天理大学人権問題研究室紀要第 9 号 :19 一 32, 2006 天理教系社会福祉施設における 宗教性の意義 渡辺一城 WATANABE@Kazukuni 宗教性には,サービス 提供者側がもっものと はじめに 利用者がもつものと 2 つの次元のものがあ 宗教と福祉,あるいは天理教と 福祉との関 重要なのは,サービス 提供者側がまたは る。 援助 係は古くから 問われている 課題であ る。 かつ 者が信奉する 宗教・信仰を 前面に打ち出して て長谷川良信は ,布教伝道と 社会事業の関係 利用者に関わる 場合にしても ,利用者本人の ほついて,①方便説 ,② 即 一説,③対立説と 宗教,性を取り扱っていくにしても ,そのこと いう が利用者にとって 意義あるものでなくてはな 3 つの考え方があ るとし, このうち③対 立 説が,両者の独尊的,第一義的価値を 顕揚 し ,布教自己目的説 ,社会事業自己目的説だ らないことであ る。特に,サービス提供者側 が宗教性 (例えば天理教系社会福祉施設にお から, これが最も進んだ 思想であ るとした。 布教伝道と社会事業という 二者の対立的価値 ける天理教行事の 実施などによるもの ) を 表 明 する場合はこのことに 留意しなくてはなら があ り,「二者が 相並んで行はるに 於ては益々 ない。 果たしてそのことがサービス 提供者や 効果の大なるものがあ 援助者の側において 意識化されているのだ らう」とも述べてい " る 。 確かに対立 説 が最も進んだ 思想であ るとし る ; 本稿では,上述したような 問題意識に基づ ても,宗教による 社会福祉活動・ 事業におい き,天理教系社会福祉施設対象のアンケート て,何らかの宗教性 (あ るいは宗教的価値 ) が付加されることは 認められなければならな 調査結果を題材として ,天理教系社会福祉施 設 における「宗教性」,特に 利用者にとって いし,対立説 はこのことを 否定したものでは の意義を,今日の 社会福祉の基本原則となっ ないだろう。 宗教・信仰あ るいはスピリチュ ている利用者主体の 考え方を踏まえながら 考 アリティといったものにこでは 仮に「宗教 察していきたい。 性 」としておきたい ) が,対人援助の基本と なる人間府;在への理解の 近道であ り,また 援 助 をより効果的なものにならしめるものだと 1 , 社会福祉における 利用者主体 社会福祉においてはその 援助実践の対象と するならば,それは 対人援助の場面でも 大切 なる人間への 理解が不可欠となる。 太田義腔 に取り扱われなければならない。 はソーシャルワーク 天理大学人間学部 この場合の (社会福祉援助技術 ) 実 Faculty@of@Human@Studies 19 天理教系社会福祉施設における宗教性の意義 いう ならば社会福祉事業の 公明かつ適正な 実 践の基本的構成要素として ,価値,知識,方 策,実践方法の4 つ る 挙げている。 ソーシャ 施の確保を目的とした 法律であ り,利用者は ルワーク実践においてその 出発点には大双提 社会福祉事業の 対象としてしか 位置づけられ として価値が 問われると共に ,対象となる 人 ていないばかりか ,利用者という 概念ではな 間の理解のための 知識が求められこれが 実践 く 要 援護者と表されていた。 これが2000 年 5 活動に理論的かっ 科学的な基礎を 提供するこ 月に社会福祉法という 法律に生まれ 変わり, とになる。 要 援護者が利用者となって , 自らの意思でサ ソーシャルワークの 援助原則では ,そうし ービスを選択・ 利用できる主体者として 位置 た 人間理解,人間尊重を 基底とした利用者主 体の原則が論じられている。 久保美紀は,社 づけられるようになったのであ 会福祉援助技術の 原則として,無差別平等の べき主体として 位置づけられたということで あ り,このことを 保障するものとして 利用者 の利益の保護を 図ることが重要とされている。 原則,個別的支援の 原則,自己決定支援の 原 則,当事者主体の原則,秘密保持の原則とい る。 このこと は,サービスを 提供する事業者と 対比される 原則は互 このように法律レベルでも 援助活動レベル いに関連しあ うものだが,なかでも 当事者主 で論じられて 来た利用者主体の 原則が導入さ 体の原則とは ,問題解決の主体はあ くまで ク れることとなったが , 国 レベルの理俳提示に (利用者) であ り,援助活動の 主 とどまることなく ,市町村単位では住民が主 う 5 つの原則を挙げている。 ラ イェ ント ソーシャルワーカーはク 体とかつて策定される 地域福祉計画の 取り組 対等な関係を 構築して,それと みを通じて,地域レベルでの 利用者主体の 仕 体に利用者をおき , ライエント と この 5 の協働作業によって 活動を展開することであ ると久保は述べている。 