夜間で専門医が不在の場合やベッドが満床の場合にも応召義務は

【相談 62】夜間で専門医が不在の場合やベッドが満床の場合にも応召義務はありますか?
キーワード:医師法第 19 条第 1 項、応召義務、応招義務、診療義務、診察治療の求め、断り、適正な診断・治療、医療水準、
保険医療機関及び保険医療養担当規則第 16 条、労災保険指定医療機関療養担当規程第 12
救急医療機関の受付業務を担当しています。
当病院では、夜間で専門医が不在の場合やベッドが満床で対応できない場合等には、責任者と相談した
うえ、窓口に来られた患者さんに対し、別の医療機関を受診していただくようお願いしています。しかし、
このような対応は、医師法第 19 条に規定された応召義務に違反しないのか心配です。また、応召義務に違
反した場合に、医師や医療機関にはどのような責任が生じるのでしょうか。
【回答】
今回の質問に対しては、必要な応急処置を直ちに施さねば患者の生命、身体に重大な影響が及ぶおそれ
がある場合ではなく、かつ、夜間の救急外来受診を明瞭に実施しているとは解されない状況で、たまたま
夜間に外来診療を求めて受診された場合を想定して回答します。
医師法第 19 条によると、医師が診療を拒めるのは「正当な事由」がある場合に限られます。専門医が不
在であることが「正当な事由」に当たるかどうかという点ですが、
「患者の疾病又は負傷が自己の専門外に
わたるものであるとき、又はその診療について疑義があるときは、他の保険医療機関(指定医療機関)へ
転医させ、又は他の保険医(診療担当医)の対診を求める等診療について適切な措置を講じなければなら
ない。
」という定めがありますので、患者に対してそのように説明・指示をしてよいということになります。
ただし、診療を実施する場合には、医師には、専門医と同じ医療水準で実施することが求められる点は留
意が必要です。
..
つぎに、ベッドの満床が「正当な事由」に当たるかどうかという点ですが、ベッドの満床だけでは正当
な事由とはなりません。患者の病状、医師または病院の人的・物的能力、代替医療施設の存在などの具体
的事情が総合的に判断されることになります。
なお、応召義務は診療に従事する医師の公法上の義務であり、応召義務違反への直接の罰則は医師法に
は定められていません。もっとも、患者やその遺族が民事訴訟を提起した場合で、診察に応じなかった医
師の不作為と悪結果との間に因果関係が証明できた場合には、医師や医療機関は損害賠償責任を負うこと
になります。
(回答者:宇田憲司
宇田医院院長、整形外科医師)
(2016 年 4 月執筆)
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.64, 2016, Apr. Kyoto Comparative Law Center