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テンソル解析
一般相対性理論では座標系の変換を行っても物理法則は不変にならなければならないという要請が入ってきているた
めに、これに見合うような数学を見つけなければならなく、それをテキトーにまとめてます (特殊相対論は知ってる
こと前提)。その数学がテンソルであって、テンソルを使うことで座標系に依存しない体系を作れます。また、大分あ
とに微分幾何学によって定義しなおしますが、そんな細かいことを最初は気にする必要はないです。最初の頃はなん
となく暗記して、実際に使われているのを見ながらどんなものなか知っていけばいいと思います。いきなりテンソル
で悩むのは専門的に勉強していこうと思わない限り時間の無駄です。実際、一般相対論の結果としての物理を理解す
ることが目的なら、テンソル解析なんかすっ飛ばしていいです。このことを実践している本がジェームズ・ハートル
著 (訳:牧野伸義) の「重力 アインシュタインの一般相対性理論入門」です。この本だとテンソルの細かい説明が最
後に出てきます。
添え字の注意ですが、「テンソルの対称・反対称」までは特に明言しない限り、空間の次元を任意に取ります。「測地
線方程式」以降では逆に、明言しない限り 4 次元時空を使います。
• スカラー
スカラー量は参照する座標に対して依存しないもの、つまり空間に存在する任意の点 x における値 f (x) はど
んな座標系で見ようとも同じ点であるかぎり不変であるということです。これが最も単純な座標系に依存しな
い不変量です。
スカラーの座標を座標系 (x) から座標系 (x) に変換したときの値は、関数 f でなく違う関数 f によって表現
されるんですが
f (x) = f (x)
という関係を持ちます。これによって座標系に依存しない不変量であることが表現されます。ちなみに、この
ように f (x) と表されているものをスカラー場と呼びます。
ここで線素 (line element)ds の 2 乗というのが
ds2 =
∑
gik dxi dxk
i,k
で与えられ (添え字のローマ文字は成分を表わします))、これは座標変換に対して不変であるためにスカラーに
なっています。これは 2 点間の距離の 2 乗に対応していて、計量テンソルのところでふれます。2 点間の距離の
2 乗は座標変換に対して不変であるために、スカラーになるということです。また、座標変換において ds2 を不
変にするように、gik や dx は変換されます。
• 座標変換
座標変換は 2 つの座標系をつなぐ変換です。例えば 4 次元空間において、x0 , x1 , x2 , x3 によって与えられる
座標系と、x0′ , x1′ , x2′ , x3′ によって与えられる座標系とを
x′µ = f µ (x0 , x1 , x2 , x3 )
xµ = g µ (x′0 , x′1 , x′2 , x′3 )
1
(µ = 0, 1, 2, 3)
(µ = 0, 1, 2, 3)
このように繋ぐものとして座標変換は定義されます。f µ , g µ はそれぞれが独立な 4 つの関数です。簡単に言え
ば、座標 xµ によって表現される空間上のある点を違う座標 x′µ で書くということです。さらに別の言い方をす
れば、同じ点を異なった基底で見ていると言えます。
座標変換における偏微分は
∑ ∂xj ∂x′i
∑ ∂x′j ∂xi
j
,
=
δ
= δkj
k
′i ∂xk
i ∂x′k
∂x
∂x
i
i
という関係を持っています。δji はクロネッカーデルタで
{
δji
=
1
i=j
0
i ̸= j
と定義されます。添え字の上付きと下付きの意味は次で説明します。偏微分の逆数は分母と分子を入れ替えた
ものではないという性質からすぐには分かりづらいですが、座標変換の定義から
δji =
∑ ∂xi ∂x′k
∂xi
∂g i (x′ ) ∑ ∂g i (x′ ) ∂x′k
=
=
=
j
j
′k
j
∂x
∂x
∂x
∂x
∂x′k ∂xj
k
k
となっていることから分かります。実際に、例えば 2 次元直交座標 (x, y) から 2 次元極座標 (r, θ) への変換を見
てみると、実際に
∂x1 ∂x′i
∂x ∂r
∂x ∂θ
=
+
= cos2 θ + sin2 θ = 1
′i
1
∂x ∂x
∂r ∂x
∂θ ∂x
∂r
∂x
= cos θ ,
= cos θ
∂r
∂x
∂x
∂θ
sin θ
= −r sin θ ,
=−
∂θ
∂x
r
となっています。また、x′ から x への変換における n × n 行列のヤコビアン (i, j = 0, 1, 2, . . . , n)
∂x1
∂x′1
i
∂x
′
|J(x, x )| = | ′j | = ...