このように,ソーシャルワーク 実践におい ては人間理解,人間尊重を 基底とした利用者 主体が原則となっているが ,援助活動レベル で 語られて来た 利用者主体の 原則が法律や 制 組みづくりが 始まっている。 2, 社会福祉サービス 利用者の宗教的ニーズ の取り扱い 本稿での議論のフィールドとなる 社会福祉 施設でも,従来から 利用者主体を 基底とした 度といった仕組みレベルでも 明確に位置づけ 援助実践が取り 組まれているわけだが ,前述 られるようになっている。 の社会福祉法制定によって ,利用者のニーズ 2000 年 5 月に制定された 社会福祉の基本法 に即応したサービスの 選択や自己決定,あ る ともいうべき 社会福祉法は ,その第 1 条の目 いはまた事業者,援助者と 利用者との対等な 的に,「(前略) 福祉サービスの 利用者の利益 関係がより一層重視されることになり の保護及び地域における 社会福祉の (以 -ド 地 解決に向けた 双方のコミュニケーションの 努 威 福祉」という。 ) 力 が求められることになる。 「 の 推進を図るとともに , 社会福祉事業の 公明かつ適正な 実施の確保及 ,問題 天理教を始め 宗教の関与,によって経営され び社会福祉を 目的とする事業の 健全な発達を る宗教系社会福祉施設において ,こうした利 図り, もって社会福祉の 増進に資することを 用者主体の考えに 立つとき,施設内において 目的とする。」と述べている。 同法の前身で その「宗教性」をいかに 取扱うかについても , あ る何社会福祉事業法は ,前述の目的条文で 事業者・援助者と 利用者とのコミュニケー、 ン 20 渡辺 ョンが必要不可欠なものとなるだろう。 る 。 その人のライフスタイル や 日常的な習慣, さて,そうした 宗教系社会福祉施設におけ る「宗教性」には 次の 2 つの論点があ ると思 われる。 第 1 他の地域住民とのインフォーマルな 関係など, 様々な生活環境を 持続させることが 求められ ているわけだが ,宗教社会福祉の 視点や本稿 には,社会福祉サービスを 提供・する実 が 注目する「宗教性」という 点からすれば , 践主体の宗教性の 取り扱いであ る。 これは後 利用者本人の 信仰やそれに 準じた生活も 尊重 で紹介する調査結果から 議論することになる が,施設の運営において 的確に取り扱われな されなければならない。 前述した よ うに社会福祉施設がコミュニ テ ければならない。 第 2 には,利用者本人の 宗 ィ 施設化し,援助対象が入所者だけでなく 地 教性の保障という 点である。 ここでは,宗教 域住民全般に 拡大していく 場合も,入所者を 社会福祉研究のあ り方と関連させながら はじめとするサービス 利用者のニーズや 問題 の第 2 ,こ の点について 検討したり。 構造を的確にアセスメント 今日の社会福祉施設では ,旧来の大規模な 集団的かつ 画 - 的なサービス 提供が改められ う ,その利用者の 必要と求めに 応じた援助を 行なっていく 必要 , 認知 症 高齢者のグループホームに 代表される ような小規模ケアが 取り組まれるよ し になり, があ る。その際に重要とされているのが 年 5 月に世界保健機関 された IGF (WHO) , 200 す 総会で採択 (Intemna け lonalClassifiCa仮 lonof Health 国際生 個々の入所者のニーズや 状況を勘案して 作成 Functioning, される個別ケアプランを 基に援助が行われる 活機能分類 ) の視点であ ようになっている。 集団的画一的で 凡そ閉鎖 的であ った施設内での 援助が見直され ,施設 これまでの WHO 面を分類するという 考え方が中心であ ったの の社会化や地域化が 求められるようになった。 に対し, ICF は生活機能というプラス 施設自体が入所者の 援助にとどまらず ,デイ ら見るように 視点を転換している 点が大きな サービスなどの 在宅サービスに 取り組むよう 特徴となっている。 になり,地域ケアの 拠点としての 役割が求め 活 機能を,その人を取り巻く 社会制度などを られ,社会福祉施設のコミュニティ 施設化が 組み合わせた 方式で分類している " 人間の生 進んでいる。 また,施設ばかりではなくその 活 機能と障害について ,「心身機能・ 身体構 中の入所者自体の 地域 造」,「活動と参加」,それに 影響を及ぼす 環 ィヒ も重視されるように なってきている。 この福祉施設入所者の 地域化というのは , 彼らが従来から 送ってきた生活と 変わりない Disability and 境因子について , る。 