【相談 53】接骨院への通院と整形外科医の応召義務 【回答】

【相談 53】接骨院への通院と整形外科医の応召義務
キーワード:応召義務、信頼関係、診断書交付義務、医師法、柔道整復師法、医業独占、協力補完関係、接骨院、整骨院、整形
外科
整形外科医院の医師です。
自動車運転中に後方から他の車に追突され、救急病院での急性期治療を終えた患者さんがこられました。
患者さんが、
「リハビリテーションとして電気治療やマッサージなども受けたく、今後、近所の接骨院にも
かかるつもりである。また投薬や診断書等が必要になる場合もあろうから時々は私の整形外科医院にもか
かりたい」とおっしゃるので、医療機関における治療と接骨院における施術では、考え方や方法が異なる
ので、どちらか一方にしてもらいたいと説明しました。また、同様の理由から、
「接骨院で施術を受けてい
る場合には、医療機関での治療を中止させて頂くことがあります」
、
「事故後にまず接骨院にて施術を受け、
その後に医療機関で後遺症診断書の作成を希望する場合や、事故後すぐ医療機関を受診して、途中で接骨
院おいて施術を受け、その後に医療機関で後遺症診断書の作成を希望する場合は、後遺症診断書の作成を
お断りする場合があります」と説明しました。患者さんは、接骨院に通院したら診ないというのは応召義
務違反ではないか、と主張されます。この患者さんが接骨院に通院された後で、再び私のところに来院さ
れた場合、断ることはできないのでしょうか。
【回答】
患者が接骨院・整骨院等(以下「接骨院等」とする)で施術を受けるつもりであると言っている場合、
あるいは接骨院等で現に施術を受けた場合、それだけで医師が診察を拒否し、または、診断書交付を拒否
することは、それぞれ応召義務(医師法第 19 条第 1 項)
、または、診断書交付義務(医師法第 19 条第 2 項)
に反することになるでしょう。ただし、医師が整形外科医としての治療方針について説明を尽くしたにも
かかわらず、患者がその治療効果を損なうといえるような接骨院等での施術を繰り返している場合には、
医師と患者との信頼関係が破綻しているとして、診察を拒否することで応召義務違反になるとはいえない
でしょう。したがって、その場合、患者に何らかの損害が発生したとしても、それに基づく賠償請求は認
められないと判断されるものと思われます。
後遺症診断書作成についても、接骨院等での施術を受けたときには、整形外科医としては、事故時の状
態や経過が分からないため後遺症診断ができない場合があること、あるいは、後遺症診断書にその旨を記
載せざるを得ない場合があることを説明するあるいはあらかじめ説明しておくことが適切な対応といえま
す。そのような対応をしておけば、診断書交付義務違反ないしそれに基づく損害賠償の問題が生じること
はないといえるでしょう。
(回答者:籔本恭明
弁護士、日本医師会認定産業医、医学博士、中小企業診断士)
*会員用ウェブサイトの「知恵袋(相談コーナー)」には、もう少し詳しい説明と推奨される対応例を掲載
しております。
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Medical-Legal Network Newsletter Vol.54, 2015, Jun. Kyoto Comparative Law Center