中国経済の現状と見通し - 三菱UFJリサーチ&コンサルティング

2016 年 5 月 12 日
経済レポート
けいざい早わかり(2016 年度第 2 号)
中国経済の現状と見通し
調査部 研究員 野田 麻里子
【目次】
Q1.中国経済の現状はどうみたらよいですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.2
Q2.景気の失速が回避されている要因は何ですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.2
Q3.中国経済にとって今年の重点課題は何ですか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.3
Q4.経済改革は進みますか?・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・p.4
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Q1.中国経済の現状はどうみたらよいですか?

中 国 経 済 は 引 き 続 き 減 速 し て い ま す 。 実 質 GDP 成 長 率 は 2015 年 4-6 月 期 の 前 年 比 +
7 . 0 % か ら 7 - 9 月 期 同 + 6 . 9 % 、1 0 - 1 2 月 期 同 + 6 . 8 % 、そ し て 先 日 発 表 さ れ た 今 年 1 - 3
月 期 は 同 + 6 . 7 % と 鈍 化 が 続 い て い ま す 。1 - 3 月 期 の + 6 . 7 % と い う 成 長 率 水 準 は リ ー
マ ン ・シ ョ ッ ク 後 の 2009 年 1-3 月 期 の 同 + 6.2% 以 来 の 低 い 水 準 で す が 、 前 年 比 ベ ー
ス で み た 減 速 の 度 合 い は 緩 や か な も の に と ど ま っ て い る と い え る で し ょ う 。こ れ に 対
し て 、 季 節 調 整 済 み の 前 期 比 年 率 で み る と 1-3 月 期 の 成 長 率 は 10-12 月 期 の + 6.1%
か ら + 4.5% に 大 幅 に 低 下 し て い ま す の で 、 や は り 景 気 の 基 調 は 弱 い と 考 え ら れ ま す
( 図 表 1 )。

一方、月次の指標の中には 3 月に一旦、持ち直しの動きがみえたものもありました。
し か し 、2 月 の 春 節 休 み の 反 動 と い っ た 一 時 的 な 要 因 に よ る 押 し 上 げ が 大 き か っ た と
みられ、月次の指標をみて単純に景気が回復基調に入ったとはいえそうにありませ
ん 。 事 実 、 3 月 に 前 年 比 + 11.5% と 大 幅 に 持 ち 直 し た 輸 出 も 4 月 に は 再 び 同 − 1.8%
と 前 年 比 マ イ ナ ス に 戻 っ て し ま い ま し た 。3 カ 月 移 動 平 均 な ど を 使 っ て 足 元 の 基 調 を
み る と 、前 年 比 マ イ ナ ス 幅 は 縮 小 傾 向 に あ る よ う に み え ま す が 、依 然 と し て 前 年 比 マ
イ ナ ス で 推 移 し て い ま す ( 図 表 2 )。
図 表 1 . 中 国 の 実 質 GDP 成 長 率 の 推 移
(前年比、%)
(前年比、%)
10.0
9.0
8.0
前年比
7.9
7.8
7.5
図表2.中国の輸出の推移
(10億ドル)
60.0
前期比年率
250.0
50.0
7.6
7.3 7.4 7.1 7.2 7.0
7.0
7.0 6.9
6.8 6.7
200.0
40.0
30.0
6.0
20.0
5.0
10.0
4.0
0.0
3.0
-10.0
2.0
-20.0
1.0
-30.0
150.0
100.0
50.0
0.0
13
0.0
13
14
15
(注)図中の数字は前年比の数値。
(出所)CEIC
16
14
15
16
金額(右目盛)
(出所)CEIC
前年比(左目盛)
前年比(3カ月後方移動平均;左目盛)
Q2.景気の失速が回避されている要因は何ですか?

昨 年 の 夏 以 降 、中 国 の 株 価 や 為 替 相 場 の 大 幅 な 下 落 な ど 金 融 市 場 の 混 乱 を 背 景 に 中 国
経済は減速にとどまらずに失速してしまうのではないかという懸念が強まりました。
し か し 、 製 造 業 購 買 担 当 者 指 数 ( P M I ) が 今 年 3 月 ( 5 0 . 2 % )、 4 月 ( 5 0 . 1 % ) と 2 カ
月 連 続 し て 景 気 の 拡 大 と 収 縮 の 分 岐 点 で あ る 50% を わ ず か な が ら も 上 回 っ て い る こ
と 、 ま た サ ー ビ ス 業 PMI も 53% 前 後 で 推 移 し て い る こ と を 併 せ て み る と 、 景 気 は 弱
含 み な が ら も 過 度 に 悲 観 す る よ う な 状 況 で は な い こ と が わ か り ま す ( 図 表 3 )。