この ICF は, 国際障害分類がマイナス この ICT 面か は,人間の生 約 1500 項目に分類している が,その項目の一つに,宗教・スピリチュア リティが挙げられている。 近年になって ,こうした人間存在の 視座と 暮らしを保障することでもあ る。 要 援護高齢 者で在宅での 介護が困難な 場合,特別養護老 して,精神性,身体性,社会性に 加え, 霊 lf 生 人ホームへの 入所だけでなく ,認知症 高齢者 いわゆるスピリチュアリティが 重視されるよ の場合はグループホームが 利用されることが う あ るが,こうした 認知症 高齢者のケアでは 高 に,わが国の社会福祉援助活動において ,宗 齢者本人の生活の 継続性が重要視され ,それ 教や信仰といったスピリチュアリティに をいかにして 保障し支援するかが 問われてい る部分が軽視されてきたといっても になってきたが ,木原清信が指摘するよう 関わ 過言では 天理教系社会福祉施設における宗教性の意義 ない。 特に,戦後憲法によって 政教分離あ るいは は少なからず感じていると 思われる。 公私分離が表明されて 以降,社会福祉や教育 ただ,これまでの 社会福祉研究でこうした 宗教やスピリチュアリティに 関わる部分が 全 など公共の営為" において宗教や 信仰を打ち出 く捨象されてきたかといえばそうではない。 すことはタブー 視されてきた。 個人レベルで 社会福祉援助活動の 研究の中で,宗教的二一 も 宗教や信仰を 表明することすら 消極的な態 ズ に触れているものとして ,例えばシャルロ 度を示すことが 一般化しており ,オウム真理 ッ 教事件以降,この傾向に拍車がかけられてい Needs" る。 こうした社会的な 傾向が人間存在へのさ ト・ト一 ル (邦題「 コ モン・ヒューマン・ニー ズ社会福祉援助の 基礎」) があ る。 らなる理解を 遅らせてきたといっても 差し支 えないだ る , この著書の申でト 欲求が認識され つ 、戦前においては 数多くの宗教者によって 駆的 実践が展開されてきた 先 社会福祉活動分野 でも,それらの実践は単なる 歴史的事実とし 一ル は ,「個人の宗教的 ,理解され,尊重されなけれ ばならない」と ,人間の宗教的欲求の 尊重を 強調している。 またこの宗教的欲求を 人問 特 有の欲求として 捉え,人間の生活態度の問題 抽出 において個人の 宗教的信念を 尊重する必要を 大規模 指摘している。 また宗教による 感化によって て捉えられるにとどまり ,その営為から され ぅる理念や精神,あるいは原理が による "CommonHuman な形で議論されたことはない。 社会福祉関係 人間生活の目的がよりよく 理解される と と も で最大数の会員を 有する日本社会福祉学会で に,感化が倫理的価値を 尊重する気持ちを 高 さえも,仏教系の 同朋大学にて 1996 年に開催 めるばかりでなく ,「情緒的に 成熟した成人 された第 44 回大会で設けて 以来,宗教と 社会 になって い くよう導くための 指導と支持的な 福祉に関する 分科会を設けていない。 判断を必要とする 幼児期において , もちろ また青年 ん, これには学会自体や 大会の運営上の 間題 期を通してとくに 重大であ る」とも述べてい もあ るが,宗教と 社会福祉の議論の 場が学問 る。 的にも提供されないことによって ,憲法規定 「宗教性」を,河合隼雄のように「自分を の 人権 論に偏った制度追随の 理論しか構築で 超えた存在に 畏敬の俳を持って 臨む態度」と きない社会福祉原理論研究の 遅れをもたらし 定義するならば(l2) ,その重要性を改めて論じる たことは大いに 指摘すべきであ ろう。 筆者が 必要はないが ,社会福祉における このように指摘するのは ,宗教社会福祉研究 の原則を貫くとき ,利用者本人の宗教性あ に少なからず 関 わる者として ,宗教社会福祉 いは宗教的ニーズをいかに 取り扱い保障する 研究が必ずしも 脚光を浴びないことに かが対人援助や 対する 卑屈な臥いからではない。 宗教社会福祉研究 が ,宗教的基盤をもつ 社会福祉活動への 理論 的 裏 づけを主たる 目的とするのではなく , 社 会 福祉の原理や 規範,倫理の理論化の格好の ステージとなるという 認識によるものであ る。 そうした認識が 不十分な状況に 対する憤りや もどかしさは ,宗教社会福祉研究に 関わる者 利用者主体 る 生活支援における 課題のひと っ であ ることは間違いない。 3. 「天理教社会福祉施設連盟」加盟施設 対 象のアンケート 調査の結果から 援助の上にも 重要とされる 宗教性が,実際 の社会福祉現場ではどのように 取り扱われて いるのだろうか。 ここでは,前述した 第 t の 渡辺 社会福祉サービスを 提供する実践主体の 宗教 天理教社会福祉施設の 意義の 3 点に整理して 性の取り扱いについて ,以下の調査結果を 紹 介しその考察を 含めて,社会福祉現場におけ 若干の考察を 試みたい。 