1~10

ひらひらの手①
私の職場はろう学校です。28年前に呉ろう学校に入ってから、約30年ろう学校を近
の職場はろう学校です。28年前に呉ろう学校に入ってから、約30年ろう学校を近
くから、遠くから見てきたことになります(間で10年間養護学校にいましたので)
。ろう
学校にはたいてい、幼稚部から高等部まであるのはご存じですね。同じ学校に15年間通
うことになります。そして、正式な入学ではないけれど、赤ちゃんから2歳児までのクラ
スもあります。ここ数年間この乳幼児クラスや、幼稚部に関わってきて、小さな手が実に
かわいく話すのを見てきました。この広報を借りて、子ども達の様子を少し皆さ
かわいく話すのを見てきました。この広報を借りて、子ども達の様子を少し皆さんにお伝
えしたいな、と思います。
広島のろう学校は、赤ちゃんにも手話を併せて話かけます。おうちでも手話で話しても
らいます。赤ちゃんの手をもって、教えるわけではないけれど自然に子どもも手話を覚え
ていくわけです。意味のある手の動きの前に、たいていの子は「ひらひら」手を動かす練
習を始めます。大人と一緒におやつを食べている。手話りながら食べる大人を、子どもは
下から見上げる形。あらあら、まるで阿波踊りのように手を「ひらひら」聞こえる子の喃
語のように、手を動かしている。「まぁー、そんなふうに見えてるんだね~」
「ひらひらの手」はおしゃべりの始まり。さぁ次はどんなことを話してくれるのかな。
らひらの手」はおしゃべりの始まり。さぁ次はどんなことを話してくれるのかな。
2005.8
ひらひらの手②「こわい」
2005.9
Aくんは1歳4か月。最近、
「こわい」と「おはよう」ということば(手話)を覚えまし
た。Aくんのこわいものは、大玉ころがしの大玉と、じゃばらのトンネルと、戸がついて
いる6つ並んだロッカー、開けたときに「こわい」と言います。初め開けさせたくないの
に開けたとき、教員が「ここはこわいのがあるよ」と教えたのでしょう。大玉とトンネル
に開けたとき、教員が「ここはこわいのがあるよ」と教えたのでしょう。大玉とトンネル
は、なぜかこわいのですが、出すとこわがるのがおもしろくて、大人が出してこわがらせ
ます。ロッカーは、自分でその前に行って、開けてと要求し、開くと「こわい、こわい」
と言います。こわいけれど、見たい。おばけやしきのような気持ちかな。そして「こわい、
こわい」と言ったときの大人の反応がおもしろくて、何回もするのでしょう。コミュニケ
ーションってこういうものですね。
子どもが言ったことに、大人が応える。それがおもしろい。何も応えなければ、つまら
ない。また「何それ、ふーん」て感じで応えると、言った方もおもしろくないですよね。
ない。また「何それ、ふーん」て感じで応えると、言った方もおもしろくないですよね。
「ア
ハハ」と笑ったときに共有できる。発信→受信→共有。それの繰り返しでことばを覚えて
いくのでしょう。
みなさんが手話を覚えていく
みなさんが手話を覚えていく過程も同じ事が言えるでしょう。テレビやビデオで覚えて
も同じ事が言えるでしょう。テレビやビデオで覚えて
も、覚えたつもりで終わってしまう。他の人と話して、「そうそう」と言ってもらったり、
「??」伝わらなかったり、コミュニケーションしていくことで、自分のことばになって
いきます。
「おはよう」については、次回に。
ひらひらの手③「おはよう」
2005.10
朝登校してくると、会う人ごとに「おはよう」
「おはよう」という挨拶が交わされます。
ともするとそれは、乳幼児や幼稚部の子にとって、教室に入る前の関所になってしまうと
ころがありました。つまり、きちんと言えないと何回も言わされるのです。言わされるこ
とばから、自分が使うことばに!子どもたちが気持ちよく「おはよう」と言える言語環境
を作りたいものです。
Mちゃんは、お母さんが手話教室に通い、Mちゃんに手話で話し始めました。いつもM
ちゃんが起きたとき、お母さんは「おはよう」と言ってあげていました。1ヶ月経った朝、
寝ぼけ眼のMちゃんが小さな手で、
「おはよう」と言ったとき、お母さんはとっても感動し
たそうです。
Aくん(1歳5ヶ月)は、
「おはよう」と言われると、元気よく「おはよう」と返す子ど
もでした。そして覚え立ての頃には、ヒトに対してだけでなく、出会うモノにも「おはよ
う」と言っていました。先生に挨拶してから、廊下を走ります。自動車に会ったら「おは
