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自由論題2「東・東南アジアの経済」
報告3
朴根好(静岡大学)
「韓国の輸出指向工業化とベトナム戦争-韓米外交機密文書が語る『隠された真実』―」
韓国経済は1960年代より輸出指向工業化を成し遂げ、NICSあるいはNIESとして注目を
浴び、今や先進国の仲間入りを果たしている。そのため韓国は輸出指向開発戦略の典型と
して描き出され、発展途上国のモデル・ケースとして論じられてきたものが多かった。し
かし、最近の一般的傾向として政府の輸出政策が韓国の輸出指向工業化に貢献したと評価
する場合が多いように見受けられるが、そうした評価には疑問がある。
韓国の場合、基礎研究のない政策の評価など砂上の楼閣すぎず、政策の有効性は果たし
て合理性をもっていたのであろうか。というのも、政策の有効性を説明するためには、最
も基本的な分析方法としてフィット&ギャップ分析は欠かせないが、朴正熙政権下では輸
出計画などが機密扱いになっていたこともあり、経済政策関連の各種資料などが「ブラッ
クボックス」であったがために、基礎研究が出来ずにいたからである。
このような現状を鑑み、近年公開された朴正熙大統領記録物「第一次三カ年輸出計画(65
~67)」などを用いてフィット&ギャップ分析を試みたが、輸出実績と政府の輸出方針と
の間には大きな乖離が生じており、当時の輸出政策が有効的であったとは言い難い。すな
わち、韓国の輸出計画の帰結をオリンピック競技に例えるとすれば、韓国政府が特技のテ
コンド、レスリング、柔道、アーチェリーなどの分野から金メダルを期待し、これらの種
目に対して重点的な育成強化策を実施したものの、結果は、重点育成強化の種目からは金
メダルを獲得できず、サッカーや陸上競技、水泳、馬術などといった「想定外の種目」で
金メダルを獲得していたからである。一言でいうと「政策なき輸出成長」なのであろう。
なぜ韓国で「政策なき輸出成長」現象が起こったのか、朴正熙大統領記録物や米国家安
全保障会議文書などを踏まえながら、その背景を考察することにしたい。