る 宗教性の取 仮扱 いの 実態について 触れてみ たい。 ①回答者の信仰属性 まず回答者の 信仰属性についてであ る。 調 査では 対象を施設長と 職員の 2 つぼ分けて 実施したが,とりわけこのニ 者の信仰的立場 (l ) アンケート調査の 概要 が 大きく異なっている。 それぞれ信仰する 宗 教を聞いた設問の 回答では,施設長では この調査とは ,「天理教社会福祉施設アン する施設長および 職員の意識を 把握し,もっ 94.8/0が天理教信仰者であ るのに対し,職員 では天理教者は 60.9% と施設長に比してかな り低い。 また職員ではこの 質問に対して 価 回 て天理教社会福祉施設広くは 天理教社会福祉 のあ り方を考察することを 目的として, 2003 答が25% もあ った。 こうした信仰属性の 違い が,天理教行事の許容度や天理教社会福祉施 年 設の意義といっ た あ ケート調査」であ る。 本調査は,天理教社会 福祉施設における 信仰活動の実情とそれに 関 月に実施された。 実施主体は天理教社会福祉施設連盟 5 と (事務 影響している。 局 : 天理教布教部福祉課 ) だが,本調査の企 画作成と集計分析は ,筆者もかかわる「天理 数社会福祉研究プロジェクト」 (有志による 研究グループ ) と天理大学おやさと 研究所天 理総合人間学研究室が 共同して行われた。 の調査結果もこ 大きく 表@ 信仰する宗教 天理教 侶、 教 60.9% 13.7% 無回答 施設長 職員 25.4% 調査の対象は ,天理教社会福祉施設連盟 加 盟施設 (121施設,平成ly 年度会員名簿に 基 さらに回答された 職員の中で,信仰する 宗 教を「仏教」としながら 天理教内の立場に「 よ づく ) のうち,教会本部直営の 婦人会託児所, ふほ く」と答えている 者が 5 名あ った。 これ 教庁託児所を除いた 119施設であ る。 これら は,地方における「神仏混合」的な の施設から,施設長と 散事情や, 自由回答の結果でも 明らかになっ を 職員にアンケート 用紙 郵送して無記名で 回答を求めた。 職員は, 施設長により 任意に信者 (ようぼく以上 ) と 特別な宗 ているように ,「信仰者でないと 正職員にな れない」などといつた「天理教コード」 (天 来信者を各 2 名ずつ抽出してもらっている。 郵送数は,施設長が219 人,職員が476 人で, 理教信仰の有無で 昇進等に差が 現れるという - 種暗黙の規定 ) の存在が背景として 考えら 計 595 人であ り, 回 m 数 : 施設長が 58 人, れる。 員が197人,計255 人で,有効回収率は 施設長 ②天理教施設としての 社会的使命 ( ミッシ ョ Ⅱ が48%, 職員が41% となっている。 刀 施設が天理教の 施設であ ることは,施設長, データからの 考察 職員ともに認識している 割合が高いが ,両者 ここでは選択肢があ る設問から得た 数量的 のこの認識の 仕方が異なっている。 施設長で データの結果から ,回答者の信仰属性,天理 は,天理教の施設であ るという認識の 理由と 教 施設としての 社会的使命 ( ミッション ), して,「創設の精神が天理教だから」,「設立 23 創設の精神が天理教だから 設立母体が教会ないし 教区だから 長 ・施設長が天理教者だから 自分が天理教者だから 天理教行繋があるから 実践が天理教精神に 基づいているから 定款に天理教に 基づくと記載しているから 0.0% 10.0% 20.0%@ 30.0%@ 40.0%@ 50.0%@ 60.0%@ 70.0%@ 80.0% 近年その活動と 役割が期待されている 民間 含めた組織内で 談じ合いな重ねながら 打ちた (NPO) は,その運営の 要諦に て,これを共有化し ,その具現化に第一線の 非営利団体 社会的使命 ( ミッション ) を第一に挙げ ,そ 職員が参画することが 求められる。 宗教と社 のミッションを 基盤とした活動内容の 展開や 会を結び媒介機能を 果たす社会施設であ るか その精査とミッション 実現を可能にするため らこそ, この一連のプロセスが 必要となるは の組織整備を 行うことが求められている。 ずである。 そのことが,利用者主体の 原則が ま た営利企業でも 利潤追求にその 使命をとどめ 強調され制度的にも「選択・ るばかりでなく ,最近では社会的責任性が のサービス利用の 仕組みとなっている 今日に 重 契約」が利用者 視される傾向にあ る。 天理教社会福祉施設の あ って,利用者から 選択されるための 民間施 ように民間団体によって 設としての独自性を 担保することになる。 