∂x
∂xn
∂x′1
···
..
.
∂x1
∂x′n
..
.
···
∂xn
∂x′n
からも分かります。| | は行列式です。|J(x, x)| = |J(x, x′ )||J(x′ , x)| という性質に、x = x、∂xj /∂x′i を行列 A、
∂x′i /∂xk を行列 A′ として入れれば
|
∑ ∂xj ∂x′i
∂xj
′
′
|
=
|A||A
|
=
|AA
|
=
|
|
∂xk
∂x′i ∂xk
i
となることからも分かります。
2
座標変換において、座標変換でのヤコビアン |∂xi /∂x′j | と |∂x′i /∂xj | が 0 にならないことが要求されます。0
になってしまうと線形代数の話から分かるように逆変換が出来ず、片方の座標系からもう一方への座標系への
変換が一方通行になってしまうからです。
• 反変ベクトル
座標系(x)でのある点でのベクトル xi とそこから微小移動させた点 xi + dxi を考えます。このときの差 dxi
が、違う座標系 (x) においてどう表現されるのかというと、座標変換の定義から
dxi =
∑ ∂f i
∑ ∂xi
j
dx
=
dxj
j
j
∂x
∂x
j
j
という変換則によって表されます。xi は座標を表すものでしかないので、次にこの座標を変数に持つベクトル
V i (x) を考えます (ベクトル場)。dxi と同じように、座標系 (x) でのベクトル V i (x) と座標系 (x) でのベクトル
i
V (x) が
i
V =
∑ ∂xi
Vj
j
∂x
j
このような変換で表せるものを反変ベクトル (contravariant vector) と呼びます。当たり前ですが、これを逆向
きに書けば
Vi =
∑ ∂xi j
V
∂xj
j
となります。
• 共変ベクトル
適当なスカラー f (x) を用意します。で、これの ∂f (x)/∂xi は偏微分の規則から、変換は
∑ ∂xj ∂f
∑ ∂xj ∂f
∂f
=
=
∂xi
∂xi ∂xj
∂xi ∂xj
j
j
∑ ∂xj ∂f
∑ ∂xj ∂f
∂f
=
=
j
∂xi
∂xi ∂x
∂xi ∂xj
j
j
このようになります (f (x) = f (x))。そして、これと同じ変換則
∑ ∂xj
Vi =
j
Vi =
∂xi
∑ ∂xj
j
3
∂xi
Vj
Vj
で表されるものを共変ベクトル (covariant vector) と呼びます。
微分 ∂/∂xi は共変ベクトル、∂/∂xi は反変ベクトルの変換規則に従います。微分では ∂/∂xi の添え字は xi
のように上付きになっていますが、共変ベクトルなので実際には下付きです。共変と反変をはっきりさせるた
めに記号として ∂/∂xi = ∂i 、∂/∂xi = ∂ i というのがよく使われます。
• 反変ベクトルと共変ベクトルの内積
共変ベクトル Ai 、反変ベクトル B i の内積は
P =
∑
Ai B i
i
と書くことができます。そして、これの座標変換したものによる内積
P =
∑
Ai B
i
i
を計算してみます。共変と反変の変換則から

∑ ∂xk
∂xi j ∑ ∂xk ∂xi
A
B =
A Bj
i k ∂xj
i ∂xj k
∂x
∂x
i,j,k
i,j,k
Ai =

∑ ∂xi
j
Ak , B =
B
∂xj
∂xi
j
∑ ∂xk
k
i
この微分部分は上でも言ったように
∑ ∂xk ∂xi
∂xk
k
=
δ
=
j
∂xj
∂xi ∂xj
i
このようにクロネッカーデルタで表してやることができます。添え字の j がクロネッカーデルタの下について
いるように、微分演算子 ∂/∂xj は、添え字が下付きの量であるというのには注意してください (∂/∂xj では上
付き)。
よって、内積は
P =
∑
δjk Ak B j =
∑
Aj B j
j
j,k
というように書き換えられます。なので
P =
∑
Aj B j
j
のように文字を付けてやれば、これが
P =
∑
i
4
Ai B
i
(δjk Ak = Aj )
と等しいことになります。添え字が違うだけでやってることは同じなので、座標変換で内積は不変になってお
りスカラーになります。
• アインシュタインの規約
Vi =
∑ ∂xj
i
j
∂x
Vj ⇒ V i =
∂xj
Vj
∂xi
のようにΣ記号を省くことをアインシュタインの規約といいます。このときの和を取っている添え字 j のこと
