Title シシウド根成分の研究( Abstract_要旨 )

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シシウド根成分の研究( Abstract_要旨 )
田中, 安男
Kyoto University (京都大学)
1961-09-26
http://hdl.handle.net/2433/210803
Right
Type
Textversion
Thesis or Dissertation
none
Kyoto University
田
)
た
中
なか
安
やす
学
博
男)
お
士
学 位 の 種 類
薬
学 位 記 番 号
薬
学位授与 の 口付
昭 和 36 年 9 月 26 日
学位授与 の要件
学 位 規 則 第 5 条 第 1 項 該 当
研 究 科 ・ 専攻
薬
学
研
学 位 論 文 題目
シ
シ
ウ
論 文 調 査 委員
教 授 木 村 康一
1 6
第
博
号
科
究
ド 根
薬
成
学
分
専
の
攻
研
究
(主 査)
論
文
内
教 授 富 田 寅雄
容
の
要
教 授 上 尾庄 次 郎
旨
シシウ ド A ngelica pubescens M A X IM . (- A ngeユ
ica polyclada F R A N C IJ) はセ リ科 に属 す る多年生 草本
で, わが国各地 の山野に生 じ, 本学家 は 「独活」 の一つ と して本植物をあててい る, 貢船地方 の民間では
この根を神経痛, リユ ウマチスの浴湯料 に用 い るとい う。
シシウ ドと同属植物申, 生薬 に用 い られてい るものは数種を数 え, それ らはいずれ も化学的研究 が行 な
われてい るが, シシウ ドについては未 だその報告をみないO 著者 は責船地方 に群生 す るシシウ ド根 の成分
について研究を行 ない, m p. 256-2570 の新成分を得 て ttangelical" と命名 し, その化学 構造 を 究 明す る
とともに, 他 の成分 〔刀〕~ 〔
Ⅷ〕 を分離 し, それ らの本体を明 らかに した。 また数量化学的方法 を用 いて
別 に 2 柾 の哉光成分を推定 し, 同属植物 4 柾 中の これ ら蛮光成分 の分布 について研究 した。
§1 ang elical
シシウ ド根 の乾燥根 エーテル エキスか ら石油 エーテル可溶分を除 き, 次 に稀 アル カ リ可溶 の酸性物質を
除 いたものを鹸化後, 鹸化部を真空蒸溜すれ ば, 昇華 性 白色結 晶 ang elical 〔Ⅰ
〕と黄色 油状物を得, 普
者 はまず 〔Ⅰ
〕について次の実験を行 な った。
a)
〔Ⅰ
〕は C llH 80 4 m p. 256-2570 (corr,) で, 有機溶媒 には一般 に 難 潜 で,
U
V
慧
㌘ 257, 309, 332
m IL,Ⅰ
,R NmLi5xo1 1753, 1682 cm -1 を示 し, 芳香核共鞭二重結合, 81 ラク トンおよびカル ボニル基 が推定 され,
オキ シムを生ず るがアセチル化物はつ くらず, メ トキ シル基 1 個が確認 され た。 〔Ⅰ
〕を鹸化後, メチル
化, 再鹸 化 して C 120 120 5 に一致す るメチル エーテル カル ボ ン酸を得, これ について 精査 の結果 〔Ⅰ
〕は
クマ リン誘導体 と推定 した。
b)
か って B utenandt および Spath らはイ ンペ ラ トリア根か ら ostruthin を分離 し, その構造 につい
て⑤式を提 出 した。
C H 3C :C H C H 2C H 2C :C H C H 2「
O struthin ①
②
- 189 -
この構造研究 において Spath らは ostruthinm ethylether の クロム酸分解で coum arinaldehyde ② と推
定 され る物質を得 , これが ostruthin の構造推定 の論拠 とされたが, 本物質② は著者 の angelical にきわ
めて類似 の融点を有 し, 両者同一物 とも考 え られ るが, これについては他 に明確 な記載 がなされていない。
したが って著者 は独 自の方法で angelical の構造 を研究 した。
C)
〔
Ⅰ
〕の C lem m ensen-M artin
還元を行 なえば m p. 134-135o C l lH l。 0 3 の還元体 〔
IB 〕 を得 るが,
IB 〕 を得た。
長時間同一還元を続 けた ところ m p. 93-94.5o C l l H 1 20 3 の還元体 〔
〔
IB 〕, 〔
IC 〕 はともに ラク トン基 は存在す るがアルデ ヒ ド基 は認め られない。
- /㌔
CH 3
C H 30 -◎ 、。 -o
[IB ]
@
ノ
ccH? 0
.
