生物材料機能学分野 - 農学部 大学院生物資源環境科学府 大学院農学

地球森林科学コース
生物材料機能学分野
◉人と地球環境に優しい森林資源の高度利用をめざす
生物材料機能学分野では,バイオマス(生物資源)の9割が木質資源であることから,主としてその物理的,
化学的,生物工学的変換によって地球環境の保全とバイオマスの高度利用の途を拓こうとしています。最近で
は,ナノテクノロジー,分子生物学を中心とする先端テクノロジーを駆使して,新規機能性生物材料の開発にも
取り組んでいます。
卒業生の
活動の分野
卒業生の 80%程度は大学院に進学します。学部学生と修士修了学生の主な就職先は公務員(国,地方の研究機関および行
政),企業(王子製紙,日本製紙,大建工業,住友林業,大日本印刷,凸版印刷,森永乳業,味の素,サッポロビール,旭硝子,
旭化成,花王,帝人,ダイセル,東洋紡,三菱レーヨン等)です。
X線光電子分光法による機能紙表層の元素分析
私たちの生活の中でもっとも身近な生物素材である紙は,
代表的な森
林資源であるセルロースを主成分としています。そこで,
紙の優れた環境
適合性
(生物分解性)
を維持したまま,
耐水性や撥水性などの新たな機能
を付与するシステムや,その機能発現メカニズムの解明
(写真)
に関する
研究を行っています。さらに,
セルロース繊維と無機触媒を複合化するこ
分野長による分野紹介
とで,
環境汚染物質の浄化作用を持った新しい機能素材の開発に挑戦し
ています。
セルロースからなる蜂の巣型フィルム
バイオマスの主成分であるセルロースから,いろいろなパターンや機
能を示す物質
(フィルム,
繊維 3D 構造体)がデザインされ,
開発されてい
ます。これらのパターンと機能との相関を明らかにすることにより,さら
生物材料機能学分野長
なる材料デザインが可能となります。
中尾 哲也
私たちの安全で快適な暮らしは,持続的で環境
に優しい「モノづく
り」や「エネルギー生産」にもと
づく必要があります。コストや効率を最優先に考え,
生態系との共存をないがしろにした前世紀の非持
続的生産・消費行動を反省し,地球が本来持つ
物質・エネルギー循環系の内側に人の営みを位
置づける時代が到来しています。
生物材料機能学分野は,人類社会の発展と自
大断面集成材を使った
木造ドーム外観とその内部
木造住宅や木質構造物は,
二酸化炭素を
貯蔵し,
環境への負荷が少ない木質系材料
から構成されることから,
第2の森林と呼
ばれます。したがって,これを増やし,
長く使
うことは森林造成と等価と言えます。
キノコの生物機能解明
キノコとして知られる担子菌類は最も高等な真核微生物
であり,その物質変換能には目を見張るものがあります。こ
然環境との調和を目指して,木質を中心とする生
の能力を徹底的に理解し,
利用するため,
遺伝子発現ネット
物素材の未知機能を探究しています。樹木は地球
ワーク・全タンパク質解明・鍵酵素の作用機構解明など,お
圏の炭素・水循環を中継する生物で,時に数百
よそ妥協を許さない網羅的な解析を行っています。この機能
年~千年もの寿命を持つ,再生可能なバイオマス
を応用した新しいバイオマス変換技術の開発,さらには,こ
資源です。この樹木生命体のナノからマクロに至る
の機能をさらに強化・デザインして利用することを夢見てい
階層的次元構造に着目し,物理工学的・化学的
ます。
手法やナノ・バイオテク
ノロジーを駆使した先端マテ
リアルの機能開拓研究を行っています。具体的には,
樹木の長寿命を木質材料の長期利用に活かした
り,天然多糖類のナノ構造制御やハイブリッド化によ
る電子・メディカル材料の創出,さらには水だけを
卒業生からのメッセージ
使う革新的なナノ加工技術の開発や,樹木の分解
高校生の皆さんに伝えたいことは,自分の選択した目標に向けて最後まで諦めず行動してほしいと
者であるキノコの物質変換能を創薬やファインケミカ
いう事です。皆さんは志望校という目標を選択し,今現在合格に向けて勉強をしていると思います。目
ル合成に活かす研究など,幅広く「自然に学ぶマ
標を選択し,行動する,この流れは実は大学生になっても変わりません。私も大学に入って様々な目
テリアルサイエンス」を展開しています。
農学を志向するみなさんは,自然が大好きだと
腐り難く,割れ難い木材を使う
思います。その気持ちを生物材料機能学と結び付
木材は屋外で使用するとき,
防腐・防虫
処理して,
耐久性を高め,
美しい状態でその
使用できる期間を長くすることは森林資源
保護の立場からも重要です。写真は木材に
薬剤を注入処理して腐り難く,割れ難くし
た木柵や屋外遊具です。
けることで,農学が先導するグリーンマテリアルイノ
ベーションが実現し,真に豊かな人類社会の構築
が可能になると信じて,教育・研究と人材育成を
行っています。
「大学生になるということ」
標を選択しました,履修科目の単位を取る,研究の成果を出す,趣味に打ち込む,などです。高校生
の皆さんが今まで高校受験,定期試験や模試を突破した力は必ず大学で役に立ちます。まずは目の
前の目標に向かって諦めず行動してください!
2015年 修士課程修了 日暮 早希
永大産業株式会社