をダミーインデックス (dummy index) といい、そうでない添え字をフリーインデックス (free index) といいま
す。ダミーとついているのは
Vi =
∂xj
∂xk
V =
Vk
i j
∂x
∂xi
のように添え字の文字を j → k のようにしても結果に何も影響を与えないことからです。なので、ダミーイン
デックスの文字は計算の途中に好き勝手に変えていいことになります。
また、アインシュタインの規約が行われるのは一般的に添え字が上下に現れるときで、別の例として ds2 では
ds2 =
∑
gik dxi dxk ⇒ ds2 = gik dxi dxk
i,k
のように書けます。定義によっては添え字が上下に分かれていない時にもΣを省いて書いてあるものもあるの
で気をつけたほうがいいです。
• テンソル
あからさまに分かりづらいですが
j1
j2
jb
···ia
P = (Tji11ji22···j
)(Ai1 Ai2 · · · Aia )(B(1)
B(2)
· · · B(b)
)
b
(1)
(2)
(a)
のような多重積を作ります。左辺の P はスカラーで、右辺で (T )(A · · · )(B · · · ) のように括弧をつけているのは
(1)
区別をはっきりさせるためです。Ai1 は (1) でのベクトルの i1 成分であることを表しています。ようは A(1) と
A(2) は違うベクトルで、下についている添え字がベクトルの成分を表わすということです。この式を満たすよ
···ia
うな Tji11ji22···j
のことを (a+b) 階のテンソル (tensor of rank (a+b) ) と言います。細かく言うと例えば、T i1 i2
b
を 2 階の反変テンソル、Tj1 j2 を 2 階の共変テンソル、Tji11 を 2 階の混合テンソルと言います。一般に l 階の反
変テンソルを (l, 0) 型、k 階の共変テンソルを (0, k) 型、混合テンソルでは (l.k) 型と言います。
また、スカラーで出てきた ds2
ds2 = gik dxi dxk
での計量 gik は 2 階の共変テンソルになります。細かい話をすると
5
i
k
P = Tik B(1)
B(2)
のようにテンソルは定義されており、(1),(2) と付いているようにこの二つは違うベクトルとされています。
dxi , dxk というのは添え字が違うだけで同じ反変ベクトルとなっているので微妙にここでの定義と違っていま
す。実際のところどうなのかというのは dx(1) 、dx(2) の任意の二つのベクトルによって dx が作られているとし
て計算してみればわかって
ds2
= gik (dxi(1) + dxi(2) )(dxk(1) + dxk(2) )
= gik dxi(1) dxk(1) + gik dxi(2) dxk(2) + 2gik dxi(1) dxk(2)
これからまず、第一項、第二項はスカラーだと分かります。で、左辺はスカラーなので第三項もスカラーでな
くてはならないことになり、gik は 2 階の共変テンソルだということになります。
ちなみに 0 階のテンソルはスカラー、1/2 階のテンソルはスピノール、1 階のテンソルはベクトルです。
• テンソルの変換則
i1 i2 ···ia
(1)
(a)
j1
jb
(T j1 j2 ···jb )(Ai1 · · · Aia )(B (1) · · · B (b) )
j1
j2
jb
···ia
= (Tji11ji22···j
)(Ai1 Ai2 · · · Aia )(B(1)
B(2)
· · · B(b)
)
b
(1)
(2)
(a)
これの左辺に共変と反変ベクトルの変換則を適用させれば
i1 ···ia
(T j1 ···jb )(
∂xm1
∂xma
∂xj1
∂xjb
n1
nb
(2)
(a)
···
)(A(1)
· · · n )(B (1) · · · B (b) )
m1 Am2 · · · Ama )(
i1
ia
n
1
∂x
∂x b
∂x
∂x
n1
na
···ma
(a)
= (Tnm11···n
)(A(1)
m1 · · · Ama )(B(1) · · · B(b) )
b
右辺の添え字は自由に変えられるので、こうしても問題ないです。そうすると
i1 ···ia
T j1 ···jb (
∂xm1
∂xma ∂xj1
∂xjb
