ス ポ ー ツエ 学 No.3 2008 ア ル ペ ン ス キ ー の 力 学 と最 速 径 路 平 野 陽一 PIlechanics of alpine sk五 ng and quickest descent line during racing Yoichi HIRANO Kッ ″οんな:Sports engineering,Alpine skiing,Mechanics,Optimal control,Oblique cutting,QuiCkest descent line 1 反省 してい る。両者 に理解 可能 な内容 をもつた論文 は じめに 人 間が運動 して ,速 さ,強 さ,美 しさ,巧 み さを の例 として佐 藤 1)が 挙 げ られ る。佐藤 は工学者 であ 定め られ たル ール の もとで楽 しむ ,ま たは競 う活動 り,ア ル ペ ンスキーの 国体 の壮年競技者 で もある (あ をス ポー ツ と定義 で きよ う。その活動 には,人 間 の っ た ?). 本稿 では,最 近 20年 間に発表 されたアル ペ ンスキ みが行 う場合 と人 間 が道具 (運 動用具 )を 使 つて行 う場合 がある。工学者 は ス ポー ツを科学的 に観 察 し ー に関す る工学論文 と筆者 と共 同研究者 (多 田)の そ の運動 を解析 , さらに実験す る ことがで きる.そ 論文 の 内容 を中心 に解説す る。アル ペ ンスキー を工 の成果 に もとづ く工学的判断 に よ り,運 動者 によ り 学研究 の対象 にす る場合 ,直 滑降 と回転滑走が問題 良 い運動 をす るため の助言や よ り高性能 の運動用具 となる.直 滑降 につい ては雪 とス キー板滑走面 との につい ての助言 ができるはず である.運 動 を解析 間 の摩擦係数 とス キー ヤ の空気抵抗 を,回 転滑走 に , , 実験す るには,そ の運動 を上手 にできるまたは少 な つい ては曲線運動 をす るため の求心力 くともよく理解 してい ることが必 須 である.一 般 に 力 に よるものではない)を 中心 にアル ペ ンスキーの 運動者 ,競 技者 は運動 を科学的 に考察できな い と考 力学 を論 じてみ る.さ らに,ア ル ペ ンス キー 競技 に え られ るが ,す ぐれた コー チ ,監 督 は科学的 に理解 お ける最速経路 につい て も論 じる.な お ,本 稿 では 可能 な指示 を出 してい る と思 う.す なわち運動者 の 力学的 に裏付 け られ ていない筆者 の考察 も示す (こ れ は摩擦 . なか には,工 学者 が科学的に理解 可能 な情報 を与 え るこ とがで きる人 がい る.筆 者 は ,2007/2008年 の 2 直滑降 の力学 シーズ ンにアル ペ ンスキー の ワール ドカ ップ レース を何度 もテ レビで観戦 したが ,解 説者 の なかにはそ 2scD D=(1/2)ρ ν Z=(1/2)〃 2sQ\ ノ の解説 ,コ メ ン トが科学的 に十 分納得 できる人 もい た。一方 ,ス ポー ツエ学者 は ,運 動者 ,競 技者 が理 g sin y “ 解 ,納 得 で きる研 究成果 ,考 察 を示す必要がある。 y す なわち,運 動者 と工学者 の 間 の情報交換 を可能 に lnnsbruck,University of Salzburg)と g g cos y “ “ す る必要があろ う.ス キーが 国技 とな つてい るオ ー ス トリア で は ,ス ポ ー ツ 科 学 者 (University of μ g COS y “ 図 1 斜 面上の ス キー板 ・ ス キー ヤ系 にかか る力 ス キー の競技者 が交流す る場 を持 ってい る。また ,ス イ スの 雪 と雪 図 1に 示す 一 定斜度 Fの 斜 面 を考 える。ス キー 崩 の 研 究 所 (Swiss Federal lnsutute for Snow and 板・ス キーヤ 系 の質量 を ″,重 力加速度 を gと す る Avalanche Research(SLF),Davos)で は 6,7人 の メ 系 にかか る外力 は ,重 力 ,空 気力 ,動 摩擦抵抗力 で ンバ よ りなるス ノース ポー ツ とい う部 門を持 つて ある.系 にかか る重力 の斜面 に平行 な成分 は ″gSinク , . ス キー 競技 団体 と交流 してい る.日 本 は ど うか ?筆 である.ス キー 板 と雪 の 間 の動摩擦係数 を μ,系 に 者 は ス キー 競技者 ,競 技団体 に 自ら近 づ かなかった。 かか る空気抵抗 を D,揚 力 を ん とす る.χ 座標 を斜 面下方 向に取 る と運動方程式は次式 となる . 