こ れ は 政 府 の 景 気 下 支 え 策 が 奏 功 し た た め と み ら れ ま す 。貸 出 金 利 は 2 0 1 4 年 1 1 月 以
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降 、 6 . 0 0 % か ら 4 . 3 5 % に ま で 引 き 下 げ ら れ ま し た し ( 図 表 4 )、 住 宅 バ ブ ル 抑 制 の た
めに大幅に引上げられていた頭金比率が一部で引下げられるなど住宅購入規制の緩
和 が 進 み 、 大 都 市 を 中 心 に 住 宅 価 格 も 上 昇 に 転 じ て い ま す ( 図 表 5 )。 ま た 、 景 気 テ
コ 入 れ の た め の イ ン フ ラ 投 資 の 拡 大( 図 表 6 )や 消 費 促 進 の た め の 自 動 車 購 入 減 税 も
2 0 1 5 年 1 0 月 か ら 実 施 さ れ て い ま す 。こ れ ら の 一 連 の 政 策 の 効 果 も 寄 与 し て 中 国 経 済
は失速を免れていると考えられます。
図表3.中国の購買担当者指数の推移
図表4.中国の 1 年物貸出金利の推移
(%)
(%)
57.0
6.5
56.0
55.0
6.0
54.0
5.5
53.0
52.0
5.0
51.0
50.0
4.5
49.0
48.0
13
14
15
製造業
(出所)CEIC
4.0
16
13
14
15
16
(出所)CEIC
サービス業
図表5.中国の住宅価格の推移
図表6.中国のインフラ関連投資の推移
(年初来累計前年比、%)
(前年比、%)
12.0
40.0
10.0
30.0
8.0
6.0
20.0
4.0
2.0
10.0
0.0
0.0
-2.0
-4.0
-10.0
-6.0
-8.0
11
12
13
14
(注)70大中都市の平均新築商品住宅価格の前年比。
(出所)CEIC
15
16
-20.0
13
(出所)CEIC
14
鉄道
15
高速道路
16
水利・環境等
Q3.中国経済にとって今年の重点課題は何ですか?

中 国 経 済 に つ い て 過 度 に 悲 観 す る 必 要 は な い と は い う も の の 、し か し 安 易 に 楽 観 す る
こ と も で き ま せ ん 。と い う の も 、中 国 経 済 は 現 在 、こ れ ま で の 高 速 成 長 モ デ ル か ら 持
続可能な中高速成長モデルへの変革という大きな困難を伴う構造調整の真只中にあ
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るからです。

当 面 は リ ー マ ン ・シ ョ ッ ク 後 の 大 規 模 な 景 気 浮 揚 策 の 後 始 末 が 重 要 課 題 で す 。 過 剰 生
産 能 力 ・ 過 剰 在 庫 ・ 過 剰 債 務 と い う 3 つ の 過 剰 の 解 消 が こ れ に 当 た り ま す 。名 目 ベ ー
ス で 前 年 比 2 割 ∼ 3 割 増 の ペ ー ス で 固 定 資 産 投 資 が 続 い た 結 果 、需 要 を 大 幅 に 上 回 る
生 産 能 力 が 建 設 さ れ ま し た 。石 炭 、鉄 鋼 な ど が 代 表 的 な 業 種 で す が 、供 給 過 剰 を 背 景
に 価 格 の 低 迷 が 続 い て お り 、生 産 者 物 価 は 2 0 1 2 年 3 月 以 降 、今 年 4 月 ま で 5 0 カ 月 連
続 し て 前 年 比 マ イ ナ ス で 推 移 し て い ま す ( 図 表 7 )。 た だ し 、 足 元 、 業 界 再 編 が 進 み
始 め て い る と み ら れ る こ と 、ま た 株 価 下 落 を 嫌 気 し た 投 資 資 金 が 商 品 先 物 市 場 に 流 入
し て 価 格 が 押 し 上 げ ら れ て い る こ と な ど も あ り ( 図 表 8 )、 マ イ ナ ス 幅 は 縮 小 傾 向 に
あります。