···ma
···
)( n1 · · · n ) = Tnm11···n
i1
ia
b
∂x
∂x b
∂x
∂x
これに
(
∂xk1
∂xka ∂xn1
∂xnb
·
·
·
)(
·
·
·
)
∂xm1
∂xma ∂xl1
∂xlb
を掛けてやれば
k1 ···ka
T l1 ···lb = (
∂xk1
∂xka ∂xn1
∂xnb m1 ···ma
·
·
·
)(
·
·
·
)Tn1 ···nb
∂xm1
∂xma ∂xl1
∂xlb
6
というものを得ることができ、これがテンソルの変換則になります。例えば
ij
Tk =
∂xi ∂xj ∂xc ab
T
∂xa ∂xb ∂xk c
となっています。ついでに線形性より
aTcab + bScab = Ucab
このように添え字が等しいもの同士を足せばまたテンソルになります (a, b は任意の定数)。
特に変なことでもなく話の流れから当たり前のことですが、この変換則からわかるように、もしテンソル T
と T ′ がある座標系で等しかったら、他のあらゆる座標系においても T と T ′ は等しくなります。こういったこ
とからテンソルだと分かっているいくつかの量が等しいということを導きたかったら、最も証明しやすい座標
系を選んで証明していくことが可能だということです。
• テンソル積
テンソル同士の掛け算である
Gαβµν
= Tγαβ S µν
γ
というものを考えていきます。これがある座標系では
αβµν
Gγ
αβ
= Tγ S
µν
になっていると考えればテンソルの変換則を使って
αβ
Tγ S
µν
=
∂xα ∂xβ ∂xk ij ∂xµ ∂xν lm
T
S
∂xi ∂xj ∂xγ k ∂xl ∂xm
G に変えれば
αβ
Tγ S
µν
=
∂xα ∂xβ ∂xk ∂xµ ∂xν ijlm
G
∂xi ∂xj ∂xγ ∂xl ∂xm k
なので
αβµν
Gγ
=
∂xα ∂xβ ∂xµ ∂xν ∂xk ijlm
G
∂xi ∂xj ∂xl ∂xm ∂xγ k
となることがわかります。これによって2つのテンソルによる Tγαβ S µν = Gαβµν
はテンソルになることが示さ
γ
れたことになり、こういったテンソル積のことを Tγαβ と S µν の外積と言ったりもします。
7
• テンソルの分解
n 次元空間で階数が q > 1 のテンソルは、q 個によるベクトルのテンソル積を足していくという形で書くこ
とができます。そして、 その分解されたテンソルのベクトル積の最低数は nq−1 となっています。証明は省き
ます。
例えば 4 次元における 2 階のテンソルは
k
k
k
k
T ik = Ai(1) B(1)
+ Ai(2) B(2)
+ Ai(3) B(3)
+ Ai(4) B(4)
と書けます (4 次元なので、42−1 = 4 項出てくる )。ここでも ( ) のついた添え字は違うベクトルだということ
を表すものです。また、3 階の混合テンソルであれば
(1)
k
Tjik = Ai(1) B(1)
Cj
(2)
(16)
k
k
Cj
+ Ai(2) B(2)
Cj · · · + Ai(16) B(16)
とかけます。(43−1 = 16)
• 縮約
テンソルとして
i i ···i
µ
Tj11j22···ja−1
b−1 µ
のように添え字の一つが上下で等しいものを考えてみます。このときアインシュタインの規約によって µ での
全ての和を取れということになり、そうすることで 2 階低いテンソルが出来上がることになります(a + b − 2)。
これのことを縮約(contraction)といいます。実際にそうなていることは、これの変換
i1 ···ia−1 µ
T j1 ···jb−1 µ =
( ∂xi1
∂xα1
···
∂xia−1 ∂xµ )( ∂xβ1
∂xβb−1 ∂xβb ) α1 ···αa
·
·
·
Tβ1 ···βb
∂xαa−1 ∂xαa
∂xj1
∂xjb−1 ∂xµ
を見てみることが分かります。これに出てきている µ の部分は
∂xµ ∂xβb
= δαβba
∂xαa ∂xµ
というように潰れ、クロネッカーデルタによって βb = αa = ν となるので
i1 ···ia−1 µ
T j1 ···jb−1 µ =
∂xi1
∂xia−1 ∂xβ1
∂xβb−1 α1 ···αa−1 ν
T
· · · αa−1
···
j
α
1
1
∂x