中央 大 学 47 No.3 2008 争 “ y― =電 dn ― D ズ 電 F― ⊃ ① C∝ み 一冴 ス ポー ツエ 学 2scD/2″ =g sin y_ル g cos y_ρ ソ こ [lf, Bア CD ν =多 ,/=g(Sh y― μ COs y),B=パ 上式 のμ,D,Zに つい て以下に述 べ る . 動摩擦係数 μは小 な る場合 には0.02以 下 とな る。動 0 摩擦係数 が小 にな る理 由はColbecr)に よれ ば ,摩 擦融 である。 解 に よる水 の潤 滑 のためで ある.動 摩擦係数 の値 は 雪 の種類・温度 ,ス キー板滑走面 の材質・温度 。荒 さ 。 式 (3)よ り Bが 小 な るほ ど加速度 が大 とな る ことが 硬 さに よ り異 なる わか る.す なわち,SCDの 値 が同 じな らば質量 ″が , . 大 な る方 が良い。初期条件 空気抵枷 と揚力Zは 次式 で与 え られ る . (′ =0で ν=0)で 式(3) を解 くと,次 式 を得 る . ② I舞 ソ =J:::::[│:: (4) 上式 で ,ソ は速度 ,ρ は空気密度 ,Sは ス キーヤの前 面面積 ,の は空気抵抗係数 ,Qは 揚力係数 である →∞とす ると式(5)で 与 えられ る終速度 となる 時刻 ′ . S,CD,Qの . 数値 は ス キー ヤ の滑降姿勢 (posme) に大 き く依存す る.式 (1)で 揚力 ι は gcos yょ り ′ ν=マ И/B “ 小 な ので ,こ れ を無視す る と次式 とな る . パCD/2″ イ 表 1 ス キー ヤ Bと Hの 風洞 実験結果 ⊃ skier ァ 耐 s ″gN s m2 CD Q SCカ B 32.58 814 0.269 0.671 0.191 2.18× 10 3 H 32.64 991 0.331 0.477 0.202 1.56× 10° 0 0 ・ 口 ≧ ︵ ︶ 100 2 4 6 8 10 12 r(S) 図 2 48 区間 300mを 直滑降す るス キー ヤ Bと Hの 滑降時間 No.3 2008 ス ポー ツエ学 ︶と 0 0 ︵〓 1 04 ・ a:/ι =0.03 b:メ ι=0.05 C:メ ι=0・ 07 2 4 6 8 10 12 14 16 ′ (S) 図 3 動摩擦係数 μとス キー ヤ Hの 滑降時間 Luethi&Denoth∋ は スイ スアル ペ ンスキーチー ム 進 してい る場合 の静安定 は ス キー靴取 り付 け位 置 よ の選手 8人 に各人 の 滑降姿勢 (crOuched posi● on)を り後部 のスキー板 よ り得 られ る と筆者 は考 えて い る と らせ て 風 洞 実 験 を行 っ た 。 そ の デ ー タの 一 部 詳 しくはまだ考察 していない H (Skier Bと skicr H)を 表 1に 示す 。スキーヤ Bと が斜度 15度 ,区 間 300mの 斜面 を,初 速度=0の 初 期条件 (′ =0で χ=0,ソ =0)で 直滑降す る場合 の計 . . 次 に,ス キー板 の長 さについ て考察 してお く.競 技者 と一 般 ス キー ヤが現在使 用 して い る板 の長 さは 20年 前 よ り300111mは 短 い .ス 算 に よれ ば ,約 17秒 の 滑走時間 で約 0.3秒 の大差 と が柔 らか い 雪 の上 に立 つ と,系 は表面 よ り沈む .板 なる.0.3秒 はアル ペ ンスキー 競技 では大 差 である の面積 が小 なるほ ど沈む深 さは大である。柔 らか い ただ し,空 気密度 ρ=1.22 kg/m3,動 摩擦係数 μ=0.05 雪 の上 を滑走す る と,系 は摩擦抵抗力 と板 トップ の シ ャベ ル (shovel)部 分 の 除雪抵抗力 を受 け る.沈 . として い る.図 2に 時亥1を 横軸 に距離 を縦軸 に, と Hが 300m滑 走す る状況 を示す 。また Hの デ ー タによれ ば,式 (1)中 の L=43.5N,74gcOs特 957Nと な り,前 述 の よ うに揚力 Zは 無視す る こと がで きる.図 3に ,Hの デ ー タに よ り動摩擦係数 って ,Bと , , キー板 ・ス キー ヤ系 む深 さが大 なるほ ど除雪抵抗 は大であ る。現在 の競 技斜 面 は硬 い雪 な ので ,大 きな除雪抵抗 を受 けない . そ のた め競技用 ス キー板 の長 さは ,競 技種 目に応 じ て選 手が選択 してい るもの と思 う。一般 スキー ヤ の μ=0.03,0.05,007と した場合 の 区間 300mの 滑走 時間 を比較 して示す .参 考 までに ス キー ヤ の空気抵 滑 る斜 面 も近年 は圧雪 (グ ルー ミング)さ れ てい る 抗 に関す る Bardle et」 .