天 理教社会福祉施設では ,施設長と職員,信者 経営され宗教をバッ クボーンとする 社会施設も, NPO などと同 様にその「元一日」を 含め宗教性に 裏打ちさ れたミッションが 大事に取り扱われることが と未信者という 立場の違いを 超えて,宗教系 の精神」,「教育目標」といった 崇高な理念あ 社会施設であ ることを積極的に 認識するとと もに,施設創設の「元一日」を 含めたミッシ ョンを明確にしその 共有化に向けた 理事者・ るいはミッションを 創設者や理事者が 管理職の努力が 求められる。 期待されるのであ 24 る。 学校でいえば ,「建学 職員も 渡辺 しかしながら ,天理教社会福祉施設はその が天理教行事をその 必要性議論の 共有もない ミッションの 明確化と共有化という 重要な手 まま半ば当然のこととして 実施しているので 続きを必ずしも 踏んでいるとはいえない。 施 はないだろうか。 前述したト一 ルの 議論を持 設における天理教行事の 必要性を問うた 設問 ち出すまでもなく では,「必要不可欠」と 答えた者が施設長で スピリチュアリティが は約 7 割であ る - 万,職員では半数に満たず , 「分からない」が 3 割以上もあ るという結果 は ,各施設が宗教系社会施設であ ることの重 ,人間存在の理解に宗教や 不可欠であ るとする前 提に立つならば ,宗教社会福祉実践者は ,確 固たる信念をもって ,宗教性に裏打ちされた ミッション具現化に 向けて努力が 必要であ ろ 異性とミッションの 共有化への努力を 怠、 って いる証拠であ るともいえる。 恐らくは施設 側 図2 施設における 天理教行事の 必要性 要で 特 施設長 27.6 47.2 この宗教系社会施設としてのミッション 具 (横須賀基督教社会館では ,このことをパン 現化の方法には ,宗教的レベルの 方法と活動 トマイムと呼んでいるようであ レベルの方法とがあ ると考えられる。 宗教的 いるところもあ れば,宗教色を 前面に押し出 レベルの方法は 主として宗教的行事の 実施推 進 といったものが 挙げられ,活動レベルの 方 して実施している 施設もあ る。 宗教的レベル 法 には,宗教的行事のように 特定の宗教を 表 る ) を行って と活動レベルのどちらを 重視するかは ,それ 明する形での 行為は行わないが ,活動やサー ぞれの施設がおかれた 地域の状況や 利用者ま たは職員の状況に 応じて判断すべきことであ ビスを実施することを 通じて施設自らの 宗教 り,ミッション 性を発揮することなどが 挙げられる。 現状と 主体性に委ねられるべきものといえよう。 しては,全国的にも 著名な地域福祉施設であ る横須賀基督教社会館のように , ミッション 具現化方法の 選択は各施設の 天理教社会福祉施設においては , ミッショ ンは何らかのかたちで 明確化されているもの 具現化を活動レベルの 方法に定め宗教色を 薄 の,その共有化が不十分なまま , くしていわば 宗教としては 匿名的な援助活動 いえば宗教的レベルを 重視した具現化の 方法 どちらかと 天理教系社会福祉施設における宗教性の意義 が 選択されているように 考えられる。 このミ 派の施設長の 35.9% ,ソションの 明確化,共有化,具現化の過程で, と とくに宗教的レベルを 具現化の方法として 選 を伝えられるから」と 答えていることからみ 択する場合に 重要なのが,「宗教性」と「宗 ても,必ずしもこれら 従事者の意識の 中で「宗 派性」の区別であ る。 宗教的レベルの 方法が, 軟性」と「宗派性」が 明確に区別されている 人々の普遍的な 宗教心に訴える ,すなわち「宗 とはいえないくもちろん ,天理教の教義が普 , 同派の職員の 36.6% 4 割弱がその理由として「天理教の 教え 軟性」によるものなのか ,特定の教団宗教の 遍的なものであ るという認識が 前提となって 看板を強調する ,すなわち「宗派性」による いると思われるが ) 。 「天理教行事不必要」派 ものなのか,この 区別は明確にし ,各施設が の職員の約 2 割が天理教行事が 必要でない理 振り返りの機会を 持つことが必要であ , ろ つ 恩、 われるから」と 答えているように ,宗教的 しかし,今回の 調査で「天理教行事必要」 図3 由 として「天理教の 布教を強要されるように 天理教行事が 必要な理由 天理教社会福祉施設として 当然 天理教の教えを伝えられる 天理教の実践と 行事は切り離せない その他 0.0% 5.0% 図 4 天理教の信仰と 15.0% 20.0% 25.0% 30.0% 35.0% 40.0% 45.0% 50.0% 天理数行事が 必要でない理由 行事とは別に 考えるべきだから 天理教の石碑そのものに、 天理教の布教を l0.0% 強制されるように 公的な施設なので、 なじまないから 思われるから 宗教行事はよくないから その他 無 回答 0.0% 26 10.0% 20.0% 30.0% 40.0% 50.0% 60.0% 渡辺 レベルの方法に「宗派性」が 強調されること に対しての危惧があ ③天理教社会福祉施設であ ることの意義 天理教社会福祉施設であ るのであ る。 