よう」ぬいぐるみのくまさんに会ったら「おはよう」戸棚に「おはよう」いろんなものに
「おはよう」と言っていました。「おはよう」と言うことが楽しくてたまらないんですね。
小さい子どもの手話は、形が整ってなかったり、大人とは違う位置で言ったりします。
Sちゃんも「おはよう」と言われると、だらんと下げたままの手で、両人差し指をほんの
わずか曲げています。「そう、おはようって言ったんだよね」発信を見逃さない目でありた
いです。
ひらひらの手④ 「サインネーム」
2005.11
子どもたちが乳幼児教室(赤組)に入ってくると、まずサインネームを考えます。私の
付け方は、名前の①指文字で ②手話で それから③特徴をとらえて ④マークから。
① は、一部を使ったり、全部指文字で表したりします。例えば、
「きーちゃん」→「き」
の指文字を2回斜めに。
「さやか」→「や」の指文字をくるくる振る。
② は、
「さくら」だったら桜の手話。
「つよし」は強いの手話
③ は、髪の毛をいつも二つに結んでいたら、その様子。まつげがくるんとしていたら、
その様子。
④ は、動物の絵をマークにしたりしたので、例えば「くま」とか「うさぎ」とか。
指文字で表そうとして難しいのは、長い名前。例えば「○○○ろう」拗音の付く名前「○
ょ○○」表すと指がつりそうな名前もあるんですね。「○っせ○」 昔から言われています
が、指文字にしてみやすい名前は、
「まゆみ」です。幼稚部に入る前の子に、指文字ができ
るのかといえば、答えは、
「できます」
。手型で簡単なのは、①人差し指をたてる形。赤ちゃ
んは1歳前になると、指さしが始まりますね。それ1本で大人を動かします。次に②親指を
たてる形。次に、小指ですね。指文字はそれらを組み合わして表しますが、身近な人の名前
を繰り返し見ていると、それらしく表すようになります。
ちなみに「佐々木」のサインは、図のようなもの。始めに学校や友達の写真を配ります
が、その時に私の写真も、図のポーズで撮って配ります。朝出かけるときに「佐々木先生
(サイン)のところに行くよ」と話してもらっていると、覚えてくれます。このサインは、
かわいすぎる!って?まぁ許してください。
ひらひらの手⑤「とおい」
2005.12
広島のろう学校では幼稚部に入る前から、音声のことばに手話をつけて話しますから、
幼稚部に入る頃には、子ども達は小さな手でいろいろなことを話します。その様子を見て、
大人のろう者が、「ミニろうあ者だ!」と言ったことがありますが、当たり前ですね。
手話を知る人が、即子ども達と自由にしゃべれるかというと、そううまくいかないです。
聞こえる子どもでも、わかりやすく、ときには幼児語で話しかけるように、聞こえない子
どもにわかりやすい言い方というのはあります。
幼稚部年少のさきちゃんに、校長先生が話しかけました。
「わたし/あなた/いえ/ちかい/まえ/あった/ね」
(あなたの家の近くで前に会いまし
たね)
そうすると、さきちゃんは
「ちがう/ちがう/わたし/いえ/とおい」
校長先生は、少しゆっくりと前に言ったことを繰り返しました。手話単語は合っていま
す。でも、さきちゃんの答えは同じ。さきちゃんにすれば「わたしのいえは、ちかい」の
でなく、
「と~おい」のです。15分ほどですが、車に乗って通っているのです。
私は校長先生に、「こういうときは、まず『まえ/あった/あなた/いえ』から始めるん
です。それで彼女が覚えてなかったらおわり」と助言しました。
通じなかったら、ことばや語順を替えてみるのがよいと思います。さきちゃんは、とっ
てもおしゃべりな女の子。人間ウォッチングがとっても好きです。
「なんで、あのひとはあ
あするの」
「あのひとは、なんていったの」いちいち周りの大人に確認し、しばらくすると
「ああするのは、こうだからよね」とまた確認します。
そうして自分のことばにしていくのです。こんなこどもたちと話すのはとても楽しい。ろ
う学校の教員の醍醐味です。
ひらひらの手⑥「ろう学校が好き」
2006.1
広島ろう学校小学部のひろちゃんは、幼稚部の時私のクラスでした。2学期に、呉分校
に交流に来ました。分校では給食を全校一同に食べるので、食堂で久しぶりに会いました。
「わぁ、背が高くなったね。」並んでみると、もう少しで私の背を越しそうです。気持ち
を素直に表現する子で、うれしいとき、さみしいとき、私の胸に飛び込んできた感触を思