二
◎3
H2
/ \H 2
C H 3C H 30 ニ 、o ノ
-0
-0 く
lI]
d)
-し
、j
[IC ]
④
〔
IB 〕 を鹸化, ついで メチル化すればメチル エーテル メチル エステル 〔
ID 〕 を得, 再 鹸 化すれば桂
1E 〕 が得 られ, つ いで これを K M 。0 4 酸化すれば m p. 119-121o C l。H 120 3
皮酸誘導体であるメ トキ シ酸 〔
〔
IF 〕 が得 られたO 〔
IF 〕 は文献既知 の 2,4-dim ethoxy-5-m ethylbenzaldehyde ⑥ に近似 の定数を示すがそ
の記載には暖味の個所 がある。
。認 二
◎ (.i 呂? H
[IE 】
@
e)
-
-
。誌 二
◎ 二
諾 HO ,
[IF 】
@
著者 はここにおいて 〔
IF 〕 の合成を行 な った, すなわち resorcinol か ら G atterm ann-A dam s の方
法で resorcylaldehyde を合成 し, つ いで C lem m ensen 還元 によ り cresorcinol に誘導, 引きつづ き メチ
ル化 して再 び A dam s 反応でアルデ ヒ ド基を 導入 し, 2,4-dim ethoxy-5-m ethylbenzaldehyde ⑥ を合成,
IF 〕 およびそのオキ シムを比較の結果 , それぞれ同一物質 な ることを確認 し
本品 と天然 か ら誘導 された 〔
た。
f)
ついで cresorcinol および リンゴ酸を P echm ann 反応によ り縮合せ しめた後, メチル化 して 6-m eth-
yト7-m ethoxycoum arin ⑦ を合成 した。 本物質 は文献末記載であ り, angelical 還元体
〔
IB 〕 と比較の結
果全 く一致す ることを認めた。 したが って以上 の結果か ら angelical に 対 して 6-form yト7-m ethoxycou -
m arin (重な る構造式を提 出 したo
C H 3H O一
-o
H
+ H O O C ・C H O H ・C H 2・C O O
H
-
-
ヽ
ノ
⊥
⊥
3
c H 30 1
二一 ∴
二
ccHH38二
◎
(.) =。
-
angelical
④
前述 の ごと く Spath らによ り ostruthinm ethylether の クロム酸酸化成績体に対 して偶然 に著者 の ange-
1ical と同 一 構造式が推定 されていたのであ るが, 両物質を直接比較す ることはで きなか ったが, 今回の
著者 の angelical の構造研究の結果 は彼等 の酸化成績体 の既に推定 されていた構造式の正 当 なことを ここ
- 190 -
-
に裏書 きす ることがで きた。 す なわち これ が今 回 angelical と して植物体 に天然 に存在 す ることが証 明 さ
れ た ことは興 味深 い ことで あ る。
§2. 他 の成 分 につ いて
イ) シシウ ド根鹸化部を真空蒸宿 して m p.63.5-64 0 白色長針状 晶 〔Ⅲ〕 および無色特異臭液体 〔
Ⅲ〕
が得 られ, 〔Ⅲ〕 は tiglic acid , 〔Ⅲ〕 は ang elic acid な ることを確 認 した。 また, 〔Ⅰ〕 の漬液 か ら m p.