このように本調査では ,天理教行事の実施 状況,また施設長と 職員との間での 天理教 行 とマイナス面について ることのプラス 面 聞いた設問への 回答 結 果をみてみたい。 ここでは,施設長では「 プ 事・に関する意識の差が明らかになっているが , ラス面の方が 大きい」とする 問題はそのこと 自体ではない。 むしろ,宗教 一方,職員では「どちらとも 言えない」が 某社会施設としてのミッション 37.6%, 明確化と共有 者が 62.1% 「分からない」が 24.9% いる と多く ,こ 化 ,そしてその具現化方法の 選択が , こでもミッションの 共有化が不十分であ るこ の正式な意思決定プロセスを とが浮き彫りになっている。 経てきちんと 何 われていないことが 問題であ ると い える。 図 5 天理教社会福祉施設であ ることのプラス 面とマイナス 面 職 施設長 員 皿 フラス面のほ うが大きい 1.0% 睡 マイナス面の ほうが大きい 鰹 どちらとも 言 27.6% えない (とく に 関係ない ) 口分からない , 1% 図6 田無回答 天理教社会福祉施設であ ることのプラス 面 ひのきしん精神・ 雰囲気 天理教の布教につながる 現神様・教祖に 喜んでもらえる 施設になっている 利用者に安心してもらえるから 社会的認識が 高いから 天理教関係者が 利用しやすい その他 0.0%@ 10.0%@ 20.0%@ 30.0%@ 40.0% 50.0%@ 60.0% 27 天理教系社会福祉施設における宗教性の意義 図7 一 天理教社会福祉施設であ ることのマイナス 面 l % 職畳 社会的認識が 低い 教会関係者の世翼制などの問題 天理教の布教を迫られそうだから 利用者に不安を感じさせる 信仰優先が施設の近代 となどの妨げ ィ ん精神で労働条件などがきびしいところ ひのきし その他 天理教コードで昇格などが限定 0. 0% プラス面での 5.0% 内容は,施設長,職員ともに 「ひのきしんの精神・雰囲気が 満ちているか ら 」が一番多くなっているが ,「施設を通じ て 天理教の布教につながるから」を 挙げた者 10.0%@ 15.0% 20.0% 25.0% ここで指摘しておかなければならないのは , 天理教的な心の 支えの利用者にとっての 意味 が見出されていないことであ る。 施設長, が次に多くなっている。 天理教社会福祉施設 員両方とも,利用者にとって「意味があ る」 と答えた者が 施設長は 53.4%, 職員は31.5% の宗教性よりも「宗派性」に 重きをおいた 天 と 現数社会福祉施設のプラス 面を見出している。 答えた者 ,管理職や 一般職員にとって 意味があ ると よ りかなり低 い 割合になっている。 別の設問では ,施設運営における 天理教的 「どちらとも言えない」とした 者も施設長で な心の支えの 意味を,管理職,一般職員, 利 36.2%, 職員で51.8% もあ った。 199f年に キ 用 者に分けて聞いている。 全体的に施設長で リスト 数 社会福祉学会によって 実施されたキ は管理職,職員,利用者姉者全てに 対して天 リスト教社会福祉施設調査でも ,利用者にと 理教的な心の 支えが「意味があ る」とした者 って意味があ ると答えた者は 管理職や 一般職 が多く,職員はそれより 低めとなっている。 員にとって意味があ ると答えた者より 低めの 表2 施設運営における 天理教的な心の 支えの意味 施設長 管理職に対して 意味がある 62.9% 意味がない 1.5% どちらともいえない 一般職員に対して 意味がある 72.4% 意味がない どちらともいえない 利用者に対して 意味がある 意味がない どちらともいえない 28 53.4% 31.5% 渡辺 結果が得られているが ,それでも,キリスト ても,利用者にとっての 意義や有効性を 数 社会福祉施設の 施設長では,利用者にとっ せていない。 こうした問題がこの 調査結果か て 意味があ ると答えた者は 7 割,職員では 5 見出 らみてとれると 考えられる。 割 g9 となっている。 天理教社会福祉施設にお 過去 5 年間に施設に 入所してからよう はく ける宗教的な 心の支えの利用者にとっての 意 になった人の 有無を施設長に 聞いた設問で 味が, 少なくともキリスト 教のそれよりも 薄 は, 20.7% いという認識が 読み取れる。 