い出します。便が出なくて、一緒に1時間トイレでしゃがんでいたこともありました。
もう一人、前からひろちゃんを知っている人が、
「広島ろう学校と、呉分校とどっちが好
き?」と聞きました。ひろちゃんの答えは
「広島ろう学校も、呉分校も同じ。私はろう学校が好き。
」
それを見ていた私は、“すてきに成長しているな”と、とってもうれしくなりました。ひ
ろちゃんは、乳幼児教室に2ヶ月来て幼稚部に入学しました。1歳から乳幼児教室に来る
子もいるのに、家の事情でろう学校に来るのが遅かったのです。乳幼児教室に来始めると、
“まって”とか“おわり”とか手話を覚え始めました。ある日、
「トイレに行こう」と言う
と、私の人差し指の方向→戸棚の上を見て、首を傾げています。
「ちがうよ。おしっこ、あ
るいて、あるいて、いくよ」いつも手を引かれて行動していたんだなと思いました。こと
ばを持つと、話だけで行動できるようになっていくのです。
6月、公園に遊びに行ったとき、遊ぶ範囲を指定しました。しばらくすると同級生のゆう
ちゃんが、公園から出そうになりました。ひろちゃんは教員を呼び、
「ゆうちゃん むこう
ぺけ わたし ここ まる」と教えてくれました。教員が言った約束をきちんと理解し、
自分の思いを人に伝える力を持ったのです。
この子達を受け持ったとき、“学校に行くことが楽しい”“先生に、友達に話したいこと
がいっぱいある”幼稚部と言えば、ことばの勉強だけ!でなく、そんなクラスにしたいと
思いました。そのとおりに育ってくれました。久しぶりに会って、そんなことを思い出し
ました。
ひらひらの手⑦「ちょうだい」
2006.2
小さな手が、おしゃべりを始めると、理屈抜きでかわいいです。ろうあ協会のSさんは、
私を呼び止めては「ろう学校の小さい子は、かわい~い(力が入っています)ね。お話じょ
うずだね。
」と言ってくれます。
「こんなこと言った。」「もっと言わせよう。
」と、大人達も
いろいろ話しかけます。小学部にはきびしい佐々木も、乳幼児には甘いです。(サークルで
の佐々木も、恐い人って、言われたなぁ)
ことばを覚えて言うようになると、それがうれしくて、大人はついつい甘くなります。
ゆきちゃん(1歳6ヶ月)のお母さんは、お店の前でやどかりを見つけました。ゆきちゃ
んの目は、やどかりにくぎづけです。
「やどかりだよ、ほしい?」ゆきちゃんは「ほしい」
と答えました。お母さんは、うれしくて買ってしまいました。
乳幼児教室でのおやつの時間。好きなお菓子だと、お代わりが欲しくなりますね。さっ
ちゃん(2歳6ヶ月)はおにぎりせんべいが好きです。お皿からなくなると、私を見て袋
を指さします。「ちょうだいは?」「ちょうだい」あげると、お母さんの方を見て「ありが
とう」と言っています。
「わたし ありがとうって いったよ」と報告しているのです。こ
のとき、さっちゃんも、お母さんも、私も幸せな気持ちです。コミュニケーションが人を
幸せにしてくれる。幸せがコミュニケーションを深くしてくれる。こういった一つ一つの
幸せが、思いやりのある、自分で考える子に育てる。そう、思います。
余談ですが、この「ちょうだい」ということばを獲得するとき、ろう学校風にことばに
こだわると、まず手話で「ちょうだい」と話しかける。手を持ってやらせる。手話で自発
語になったら、音声だけで「ちょうだい」と話しかける。子どもも、音声で言うようにな
る。というような過程を通してことばを獲得していくのです。
ひらひらの手⑧「ラブラブ
1」
2006.3
男の子と女の子、生まれたときに差はないと言われますが、幼稚部年少・年中の頃「ラ
ブラブ」の話は、男の子より女の子の方が進んでいるようです。
年少の秋、ひろちゃんは年中のしげるくんが好きでした。給食の最中、隣のテーブルの
しげるくんを呼び、
「わたし
しげるくん すき。しげるくん わたし すき?」しげるく
んの答えは、「ぼく まいちゃんが すき」さぁ~、怒ったひろちゃんは、年長のさとしく
んに「わたし さとしくん
すき。さとしくん わたし すき?」
「うん すきだよ」の答
えにご満悦。しげるくんの方を向くと「さとしくん
わたし
すき
いった。」というや、
プンッ!!と顔を背けたのです。一部始終を見ていた私は、
「ホーッ!お見事!」
この話、これで終わったのではないのです。ひろちゃんはさらに「さとしくん
きゅう
しょく おわったら いっしょに あそぼう」「うん」さとしくんが食べ終わると、ひろち