つ の論文 を文献 リス トに示 し ときは少 し長 い ,幅 広い板 を使 うと思 う。 ので長 いスキー板 は不必要である.た だ ,深 い 雪 の 最後 にプ レジ ャ ンプについて考察す る.斜 面 の斜 てお く . なお ,少 な くとも 30年 以 上前 のアル ペ ンス キー板 度 が小 か ら大 に変化す る地点では ,ス キー ヤは 自然 の滑走面 には長 さ方 向に一本溝 が付 け られ ていた。 にジャ ンプ して しま う.プ レジ ャ ンプ は変化地点 の この溝 は,滑 走方 向 の安定 の ため と言 われて い た 手前 で ス キー ヤが上方 に跳び上が って ,そ の地 点 を . しか し,現 在 の板 には この溝 はない し,ジ ャ ンプの 飛 び越 える技術 である.筆 者 の重力成分 のみ を考慮 板 に もな い。では ,方 向を一 定 に保持す る とい う静 したある条件下 での粗 い試算 (0.01秒 の精度 はない) 安定は どの よ うに して得 られ るのだろ うか。静安定 では ,両 者 にタイ ム差 がない よ うである.プ レジ ャ は,航 空機 では垂 直尾翼 で ,矢 では後部 の羽根 で得 ンプはスキー ヤ の空 中 と着地時 の 姿勢保持 のためで られ る.ス キー 板 を角付 けせず に,平 踏み に して直 は との意見 をか って もらつた ことがあ る . 49 ス ポー ツエ 学 3 No3 2008 わた リアル ペ ンスキー 界 で活躍 した ス ウエ ー デ ンの 回転滑走の力学 3.1 アル ペ ンスキー 板 の形 状 ステ ンマル ク (Ingemar stenmark)が 初期 に使用 して アル ペ ンス キー 板 の平面形状 の一 例 を図 4に 示す . い た ス キー板 には現在 の よ うなサイ ドカ ッ トが付 い ていな い .彼 は回転滑走時に ス キー板 をたわませ て , サイ ドカ ッ トと同 じ効果 を作 り出 していた と考 え ら れ る.映 像 を見 る と,彼 は回転滑走時 に ス キー板 の 角付 け角 を大き く して ,板 をたわませ てい る 角付 図 4 カ ー ビン グス キー板 の一 例 け角 を大 に した方 が板 をたわませやす い。 サイ ドカ ッ トとス キー板 のた わみ の効果 を利用す る回転滑走 10年 くらい前 か ら図に示 した よ うな平面形状 (上 面 法 をカー ビン グター ン (can7ed tllm,carving turn)と と下面 )を もつ カー ビン グス キー 板 (carving ski)が 呼んで い る.こ の効果 を使 わない ター ンを ス キ ッ ド 市販 され るよ うにな つた .板 幅は シ ョル ダ (shOulder), ター ン (skidding tum)と い う.Lieu&Mote5)に よる ウェス ト (waist),テ ール (heel)で 異 な り,ウ ェス caⅣ ingと skiddingの 定義 は以下 の よ うである トで最小 とな つ てい る。 この形状 を円弧で近似 して ト (Jde cut)が 大 と呼んでい る。競技 ス キーの場合 あω ′θ′θ r/2θ s″ οw グル `Sわ "′ S"ζ 力ε arrヵ ′ わ17S′ ″θ α ι たθ α′ θ グ″ ″ おθ グ `ろ `Sわ “ “ し ″ 77g rarrη「滋 Sわθ な′ た s“ οw s"ζ ヵι θθ ツ θ ′ θ 4ソ l19カ θ には,選 手が選択す るス キー板 の 円弧半径 が種 目に αわ77gブ ぉθ ttC'' 半径 (radus)と 呼び ,半 径 が小の場合 はサイ ドカ ッ よ り異 なる.FIS(Intemational Ski Fcdcration)で は “ Cα ″777g . r′ rtr″ r′ α `sわ `ν , “Speciflcations for Competition Equipment and Commerdd Marttngs 2007/2008"で 選手 の安全 と公平 のため に滑降 (downhnl),回 転 (da10m),大 回転 (giant slJom),ス ーパ ー 大回転 (super C)の 各種 目に対 し (a)Curvilinctt motion 板 の最小半径 を規定 してい る.こ の規定は ス キー板 後部 の サイ ドカ ッ トが大 きい と,回 転滑走 中に角付 け した後部 エ ッヂが逆 エ ッジ とな るの を防 ぐためで はな いか と思 う.ま た ,板 の長 さ (展 開長 さ)の 最 小値 も規 定 してい る。 ス キー板 を平面上 にお くと (b)rOtatiOn , シ ョル ダ とテ ール は接地す るが ,他 の部分 は接地 し 図 5 系 の質量 中心 回 りの 回転 と系 の 曲線運動 ていない .