∂x
∂x
∂xjb−1 β1 ···βb−1 ν
これから、階数が (a − 1) + (b − 1) = a + b − 2 となっていることがわかります。具体的に書くと
i i ···i
i ···i
ν
= Tj11j22···ja−1
Sj11 ···ja−1
b−1 ν
b−1
のような関係になります。
8
縮約は、Σ記号を省かずに書くと
Ajkl =
∑
ij
Bikl
i
のようになっています。
• 商定理 (Quotient Theorem)
ある任意のベクトル V jb があったとして
···ia
···ia jb
Sji11 ···j
= Tji11···j
V
b−1
b
···ia
···ia
として Sji11 ···j
がテンソルだとすれば、Tji11···j
はテンソルになるというものです。一般的には、任意のテンソ
b−1
b
ν
ル Rijab ···j
···iµ として
i ···i
i ···i
i ···i
jb ···jν
a−1 a
µ
Sj11 ···ja−1
= (Tj11···jb−1
jb ···jν )(Ria ···iµ )
b−1
i ···i
i ···i
a−1 a
µ
がテンソルだとすれば、Tj11···jb−1
jb ···jν はテンソルになります。
簡単のために
Sa1 a2 ···an = Ta1 ···an b V b
として証明します。Sa1 a2 ···an がテンソルだとすれば、テンソルの変換則から
b
T a1 ···an b V = Ti1 ···in j
∂xi1
∂xin ∂xj k ∂xb
V
a1 · · ·
∂x
∂xan ∂xb
∂xk
= Ti1 ···in j
∂xi1
∂xin k j
V δk
a1 · · ·
∂x
∂xan
= Ti1 ···in j
∂xi1
∂xin j
V
a1 · · ·
∂x
∂xan
= Ti1 ···in j
∂xi1
∂xin ∂xj b
V
a1 · · ·
∂x
∂xan ∂xb
b
V は任意なので
T a1 ···an b = Ti1 ···in j
∂xi1
∂xin ∂xj
a1 · · ·
∂x
∂xan ∂xb
よって、Ti1 ···in j はテンソルの変換則に従っているので、Sa1 a2 ···an がテンソルなら Ta1 ···an b はテンソルです。
9
• 添え字の上げ下げ
テンソル T jk に 2 階の共変テンソル gik を作用させて
T ji = gik T jk
のように 2 階の混合テンソルにすることができます。また
gab gik T ak = Tbi
のように反変を共変に変えるという作業も行えます。この 2 階の共変テンソル gik は基本テンソル (fundamental
tensor) と呼ばれ、テンソルの計算ではかなり多用されるものです。添え字を下げるものが出てきましたが、逆
に添え字を上げるものは g ik になっていて gik の逆行列にあたります。これを使えば
g ab g ik Tak = T bi
のように共変を反変に変えられます。添え字の上げ下げで注意することは
Tij = gik T jk , Tij = gik T kj
のようなものは一般的には等しくなりません (例えば、T kj の添え字 k, j の入れ替えに対して符号が変わるもの
とか)。なので表記としては
T ji = gik T jk , Ti j = gik T kj
このように添え字の位置をずらして書きます。T jk = T kj であればこんなことは気にしないでも大丈夫です。
ここで基本テンソルだといっているものは計量空間においては計量テンソルがそれに当てはまるので一般相対
性理論における 4 次元空間の話では計量テンソルを使うことになります。
• 計量テンソル
リーマン空間における計量テンソルは線素を作る時に
ds2 = gij dxi dxj
このようにして定義されます。特に D 次元ミンコフスキー空間においては
g00 = +1 , g11 = −1 , g22 = −1 , g33 = −1 , · · · gD−1D−1 = −1
のように選ばれます (もしくは g00 = −1, g11 = +1, · · · )。上付きと下付きの計量テンソルは逆行列の関係になっ
ているので
10
gij g ik = δji
となっていて、i = j ならトレースとなって空間の次元の数と一致します。例えば 4 次元なら