一 方 、景 気 下 支 え の た め の 金 融 緩 和 を 背 景 に 非 金 融 部 門 の 債 務 残 高 が 急 拡 大 し て い る
こ と に 対 し て 国 際 金 融 界 は 警 鐘 を 鳴 ら し て い ま す 。名 目 G D P 比 で み た 債 務 水 準 は 2 0 1 5
年 7-9 月 期 に は 248.6% と 米 国 ( 同 248.0% ) と 並 ぶ 水 準 に 達 し て い ま す 。 ま た 2012
年 以 降 の 債 務 水 準 の 上 昇 テ ン ポ が 急 で あ る こ と も 大 き な 懸 念 材 料 で す ( 図 表 9 )。
図表7.中国の生産者物価の推移
図表8.中国の資産価格の推移
(前年比、%)
140
120
100
80
60
40
20
0
-20
-40
-60
-80
13
(前年比、%)
2.0
1.0
0.0
-1.0
-2.0
-3.0
-4.0
-5.0
-6.0
-7.0
12
13
14
15
14
12
10
8
6
4
2
0
-2
-4
-6
-8
14
株価(左目盛)
16
(出所)CEIC
(前年比、%)
15
16
鉄鋼先物(左目盛)
住宅価格(右目盛)
(出所)CEIC
Q4.経済改革は進みますか?

3 つ の「 過 剰 」の 解 消 は 短 期 的 に は 景 気 に と っ て 大 き な 下 押 し 圧 力 に な り ま す 。中 国
政 府 が 様 々 な 景 気 下 支 え 策 を 講 じ て い る の は 、過 剰 問 題 の 解 決 の た め と は い え 、そ れ
によって経済が不安定化してしまわないように配慮しているためです。

し か し 、安 定 重 視 で 構 造 調 整 に つ な が る 改 革 が ま っ た く 進 ま な く な っ て い る と い う わ
け で も あ り ま せ ん 。例 え ば 、最 近 の 人 民 元 相 場 の 動 向 に は 以 前 よ り 市 場 実 勢 に 近 づ け
る と い う 改 革 方 向 へ の 進 展 が み ら れ ま す 。 人 民 元 の 為 替 相 場 シ ス テ ム は 2005 年 7 月
に 米 ド ル ・ ペ ッ グ 制 か ら バ ス ケ ッ ト 通 貨 に 連 動 す る 管 理 相 場 制 に 移 行 し た も の の 、リ
ー マ ン ・シ ョ ッ ク や 欧 州 債 務 危 機 と い っ た 金 融 市 場 の 混 乱 の 都 度 、 米 ド ル ・ ペ ッ グ 制
に 戻 っ て 安 定 が 図 ら れ て き ま し た 。し か し 、足 元 の 人 民 元 の 対 ド ル 相 場 の 動 き は 欧 州
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通 貨 ユ ー ロ の 対 ド ル 相 場 に よ く 連 動 し て い ま す ( 図 表 1 0 )。 こ れ は 人 民 元 の 相 場 の
調 整 に 際 し て 、バ ス ケ ッ ト 通 貨 の 中 で 米 ド ル に 次 ぐ シ ェ ア を 持 っ て い る と 考 え ら れ る
ユ ー ロ の 相 場 変 動 も 参 照 し て い る こ と 、す な わ ち 、米 ド ル ・ ペ ッ グ で は な く 、バ ス ケ
ット通貨への連動を強めていることを示唆していると考えられます。

当面は安定と改革という短期的には両立が難しい課題のいずれをも睨んだ経済運営
が 続 け ら れ る と み ら れ ま す 。し た が っ て 景 気 は V 字 回 復 で も U 字 回 復 で も な く 、L 字
基調を続けると考えられています。
図表9.中国の非金融部門の債務残高の推移
図表10.人民元の対ドル相場の推移
(米ドル/ユーロ)
(人民元/米ドル、逆目盛)
(GDP比、%)
260.0
6.0
240.0
6.1
220.0
6.2
200.0
180.0
160.0
↑人民元高
↑ユーロ高
1.30
6.3
1.25
6.4
1.20
1.15
1.10
6.6
120.0
1.05
6.7
100.0
01 02 03 04 05 06 07 08 09 10 11 12 13 14 15
1.40
1.35
6.5
140.0
1.45
1.00
13
14
15
16
人民元/米ドル(左・逆目盛)
(出所)BIS
中国
米国
(出所)CEIC
米ドル/ユーロ(右目盛)
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