こ れ をア ー チベ ン ドと称す るが ,人 間 が 板 の上 に乗 る と,板 の弾性変形 に よ リ トップ以外 の カー ビン グター ンで は ,ス キー板前部 エ ッヂで雪 滑走面は接地す る。 ス キー 板 は積層 され た変断面の 面 を削 つて溝 を作 り,板 後部 はその溝 にはまって回 は りとして取 り扱 えるので,そ の長軸方 向 の 曲げ剛 転滑走す る と筆者 も考 えて い る.た だ し,こ れ を実 性分布 ,ね じり剛性分布 は材料特性 よ り計 算 で きる 現す るには複雑 な条件 を満足す る必要がある.実 現 また ,ス キー板 が与 え られれ ば実験で両剛性 分布 を できる と,雪 面 を削 る抵抗 が小 となるために ス キ ッ 求め る ことがで きる ドター ン よ り高速 で 回転滑走 できる.な お ,ス キー . . では,サ イ ドカ ッ トはなぜ付 け られ るよ うにな っ 板 がまった く雪面 を削 らない場合 は求心力 が得 られ たのだ ろ うか ?ス キ ー 板・ス キ ー ヤ系が回転 滑走す ないので ,回 転滑走す る こ とはで きない .で きる場 る時には ,図 5o,(b)に 示す よ うに系 の公転 (質 量 合 は ,前 に滑つた競技者 が作 っ た溝 に ス キー板 をは 中心の平面運動)と 自転 (系 の質量 中心周 りの回転 ) めて回転滑走す る場合 である.溝 を滑 るのは難 しい を伴 う.系 が 回転滑走す るには,速 度方 向に直交方 と思 うが (回 転競技 の ときの溝 は滑れ るの ではない 向 の求心力が必要である.1973∼ 1989年 の長期 間に か と思 うが),で きれ ば高速 とな る と筆者 は考 えてい 50 ス ポー ツエ 学 No.3 2008 る.で は,な ぜ カ ー ビン グター ンは高速 な のか を つた座標 である。また ,同 図は ス キー板 ・ス キー ヤ 以下で考 えてみ る。 系 が 山回 リター ン を してい る状 態 を表 してい る 3.2 回転滑走 のための求心力 雪 あるい は雪面 の特性 は,ス キー板 の 滑走特性 と 図 7(a),(b)は それ ぞれ斜面上 にあるス キー 板 の上 面 図 ,断 面図 を表 してい る.図 7で /は 速度 ベ ク トル 密接 に 関係 して い る.雪 の温度 ,密 度 ,含 水率 ,結 χ'は ス キー板長軸方 向座標 である./と χ'が は さむ 晶 の種類 ,硬 さ,せ ん断強 度等 が ス キー板 の動摩擦 角 を迎 え角 と呼ぶ こととし,こ れ を γで表す .速 度 係数 ,切 削性 と関係 してい る と考 え られ るが ,複 雑 ベ ク トル に直交す る Frが 求心力 となる.同 図 で α な現象 なため解 明が極 めて困難 である.回 転滑走 が は角付 け角 を,売 は切 削深 さを表 して い る。 , . , 力学的に可能 になるのは,ス キー板 ・ス キーヤ 系 が 求心力 を雪面 よ り受 けるか らである.し ま り雪やア ル ペ ンスキー 競技 の硬 い 雪面 の場合 には,求 心力は ス キー 板 が雪面 を切削す ることに よ り生 じる.切 削 力 の反力 が切削抵抗 で ,こ れ が 系 の求心力 とな る . 粉雪 ,ざ らめ雪 の場合 には,切 削 ではな く例 えば噴 流現象 を考 える必要がある . 3.2.1 切削抵抗 Snow i χ (al TOp vicw Φ )CrOSS SCCtiOn(A‐ 対 vicヽ V (O Ski atack atlc/alld s「 tcm vC10City/ SCC10■ Of a ski wltll ctting an」 c Φ )CrOSS ⇒ 図 7 α On a snow stllfaCC 角付 け角 αで 雪 面 を削 るス キ ー 板 vclocity dllcction 図 6 サイ ドカ ッ トあ るい はた わみ を模 した 板 と迎 え角 Nomal No...Lal 真 直 ぐな細長 い板 と中央付近 B点 で折れ 曲が つた 同 じ長 さの細長 い板 を角付 け角 90° で 雪面 に立て , これ である速度で雪面 を削 る (切 削す る)こ とを考 える.図 6に 示す よ うに,真 直 ぐな板 では ,板 の長 さ方 向 と速度方 向をは さむ角 γは全長 にわた リー 定 である。 しか し,サ イ ドカ ッ トあるい はたわんだ ス キー 板 を模 した折れ 曲が つた板 は ,前 部 の角 ηと後 部 の角 ルの値 は異 な る。この事実 がカー ビン グター ンを可能 にす る。また ,ス キ ッ ドター ンの場合 で も この事実 の ために回転滑走が容易 になる . ``切 削抵抗 "は 旋盤 のバ イ トや フ ライ ス盤 のカ ッタ ー を取 り扱 う切 削加 工学 の用語 である.