ゃんはさとしくんの手をとり、わざわざしげるくんのそばを通って、遊びに出たのです。
こわいですねぇ、小さくても女ですね。友だちと同じ男の子を好きになったときは、ひ
いてみたり、張り合ってみたり。おもしろいですよ、幼児の世界も。
ひろちゃんは、年長にもなると佐々木を脅かすようにもなりました。私が「
(相担の)田中
先生と佐々木はラブラブなのよ~」と言うと、「そんなの
に
でんわ
するよ」「はい
ごめんなさい。おねがい
いけない。ささきめがね(夫)
ひみつに
して」
「だめだめ
で
んわ でんわ」と電話をする真似をするのです。
ひらひらの手⑨「ラブラブ
2」
2006.4
またまた,おませな女の子の話です。年少のさきちゃんは,一つ年上で,同じクラスの,
りょう君ととてもなかよしです。りょう君もさきちゃんが大好き。いつも二人は,登校し
て自分が先だったら,相手のことを訊きます。「○○は くる?」拗ねて,泣いて,仲良く
なって,恋人同士のようです。先日なんか,遠足で公園に行って,ローラー滑り台をりょ
う君が先,後ろからさきちゃんが肩から手を回して,くっついて下りてきました。
(いいな
ぁ,公然とくっついて…)
個別指導で,さきちゃんが絵を描いている間,私はお母さんと結婚指輪の話をしていま
した。いつものごとく,話に気づいたさきちゃんは「なに はなしてるの?」
「あのね お
とうさんと
んに
おかあさんが
ゆびわを
けっこんするとき
あげたよ。おかあさんも
げたよ。ささきも
おなじだよ。でもね
すきよ
すきよ
いまは
って
って
だいじに
おとうさんは
おとうさんに
いえに
おかあさ
ゆびわを
あ
おいてるの。」「ふ
ーん」
「あっ さきちゃん おおきくなったら けっこん りょうくんに ゆびわ もらっ
たら いいね。」
「ううん」と恥ずかしそうに,顔の前で手を振っていました。
教室に帰り,朝の会が始まってしばらくした時,突然さきちゃんは,りょう君に「ねぇ
ねぇ,おおきくなったら ゆびわ くれる?」なんのことかわからないりょう君は「???」
でも,そのりょう君何日か経った後の授業中,「あのね ぼくと さきちゃん らぶらぶだ
よ」
「へぇ らぶらぶなの」と私は,両親指と人差し指で ハート を作りました。すると
りょう君は,ちがうよ,というようにもう一度両指全部を使って
す。「そうだね
はーと
はーと
ハート
を作ったので
いっぱいだね。」満足そうにりょう君は「うん」と答え
ました。
ひらひらの手⑩「始業式」
2006.6
4月の始業式の日。子ども達は、胸をワクワクさせて、登校します。
「新しく来た先生は、
どんな人かな?」「わたしの担任の先生は、だれかな?」子ども達は、3学期末から考え始
めます。
「4年生になったら、担任の先生はだれですか」
「○○先生に、おねがいします。
」
私は、
「4月1日に、校長先生が決めるから、待ってね。
」と答えます。
さて、始業式が始まり、最後に担任発表です。小さい学年から発表していきます。ニコ
ッと笑う子、あきらかにショックを隠せない子。その顔が見たくて、私はそっと、前に廻
ります。
今年の4月6日も、様々な顔が見られました。小学部5年生のともこちゃんは、式が終
わると、校長先生に訴えに行きました。「6年生は、A先生か、B先生にお願いします。
」
そうです、あてがはずれると、1年前から予約します。
(お断りしますが、呉分校の先生達
は、はずれの人はいません。A先生の方が好き、と訴えているのです。学級が始まると、
楽しくやっていますよ。
)
私にも同じ経験があります。20年以上前、小学部1年、2年と受け持って最後の3学
期を出産のため、休みました。ようやく教科学習が軌道に乗り、おもしろくなった頃休ん
だので3ヶ月で復帰し、もう1年続いて持たせてくださいとお願いして、3年生の担任に
なったのです。式が終わり教室に帰ったとき、「4年生の担任はだれですか」と聞かれまし
た。
「あー、私はこの子達がかわいくてたまらないから、担任したけど、子ども達は2年間
でもう満足していたんだ。
」と思い知らされました。
それからは、幼稚部なら3年、小学部なら2年という限定で持つようになり、また体制
としてもその方がよいと思っています。
『隣の芝は、青い』というのは、学級担任にも言えますね。
“やさしい”と見えた先生も、
担任になるときびしくなります。
以上、学校の春の一コマでした。