1.はじめに 大阪大学大学院人間科学研究科 教授 中村安秀 (第 3 版) エイズ(AIDS: Acquired Immunodeficiency Syndrome:後天性免疫不全症候群)は、HIV (Human Immunodeficiency Virus:ヒト免疫不全ウイルス)の感染により、比較的長い潜伏 期間を経て発症する免疫不全症候群をいいます。 1981 年にアメリカ合衆国で初めてのエイズ患者が報告され、その後、全世界に急速に感 染が拡大しました。国連合同エイズ計画(以下 UNAIDS)の発表(2014 年)によると、2013 年における世界の HIV 陽性者(people living with HIV)の数は 3,500 万人、HIV 新規感染者 数は 210 万人、エイズによる死亡者数は 150 万人といわれています。そして、抗レトロウ イルス剤による治療(Anti-Retroviral Therapy:ART)を受けている HIV 陽性者は、1,290 万人 にのぼると推定されています。 1996 年に多剤併用療法が確立し、エイズ治療は新たな段階に入りました。しかし、多く の途上国での HIV 感染状況はますます深刻になり、 2000 年の沖縄・九州サミットにおいて、 エイズをはじめとする感染症問題が重要課題として取り上げられ、2001 年には国連エイズ 特 別 総 会 が開 催 さ れまし た 。 2002 年 に発 表 され た ミ レ ニア ム 開 発目標 ( Millennium Development Goals:以下 MDGs)では、8 つの目標のひとつとして「エイズ、マラリア、そ の他の疾病との戦い」が取り上げられ、02 年に「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(以 下 GF)」が設置されました。 このような世界の潮流のなかで、エイズに関する国際協力の一環として、青年海外協力 隊では「エイズ対策隊員」という新たな職種を設け、2003 年に募集を開始しました。現在 では、 「感染症・エイズ対策」という職種で募集しています。エイズ対策においてはさまざ まなアプローチが可能で、保健医療の資格をもたない文系の人たちが活動できる場も数多 くあります。 「エイズ対策入門」は、HIV/エイズと関連する分野での国際協力活動を志す人を対象と して、2007 年にホームページ上にアップされました。 「エイズ対策支援委員会」が中心となっ て編集作業を行い、青年海外協力隊の「エイズ対策」を受験する人にとって勉強するため の教材として活用されました。また、文系のバックグランドをもつ方々にとっての基本的 な勉強資料として、あるいはアフリカなどで HIV/エイズ分野で活動する NGO の方々には恰 好の入門書として好評をいただいていました。その後、HIV/エイズに対する新しい知見を 取り入れ、できるだけ最新の情報を提供するために、MDGs の終了年にあたる 2015 年に、 「エイズ対策入門改訂版」を作成し、ホームページ上にアップすることになりました。 エイズ対策を考えるとき、感染症としてのエイズ、社会問題としてのエイズ、国際協力 のなかでのエイズという異なる側面をバランスよく理解しておくことが大切だと思います。 この「エイズ対策入門改訂版」は、エイズという国際社会の巨大な課題をバランスよくま とめた入門書をめざしています。取り上げた課題は多岐にわたります。日本国内と世界各 地の状況、統計と歴史、ウイルス学の基礎から臨床医学、地域社会やジェンダー・人権、 母子感染や安全な血液供給を含む予防対策、カウンセリングやピア・エデュケーション、 1 エイズ遺児やハーム・リダクション、ソーシャル・マーケティングなどなど。 多彩な執筆陣の方々に参加していただき、HIV/エイズに関してこれだけ網羅的に取り上 げた日本語による入門書は類書を見ないのではないかと、密やかに自負しています。ホー ムページ上での公開を前提として企画しているので、ひとつの項目がひとつの読み物とな るように構成されています。従って、全体としてみると、年号の記述も統一しておらず、 記述が重複している部分もあります。ひとりひとりの執筆者のメッセージ性を重視したこ とを、くみ取っていただけると幸いです。この「エイズ対策入門改訂版」を入り口として、 多くの方々が現場での経験を積んで、もっと奥行きの深いものにしていただけると幸いで す。 なお、 「エイズ対策入門改訂版」の内容については、最善を尽くしたつもりですが、誤植 や追加修正、あるいはコメントなどがありましたら、遠慮なく青年海外協力隊事務局まで ご連絡ください。読者の方々と一緒になって、より充実した内容に更新していきたいと考 えています。 最後になりましたが、 「エイズ対策入門改訂版」の企画・編集にあたっては、国際協力機 構青年海外協力隊事務局の上田直子課長をはじめ多くの方々の献身的な努力のおかげで、よ うやく形が整いました。編集担当として活躍いただいた垣本和宏さんの迅速な仕事ぶりと ともに、お忙しいなかご執筆いただいたすべての方々に、この場をお借りして厚く感謝申 しあげます。 ≪連絡先≫ 独立行政法人国際協力機構青年海外協力隊事務局 〒102-8012 東京都千代田区二番町 5-25 TEL: 03-5226-9816 二番町センタービル FAX: 03-5226-6379 海外業務調整課 Email: [email protected] ※執筆者の所属先について 第 2 版(原稿の修正、加筆なし) :執筆当時のままの所属先で記載 (4.①、4.③、5.③、5.④、6.④、6.⑧、6.⑨、6.⑩、6.⑪、6.⑫) 第 3 版(原稿の修正、加筆あり) :現在の所属先で記載 (1.~3.、4.②、5.①、5.②、5.③追記、6.①~6.③、6.④追記、6.⑤~6.⑦、7.) 2
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