一方キリスト 教施設調査での 同種の質問 (過 これまでも述べてきているように ,社会福 表 5 年間に入所してから 受洗した人が い る か) では,「いる」と 答えた施設長は 41.9% 祉援助活動の 主体はサービスを 受けている利 用者であ る。 天理教社会福祉施設においても の施設で「いる」と 答えている。 , となっている。 この数字の違いをみても ,利 その宗教性が 少なくとも利用者にとっての 意 用者が信仰に 共鳴する可能性は ,天理教がキ 義 あ るものでなければならない。 しかし,現 リスト 教 より低くなっていることがみてとれ 状では,天理教であ ることが従事者ないしは よ, サービス提供者にとっては 有効で意義があ 図8 っ 天理教施設であ ることが利用者の 処遇向上につながっているとの 認識 届.れない 個人レベルの 問題であり施設全体としては そ う は思わない 居、 っている 0.0% 0.0% いずれにしても ,天理教社会福祉施設であ ろ うか。 ることの意義を 管理職や 一般職員だけで 見出 し共有するのではなく ,利用者にとって 天理 教社会福祉施設であ ることの意義や 有効性を (3) 自由回答からの 考察 本調査では,天理教社会福祉施設や 施設連 見出して行けるよう ,そのための援助方針や 活動の確立が 今後の課題といえよう。 その際, 盟のあ り方と天理教社会福祉全般について 単に天理教の「宗派性」に 重きをおいたもの 様々な意見が 提起されているが , ではなく,より 普遍性をもった「宗教性」を て明確になったのは ,「天理教コード」の 問 追求していくことが 必要となるのではないだ 題であ る。 , 自由回答欄を 設け意見を聴取した。 ここでは ここで改め 天理教系社会福祉施設における宗教性の意義 前述した よ うに,「天理教コード」とは , 有 撫で採用や昇進に 影響が出ることは ,職員 天理教信仰者 の雇用環境の 問題ばかりではなく ,施設その を優先するなど ,天理教信仰の有無で昇進等 ものの専門性をどう 担保するのかといった 課 に差が現れるという 一種暗黙の規定のことで 題も生じさせる。 職員の採用,昇進などにおける あ る (「天理教コード」とは 本調査で中心的 な役割を果たした 金子時によって 命名され 4, 天理教系社会福祉施設における「宗教 性」の意義 た) 。 自由回答を見ても ,施設長では,「天理教 これまで述べてきた よう に,社会福祉援助 の信者の多 い施設にしたりが 就職してくる 人 が少ない」などの 回答があ り,職員に信仰者 において利用者主体の 視点に立って 宗教性を 検討することは 非常に重要なことであ る。 と を 望む意見があ る。 りわけ,スピリチュアリティなる 概念が人間 その - 方で,職員の回答では,「信仰者で ないと五臓になれないというのはとても 不満 です。 信者でなくてもその 個人が一生懸命仕 事をして天理教に 対しての理解があ ればそこ までこだわる 必要はないと 思います。 現在の 理解の上で再評価されているということは , 利用者主体の 原則に立- % た援助活動の今後の あ り方に新たな 基盤を示すものとして 期待さ れる。 ここでは, これまでの議論を 踏まえて, 天 職場はとても 働きやすいので ,続けられるな 理数系社会福祉施設あ るいは宗教系社会福祉 らずっと続けていきたいと 思っていますが , 施設における「宗教性」の 意義を検討し ,最 やはり,契約職員となるといつも 不安ですⅡ 後のまとめとしたい。 「我が園では,五臓になる 条件として,用木 第 1 には,潜在 する人間の宗教的ニーズ ィヒ る。 人間理解にスピリ であ ることが第 - で,長年働いている 来信者 の職員がどうしても 用木になることをためら への意図的な 関与であ っており,天理教に 対して理 僻してくれるも のの上職になるために 用木になる手段がどう が求められているといっても ,今日のように 宗教が必ずしも 信頼を得ていない 状況にあ っ してもできないということで , ては,何の意図的な 関与なくして 社会福祉援 もどかしさを 感じてぃ ます。」といった意見があ チュアリティを 含めたホリステッ ィク な視点 助の場面で人間の 宗教的ニーズは 顕在化され る。 数量 デ一タ でも,職員採用の 際本人が天理 ることはないと 思われる。 また利用者も 宗教 教であることを考慮するかという 問いに,「ど 的ニーズを意識化しているとしてもその ちらかといえば 人物優先」と 答えた施設長が を社会福祉援助の 現場に求めていないかもし 51.7%@と一番多くなっている 一方,「天理教 であ ることをできるだけ 優先」(32.7%), 天 理 教内の有力な 教会からの推薦を 優先」 れない。 しかし,援助に 宗教的ニーズの 充足 「 対応 が不可欠だとすれば ,天理教をはじめとする 宗教系社会福祉施設は ,利用者への意図的な 7%) と 回答する施設長も 存在する。 