刃 物 で木材 や金属 を削 る時に切 削力が必要 であるが ,こ の力 の 反力 が切 削抵抗力である.図 7に 示すサイ ドカ ッ ト の な いス キー板 1本 を考 え,こ れ が雪面 を角付 け角 αで削つてい る状態 を考 える.同 図 の χ座 標 と ッ座 標 はそれ ぞれ斜 面 上の最大傾斜方 向 と水平方 向に と (a)OrthOgOnal (b)Oblique 図 8 刃物 に よる 2次 元切 削 と傾斜切 削 図 8(a),(b)は カ ツターが加 工物 を削 つてい る状態 を表 してい る.(a)は 2次 元切 削 ,(b)は 傾斜切 肖」と 呼ばれ てい る.2次 元切 削 の場合 の切 削抵抗力 は加 工方 向 (運 動方 向)の 逆方 向 の力 ら '(抵 抗 となる) と垂直方 向上向きの力 F/'で ある.こ れ に対 し傾斜 切削 では F/ヵ F/の 他 に速度方 向 の直交方 向 の力 乃 ス ポー ツエ 学 No.3 2008 *と 率 乃 はそれぞれ速度方 向 の逆方 向 と直 が生 じてい る。 これ が 回転滑走 を可能 にす る求心力 ここで ,ら とな る と Hirano&Tadaの は論 じてい る.図 9(a),(b) 交方 向 の板単位長 さ当た りの力 である。直交方 向 の はす くい角 示 してい る.ス キー板 が雪面 を切 削 してい る状態 は 力は迎角 γが 45° の とき最大 とな り,0° と 90° の とき ネ は 0と なる。また ,角 付 け角 αが 0° の とき ら と F7ホ <0)で ある。図 7の ス キー板 の 角付 け角 負 の場合 (α ″ は 0で あるが ,90° の ときは無限大 となる αとす くい角 αnと の 間 には α=π /2+α nな る関係 があ 直方 向 の力 の釣 り合 い を考 えた ときに生 じた). が正 の場合 (rrake an」 e)α ″ る。なお ,α と負 の場合 を =0の 場合 は角付 け しない滑走 となる (こ れ は垂 . Cum鴫 d■ ection レIetal (a)POSitiVc rakc alttlc(γ η>0) 図 10 CllttilE dleclon 一 斜 面 上 を回転 滑走す る (山 回 リター ン をす る)系 図 10に 示す斜 面 上の 系 (ス キー板 一 本 とす る)が 切削抵抗力 を受 ける ときの 回転滑走 の運動方程式 は 次式 となる.同 図は山回 リター ン を して い る状態 を Φ)NcgatiК rake al181e(%2<0) 示 してい る。 ここで ,β は水 平方 向座標 ッ とス キー 図 9 刃物 のす くい角 α″の正 と負 板長軸 とのなす角 である.た だ し,考 えて い る回転 滑走 は ス キ ッ ドター ンで ,求 心力 はす べ て ス キ ッデ 3.2.2 回転滑走の運動方程式 イ ングに よるもので ある . Tada&HiranoDは しま り雪 の傾斜切 削実験 を行 い , 直交 3方 向 の切 削抵抗力 の実験式 を求 めた。 この実 験式 は迎 え角 7,角 付 け角 α,切 削深 さ そ の 関数 で あ る.さ らに,ス キー板 ・ ス キー ヤ系が雪面上 にある 場合 の切 削深 さを,系 にかか る重力 ,雪 の特性 ,切 削抵抗力 の垂 直成分 の釣 り合 い を考慮 して ,あ る条 件 の もとで求 めた。切 削深 さは角付 け角 の 関数 であ るが ,数 値計算結果 は図で示 され てい る。そ こで , Hirano鋤 は この切 削深 さに も とづ く抵抗 力 を次式 で 近似 した。 777(グ 2χ /∂ 2)=_Rr COSβ ―Rz ン Sinβ 十 g sin 2)=Rr Sinβ ―Rι 777(σ /冴 COSβ 2β 2)=_RcF′ I(グ /訪 F+R叡 ′R 2ッ “ Ψ (7) 上式で Rtt Rzは 系 の速度 と直交方 向,逆 方 向 の切 削 抵抗力である 第 3式 は質 量 中心回 りの回転 の運動 方程式 で ,Iは 系 の慣性 モー メン トで あ る.RcFと R飲 は系 の質量 中心 よ り前部 と後部の ス キー 板長 軸 に直交方 向 の切 削抵抗力 の合力 で ,7Fと なは合力 の 作用点 と質量 中心 との間 の長 さである.ま た ,第 *=500 sin/tan F″ α Fr*=278 sin(2/)tan α 52 N/m N/m (6) 式 よ リス キー後部 の切削抵抗力 R"は 系 の 自転 3 (プ 方 向 の)を 妨 げ る作用 をもつ .