野菜の摂取、 さらにカルシウム、マグネシウムが多く骨の健康にもよい乳製品の摂取が、健康寿命の延伸のため薦めら れる。 4)「1日1膳」と外食メニューの改善効果 1日1食でも適塩で、野菜、大豆、魚の多い弁当を1ヶ月食べる介入研究で、肥満度と血圧は低下し、大豆、 魚の摂取群は、肉食群に比べて動脈硬化指数(LDL/HDLコレステロール比)も低下した。又、外食の 昼食の適塩食メニューを2週間続けると、1日3gの減塩効果があり、3gの減塩を生涯続けると脳卒中死亡 の半減も世界調査から期待出来る。 5)「健康ひょうご21」県民運動の成果 「食はバランス、ごはん、大豆(等伝統食)と減塩」を推奨した県民運動10年の成果として、50-70代の女 性では減塩、大豆摂取増加が有意で、血圧、中性脂肪、空腹時血糖値は有意に低下し、イソフラボン、タ ウリンの分析で大豆、魚の両方の摂取が多い男女は、少ない男女よりもインスリンによる血糖値抑制効果 が大きく、‘倹約遺伝子’を保有する為糖尿病になり易いとされる日本人でも大豆、魚の摂取は糖尿病予 防効果も期待出来る。 6)上手に食べて健康寿命を延ばす「栄養健診」のすすめ 今や何をどれだけ食べているかは、24時間尿の採取・分析で分かり、それを知る事で健康を先取りする予 防栄養学がみんなの明日の健康を約束する。適塩で、塩分の害を防ぐ野菜の積極的摂取で高血圧、脳卒中 が、大豆や魚の摂取で動脈硬化による心臓死と糖尿病などのメタボや、これらが関係する認知症なども防 げる可能性があり、24時間尿による「栄養健診」は、各人が自らにあった上手な食べ方で健康寿命を延ば す第一歩である。
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