166.5-167 0 白色針状 晶 〔
Ⅳ〕 が得 られ,
定 す るとともに,
〔
Ⅳ〕 は紫色蛮光 を有 す るフ ロクマ リン型成分 で あ ることを推
〔Ⅰ〕 〔Ⅳ〕 を分離 した涯液 か ら bergapten 〔Ⅴ〕 を, また真空蒸潜 の高沸点部 か ら
palm itic acid 〔
ⅤⅠ
〕 を分離証 明 した。 また鹸化部を酸性 に して得 られ る黄 色沈殿物 は m p. 304-3060 微黄
色細針状 〔
Ⅶ〕 とな り, 一種 の フラボ ン同属体 で あ ることを推定 したO
口) 上記 とは別 に 4 種溶媒 によ り順次抽 出 した シシウ ド根 の各 エキ スを 1 % 瑚砂水溶液 の波紋電気泳動
によ り展開 して 4 種蛍光成分を分離す ることがで き, さ らに これ ら蛍光成分を 1 % 棚砂飽和 ブタノール の
ペーパ ー クロマ トで展開, 二次元 的 に蛮光成 分を分離定性 す る方 法を考案 したO その結果 シシウ ド根 中に
はum belliferone および scopoletin が蛮光成分 と して存在 し, 電気泳動 で陰極 側 に泳動す る紫色成分 は プ
ロクマ リン型 と思 われ る 〔
Ⅳ〕成分 に一致 す ることが推定 で きた。
- ) さ らに ロ) の微 量化学的方法を同属植物 ミヤマ シシウ ド A . M atsum urae Y A BE , アマニ ウ A .edulis
M IY A BE eX . Y A BE , ウ ドモ ドキ A . glabra M A X IN O , ア ンゲ リカ A . archangelica L の 4 種 の根 に応用 し
た ところ, ほ とん ど全 てに um belliferone, scopoletin および 〔
Ⅰ
Ⅴ〕成 分 が存在 し, この三成 分 が シシウ ド
根 に限 らず広 くこの属植物 に分布す ることが推察 され る。
著者 は シシウ ド根主成分 angelical を分離 し 6-form yト7-m ethoxycoum arin で あ ることを推定 したが,
アル デ ヒ ド基 を もつ クマ リンは天然 品 と して これ が最初で あ る。 その後同属 ウ ドモ ドキ根 か らも分離 され
たが, ウ ドモ ドキ根主成分 glabra-1actone は シシウ ド根 中には全 く存在 しない, また微 量化 学的 方 法 に
よ り, いずれ にも um belliferone, scopoletin および 〔
Ⅳ〕成分 の存在 を推定で きた ことな どは植物分類学
者 の問で従 来別種 あ るいは synonym にす るな ど問題 にな った両植物 の関係 にはな はだ興 味 あ ることと考
え る。
論 文 審 査 の 結 果 の 要 旨
セ リ科 の多年生草本 シシウ ド A ngelica pubescens M A X IM , はわが国の本等学者 が 漢 薬 「独活」 の 1 原
植物 に当ててい るものであ るが, 同属 の多 くの ものの化学成分 が研究 されてい るのに, 本種 の ものはまだ
で あ るか ら, その研究を行 な った。
その結果 A ngelcal と命名 した新成分 のほか 7 成分 を得 てその本体 を明かに し, また微量化学的方 法 に
よ って別 に 2 種 の蛮光成分 を推定 し, 同属植物 4 種 中の これ らの蛍光成分 の分布 につ いて研究 したO
乾燥 シシウ ド根 のエーテル ・ エキスか ら石油 エーテル可溶分 を除 き, さ らに 15 % アル コール性水酸化 カ
リウム可溶 の酸性物質 を除 いた ものを鹸化後, 鹸化物を真 空蒸潜 して得 た m p. 256-257oC の昇華性 白色
結 晶が A ngelical と命 名 した ものであ るO 本 品は クマ リン誘導体 で, B tltenandt と Spath が イ ンペ ラ ト
リア根 か ら得 た とい う ostruthin と近似 の もので下式 の構造 を決定 した。
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cc HH 38二
◎(.h)=。
A ngelical
その他 tiglic acid, angelic acid, bergapten, palm itic acid , 1 種の フロクマ リン誘導体 と思 われ る物質お
よび フラボ ン同属体等 を確認 した。
その他蛍光物質を分離定性す ることを考案 し, um belliferone および scopoletin を確 かめ, また電気泳
動で陰極側 に泳動す る紫色成分 はフロクマ リン型 と思われ る成分に一致す ることを推定 した。
この論文 は未研究 の シシウ ド根 の成分を明かに した ものである。
本論文 は, 薬学博士 の学位論文 と して価値 あるもの と認定す る。
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