も し板後部 にサイ ド ス ポ ー ツエ 学 No3 2008 カ ッ トがある とこの作用 は小 となる (回 転 しやす く がたわんで ,円 弧 にフィ ッ トす るに必要 な力 とす る な る).こ の運動方程式 は斜面上 の平面運動 を表現 し この運動 を持続す るために外部か ら推進力 を必要 と てお り,ス キー ヤ の質量 と板上 の位置 は考慮 され て す る.こ の 問題 を,運 動方程式 とス キー板 の 曲げ と い るが ,姿 勢 と動 きは含 まれ ていない。上 の微分方 ね じりの 弾性方程 式 を連立 させ て解 く.外 部推進力 程式 に もとづ き回転滑走 のシ ミュ レー シ ョン を行 つ が小 な らば ,実 際 のスキーの 回転滑走時 の抵抗 が小 イ ン)を 求 めた .ス キー ヤ の と考 える.ス キ ッデイ ングカ は氷 の 2次 元切 削抵抗 板 上の位 置 ,サ イ ドカ ッ トの大 き さ等が回転滑走 の の 実験値 に雪 に対 す る補 正 係 数 をか けた もの とす 回転 半径 に及 ぼす影響 を シ ミュ レー シ ョンで 明 らか る.』 に した。例 えば ,質 量 中心 (締 め具の位 置)が 板後 で きるが ,各 種条件 と特性 値 が不正確 な問題 に複雑 部 にある場合やサイ ドカ ッ トがある場合は 自転 しや 極 ま りな い解析手法 を適用す るこ とに意味がある と す く,そ の ため回転滑走 の 回転半径 が小 となる (小 は考 え られ な い。 また ,筆 者 は得 られた計算結果 を 回 りが しやすい )こ とがわかつた。なお ,締 め具 の ど う角翠釈 して よいのか わか らな い .Federolf et al.1の 位置 が後部 の方が回転滑走 しやすいが ,あ ま り後部 だ と後部 へ の転任」と方 向不安 定 の危険性 がある。 は雪面でカ ー ビン グター ン を行 つてい る ときの ス キ ー板 に雪面 よ りかか る力 を実際に没1定 した。そ して 3.2.3 ス キ ッ ドター ンとカー ビングター ン 沢1定 した力 を受 けるス キー板 の弾性変形 を有 限要素 て ,斜 面上 の軌跡 (ラ ス キ ッ ドター ンで は,ス キー 板全長 にわた るエ ッ . この論文 で切 削抵抗 を考 えて い ることは評価 , ヂ の角付 けによる雪 の切 削抵抗力 3成 分 の うち速度 (FEM)で 計算 し,シ ミュ レー シ ョンに よ り回転 滑走 の軌跡 (ラ イ ン)を 求 め,実 際 の ライ ン と比 較 に直交す る成分 が 回転滑走 のた めの求心力 となる してい る 法 . . 速度 と反対方 向 の成分 は抵抗力 (減 速効果 を持 つ ) とな る。では,カ ー ビン グター ンで は ど うな ってい るので あろ うか .理 想的な カ ー ビングター ンで は締 め具位 置 よ り前部 の板 のエ ッヂは雪 を切 削す るが 4 アル ペ ンスキー 競技 と最適制御 まず ,図 11に 示 す 最速 降下線 (brachistochrone traectory;brachistochrOneは ギ リシ ャ語 で最短時間 の , 後部 の板 は前部が削 つた溝 にはま つて雪 を切 削 しな 意 )に つい て説 明す る。同図で,χ 座標 は鉛直下方 い .前 部 のエ ッヂは傾斜切 肖Jに よ り求心力 を受 ける 向に,ァ 座標 は水平方 向に とられてい る。 したが つ 後部 は ど うか .後 部 の板 はあ る曲率半径 をもつて敷 て χッ 平面は鉛直面 内にある。A点 と B点 を結ぶ摩 かれ た摩擦 0の レール に沿 つて物体 が 滑 る現象 と類 擦 の な い径路 を質量 ″の物体 が重力の作用 の み で移 似 してい る と考 え られ る。物体 は レール よ り求心力 動す る とす る。最 短時間で B点 に到達 で きる径路 が を受 けるが ,摩 擦 がない としてい るので速度 と反対 最速 降下線 である.A′点と B点 を結ぶ直線 が最速 で 方 向には力 を受 けな い .す なわ ちス キー 板後部 は抵 はない .こ の 問題 は変分問題 として解 けるが ,図 中 抗力 を受 けな い .以 上がカー ビン グター ンがスキ ッ に示 した ノ軸 と径路 の接線 との なす角 γを最適 に制 ドター ンよ り高速 となる理 由である と筆者 は考 えて 御 して ,最 短時間 とな る径路 を求 めることもで きる い るが ,解 析 は行 つてい ない つ ま り最適制御 問題 と考 える.B点 が χ=10m,y=15.7 . . Rcnshaw&Mote"は カー ビン グター ンに関す る論 文 を発表 してい るが ,内 容 は難 解 である.