gij g ij = 4
相対論では計量の行列式 g = det gij がわりと頻繁に出てきます (gij の行列式であることに注意)。ここで、行
列式 g の微分を求めておきます。g ik と gik は逆行列の関係 (g ik gik = δii ) になっていて、逆行列は余因子を使う
ことで
g ik =
∆ik
g
で求められます (数学の「余因子行列」参照)。∆ik は gik の余因子です。余因子を使って行列式を表すと
g=
∑
gik ∆ik
i
となっているので
∂g
= ∆ik
∂gik
1 ∂g
= g ik
g ∂gik
ということになります。なので、行列式の計量の変化に対する変化量 dg は
dg = gg ik dgik
となります。
この場合、gik dg ik = g ik dgik ではないことには気をつけてください。このことは、g ik gik = δii であることを
使うと分かります。定数であるので微分すれば 0 になることから
d(g ik gik ) = gik dg ik + g ik dgik = 0
つまり
gik dg ik = −g ik dgik
のように添え字の上付き下付きを変えると符号が反転します。これを使えば
11
1 ∂g
= −gik
g ∂g ik
となっていることも分かります。同様に考えることで、gik g kj = δµν から
∂gik kj
∂g kj
g
+
g
=0
ik
∂xl
∂xl
というのも出てきます。
通常、計量テンソルの行列式は g = det gij のように下付きに対して定義しており、g ij に対する行列式は
gik g kj
=
det(gik g kj ) =
det(gik ) det(g kj ) =
kj
g det(g ) =
δij
det δij
1
1
より、det g kj = g −1 となっています。
• テンソル密度
テンソル密度 tij···
ab··· というのは
ij···
tmn··· =
( ∂(x1 , x2 , · · · ) )W ∂xi xj
∂xc ∂xd
· · · m n · · · tab···
cd···
1
2
a
b
∂x ∂x
∂x ∂x
∂(x , x , · · · )
このような変換に従うものです。|∂(x1 , x2 , · · · )/∂(x1 , x2 , · · · )| はヤコビアンを表わしており
1
2
∂(x , x , · · · )
|
|
=
1
2
∂(x , x , · · · )
∂x1
∂x12
∂x
∂x1
..
.
∂x1
∂x2
∂x2
∂x2
..
.
··· ··· . . .
| | は行列式です。0 階のテンソル密度をスカラー密度、1 階のテンソル密度をベクトル密度と言います。例え
ば、計量の行列式 det gij = |gij | = g は
g = |g ij | = |gab
∂xa ∂xb
∂xa ∂xb
∂xa 2
|
=
|g
||
||
|
=
g|
|
ab
∂xi ∂xj
∂xi ∂xj
∂xi
と書けるので W = 2 でのスカラー密度です。
ヤコビアンが計量の行列式 g になっているなら
(−g)−W/2 tmn = (−g)−W/2
ij
12
∂xi xj
∂xc ∂xd
·
·
·
· · · tab···
cd···
∂xa ∂xb
∂xm ∂xn
ここで W = 1 のとき、tab···
cd··· が
√
ab···
−gTcd···
tab···
cd··· =
ab···
ab···
このようになってれば、Tcd···
はテンソルの変換則に従うので、Tcd···
はテンソルです。大抵の場合で、テンソ
√
ル密度といったときはこの形を指します。なぜなら、 −g は不変な体積要素を作る時に出てくるものだからで
√
√
す (「共変微分」参照)。 −gA ならスカラー密度、 −gAi ならベクトル密度です。
• クロネッカーデルタ
クロネッカーデルタの基本的な形は
{
δji =
1
i=j
0
i ̸= j
トレースは
D
∑
δii = D
i=1
クロネッカーデルタはさらに拡張することができて
ab
δij
=
(δia δjb
−
δib δja )
δa δb i i = a b δj δj | | は行列式です。同じようにして添え字の数を増やしていけます。例えば、6 個なら
abc
δijk
δa δb δc
i i i