天理教社会福祉施設としての 独自性や宗教 性に裏打ちされたミッションを 具現化してい 足することができるのではないだろうか。 く際に,第一線の 職員が信仰を 持っているこ は 性を発揮することが 宗教性の意義として 捉 とは大きな武器になる。 しかし,その 信仰の えられよう。 ただ,天理教系社会福祉施設に こ 30 ・ 関与によってその 宗教的ニーズを 顕在化し充 そ うすることが 宗教系社会福祉施設としての 独 渡辺 おいては単に 天理教行事を 実施することが 大 って,憲法規定の 人権 論に依拠したものでは 事なわけではない。 むしろその行事の 必要性 を利用者と施設職員で 共有化するとともに , なく,普遍的教義とその 宗教性に依拠した 新 たな社会福祉原理論の 構築に寄与することが その行事の実施を 通じて利用者の 宗教的ニー できるのであ ズを顕在化し 充足することが 重要であ るとい って援助活動を 推進することが ,天理教でい える " うところの本来の「おたすけ」「世界 だすけ」 第 2 には,利用者にとっての 宗教性の意義 る。 このような自負と 信念を持 につながるものであ ると考える。 を,施設側が利用者と職員とともに 考えるこ とであ る。 アンケート調査からも 明らかなよ うに,天理教系施設では 宗教性が利用者にと フ主 古田久一 長谷川E 俊 細木仏教 福札 朋、 想 (1@ って意義あ るものであ るとの認識が 低い。 そ 史d 2001 法蔵館 p.215 の理由としては ,施設側が確固たる 信仰信念 (2@ 周 ヒ薯 , を提示することをせずに 単に行事として 天理 (3@ 太田義腔「ノ ー / サ ルワークの実践 苓 念」 太 p.216 教行事を実施しているために ,本来あるべき 田 義引 - 。 佐藤豊道編け一シ ャルワーク d 1984 宗教性が施設全体としての 悔声 ""柑 求心力となって い な い こと,また天理教行事などの 実施が利用 (4@ 者にどれほどの 影響を及ぼしているのかその p,33 久保美紀「社会福祉援助技術の 価値 理念・ 原則」基礎からの 社会福祉編集委員会編『社会福 効果測定に向けた 努力を施設側がしていない 祉援助技術高ぬ J 2005 ミネルヴァ書房 p.61 ことなどが挙げられる。 施設側が天理教教義 は@ 同 」 こ古 を確固たる信俳として 持ちつっ,そのことの (6@ このICF については,障害者福祉研究会編 意義を利用者とともに 効果測定も含めて 考え 国際生活機能分類J 2002 ICF 中央法規,と いう日本語訳 版が発行されており ,詳細な項目説 て い くことが求められる。 なお,宗教的ニ一 ズの 充足や宗教性が 施設 全体の求心力となるためには ,信仰をもった 職員の存在が 不可欠であ る。 ただ,だからと いってアンケート p.62 明がされている。 く 7) 同上書 p.166 く 8) 木原油信 『対人援助の 福市 スエートJ 2003 調査結果でも 指摘される ヒ 2 本ルヴァ書房 p.35 「天理教コード」の 問題のように ,信者職員 、ンヤ ルロット・ト一 ル (小松波助訳) アコモ と未信者職員との 間に雇用の上での 格差があ ン ・ヒューマン・ニーズ J 1g90 ってはならない。 宗教性を援助活動の 手段と p.22 して活用することは 望ましいが,これを 管理 運営上の権 威として使うことは 認められない。 け1 く l2j 周 L由 中央法規 p.22 天理大学入間学部公開 ンン ,、ンウム 「日本の 第 3 には,天理教系社会福祉施設の 宗教性 を打ち出した 実践が,社会福祉原理論の 新た な構築の足がかりとなることであ る。 宗教性 (13) 本調査の詳細な 結果については ,天理教社会 あ るいはスピリチュアリティが 対人援助でも fR 巾 l:研究プロジェクト・ 天理大学おやさと 研究所 再評価される 中で,宗教性を 基盤とした天理 天理総合人間学研究室編『「天理教社会福祉施設 教系社会福祉施設の 実践はその積み 重ねに アンケート調査」報告書 d 2004 よ 天理教社会福 あ @: 31 天理教系社会福祉施設における宗教性の意義 施設連盟を参照。 なお,本文中の 調査結果に関す 小智久・吉田山佳「現代キリスト 教社会福祉実践 る記述は,筆者が 分担執筆した 部分をべー スに修 の課題」日本ギリスト 数社会福祉学会編㌃ 社会福 正を加えたものであ る。 祉実践とキリスト 教J 1998 はり 32 キリスト教社会福祉・ 施設調査については , 秋 p.141 ミネルヴァ書房 に結果と考察が 掲賊されている。
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