そ の骨子 mの 場合 ,最 速降下線 による時間は 2.24sで あるが . , A点 とB点 を直線 でつ ないだ経路では 266sで ある . (!)す る.『 1本 のス アル ペ ンスキー 競技 では,斜 面 にセ ッ トされ た多 キー 板 を考 え, これ が水 平面 上の一定 半径 の 円弧 に 数 の旗 門 を通過 して ス ター ト地点か らゴール 地点 ま 沿 つて一 定 の速 さで動 くとす る.動 くにあた り,ス での最短時間を競 う.ど の よ うな径路 キー 板 の ある位置 よ り前方 は雪 を切削す る ことによ を とれ ば最 短時間で ゴール できるかは競技で重要 な るス キ ッデイ ングカ を受 けるが ,後 方 は ス キ ッデイ 課題 であ る.Hirallo81は この 問題 を最適市1御 問題 と ン グカ とカー ビン グカの両者 をある割合 (位 置 によ して取 り扱 った .制 御変数 は角付 け角 αで ,時 間 の り異 なる)で 受 ける.こ の カ ー ビン グカ は ス キー板 関数 である.ス キー板 の角付 け角 は ス キー ヤが制御 は以下 の通 りか と筆者 は推定 (ラ イ ン どり) スポー ツエ 学 No.3 2008 1■ 8 10 12 14 16 y(m) И 8 10 χ (m) 図 H 最速降下線 (brachistochrOne) 可能 であ る.最 小 に したい 目的関数 は ス ター トか ら ゴール す るまで の 時間である。また ,状 態変数 はス , 速度 ,角 速度で ,い ずれ も時間 の 関数 である.最 適制御理論 には ,変 分法 にも とづ く間接法 と変数 を 離 散化 して 数理 計画 法 を適 用す る直接 法 が あ る . κ alld l,on a skl slope br dowllllill tum. “ m m キー 板・ス キー ヤ系 の位 置 ,ス キー板 とノ軸 との角 (→ Initial valucs for state vttiablcs 0 10 20 30 40 50 00 70 筆者 は本 問題 の制御変数 と状態変数 の 両者 を離散化 して ,数 理計画法 に よ り解 い た。一 例 として ,2旗 門を通 る谷 回 リス キ ッデイ ングター ンの場合 の数値 計算結果 を図 12に 示す .χ =44m,万 56mの 地点で ある初期値 (速 度等 )を 持 つてい るとした計算 であ る.図 12(a)は 反復計算 の 出発値 で ,χ 軸 ,ノ 軸 はそ れぞれ斜 面 の最大傾斜 方向,水 平方 向に取 つた座標 110 である.図 12(b)は 計算 された最適 ライ ンで あ る。な お斜面 は平坦で斜度 ンで は第 2旗 門ま で 15° としてい る.出 発値 の ライ H.7sで あ るが,計 算 され た最 適 ライ ンで は 915sで ある。多数 の旗 門を通過す る o)Rcsultant quickcst dcscent lincお r downhill tllm. 図 12 スキッデイングによる谷回 リターンの最速 径路 助 最適 ライ ンの数値計算 を収束 させ る ことは い まの と ころ困難 である.こ の程度 の計算では とて も競技 に てい る。 しか し,運 動方程式 の外力は何 かの記述す 役 に立 つ と筆者 は思 つてい な いが ,最 速 の ライ ンを らな く,詳 細 は不明である.筆 者 の最適制御 の方法 見つ ける可能性 を示せ た と考 えてい る。また ,旗 門 と斜 面 の電子情報 とを組み合 わせれ ば,将 来実際に と旗 門 の 間を直線 的なライ ンで 滑れ ば よいのではな 役 立つ シ ステ ム が作れ るので はな いか と思 う。 い ことを理 解す る一 助 に もなる . 数旗 門セ ッ トされ た コース を異 な つた ライ ンで滑 Sdtiz&Mesterl)は 斜 面 の形状 を 3次 元 の電子情 走すれ ば ,ラ イ ン ど りに よ り滑走時間に大差が出る 報 として取 り込み ,系 の運動方程式 を解 いて最適 ラ ことを競技者 は実感 で きるはず である.ま た ,実 際 イ ン を求 めた としてい る.解 法は遺伝 的 アル ゴ リズ の競技で もライ ン ど りによ り滑走時間が ど う異 なる (GA)で ,問 題 を記述す るに必要 な複数 のパ ラメ タを染色 体 の遺伝子 としてい る.こ の手法 を ワール か ,観 察 して い るはずである。 ム ドカ ップ レース に適用 し,競 技者 の ライ ン と比較 し 54 ス ポー ツエ 学 5 おわ りに 7)Tada,N.