= δja δjb δjc
δa δb δc
k
k
k
となります。また、この構造から分かるように
ab
δij
abc
δijk


 +1 a ̸= b , a = i , b = j
=
−1 a =
̸ b, b=i, a=j


0
それ以外


 +1 a ̸= b ̸= c , i,j,k を固定して a,b,c が偶置換
=
−1 a =
̸ b ̸= c , i,j,k を固定して a,b,c が奇置換


0
それ以外
添え字の数が増えても同じようになります。
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• レヴィ・チビタテンソル
レヴィ・チビタ記号はいろいろなところに出てくる反対称な記号で、4 次元において
ϵijkl


 +1 ijkl が偶置換
=
−1 ijkl が奇置換


0
それ以外
反対称な記号なので添え字の文字が同じだと 0 になります (例えば、ϵ1123 = ϵ1223 = 0 とか)。
j
l
k
i
を用意します (括弧つきの添え字がベクトルの
, ξ(4)
, ξ(2)
, ξ(3)
ここで、4 次元空間における 4 つのベクトル ξ(1)
区別をしています)。これによって
j
i
k
l
ξ(2)
ξ(3)
ξ(4)
D = ϵijkl ξ(1)
i
というのを考えます (i, j, k, l は 1 ∼ 4)。これは ξ(a)
の行列式に対応します。D の変換はベクトルの変換
i
ξ (a) =
∂xi l
ξ
∂xl (a)
によるので
D=
∂(x1 , x2 , · · · )
D
∂(x1 , x2 , · · · )
となっています。これとテンソル密度の式を比べると、D−1 はスカラー密度になっていることが分かります。
√
√
よって、D−1 がスカラー密度なので −g で割ればスカラーになることから、 −gD はスカラーです。つまり、
√
両辺に −g をかけた
√
√
j
i
k
l
−gD = −gϵijkl ξ(1)
ξ(2)
, ξ(3)
ξ(4)
√
√
これの左辺はスカラーであるために、 −gϵijkl はテンソルになっていなければいけません。そのため −gϵijkl
√
をレヴィ・チビタテンソルと呼びます。また、 −g がついているので、すぐに ϵijkl はテンソル密度になっている
ことも分かり、レヴィ・チビタテンソル密度と呼んだりします (共変での)。式の形から分かるように、W = +1
となっています。この話によって、±1 の値を持つのはレヴィ・チビタテンソル密度になっています。添え字が
上付きの場合も同じように作ることができて、その場合ヤコビアンが逆になるだけなので、すぐに
1
√ ϵijkl
−g
が反変でのレヴィ・チビタテンソルであることが分かります (W = −1)。
レヴィ・チビタテンソルはテンソルなので添え字の上げ下げが (レヴィ・チビタテンソルを eabcd , eabcd と書き
ます)
eijkl = gia gjb gkc gld eabcd
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eijkl = g ia g jb g kc g ld eabcd
と素直に行うことができます。この式から、共変でのレヴィ・チビタテンソル密度の値がどうなっているのか分
かります。反変でのレヴィ・チビタ密度 ϵabcd が a, b, c, d = 1, 2, 3, 4 の並びに対して偶置換なら +1、奇置換なら
−1 だと定義し、i, j, k, l = 1, 2, 3, 4 だとしたときに
1
√ ϵijkl
−g
1 1234
√ ϵ
−g
=
√
g ia g jb g kc g ld −gϵabcd
=
√
g 1a g 2b g 3c g 4d −gϵabcd
g 1a g 2b g 3c g 4d ϵabcd は g ij の行列式のことを表しているので
1
√ ϵ1234
−g
ϵ1234
=
1√
−g
g
= −1
この結果から、ϵ1234 = +1 に対して ϵ1234 = −1 だということが分かり他の場合も同様なので、符合が反転しま
す。反変と共変のレヴィ・チビタテンソル密度の符号の定義は本によって違う場合があるので注意してください。
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