&Hirano,Y,In search ofthe mechanics of a 本稿 でアル ペ ンス キーの力学 につい て解説 したが , ス キー ヤ の 内傾 姿勢 (回 転弧 の 内に体 を傾 ける),外 向姿勢 (ス No.3 2008 tuming alpine ski using snow cutting force measurements,sり ο″お Engttθ θ″ブ 4g,5,2002,pp.15-22 キー板長軸 に対 し上 半身 をひね って 回転 8)HiranO,Y,Quickest descent line during alpine ski 弧外 向きに両肩 を結ぶ線 を向ける)に つい ては論ず racing,シ ο″な E72gブ ′θθ″ブ ηg,9,2006,pp.221-228 ることができなか った。 これ は人 間 の 姿勢 ・ 動作 に 9)Renshaw.A.A.&Mote,C.Dっ つい ての筆者 の考察能力 が足 りな いた めである。例 tuming sno、 v ski,Iη ′ 77α 77′ θ .jこ 1%診 θ α′S6げ θ4θ θ,31, 1989, えば ,外 向姿勢 は硬 い 雪 の ときには有効 であるが pp.721-736 深 い粉雪 の ときには少 し内 向姿勢 (あ , るい は振 り込 J■ ,A model for tlle 10)Federolt R et al.,Finite element simulation of む動 作 )を とる と思 うが , これ がなぜ だかわか らな carving い。 さらに内傾 姿勢 で回転滑走 中に角付 け したエ ッ PЮ ιθθ沸 ジが 雪面 に食 い込 めず ,回 転弧 内側 に転任1す る条件 Cb′ υ ●″″ε θfr につ い て もわか らな い。 なお ,ス キー 技術指導者 の skis gs “ COη ク rθ sι and their グ r/7ι interaction ブ `″ `θ snolv9 乃 門′J77た ″ α′ ゴ ο4α ノ 乃 渚ブ 辱 α ″′ 。 ″ &5腸 `レ 、 vith Cb″ υ ●″′ グソ s― S`ε ′ ブ ο″ `ι ブ ηsン 0″ ′ ,2004, pp.51-55 よく使 う荷重 ,抜 重 とい う用語 は筆者 には意味不明 11)Seifriz,F.&MesteL J.,Meastlrement and computer である sillnulation oftrttectO五 es in alpine sk五 ng,ノ ″S6′ θ 726ι ar2グ . 筆者 は 10数 年 にわた リアルペ ンスキーの力学 に つい て研究 してきたが ,今 回 ,機 関誌 「ス ポ ー ツエ た ことに謝意 を表す る.ま た ,本 稿作成 に助力 を得 た小 島茜 さんに謝意 を表す る . 文献 , ス ポ ー ツエ学 (JSEA機 関誌 ),2,2007,pp.7-10 2)ColbeCk,S.C.,A review of the friction of snow ski, Jグ 母 ,θ ′お SC・ た′εω ,12,1994,pp.285-295 3)Luetlli, S.M.& Denoth, J., The influence of aerodynanlic and anthropometric factors on speed in skiing, ル ム J pp.345-352 の′ 身,ο ″′B′ θ θ αれたs, 3, 1987, “ `力 4)Barelle, c.et al., Experimental model of the aerodynamic drag coefflcicnt in alpine skiing,J 初 グ ′ たノβブ ο″θθ力α′ノ ιs,20,2004,pp.167-176 5)Lieu,D.K.&Mote,C.D.,J■ ,Mechanics of the tunling sno、 v ski, in Sk五 ng Trauma and Safeじ Fitth lntemational Sylnposium, ASTM STP 860, 1985, pp.117… 140 6)HiranO,M and Tada,N,Numerical simulation of a turning alpine ski during recreational skiing, α″グ Sc・ ノ 滋 `776` pp.1209-1213 崚 ι ″θ 力ε′ シ 0′ お α′グ 五レθκなι, 28, 1996, (edS MulleL E.et al),2000,Verlag D■ pp.155-164 学」 に トピ ックス記事 を書 く機 会 を与 えていただい 1)佐 藤文宣,ス キー 技術 を変 えたカー ビン グス キー S々″77g〃 Kovac,
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